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獲得形質の遺伝や遺伝子が変化する…は非科学的なトンデモ?


 獲得形質の遺伝や遺伝子の変化、後成遺伝学(エピジェネティクス)に関する話をまとめ。<獲得形質の遺伝や遺伝子が変化する…は非科学的なトンデモ?>、<遺伝子組み換えは自然界では起きないは嘘!実は自然でも…>、<変化した性質が世代を超えて受け継がれる遺伝が本当にある>などをまとめています。

2023/06/20追記:
●宇宙滞在のストレスで遺伝子が変化、地球に戻っても一部治らず 【NEW】


●獲得形質の遺伝や遺伝子が変化する…は非科学的なトンデモ?

2013/12/6:遺伝子が変化するとか、後天的に獲得した形質が遺伝する…というのは、非科学的なトンデモだと思っていたんですよね。ところが、恐怖の記憶、精子で子孫に「継承」 米研究チーム発表 2013年12月4日14時51分 朝日新聞 【吉田晋】という記事が出ていてびっくり。後天的な要素の遺伝というのはあるようです。

<身の危険を感じると、その「記憶」は精子を介して子孫に伝えられる――。マウスを使った実験で、個体の経験が遺伝的に後の世代に引き継がれる現象が明らかになった。米国の研究チームが科学誌ネイチャー・ニューロサイエンス電子版に発表した。
 実験は、オスのマウスの脚に電気ショックを与えながらサクラの花に似た匂いをかがせ、この匂いを恐れるように訓練。その後、メスとつがいにして、生まれてきた子どもに様々な匂いをかがせた。
 すると、父親が恐怖を感じたサクラの匂いのときだけ、強くおびえるしぐさをみせた。孫の世代でも、同様の反応が得られた>


●変化することもある遺伝子…恐怖の記憶で遺伝子にスイッチ!

 私は思い込みがあったためにそんな馬鹿な!?と思ちゃったのですが、事実ならそうなのでしょう。また、ここで気になるのは、どのようなメカニズムによるかというところです。メカニズムはまだ不明ということもありえたのですが、研究ではこの父マウスと子孫の精子のDNAを調べています。

 すると、<嗅覚(きゅうかく)を制御する遺伝子に変化の跡があり、脳の嗅覚神経細胞の集まりが大きく発達していたとのこと。つまり、遺伝子も変化するんですね。しかも、父マウスから精子を採り、人工授精で子を育ててその脳を調べると、同様の変化が見られたということで、これらの変化が親の「教育」によるものでないことも確かめられました。

 私はひどく驚いた話なのですけど、実を言うと、以前から生物の遺伝情報はDNAに刻まれて親から子へ引き継がれるものの、生活習慣やストレスなど、後天的な要因で遺伝子のスイッチの入り方が変わることが知られていたそうです。私が知らなかっただけでした。スイッチがあるようです。


●遺伝子組み換えは自然界では起きないは嘘!実は自然でも…

 自然な状況でも遺伝子は必ずしもそのままではないといった話は、私も読んだことがあり、知っていました。今検索しても該当のものは出てきませんが、以下も似たようなものかな。遺伝子組換え生物のWikipediaでは、自然界における遺伝子導入について触れている部分がありました。

<遺伝子組み換えは遺伝子の導入または欠失を含む。違う種の遺伝子が導入された場合、遺伝子の水平伝播が行われた事になる。自然界では外来遺伝子が細胞内に取り込まれ起こる事があり、病原菌の薬剤耐性に関わる場合もある>

 私が以前読んだのは上記のうちの「遺伝子の水平伝播」っぽいですね。このWikipediaでは、<母細胞から娘細胞への遺伝ではなく、個体間や他生物間においておこる遺伝子の取り込みのこと。生物の進化に影響を与えていると考えられる>と説明。他に、以下のように書かれています。

