よく「読書の秋」って言うのに、むしろ実は秋というのは全然本が読まれない季節なんだそうです。なので、その時期の販売促進のために作られたという見方があります。ただし、一応、唐の時代の漢詩に由来するとされ、100年の歴史があるというものでした。
また、アメリカでも同時期に読書週間のようなものがあるなど、秋に文化的なイベントが結構集中しているというのも、おもしろいです。(2013/11/16)
2013/11/16:
●読書の秋、実は本が最も読まれない時期で「出版社の冬」
●「読書の秋」、「行楽の秋」に惨敗する…?
●唐の時代の漢詩が由来だが、本当は販売促進のため?
●読書週間より先に「読書の秋」の使用例あり
●アメリカでも秋に読書週間があった
2017/12/04:
●アメリカの「児童読書週間」は1919年から
●「読書の春」の方がふさわしい?春にも多い読書イベント
2019/01/12:
●そもそも「秋の夜長」は嘘? 冬至のある冬の方が夜が長い
●読書の秋、実は本が最も読まれない時期で「出版社の冬」
2013/11/16:インターネット調査会社マクロミル社の調査データ「MACROMILL WEEKLY INDEX」の「買ったもの」>「書籍・雑誌」のグラフでは、「読書の秋」とされる秋に書籍は増えていません。逆に10月終盤には年間最低を記録。むしろ読まれない季節のようです。
これだけでなく、総務省の家計調査報告の書籍支出においても、秋(9月~11月)の書籍支出は年間でも少なくなっています。2009年には11月が年間最下位。
「読書の秋とは名ばかりで、出版社や書店にとっては寒い季節だったのだ」と記事では書いていましたが、「読書の秋」は「出版社の冬」のようです。
(
「読書の秋」のウソと、化粧メイクから透ける“意外な”女性心理〜消費動向データから読む | ビジネスジャーナル 2013.11.14 文=鈴木領一/ビジネス・プロデューサー より)
●「読書の秋」、「行楽の秋」に惨敗する…?
びっくりな話ですが、作者の鈴木領一さんは、その原因を以下のように推測しています。
同じく「MACROMILL WEEKLY INDEX」の「買ったもの」の「書籍・雑誌」と、「家族との外食」のグラフによれば、「家族との外食」の気分が高まると「書籍・雑誌」の購入意欲が低くなり、逆に「家族との外食」の気分が低くなると「書籍・雑誌」の購入意欲が高まっている傾向がわかるのだ。実に興味深い相関関係である。「家族との外食」は外出したい気分を意味している。外出したい気分によって読書したい気分も変化するという心理メカニズムを表している。このマクロミルの統計データのように、異なるデータを重ね合わせることで見えてきた事実である。
よく考えると「秋は行楽の季節」ともいわれ、外出するにも最適な季節でもある。そもそもここに矛盾があるのだ。外出したい気分になれば読書したい気分ではなくなる。秋に本が売れないのは当然といえば当然なのだ。
外食などの外出との関連ではないか?ということですね。何かをすることに時間をかけるということは他の何かをする時間を削ることですから、言われてみるとその通りです。
もともと秋は「読書の秋」だけではなく、「食欲の秋」(先ほどの外食の増加はまさにこれ?)だったり、「スポーツの秋」だったり、「芸術の秋」だったり、「行楽の秋」(これも先ほど登場)だったりしますので、その意味では競争の苛烈な時期かもしれません。
●唐の時代の漢詩が由来だが、本当は販売促進のため?
ただ、もともと「~の秋」ってのは「秋の夜長」と関係していませんでしたっけ? マクロミルの調査の通り、実際には読まれていないというのは動かせない事実ですが、たくさん時間があるのだから読書しましょうってことだと私は思っていました。
しかし、作者はこの「秋の夜長」に関しては、「読書の秋」の由来のところで触れていませんでした。(ついでに言うと、記事では「食欲の秋」などにも触れていませんでした)
「読書の秋」の由来は、中国の唐時代の詩人・韓愈(かんゆ)の詩「燈火(とうか)親しむべし」(訳:秋になると涼しさが気持ち良く感じられ、あかりになじむようになる)という一節だといわれる。秋は読書に最適な季節ということだ。また、1924年に日本図書館協会が図書館週間を11月17日から23日としたのも、「読書の秋」を定着させた一因である。
パッと検索しましたが、他でも秋の夜長と関連付けているものはありませんでした。関係ないのかな。あと、作者は以下のような推測もしていました。売れない時期の販売促進のためという予想ですが、どうでしょう?
