2013/10/8:
ノーベル化学賞日本人予想 柳田敏雄、藤嶋昭、吉野彰
藤嶋昭学長の共同研究者の本多健一氏も重要
化学賞が贈られる3分野、柳田敏雄特任教授に期待大の理由
ノーベル賞は金をかけても取れない?主流ではないところでの発見が多い
リチウムイオン電池では水島公一氏にも期待
●ノーベル化学賞日本人予想 柳田敏雄、藤嶋昭、吉野彰
2013/10/8:
ノーベル物理学賞候補の日本人 中村修二、中沢正隆、十倉好紀の続編。今回はトムソン・ロイター引用栄誉賞に限らず、下馬評の高い方という選考基準で選びました。
ノーベル賞候補に関する以下の2つの記事を読んだところ、化学賞でどちらにも共通して名前を挙げられていた人は柳田敏雄さん、藤嶋昭さん、吉野彰さんの3人でした。
ノーベル賞、「ヒッグス粒子」2氏が大本命 :日本経済新聞
(1/3ページ) 2013/10/6 7:00(科学技術部次長 青木慎一)
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGG0102N_S3A001C1000000/朝日新聞デジタル:ノーベル賞を占う 来週発表 有力研究・日本人は 2013年10月3日9時23分
http://www.asahi.com/tech_science/articles/TKY201310020570.html このうちトムソン・ロイター引用栄誉賞の受賞歴があるのは、東京理科大の藤嶋昭学長だけです。本多・藤嶋効果(酸化チタンの光触媒反応)の発見において、トムソン・ロイター引用栄誉賞を受賞しています。(
Wikipediaより)
●藤嶋昭学長の共同研究者の本多健一氏も重要
藤嶋昭さんの方の
Wikipediaを読むと、共同研究者で本多健一さんというお名前もありました。ただ、ノーベル賞予想の記事では、お名前が出てきません。ひょっとして…と確認すると、2011年2月26日に亡くなられています。藤嶋昭さんのトムソン・ロイター引用栄誉賞の受賞も昨年の12月のことで、没後でした。
"東京大学大学院に在学中の1967年春、水溶液中の酸化チタン電極に強い光を当てたところ、酸化チタン表面で光触媒反応が起きることを発見。この現象は共同研究者の本多健一の名前と合わせ「本多-藤嶋効果」と呼ばれる。それらの業績が認められ、2004年に日本国際賞を受賞している"
朝日新聞によると、酸化チタンは"表面についた汚れや悪臭の原因となる有機物を二酸化炭素と水に分解する効果を応用し、ビルの外装や駅の屋根、トイレの便器などに広く応用されている"とあります。最近はあまり聞きませんけど、一時この酸化チタンの応用に関する報道が多かったです。もう十分に実用が進んでいて、受賞を期待するのもわかる気がします。
●化学賞が贈られる3分野、柳田敏雄特任教授に期待大の理由
なお、朝日新聞は"化学賞が贈られる分野はいくつかのタイプ分けができる"として、以下の3つに分けていました。先の藤嶋昭学長の場合はこのうちの「ものづくりの分野」に当たります。
・有機合成の分野……薬の開発などの応用につながる
・分析の分野……分子の構造や働きを解き明かす
・ものづくりの分野……社会基盤を支える
一方、日経新聞は化学賞は「想定外」の受賞者が多く、"物理学賞のような規則性もない"としていました。しかし、"有機合成化学や計測技術は定期的に受賞している"ということで、朝日新聞と似たような指摘をしています。
その上で、有機合成化学は2010年に受賞しているためしばらくなく、計測技術が有力ではないかと書いていました。朝日新聞でいう「分析の分野」ですね。
この計測技術の分野(分析の分野)で有力なのが、大阪大学の柳田敏雄特任教授です。柳田敏雄特任教授は、"筋肉の収縮を担っている運動タンパク質分子に蛍光色素をつけ、レーザー顕微鏡で観察する技術を開発した"そうです。
この技術はゲノム(全遺伝情報)を解読する装置に応用されており、"生命科学や創薬の研究に欠かせない技術になっている"と説明されていましたが、単純なゲノム解読は今や大きなニュースにならないというほどいろいろな生物で解読が進んでおり普及度も十分です。こちらも期待できそうな感じです。
●ノーベル賞は金をかけても取れない?主流ではないところでの発見が多い
柳田敏雄特任教授についてはもう少し補足をと検索していると、
ノーベル物理学賞候補の日本人 中村修二、中沢正隆、十倉好紀の中村修二さんや
ノーベル賞予想、候補者に日本人 大隅良典・水島昇・細野秀雄らの細野秀雄さんと同じような話を見つけて面白かったです。
同じような話って言うのは、"主流と違う動きで成功した"というところです。
工学での経歴を生かして、レーザーを使った測定をしようと、走り回って集めた借り物の部品を組み合わせて装置をつくりました。
測定する対象は、専門外の僕にも馴染みのあるカニの筋肉を選びました。(中略)実は、ちょうどその頃、神経伝達でノーベル賞を受賞したアンドリュー・ハックスレーが「首振り説」を提案して、筋肉の謎は全て解けたとされていました。筋肉は終わった学問だから首をつっこまない方がいいと先輩たちが口々に言い始め、大沢研の中で筋肉を扱っていた人たちもほとんどがやめていた時だったのです。(中略)
