えー、後天的な要素の遺伝はてっきりトンデモだと思っていました。
ところが、最近こんな記事を読みました。
恐怖の記憶、精子で子孫に「継承」 米研究チーム発表 2013年12月4日14時51分 朝日新聞
【吉田晋】身の危険を感じると、その「記憶」は精子を介して子孫に伝えられる――。マウスを使った実験で、個体の経験が遺伝的に後の世代に引き継がれる現象が明らかになった。米国の研究チームが科学誌ネイチャー・ニューロサイエンス電子版に発表した。
実験は、オスのマウスの脚に電気ショックを与えながらサクラの花に似た匂いをかがせ、この匂いを恐れるように訓練。その後、メスとつがいにして、生まれてきた子どもに様々な匂いをかがせた。
すると、父親が恐怖を感じたサクラの匂いのときだけ、強くおびえるしぐさをみせた。孫の世代でも、同様の反応が得られた。
http://www.asahi.com/articles/TKY201312040021.html そんな馬鹿な?と思いましたが、事実ならそうなのでしょう。問題はどのようなメカニズムによるか?です。
現在、遺伝に関わっていると証明されているDNAに変化などが見られないと、どのように子供に伝わっているかさっぱりわからないという全く未知のゾーンの話になります。
で、研究ではこの"父マウスと子孫の精子のDNAを調べ"ています。
すると、"
嗅覚(きゅうかく)を制御する遺伝子に変化の跡があり、脳の嗅覚神経細胞の集まりが大きく発達していた"そうです。
しかも、"
父マウスから精子を採り、人工授精で子を育ててその脳を調べると、同様の変化が見られた"ということで、"これらの変化が親の「教育」によるものでないこと"も確かめられました。
私はひどく驚いた話なのですけど、実は以前より"生物の遺伝情報はDNAに刻まれて親から子へ引き継がれるが、生活習慣やストレスなど、後天的な要因で遺伝子のスイッチの入り方が変わることが知られてい"たそうです。マジでか!
自然においても遺伝子は必ずしもそのままではないといった話は、私も読んだことがあり、知っていました。
今検索しても該当のものは出てきませんが、以下も似たようなものかな?
遺伝子組み換えは遺伝子の導入または欠失を含む。違う種の遺伝子が導入された場合、遺伝子の水平伝播が行われた事になる。自然界では外来遺伝子が細胞内に取り込まれ起こる事があり、病原菌の薬剤耐性に関わる場合もある。
Wikipedia 私が以前読んだのは上記のうちの「遺伝子の水平伝播」っぽいですね。このWikipediaも見てみます。
遺伝子の水平伝播(いでんしのすいへいでんぱ、Horizontal gene transfer(HGT)またはLateral gene transfer(LGT))は母細胞から娘細胞への遺伝ではなく、個体間や他生物間においておこる遺伝子の取り込みのこと。生物の進化に影響を与えていると考えられる。遺伝子の水平転移(いでんしのすいへいてんい)と呼ばれることもある。
概要
通常生物は細胞分裂によって母細胞から娘細胞へ染色体がコピーされるが、腸管出血性大腸菌O157の毒素産生性DNAが赤痢菌のDNAから取り込まれたと推測されるように、主に原核細胞において,他の細胞から何らかの原因(バクテリオファージの感染や種の異なる細菌の接合による他の細胞のDNAのとりこみなど)によって遺伝情報の一部が組み込まれることがある。これは遺伝による継承を時間的な垂直方向とするならば、同時的に存在する他の生物からの影響による水平方向の遺伝であると考えることができ、「水平」伝播と名付けられた。(中略)
高等生物における遺伝子の水平伝播
高等生物においてもレトロウイルスの影響やDNAウイルス、RNAウイルスの取り込みなどでこの現象が起きており
ヒトのゲノムにもウイルスの遺伝子がとりこまれていることが知られており、また4000万年前にRNAウイルスの遺伝子が取り込まれたとの大阪大学朝長准教授らの論文が、2011年1月7日のNatureに掲載されている。進化にウイルスが関与する可能性も検討されている。ただし水平伝播によって取り込まれ、その高等生物の機能に影響を及ぼしたことが確実な遺伝子はまだ見つかっていない。
Wikipedia ただ、こちらを読むと、「多細胞生物の場合、核遺伝子の水平伝播による書き換えは、生殖細胞に反映されない場合、子孫には伝わらない」とあります。遺伝しないみたいです。
ここらへんを抜きにしても、冒頭の恐怖の遺伝はこれとは全く異なっており、何度も書きますが驚きました。
その最初の記事の話に戻ります。気になったのでもう少し検索すると、別記事で研究者の名前も載っているのを見つけました。