日本では100年近く「読書の秋」といわれ続けているため、誰もが秋には読書量が増えるものだと信じている。しかし事実は、秋になると本を読みたい気分が落ち込んでいたのだ。逆に言えば、だからこそ「読書の秋」というキャッチフレーズを付けてまで読書量を増やそうとしていたのかもしれない。
●読書週間より先に「読書の秋」の使用例あり
あと、もう少し「読書の秋」の由来について検索してみると、こういうのが。
「読書の秋」とよく言われるが、その由来について知りたい。 | レファレンス協同データベース
読書週間(その前身の図書館週間)が始まる前に、「読書の秋」というフレーズの使用例はあった。
1918(大正7)年9月21日 読売新聞朝刊5面
見出し「読書の秋 図書館通ひの人々 読書と世間」
本文「昼は水の様に澄みきつた日影の窓に夜は静かにして長い燈の下に読書子が飽く事もなく書に親しみ耽るシーズンが来た(後略)」
http://crd.ndl.go.jp/reference/modules/d3ndlcrdentry/index.php?page=ref_view&id=1000112345
先の記事で"100年近く「読書の秋」といわれ続けている"と言っていたのもここからでしょうか? 読書週間はこのもう少し後に始まっています。
【読書週間について】
1.読書週間は、1924(大正13)年11月に始まった「図書館週間」がその前身。図書館週間は、大正13(1923)年7月25日東京朝日新聞朝刊5pの記述によると、日本図書館協会が、1923年5月の総会の決議に基づき、図書館週間を11月1日から7日としたのが始まり。
この由来は不明みたいで、"「一 前史-読書週間十年の回想 布川角左衛門」の中のp.176に、日本図書館協会が大正に始めた読書週間についての記述があるが、なぜ秋になったのか、については書かれていない"などとあります。しかし、前述の通り、「読書の秋」の使用例が先にありましたのでそういった認識に基づくのでしょう。
●アメリカでも秋に読書週間があった
なお、上記の「図書館週間」は昭和16年に中止されています。そのため、戦後の「読書週間」の直接的な由来としては、こちらだと別の根拠を持ち出しています。
期間は、アメリカのChildren’s Book Weekにならい、11月17日から23日と定められた。この行事が盛況だったため、翌年から文化の日を中心とする前後二週間に期間が変わった。(中略)
戦後昭和22年から始まった読書週間については、以下の2箇所に記述有。
p.179上段「期間は、アメリカのChildren’s Book Weekが十一月十六日から一週間であるのにならい、十一月十七日から二十三日と定められた」
p.179下段「次で翌年、第二回の実施に当って、まず打出されたのは、期間を「文化の日」、すなわち十一月三日を中心とし、その前後に週間に改めることであった。」
じゃあ、この文化の日は?と言うと、日本国憲法が平和と文化を重視していることからだそうで、やはり戦後のことです。
アメリカの話まで出てきてごっちゃごちゃなんですけど、この時期に読書やら文化やらの話が集中しているというのはおもしろいですね。
●アメリカの「児童読書週間」は1919年から
2017/12/04追記:アメリカのChildren’s Book Weekについて補足。名前でわかるように、これは全員の読書週間ではなく、子どもに対象を絞ったもの。英和辞書を軽く見てみると、「児童読書週間」と訳しています。
群馬県立土屋文明記念文学館でによると、1919年に始められ、毎年キリスト教の感謝祭(アメリカでは11月の第4木曜日)前の1週間に行われていたといいます。
(
10月27日は文字・活字文化の日です(2011/10/27) 読書週間は10/27~11/9 | 群馬県立土屋文明記念文学館より)
また、国立国会図書館国際子ども図書館によると、子どもたちに素晴らしい本を届けようと様々な活動をしていた人達始めたが子どもの本の祝典という説明でした。ちなみにこちらでは「児童図書週間」という訳を採用しています。
(
本に拍手を! −アメリカ児童図書週間ポスター展−|過去の展示会|展示会情報|展示会・イベント|国立国会図書館国際子ども図書館より)
●「読書の春」の方がふさわしい?春にも多い読書イベント
群馬県立土屋文明記念文学館のページは、「10月27日は文字・活字文化の日です」というタイトル。2005(平成17)年に制定された「文字・活字文化振興法」により、「文字・活字文化の日」は10月27日と定められているとのこと。法律があるんですね。
これもまた秋…だったわけなのですが、「子どもの読書活動の推進に関する法律」では4月23日が「子ども読書の日」と定められているとのことで、日本の子どもの読書の日は秋ではなく春でした。
そして、実を言うと、アメリカの「児童読書週間」は、2008年から5月の1週間に移っているということで、こちらも春。秋に読書・文化絡みの日が集中していておもしろいと思ったのですが、そうでもなかったかもしれません。
●そもそも「秋の夜長」は嘘? 冬至のある冬の方が夜が長い
2019/01/12:私の記憶に反して、秋の夜長説は全然言われていませんでした。なので、あまり反論する必要はないのでしょうが、秋の夜が長いか?と言うと、そうではないのではないか…と気づいたので、そこらへんの話を少し。
冒頭で総務省の家計調査報告の書籍支出の話では、9月~11月を秋としていました。では、1年のうち昼が最も短く、夜が最も長い「冬至」がこの時期にあるか?と言うと違います。冬至は、12月22日ごろが多くなっています。「冬の夜長」と言った方が良いのかもしれません。
ただ、「秋の夜長」で検索してみると、「秋は陽が昇ってから落ちるまでの時間が四季の中で一番短い」「夜の時間が一番長い季節」などと複数のサイトで断言されていました。冬至の方が夜が長いと言いつつ、なぜか季節としては秋の方が夜が長いと結論づけているサイトもあります。
もう少し検索してみると、「言うまでもなく夜の時間は秋より冬の方が長い」、"正しくは「冬の夜長」"としている
なぜ「秋の夜長」なのか|日刊ゲンダイDIGITAL(公開日:2015/10/18 07:00 更新日:2016/10/17 04:37)という記事も見つかりました。評論家の唐沢俊一さんは以下のように説明。
「『秋の夜長』は万葉集の頃に定着した言葉です。当時の男女関係は、男性が夜になると女性の家に忍んでいく“通い婚”でした。夏の間は暑いのと夜が短いので、女性のもとに通うのも大変でしたが、夏至が過ぎると夜が長くなり、気候も涼しくなって、男たちが頻繁に訪れるようになる。(中略)ちなみに、冬のことは『日短』と言います。こちらは明かりのあまりなかった時代、仕事のできる日中が短いことで、そう言われるようになったと思います」
要するに単純な夜の長さではなく、通い婚の活動ができる夜の長さではないかとのこと。この説明も正しいかどうか疑いたいのですけど、「秋の夜長」は夏の夜と比較してのものであり、錯覚みたいなものっぽいですね。
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