2021/11/15追記:
●鮮度の高い特別な焼津のカツオを大量窃盗 漁協職員らが共謀 【NEW】
●魚の価格は高い?安い? 漁師は買い叩かれて儲かっていない
2013/10/21:魚って高いでしょうか?それとも、安いでしょうか? 人によってこの質問への回答は異なると思うのですが、消費者はどうも「お肉よりお魚は高い」と思っている人が多いらしいので、「魚は高い」という答えが多いと思われます。しかし、これだけ高いと思われているにも関わらず、漁師は買い叩かれて苦しい思いをしているとのこと。いったいこれはどういうわけでしょう?
今回使う記事は、
日本人の魚離れは深刻 あと数年でスーパーの魚売り場はなくなる?で使った魚シリーズの記事(2009年、日経ビジネスオンライン)の続編記事で、<漁師への“甘言”が、漁業をダメにした:日経ビジネスオンライン>(中西 未紀 2009年12月2日)というもの。最近書いている魚記事同様、国の役に立たなさを嘆く内容がまず出てきます。
<「民間企業で言ったら、全くナンセンスな話ですよ」
こう語気を強めるのが、相馬双葉漁業協同組合(漁協)の本所部長を務める寺島英明である。漁協の運営を担当する寺島は、何で怒っているのか。
相馬漁協は2003年10月1日、「相馬原釜」「新地」「松川浦」「磯部」「鹿島」「請戸」「富熊」という近隣7漁協が合併して誕生した。(中略)(引用者注:相馬漁協の)75%は相馬原釜が稼いでいる計算になる。
「でも、国が進める方針は、どんな状況であろうと“対等合併”なのです」
国は「一県一漁協」の方針を推し進めている。「とりあえず規模を大きくすれば生き残れる」。そう受け取れる“安易”な発想が、寺島は我慢できない。
対等合併の原則があるために、それぞれの独立権が残ったまま。市場や事業所の統廃合もままならない。寺島が「年間1500万円もの赤字を抱えているのだから、役員報酬は50%カットしろ」といったアドバイスを送っても、現場責任者にしてみれば、それは自分の将来の報酬が減ることを意味する。だから、おいそれとは手をつけない。
抜本的な解決策が打てない。結局、対等合併とは、黒字の漁協に赤字の漁協が“おんぶに抱っこ”する格好となる。マイナスとマイナスを足して、プラスになるはずもない>
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20091130/210930/●海外では資源管理で復活!なぜ日本だけうまくいかないのか?
市町村合併でもこういったトラブルはありがちで、折角合併したのに元の市町村の施設をそのまま使い続けるというアホくさいことをやるときがあります。そんなんじゃ、合併の効果は十分には出ません。この後の話がやっと「価格」の話と絡んでくるのですが、寺島英明さんにとって"国が頼りにならないのは今に始まったことではない"として、ある逸話が出てきました。
10年以上前、水産庁から依頼を受け、静岡県以西の資源管理に関わる県職員に講演しました。ところが、出席者の4分の1が寝ているように見えるありさま。そこで、「用意した題材は止めます」と宣言し、「あなた方は机の上で計算ばかりしていますが、現状を分かっているのですか?」 とプレゼン資料には目もくれず、普段から思っていることを話し始めたそうです。
<福島県では全国に先駆けて「ヒラメ30cm未満 獲らない・売らない・食べない」運動を開始していた。徹底した資源管理の体制を敷いていた。
これで漁師は儲かるようになるのか。どうしても疑問が拭えなかった寺島は、県職員に問いかけた。「キロ単価3000円を本当に維持できるのですか?」。返ってきた答えは、実にシンプルだった。「30センチメートル未満を守れば、絶対に大丈夫だ」。
「漁師が価格決定権を持っているのであれば、キロ単価3000円は維持できるが、実際はそうではないだろう」と寺島がいくら食い下がっても、県職員は「過去のデータが示している」と取り付く島もなかった。
現実は、どうだったのか。県職員の見込みは外れた。ヒラメのキロ単価は1年後に平均2500円を割り、その後も緩やかな下降線を描く。歯止めが効かないまま、3年目に2000円を下回った。
「結局、常に“価格戦略を抜きにした資源管理”だったんです。ただ『小さいモノを獲るな』では、漁師の経営は良くなっていきませんよ」 >
実を言うと、過去に
漁業衰退は政治の問題 先進国は成長産業なのに日本だけ衰退の謎や
うなぎ・マグロ不足は食べ過ぎだから 稚魚まで獲るから当然減るでやったように、資源管理で海外はうまく行っているらしんですよ。なので、日本だけうまく行かないというのは不思議。ただ、何か日本でうまく行かない理由があるのかもしれません。
寺島さんが上記の話の中で問題視していたのは、「価格決定権」を誰が持っているかということでした。これは後の話でもポイントになります。当時私も「外国産の安い魚との価格競争になると結局安くなるのでは?」と疑問でした。上記のケースも福島以外との競争があるために価格を維持できなかったのかもしれません。
●漁師が儲からないのはスーパーのせい…ではない!本当の犯人は?