それまで工学を勉強してきた僕には、生きものが人工機械と同じしくみで働いているとはどうしても思えなかったので、本当にミオシン分子の首振りが起こっているのか、得意な光学測定機器を手作りして、筋肉細胞を観察しました。難しかったのは、ミオシンの一部だけに印をつけるところです。蛍光ATPが筋肉の中ではミオシンにしかつかないことがわかり、動的な姿を測定できるようになりました。ところがいくら測定しても、蛍光ATPは首振りモデルのように動きません。本当に驚きました。今までの研究生活で一番心に残っている瞬間です。心の中で“やった”と飛び上がりながら、一方で誰も信じてくれないだろうなという不安も感じました。
ハックスレー(中略)の首振り説に僕のような新人が異論を唱えても、相手にされません。苦労していた時に、大沢先生を訪ねてきたアメリカの有名な研究者の一人が僕のデータを詳細に観て、本当にミオシンの首が動いていないことを認めてくれました。その人が、首振り説に異論を唱えている柳田という若い研究者がいるとアメリカの研究者コミュニティーに伝えてくれたお蔭で、ミネソタ大のデイビッド・トーマスが追試をし、ミオシン分子の首が動かないことを確認してくれました。これで、首振り説が否定され、世界中を驚かせることができたのです。これをきっかけに、筋肉の収縮のしくみを調べ直そうと大勢の研究者が戻ってきたのですから、ちょっとした救世主気分でした。
scientist:柳田敏雄 季刊「生命誌ジャーナル」58号
https://www.brh.co.jp/s_library/j_site/scientistweb/no58/
前も書きましたけど、定説を覆すってのはスカッとします。気持ちいいですね。あと、他の科学に関する話で何度も書いているように、科学というのは絶対的に決まったものではなく、より正確に、より説得力のあるものに…と書き換えられていくものだというのもよくわかる話でもあります。
●リチウムイオン電池では水島公一氏にも期待
2つの記事で重複していた最後の1人である旭化成の吉野彰フェローは、リチウムイオン電池の実用化で候補に挙がっているようです。リチウムイオン電池は携帯電話やパソコンでは無くてはならない存在であり、世界中にあふれています。身近度ではナンバーワンですね。
朝日新聞ではさらに、"原理を考案したジョン・グッドイナフ博士の下で""開発にあたり、基本特許を取得している"東芝リサーチ・コンサルティングの水島公一エグゼクティブフェローの名前も挙げていました。原理を考案したというジョン・グッドイナフ博士は有力科学賞を受賞しており、資格十分に見えます。
ところが、朝日新聞は"米ボーイングの最新鋭機787に搭載したバッテリーから発煙し、リチウムイオン電池の安全性問題が再びクローズアップされたことがマイナス材料になる可能性がある"とも書いており、今はタイミングが悪いという見方です。
何だかがっくりですけど、吉野彰フェローについてはもう少し。今回調べていてWikipediaはこれ系の話題弱いなぁと思っていた(先の柳田敏雄さんなんか項目すらなしでした)のですけど、なぜか吉野彰さんは例外的に充実していました。
吉野博士は、2000年にノーベル化学賞を受賞した白川英樹博士が発見した電気を通すプラスチックポリアセチレンに注目し、1981年に有機溶媒を使った二次電池の負極に適していることを見いだした。さらに、正極には1980年にジョン・グッドイナフ(英語版) (J. B. Goodenough) らが発見したリチウムと酸化コバルトの化合物であるコバルト酸リチウム (LiCoO2) などのリチウム遷移金属酸化物を用いて、1983年にリチウムイオン二次電池の原型を創出した。
しかし、ポリアセチレンは真比重が低く電池容量が高くならないことと、電極材料として不安定である問題があった。そこで炭素材料を負極とし、リチウムを含有するLiCoO2を正極とする新しい二次電池であるリチウムイオン二次電池 (LIB) の基本概念を1985年に確立した。
吉野博士が次の点に着目したことによりLIBが誕生した。
1.正極にLiCoO2を用いると、
1.正極自体がリチウムを含有するため、負極に金属リチウムを用いる必要がないので安全であること
2.4V級の高い電位を持ち、そのため高容量が得られること
2.負極に炭素材料を用いると、
1.炭素材料がリチウムを吸蔵するため、金属リチウムが電池中に存在しないので本質的に安全であること
2.リチウムの吸蔵量が多く高容量が得られること
また、特定の結晶構造を持つ炭素材料を見いだし実用的な炭素負極を実現した。
加えて、アルミ箔を正極集電体に用いる技術、安全性を確保するための機能性セパレータなどの本質的な電池の構成要素に関する技術を確立し、さらに安全素子技術、保護回路・充放電技術、電極構造・電池構造等の技術を開発し、さらに安全でかつ、電圧が金属リチウム二次電池に近い電池の実用化を成功させ、現在のLIBの構成をほぼ完成させた。(中略)
1991年、リチウムイオン二次電池 (LIB) は吉野博士の勤務する旭化成とソニーなどにより実用化された。
Wikipedia
本当、リチウムイオン電池の世界への貢献度は素晴らしいんですけどね。私もたいへんお世話になっております。今年じゃなくとも、是非とも受賞していただきたい発明です。
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