<アメリカの経済格差は知能の格差 白人の中でも勝ち負けくっきり>、<保守的な思想の街とそうでない街で格差 成長するのはどっち?>、<貧困は自業自得なので見殺しにした方が良いという分析?>などをまとめています。
●アメリカの経済格差は知能の格差 白人の中でも勝ち負けくっきり
2013/10/7:『
階級「断絶」社会アメリカ: 新上流と新下流の出現
』[ チャールズ・マレー ]という本をベースにした橘玲さんの記事
アメリカ社会は人種ではなく“知能”によって分断されている[橘玲の日々刻々](2013年6月13日 ザイ・オンライン)を読みました。
チャールズ・マレーさんのこの本の主張は、「
アメリカの経済格差は知能の格差だ」というショッキングなものだったそうです。要するに頭が良い人が金持ちであるにすぎないという話なんでしょうか? 同じ橘玲さんの話を紹介した、
教育格差は所得格差のせいじゃない 単にお金持ち家庭の子の頭が良いだけも思い出す話です。
より)
批判を浴びそうな仮説のためか、チャールズ・マレーさんは、この仮説を実証するために、以下のように周到な手続きをとっていたといいます。例えば、黒人と白人といった比較をしてしまうと面倒なため、白人同士を比較。これは「用意周到」というか、わりと当然のような気がしますが…。
(1)まずアメリカにおいてもっともやっかいな人種問題を回避するために、分析の対象を白人に限定。ヨーロッパ系白人のなかで、大学や大学院を卒業した知識層と、高校を中退した労働者層とで、その後の人生の軌跡がどのように異なるのかを膨大な社会調査のデータから検証。
(2)そのうえでマレーは、認知能力の優れた知識層とそれ以外のひとたちが別々のコミュニティに暮らしていることを、郵便番号(ZIP)と世帯所得の統計調査から明らかにした。
アメリカ各地に知識層の集まる「スーパーZIP」は、ワシントン(特別区)、ニューヨーク、サンフランシスコ(シリコンバレー)、ロサンゼルス、ボストンといったところがあります。政治、経済、ITビジネスなど、「スーパーZIP」にはそれぞれ理由があるとされていました。
●保守的な思想の街とそうでない街で格差 成長するのはどっち?
なお、社会学者のリチャード・フロリダさんが『クリエイティブ資本論』(ダイヤモンド社)などの一連の著作で、スーパーZIP発達の理由に関わる以下のような話を書いていたとのこと。これもまた強く批判を浴びそうなものでしょう。
・知識社会の中心はクリエイティブな仕事をするひとたち(クリエイティブクラス)である。
・同性愛者が多く暮らす都市はキリスト教原理主義的な南部の都市よりも際立って経済成長率が高い。
・知識層(BOBO)は自由闊達なボヘミアン的文化に引き寄せられるため、同性愛者を差別しない寛容な都市にクリエイティブな才能が集まる。
・さらに、それを目当てにクリエイティブな企業が進出してくる。
上記が正しければ、保守的・右派的な思想の街では発達しないようです。ただし、前述のチャールズ・マレーさんが、「新上流階級」と名付けた、スーパーZIPに暮らすひとたちは、政治的信条の同じ労働者階級よりも政治的信条の異なる新上流階級と隣同士になることを好むとしていました。右派な人もリベラルな人といっしょに暮らしているようです。
●信じられない!新上流階級はリベラル派も保守派も仲良しなの?
彼らが同じコミュニティに集まる理由は非常に簡単で明白だといいます。「わたしたちのようなひと」…つまり、自分と似た人たちとつき合うほうが楽しいからだとのことでした。右派・リベラルといった政治思想を抜きにするならば、彼らの趣味やライフスタイルはほとんど同じなんだそうです。
・新上流階級はマクドナルドのようなファストフード店には近づかず、アルコールはワインかクラフトビールでタバコは吸わない。
・新聞の購読者は減っているが、新上流階級はニューヨークタイムズ(リベラル派)やウォールストリートジャーナル(保守派)に毎朝目を通し、『ニューヨーカー』や『エコノミスト』、場合によっては『ローリングストーン』などを定期購読している。
・彼らは、基本的にあまりテレビを観ず、人気ランキング上位に入るようなトークラジオ(リスナーと電話でのトークを中心にした番組)も聴かない。
・休日の昼からカウチに腰をおろしてスポーツ番組を観て過ごすようなことはせず、休暇はラスベガスやディズニーランドではなく、バックパックを背負ってカナダや中米の大自然のなかで過ごす。
●美徳を持つ金持ちと持たない庶民…というイメージと逆の話も
"戦前はもちろん、戦後も1960年代くらいまでは、大富豪も庶民とたいして変わらなかった"と記事では書いています。これは車などは立派で召使もいるけれど、"日々の生活や余暇の過ごし方は一般のアメリカ人と同じ"だったという意味のようです。彼らは現在の新上流階級のように、"異なる文化コンテンツを持っていたわけではなかった"といいます。
さらに、新上流階級ではアメリカ社会が全体とし失いつつあるという古き良き「コミュニティ文化」が、まだ健在であると指摘されていました。マレーさんが挙げるアメリカ社会の建国の美徳は「結婚」「勤勉」「正直」「信仰」の4つです。これが新上流階級に残る古き良き文化みたいですね。
ただし、信仰についてはさっきのリチャード・フロリダさんの「キリスト教原理主義的な南部の都市」が低成長であることと矛盾しており怪しいところ。とりあえず、これは置いておくとして、マレーさんの主張が衝撃的であったのは、以下のような結論となるため。確かにショッキングな話になっています。