とりあえず、この記事では価格決定権の持ち主について、市場独占業者の出現とその排除の結果から、以下のように結論づけていました。
<結局、価格を決めているのは、消費者に接しているスーパーマーケットなどのバイヤーだったのだ。にもかかわらず、相馬原釜の職員も漁師も、市場独占業者に逆らうと、魚の価格は安くなると思い込んでいた。実際は、違った。魚の価格を決めているのは消費者なのだ>
冒頭であったように、消費者はこれでもまだ「高い」と思っています。安く安くという圧力があると、資源管理制度があってもうまく行かないかもしれません。この価格志向の話はこの記事の続編<闘いを忘れた漁業に、未来はない:日経ビジネスオンライン>でも続きます。鮮度がひどいのに価格しか気にしていない…という逸話が出ていたんですよ。
<先日、寺島がある量販店の鮮魚売り場へ視察に行くと、そこには「ナメタガレイ」があった。一目見た寺島は少し気になり、通りがかったチーフに「この生魚、どこで買っていますか?」と思わず尋ねたという。
答えは「大宮」。埼玉には大宮市場という消費地市場がある。さらに聞くと、これは最初から大宮市場に出たものではなく、築地市場の売れ残りが安くなって大宮に転送されたものであった。
「すごく安く手に入ったんですよ!」。チーフは嬉しそうだったが、寺島にしてみればひどく鮮度の悪いナメタガレイに過ぎない。しかも、その生魚を卸した仲買人は、かなり名の通った老舗であった。ざっくり計算すると、水揚げから6日ほどが経過していたことになる。>
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20091203/211095/●「低価格」にする以外に消費者に売り込める点がない魚売り場
この後の話では、「4定条件」というものが出てきます。「4定条件」とは、「定量」「定質」「定価(低価格)」「定時」のことです。日本では、この「4定条件」を守れない魚は捨てるような値で売られたり、さらに酷い場合は文字通りの意味で本当に捨てられたりしているとのこと。もったいない精神もクソもありませんね。
<様々な鮮魚売り場を見て歩き、愕然とした。4定条件に沿った売れ筋定番の魚が並んでいるだけ。鮮度は落ちているし、料理の仕方といった提案もない。バイヤーは、ただ売り場の棚が埋まるように、大量に仕入れて店舗ごとに振り分けているような感じだった。訴求ポイントは、とにかく低価格。先ほどの「ナメタガレイ」も、そうした一例だろう>
なお、漁師の窮状については以下のような試みもあります。
<魚の流通見直しは、相馬原釜以外の漁港でも起きている。最近、話題になったのが漁協と大手量販店の直接取引。特定漁船が水揚げした鮮魚をすべて大手量販店が買い取って販売する。この際に、漁船の燃料費などを考慮した価格設定をするという。漁師の収入を下支えする仕組みとしても期待されている>
私もこれ当時おもしろいと思った気がするのですが、寺島さんに言わせれば「波及効果があるとは思えません。一時的な問題解決でしかなく、継続性は全く見えません」とのこと。細かな説明はありませんでしたけど、おそらく結局価格決定権を漁師側で握れていないというところが、寺島さんには解決策とは思えないのではないかと想像します。
●日本の漁協が日本人に売るより中国やロシアに売りたい理由
あと、日本の「4定」に関するいびつさの話を別記事<ガンギエイを食べたことがありますか?:日経ビジネスオンライン>( 中西 未紀 2009年11月25日)からもう一つ。銚子漁協で揚がるサバの4割以上は、中国やロシアなどに輸出されるのでうが、一方で、銚子の加工業者は、わざわざノルウェーなどから輸入されたサバを加工して日本の市場に出すという不思議なことになっているそうです。
<大きな要因は、前回説明した「4定」にある。大口需要者が漁師に強いる安定供給条件(「定量」「定質」「定価(低価格)」「定時」)だ。これを満たそうとすると、大きさや重さでサバを仕分けたり傷のついたサバを取り除いたりといった作業を余儀なくされる。ここにかかる人件費などを考えると、条件が日本ほど厳しくない中国やロシアなどにまとめて売ってしまった方が利益が出るというのだ。