雄の子孫に危険を「警告」する遺伝メカニズム、マウスで発見 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
2013年12月02日 16:42 発信地:パリ/フランス
動物は祖先の心的外傷(トラウマ)の記憶を「継承」し、あたかも自分がその出来事を体験したかのような反応を示すという説に証拠をもたらすものだと論文は主張しているが、これは後成遺伝学(エピジェネティクス)研究の最新の発見だ。エピジェネティクスでは、遺伝子の基礎情報であるDNAの塩基配列に何の変化がなくても、遺伝子が異なる振る舞いを始める要因として、環境要因が挙げられている。
論文の共著者の一人、米エモリー大学医学部(Emory School of Medicine)のブライアン・ディアス(Brian Dias)氏は「祖先の経験が子孫の世代にどのように影響するのかを知ることで、継世代的な神経精神疾患の発症に関する理解を深めることができるだろう」と話す。また将来的には、トラウマとなる記憶の「継承」を軽減できる心理療法の開発につながるかもしれない。
ディアス氏と論文共著者のケリー・レスラー(Kerry Ressler)氏のチームは、マウスの足に電気ショックを与えることで、サクラの花に似た匂いを恐れるように訓練し、その後、このマウスの子孫が同じ匂いを嗅がされた時にどの程度おびえた反応を示すかを調べた。
http://www.afpbb.com/articles/-/3004325 後成遺伝学(エピジェネティクス)って言うのか! 朝日新聞もこれを書いていてくれると、調べるのが楽だったのに。
エピジェネティクス(英語: epigenetics)とは、一般的には「DNA塩基配列の変化を伴わない細胞分裂後も継承される遺伝子発現あるいは細胞表現型の変化を研究する学問領域」である。ただし、歴史的な用法や研究者による定義の違いもあり、その内容は必ずしも一致したものではない。
Wikipedia エピジェネティクスそのものは今回の研究の遺伝とイコールではないですね。言葉が難しいですが、「遺伝子発現あるいは細胞表現型の変化」がポイントであり、それが遺伝するかどうかは定義になっていないと思います。
遺伝と関連しそうなのは、以下の部分。
変化した表現型が個体の世代を超えて受け継がれる「エピジェネティック遺伝」の例も見出されており、研究が進められている。これは、ある生物におけるエピジェネティックな変化がそのDNAの基本構造を変えることができるかどうかというラマルキズム型の問題を提起する。
これが冒頭の研究そのものでしょうね。「ラマルキズム型」という話が出てきましたけど、私も後天的な遺伝でパッと思いついたのはこのラマルク説(用不用説、ラマルキズム)です。
ラマルク説との関係性については、同じページで補足があります。
ラマルキズムとの関連
エピジェネティクスはラマルキズムまたはネオ・ラマルキズムと同じようなものと考えられることもあるが、それらを支持する研究分野ではないことに注意が必要である。エピジェネティックな表現型変化は遺伝子の突然変異を原因とするものではないが、エピジェネティックな機構そのものは遺伝子の制御の下にある。さらに根本的なことであるが、自然選択による選択結果は、表現型が遺伝子突然変異に支配されているか支配されていないかということとは無関係である。以上の2点を言い換えると、「エピジェネティックな表現型変化に対して自然選択がおきる可能性はあるが、選択されるのは表現型をもたらした機構の遺伝子型である」となる。エピジェネティクスの解明は、進化発生生物学にとって重要で想定外の貢献につながるかもしれない。そしてそれは、現代の進化論の進展になることはあっても、根本からの転覆とはなりえない。だたし生物集団でのエピジェニックな効果が、進化生物学において単なる微調整あるいは大幅な見直しのどちらをもたらすのかという検討課題は残されている。
難しい言葉が続いてまたわけがわからんのですが、「エピジェネティックな機構そのものは遺伝子の制御の下にある」ってのはポイントじゃないかと。
要するに「エピジェネティック遺伝」も従来の遺伝子に関する説の発展形であり、今までの遺伝説をまるっきり否定するものではないといったことだと思われます。
いやぁ、本当驚いた研究なのですけど、この結果が変な風に誤解されないといいなぁと思います。
昔の話で、事故で腕を失ってから作った子どもに腕があるかどうか不安で仕方なかった……みたいなエピソードを読んだことがあります。
現代人なら鼻で笑う話でしょうが、これと五十歩百歩の話をする人が今でも多いと私は感じています。
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