<通常生物は細胞分裂によって母細胞から娘細胞へ染色体がコピーされるが、腸管出血性大腸菌O157の毒素産生性DNAが赤痢菌のDNAから取り込まれたと推測されるように、主に原核細胞において,他の細胞から何らかの原因(バクテリオファージの感染や種の異なる細菌の接合による他の細胞のDNAのとりこみなど)によって遺伝情報の一部が組み込まれることがある。これは遺伝による継承を時間的な垂直方向とするならば、同時的に存在する他の生物からの影響による水平方向の遺伝であると考えることができ、「水平」伝播と名付けられた>

 高等生物においてもレトロウイルスの影響やDNAウイルス、RNAウイルスの取り込みなどでこの現象が起きているといいます。さらに、ヒトのゲノムにもウイルスの遺伝子がとりこまれていることが知られているといいます。

<4000万年前にRNAウイルスの遺伝子が取り込まれたとの大阪大学朝長准教授らの論文が、2011年1月7日のNatureに掲載されている。進化にウイルスが関与する可能性も検討されている。ただし水平伝播によって取り込まれ、その高等生物の機能に影響を及ぼしたことが確実な遺伝子はまだ見つかっていない>

 ただ、こちらを読むと、「多細胞生物の場合、核遺伝子の水平伝播による書き換えは、生殖細胞に反映されない場合、子孫には伝わらない」とあります。私はこれを読んで「遺伝しないみたいです」と書いていたのですが、「場合」なので遺伝するケースもあるのかも。よくわかりませんでした。(2021/12/15:一部修正)


●トラウマの記憶を継承する?後天的な遺伝とエピジェネティクス

 最初の記事の話に戻ります。気になったのでもう少し検索すると、別記事で研究者の名前も載っているのを見つけました。<雄の子孫に危険を「警告」する遺伝メカニズム、マウスで発見 :AFPBB News<(2013年12月02日 16:42 発信地:パリ/フランス)という記事です。

<動物は祖先の心的外傷(トラウマ)の記憶を「継承」し、あたかも自分がその出来事を体験したかのような反応を示すという説に証拠をもたらすものだと論文は主張しているが、これは後成遺伝学(エピジェネティクス)研究の最新の発見だ。エピジェネティクスでは、遺伝子の基礎情報であるDNAの塩基配列に何の変化がなくても、遺伝子が異なる振る舞いを始める要因として、環境要因が挙げられている。
 論文の共著者の一人、米エモリー大学医学部(Emory School of Medicine)のブライアン・ディアス(Brian Dias)氏は「祖先の経験が子孫の世代にどのように影響するのかを知ることで、継世代的な神経精神疾患の発症に関する理解を深めることができるだろう」と話す。また将来的には、トラウマとなる記憶の「継承」を軽減できる心理療法の開発につながるかもしれない。
 ディアス氏と論文共著者のケリー・レスラー(Kerry Ressler)氏のチームは、マウスの足に電気ショックを与えることで、サクラの花に似た匂いを恐れるように訓練し、その後、このマウスの子孫が同じ匂いを嗅がされた時にどの程度おびえた反応を示すかを調べた>
http://www.afpbb.com/articles/-/3004325


●変化した性質が世代を超えて受け継がれる遺伝が本当にある

 ここで、後成遺伝学(エピジェネティクス)という名前が出てきたので、一気に調べるのが楽になりました。Wikipediaによると、>エピジェネティクスとは、一般的には「DNA塩基配列の変化を伴わない細胞分裂後も継承される遺伝子発現あるいは細胞表現型の変化を研究する学問領域」という難しい説明。ただ、これに当てはまらないものもエピジェネティクスと言われることがあるそうです。

 エピジェネティクスそのものは今回の研究の遺伝とイコールではない感じ。Wikipediaの説明は難しいのですが、「遺伝子発現あるいは細胞表現型の変化」がポイントであり、それが遺伝するかどうかは定義になっていないと思われます。遺伝と関連しそうなのは、以下のあたりでした。

<変化した表現型が個体の世代を超えて受け継がれる「エピジェネティック遺伝」の例も見出されており、研究が進められている。これは、ある生物におけるエピジェネティックな変化がそのDNAの基本構造を変えることができるかどうかというラマルキズム型の問題を提起する>


●近年の遺伝の新発見は、遺伝子の考え方や進化論を否定するのか?

