「東京オリンピックは無駄遣いがないから」って擁護している方もいたので、最初はてっきりそういう話はないんだと思っていたのですが、東京の国立競技場を「世界一のもの」にするべくド派手に建て替えるそうです。
前回のオリンピック立候補のときは「建て替え」ではなく「改修」という言い方をしていたので、たぶんだいぶスケールが違ったんじゃないですかね?
2008年5月29日に文部科学省は、需要の変化や著しい老朽化に対応するため、サッカー専用競技場化などの
大規模改修も視野に入れて、施設としてのあり方を見直す有識者らを集めた調査研究協力者会議を発足させた。2009年(中略)2月19日に日本ラグビーフットボール協会会長の森喜朗は国立霞ヶ丘の
改修に言及し、2016年の東京オリンピック招致に成功した場合には国立霞ヶ丘競技場をラグビーやサッカーの専用球技場として
改修したいと述べた。2009年10月2日に行われたIOC総会の投票で東京は落選したため専用球技場への
改修は白紙となった。
Wikipedia 2011年時点での説明でも「改修」でした。
2011年に東京都は2020年夏季オリンピックへの立候補を表明した。新しい案では国立霞ヶ丘競技場をメインスタジアムとして使用する計画となり、8万人以上のスタジアムへの改修に向けて国と協議を始めた。文部科学省は2012年度予算の概算要求に、国立霞ヶ丘競技場の改修調査費として1億円を盛り込んだ。
しかし、これが2012年になると「改築」という表現に変わります。
2012年2月16日に2020年東京オリンピック・パラリンピック招致委員会が大会の開催基本計画を発表し、国立霞ヶ丘競技場を8万人収容のスタジアムに改築し、開閉会式、陸上競技、サッカー決勝戦、ラグビーの会場とすることを正式に発表した。翌日には国立霞ヶ丘競技場を運営する日本スポーツ振興センターの河野一郎理事長が「世界一のものをつくりたい」とコメント、開閉式の屋根を備えた全天候型ドームスタジアムに改築する構想を発表した。
辞書だとこんな感じ。
リフォーム用語集の解説
建築基準法では、主に建物の全部または一部を取り壊した後に、引き続き、これと位置・用途・構造・階数・規模が著しく異ならない建物を建てること。元の建物と著しく異なるときは新築または増築となる。この場合、使用材料の新旧は問われない。
デジタル大辞泉の解説
かい‐ちく 【改築】
[名](スル)建造物の全部または一部を新しくつくりなおすこと。「二階を―する」
コトバンク 「改修」は一部を直すだけであり、全部を作り直す可能性のある「改築」とは異なります。
しかし、そもそも新国立競技場は新たに設計を募集して全面的に変更していますので、建築基準法での定義による「改築」にはなりませんね。
「元の建物と著しく異なるときは新築または増築となる」の「新築」でしょう。「改築」という言い方はごまかしっぽいです。
当然費用はすごくかかります。
(引用者注:2013年)7月20日に日本スポーツ振興センターは「新国立競技場」(仮称)デザインの国際設計競技の詳細を発表し公募を開始した。
(中略)11月15日に最終審査結果が発表され、ザハ・ハディドが経営するイギリスの建築設計事務所ザハ・ハディド・アーキテクトのデザインが最優秀賞、オーストラリアのコックス・アーキテクチャーが優秀賞、日本のSANAAおよび日建設計が入選を受賞した。ザハ・ハディドには賞金の2000万円が贈られ、基本設計、実施設計、施工のそれぞれの段階で監修に当たることになる。
総工事費は解体費を除いて1300億円程度を見込んでいる。現在の競技場は2014年7月から2015年10月にかけて解体され、2015年10月から「新国立競技場」の建設を開始、2019年3月までに完成する予定となっている。
ポイントは「解体費を除いて」です。解体費を入れると、まだまだ費用は増えるということです。
こういった費用に関する批判は予想できたところなのですが、今回予想外の批判が出てきていて私は驚きました。
文句をつけた方は、世界的建築家である槇文彦さん。下記によると、公募の段階からやり方に疑問を持たれていたようです。
「新国立カブトガニ競技場の異様」小林よしのりライジング Vol.56:小林よしのりライジング:小林よしのりチャンネル(小林よしのり(漫画家)) - ニコニコチャンネル:エンタメ
新国立競技場のデザインは国際的に公募が行われ、コンペの結果決定されたのだが、そもそも公募のあり方自体に問題があったのではないかと指摘されている。というのも、その応募資格が次のような、とんでもなくハードルの高いものだったからである。
応募者の代表者若しくは構成員が次のいずれかの実績を有する者であること。
① 次のいずれかの国際的な建築賞の受賞経験を有する者
1) 高松宮殿下記念世界文化賞(建築部門)
2) プリツカー賞
3) RIBA(王立英国建築家協会)ゴールドメダル
4) AIA(アメリカ建築家協会)ゴールドメダル
5) UIA(国際建築家連合)ゴールドメダル
② 収容定員 1.5 万人以上のスタジアム(ラグビー、サッカー又は陸上競技等)の基本設計又は実施設計の実績を有する者