国内の魚市場にもかかわらず、日本が「買い負け」て魚が手に入らず、外国産に頼る――。こんな“逆転”現象が起きている。かといって、日本でも無選別にしようとすれば、品質が下がる可能性は否めない。それを日本の消費者は容認できるのか>
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20091119/210151/ 前々回の話では4定条件などに関して、"スーパー側の都合は漁師の生活を潰すだけでなく、日本人の魚離れを加速し、「あと数年のうちにスーパーの魚売り場はなくなりますよ」と言われてしまうようなスーパーの魚売り場の苦戦として自分に跳ね返ってきています"と書きました。ただ、価格決定権が消費者にあるとすれば、我々にも責任がありそうですね。
それから、魚を「高い」と感じるのは、消費者が魚に価値を感じていないというのが根本的な原因。ここらへんにはやはりスーパーの責任も大きいと思います。というのも、彼らが魚の価値を作り出せていないからです。今回の逸話だと"水揚げから6日ほどが経過していた"ナメタガレイを「安い」という理由だけで喜んでいたスーパーの人の話がそれに当たりますが、いい加減鮮度をなくした魚を食べさせて消費者が魚に価値を感じるわけがありません。
次回はそういった「今はいかに魚を無駄にしているか」といった話を集めてみます。 →
捨てられるおいしい魚 魚が売れない理由は高い価格だけじゃない●鮮度の高い特別な焼津のカツオを大量窃盗 漁協職員らが共謀
2021/11/15追記:日本で魚の大量窃盗が行われていた!という衝撃的なニュース。こうした窃盗が日本各地で起きているわけではないでしょうから、もちろんこれが日本の魚の安い原因…と言いたいわけではありません。ただ、追記するならこのページが一番関連する内容かな?と思っての選択です。
焼津・カツオ窃盗容疑 漁協職員ら、さらに3人逮捕:中日新聞しずおかWeb(2021年10月28日 05時00分 (10月28日 09時42分更新))によると、冷凍カツオ水揚げ量日本一を誇る焼津港での窃盗事件は、水産物の適正取引を推進すべき漁協職員と元職員計三人が逮捕される事態に発展しました。関係者によると、地元の水産加工会社が盗品を安く買い上げ、関与した漁協職員らに一回十万円ほどの報酬を支払っていたそうです。
窃盗は水産加工会社社長が指示し、常務取締役らが窃盗を主導。常務取締役と、漁協の計量責任者が取り仕切っていたと考えられます。不正の報酬も常務取締役から計量責任者に支払われる…というルートでした。盗んだカツオは冷凍倉庫で所有者名義をこの地元の水産加工会社名義に変更していたとみられていました。
水揚げされた冷凍カツオは競りに掛けられた後、コンテナに入れて計量することになっています。関係者によると、新たに逮捕された漁協職員と元職員の二人は計量業務の一端を担う「帳付人(ちょうつけにん)」という役割の人。カツオを運ぶトラックのナンバーを控え、正規に流通していることを示す「計量証明書」にトラックの情報を書き入れる仕事をしていました。
しかし、前述の漁協の計量責任者から抜き取りを指示された運送会社の社員が計量の際、帳付人の二人に「話は通してある」と伝えると、二人は「例のやつね」と一部を計量を通さず、黙認していたとのこと。三十年ほど前から繰り返されていたとみられ、漁協の幹部が取材に「代々引き継がれていた可能性はある」と認めていました。
今回は、盗まれたカツオが刺し身やたたきに使われる鮮度の高い「PS」と呼ばれるカツオ。防犯カメラにカツオを計量せずに運び去るトラックが写っていました。今回は被害に遭った会社の子会社に流通先が限られていたことなどから発覚したもので、逆に言うと、今まではそうでなかったために判明しなかった…ということのようです。
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