<格差社会における「強欲な1%」と「善良な99%」という構図を完膚なきまでに反転する。アメリカが分断された格差社会になのは事実だが、美徳は“善良”な99%ではなく“強欲”な1%のなかにかろうじて残されているのだ>
●トランプ大統領を支持する白人たちにとっては聞きたくない話
2018/11/26:トランプ大統領誕生以降読み直すと、気になる話がいくつかありますね。白人の中でも知能が高い人がお金持ちで、そうではない人が貧乏な傾向にあるというのは、トランプ大統領支持派の願望とは異なる話。彼らは、自分たちが貧しいのは、移民のせいだと考えています。
あと、リチャード・フロリダさんの分析による、保守的な思想の街が経済的な伸び悩み、リベラルと言って良さそうな街が伸びるというのも、トランプ大統領支持派には痛い話でしょう。ただし、この部分は、もうひとりのマレーさんの主張だと多少違っているようにも見えました。
とりあえず、リベラル・保守うんぬんという話を抜きにしても、「アメリカの経済格差は知能の格差」というのは受け入れ難い分析でしょうが、ある程度事実ではないかと私は今でも考えています。なぜか?と言うと、「経済格差は知能の格差」に符合する研究分析が多いためです。
例えば、職業訓練を行ったときに、貧困から抜け出せる属性の人とそうではない属性の人がいることがわかっています。これは、たまたま貧困になっているのではなく、能力的に低いために貧困になっている人がいるということ。残酷なことですけど、なるべくして貧困になっている人がいるのです。
●貧困は自業自得なので見殺しにした方が良いという分析?
それから、今回追記するにあたって補足しておきたいというか、補足しておかなきゃ勘違いされるおそれがあるな…と思ったのは、経済格差が知能の格差であり、いわば自業自得であったとしても、貧困層を助けずに見殺しにして良いという話には繋がらないということです。
貧困の理由が、たまたま運が悪かったためか、知能が低いためかは、最低限度の生活を保証することと関係がありません。過去、もしくは、現在でも遅れた国など…国によっては、貧しい人を助けないというところがあるでしょうが、現代のまともな国家ではあり得ない選択肢です。ただ、日本の生活保護叩きを見ていると、貧困層を見捨てることへの支持が今後大きくなることもありそうですけどね。
あと、意外なことに所得再分配を強化し、高所得者層が増えるのを抑え、低所得者層が減らす方が、国家としては経済成長が進むことが研究でわかっています。たとえ経済成長を優先するという考え方で突き進んだ場合であっても、貧困対策にお金をかけることは、最適な選択のようでした。
●グーグルのクリエイティブな人材が反発し会社を去る理由
2019/07/13:一見何の関係ないように思える話なのですが、
米グーグル、社員から噴き出す企業倫理への不満:日経ビジネス電子版(
長野 光 日経ビジネスニューヨーク支局記者 2019年6月10日)という記事を読んでいて、この投稿のことを思い出しました。
セクハラを理由に2014年にグーグルを辞めた幹部が、多額の退職金を受け取っていたと報じた後、グーグル社員およそ10万人のうち2万人が、会社の判断に対して猛烈に反発するということが起きています。なんと2割ですからすごいですね。なかなかこんな会社はないでしょう。
ただし、社内の上層部が「セクハラ野郎許すまじ!」という同じ気持ちであるわけではないようです。抗議運動を主導した社員の一人が「会社の報復攻撃を受けている」として退社を決めたと最近ブログで公表したというのが、この記事のきっかけとなる出来事でした。
上記の話を取っ掛かりに、記事では様々な社員の反発した例を挙げていきます。例えば、中国政府による利用者の個人情報を集めるための検索エンジンにグーグルが関わっていたことにも社員は反発。反発の理由は中国が嫌いだからではありません。人権に対する問題意識のためです。
中国嫌いが問題ではないというのは、米国防総省の兵器開発に秘密裏に関わっていたことにも社員が反発したことでわかります。日本でも大学の軍事産業への関わりへの反対意見がありましたよね。グーグルは兵器開発プロジェクトには関わらない意向を表明せざるを得ませんでした。
トランスジェンダーのエンジニア、リズ・フォン・ジョーンズさんは、マイノリティーの人権をめぐる職場環境改善のための業務を担当していたものの、社内の反対派からハラスメントを受けるようになり、辞職しています。ジョーンズさんは、「幹部が多数入れ替わった15年ごろからグーグルは次第に閉鎖的になり、社員の声に耳を傾けなくなった」としていました。
このジョーンズさんは、「一人ひとりのエンジニアには倫理的に間違っているプロジェクトには関わりたくないという信念がある」と指摘していたんですよね。度重なる不穏な動きに嫌気がさし、会社を去っていくエンジニアが増えているというのです。
記事では、<優秀で志の高い社員を数多く抱えていることはグーグルの強みだ。その「頭脳」が流出すれば、同社の競争力は損なわれる>と指摘。ここで出てきたグーグル社員が反発していた出来事は、すべてリベラル的な考えによるもので、元の投稿で少し出ていたような「クリエイティブな人はリベラル」の例となっている感じでした。
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