①で挙げられている賞は「建築界のノーベル賞」といわれるプリツカー賞をはじめ、国際的に権威のある賞ばかり。日本人受賞者は槇文彦、磯崎新、谷口吉生、伊東豊雄、安藤忠雄、SANAA(妹島和世+西沢立衛)だけで、安藤忠雄はこのコンペの審査委員長だから、応募資格のある日本人は5組しかいない。
あとは②に該当する、収容定員 1.5万人以上のスタジアムを設計した実績のある人だが、それもそんなにいるはずないだろう。
最初から応募資格をここまで限っているのに、主催する「独立行政法人日本スポーツ振興センター」は公募の際に新聞全面広告まで出していた。
①の賞のうち、高松宮記念、プリツカー、AIA、UIAの4つを受賞し、幕張メッセなどの作品で知られる
槇文彦氏は、国際コンペは無名に近い建築家が歴史的建造物を作る可能性もあるという夢やロマンがあるべきだという理由から、このコンペには参加しなかったと語っている。http://ch.nicovideo.jp/yoshirin/blomaga/ar357454 槇文彦さんの主張は下記の記事より。
東京新聞:「神宮の森 美観壊す」 20年五輪 新国立競技場巨大すぎる :社会(TOKYO Web)
「新競技場は数字(延べ床面積)だけ大きくて、必要かどうか疑わしい機能が多い」
槇さんが異議を唱える最大の理由は、新競技場の巨大さにある。先月、日本建築家協会の機関誌『JIAマガジン』に問題を指摘する論文を発表した。(中略)
神宮外苑は崩御した明治天皇をたたえようと、内苑(ないえん)である明治神宮とともに整備され、一九二六(大正十五)年に完成。東京で初の風致地区に指定され、景観を守るため開発が規制されてきた。
ところが、高いところで高さ七十メートルに達する巨大な競技場を建てるため、都は今年六月に高さ規制を緩和。十五メートルから七十五メートルへと五倍に緩めた。
これに対し、槇さんは「外観上、新競技場は大部分がコンクリートの壁になる。これでは単なる土木加工物。歴史的に濃密な地域の美観を壊してしまう」と危惧。「景観を守るために作ったルールを自ら否定した」と、都を批判する。(中略)
槇さんは、コストの問題も指摘する。
国際基準では、五輪の主会場に使う競技場は観客席が六万人以上必要だ。だが槇さんによると、ロンドン五輪では八万席のうち六割以上は仮設だった。
「全て本設にしなくても五輪はできる。終わった後、八万人もの観客席がどれだけ使われるのか。十七日間の祭典に最も魅力的な施設は次の五十年、百年後、都民にとって理想的とは限らない」
試算したところ、観客席の一部を仮設にし、過剰な駐車スペースや余分な関連施設を減らすだけで、少なくとも数百億円のコストが削れるという。
槇さんは「必要な情報が事前に十分に公開されず、国民が計画の是非を判断する機会が与えられていないことが問題」と指摘。有志の建築家らとシンポジウムを開いたり、要望書を提出したりすることを検討している。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013092302000121.html 私が予想外だったというのは「美観」という部分ですが、特に驚いたのが明治天皇と関わってきて「不敬だ!」という方向性の批判が出てきたことです。
大辞林 第三版の解説
ふけい【不敬】
( 名 ・形動 ) [文] ナリ
(皇室・社寺などに対して)敬意を払わず,礼儀を失する・こと(さま)。
コトバンク 先の小林よしのりさんは盛んにこれを強調していました。
国立競技場は、道路一本を挟んですぐ明治神宮外苑に隣接している。(中略)
明治神宮は、未曾有の国難を乗り越えてきた時代の中心にあった明治天皇を永遠に称えたいとの思いから創建された。(中略)
外苑はスポーツ公園として作られたものではなく、本来の中心施設は明治天皇のご誕生からご葬儀までの人生と、その間の歴史的出来事を描いた80点の絵画を展示する「聖徳記念絵画館」(以下「絵画館」)である。(中略)
スポーツ施設は当初の計画にはなく、市民憩いの公園として整備していく途中で各スポーツ団体から陳情が相次いだため、「外苑創設の精神」に抵触しない範囲でということで受け入れたら、いつの間にか「軒を貸して母屋を取られる」状態になってしまったのである。
検索すると、ズバリ「不敬」という言葉を使って否定したコメントもちょくちょくあります。
【みんなの反応】東京新聞:「神宮の森 美観壊す」 20年五輪 新国立競技場巨大すぎる :社会(TOKYO Web) - ねとなび
53 : candidus@hatena 2013/09/24 23:40:23
そもそも形がグロテクスで、不敬な建築で、アボラスとバニラに来てほしいくらいだ
http://netnavi.appcard.jp/e/w0aa 「アボラスとバニラ」ってのは、ウルトラマンで登場した怪獣たちで国立競技場で喧嘩したようです。怪獣映画だとよく有名な建物が被害に遭いますよね。
以下はツイッター。
これ以外にも1つ見つけたので、ピンポイントに「不敬」という言葉を使っていないものならさらにたくさんあるでしょう。
そういう見方もあるのかぁ……と、妙に感心しました。
追加
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