 これが冒頭の研究そのものでしょうね。「ラマルキズム型」という話が出てきましたけど、私も後天的な遺伝でパッと思いついたのはこのラマルク説(用不用説、ラマルキズム)。で、ラマルク説はトンデモだと理解していたんですよね。このラマルク説との関係性については、同じページの「ラマルキズムとの関連」という項目で補足がありました。

<エピジェネティクスはラマルキズムまたはネオ・ラマルキズムと同じようなものと考えられることもあるが、それらを支持する研究分野ではないことに注意が必要である。エピジェネティックな表現型変化は遺伝子の突然変異を原因とするものではないが、エピジェネティックな機構そのものは遺伝子の制御の下にある。さらに根本的なことであるが、自然選択による選択結果は、表現型が遺伝子突然変異に支配されているか支配されていないかということとは無関係である。
 以上の2点を言い換えると、「エピジェネティックな表現型変化に対して自然選択がおきる可能性はあるが、選択されるのは表現型をもたらした機構の遺伝子型である」となる。エピジェネティクスの解明は、進化発生生物学にとって重要で想定外の貢献につながるかもしれない。そしてそれは、現代の進化論の進展になることはあっても、根本からの転覆とはなりえない。だたし生物集団でのエピジェニックな効果が、進化生物学において単なる微調整あるいは大幅な見直しのどちらをもたらすのかという検討課題は残されている>

 難しい言葉が続いてまたわけがわからんのですが、「エピジェネティックな機構そのものは遺伝子の制御の下にある」ってのはポイントじゃないかと。要するに「エピジェネティック遺伝」も従来の遺伝子に関する説の発展形であり、今までの遺伝説をまるっきり否定するものではないといったことだと思われます。

 いやぁ、本当驚いた研究なのですけど、この結果が変な風に誤解されるんじゃないかと心配。昔の話で、事故で腕を失ってから作った子どもに腕があるかどうか不安で仕方なかった…みたいなエピソードを読んだことがあるんですよ。現代人なら鼻で笑う話でしょうが、これと五十歩百歩の話をする人が今でも多いと私は感じています。


●宇宙滞在のストレスで遺伝子が変化、地球に戻っても一部治らず

2023/06/20追記:遺伝子の変化関係で、宇宙滞在で遺伝子が変化、一卵性双生児と一致せず NASA - CNN.co.jp(2018.03.15)という話を追記。宇宙に1年間滞在した宇宙飛行士は、身体の外見だけでなく、遺伝子にも変化が起きているという研究結果が、米航空宇宙局(NASA)の双子研究の一環として発表されたそうです。

<この調査では、国際宇宙ステーション(ISS)に1年間滞在したスコット・ケリー宇宙飛行士の遺伝子のうち、7%は地球に帰還してから2年たった後も、正常な状態に戻っていないことが分かった。
 研究チームは、ISS滞在中と帰還後のケリー氏の身体の変化を、地上にいた一卵性双生児のマーク氏と比較。その結果、以前は一致していた2人の遺伝子が、宇宙滞在後は一致しなくなっていたという。>

 研究によると、宇宙滞在は酸欠によるストレス、炎症の増加、劇的な栄養の変化をもたらし、遺伝子発現に影響を及ぼしていることが分かったそうです。細胞では、酸欠と高濃度の二酸化炭素が原因と思われる低酸素症が起きていました。また、「細胞の発電所」と呼ばれるミトコンドリアにも損傷の形跡があったといいます。

 なお、<スコット氏の遺伝子発現は、地球に帰還すると93%が正常に戻ったが、残る数百の「宇宙遺伝子」は変異したままだった>と書いている部分もありました。この書き方からすると、7%というのは「遺伝子全体の7%」ではなく「宇宙で異常を生じた遺伝子のうちの7%」という意味ですかね。解釈に迷いました。


【関連投稿】
  ■遺伝子操作赤ちゃん、デザイナーベビーに賛成46% 優生学再び…と問題視も
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