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遺伝子組み換え作物への恐怖のせい?トウモロコシ発がん論文撤回


 この前まで連日報道のあった食品の偽装表示に関しては、遺伝子組み換え作物なんかも問題になりそうですね。以下のような記事を見つけました。
遺伝子組み換え食品安全か 海外で栽培拡大、輸入の大半に 表示制度 あいまい
2013年12月04日(最終更新 2013年12月04日 14時11分)

 遺伝子組み換え(GM)食品が身の回りで増えつつある。生物の種を超えて開発されたGM作物を原料としており、人体に有害でないか不安を感じる市民もいる。国や研究者は「一般の食品と同じように安全」とするが、食品表示の義務がないケースもあり、消費者には分かりにくい現状がある。(中略)

 市民がGM食品を避けようとしても、食品衛生法などに基づくGM食品の表示制度があいまいで判断できないこともある。例えば菜種油やしょうゆ、液糖(トウモロコシが原料)などは「DNAやタンパク質が除去、分解されている」との理由で、GM作物が原料でも表示義務はない。また大豆、トウモロコシは、GMが混ざらないよう適正管理が証明されれば5%以下のGM混入で「遺伝子組み換えでない」と表示できる。
http://www.nishinippon.co.jp/feature/life_topics/article/56259

 実際に健康に被害があるかどうかは別として、不安になる人が多いので表示義務自体はいいと思います。
 GM食品に反対する市民団体「市民バイオテクノロジー情報室」(東京)の天笠啓祐代表は「微生物などの遺伝子を導入し、食べた害虫が死ぬような作物を長期間食べ続けて、本当に人体に悪影響はないのか。新たなタンパク質もできるはずだ」と疑問を呈する。

 市民の会の外井京子代表という方は「GM菜種が在来の菜種や白菜と交雑して悪影響を与えないか心配だ」と懸念していたそうです。しかし、交雑するという可能性があるというのは自然界でも起こりうることだからであり、悪影響を与える可能性を持つ点はいっしょです。

 同じ記事内でも以下のようなものがありました。
 元専門調査会委員で東大大学院の山川隆教授(植物バイオテクノロジー)は「種を超えて遺伝子が移ることは自然界でもある。毒性がないか、アレルギーを起こさないかなどを徹底的に調べている」と強調する。

 この方は「安全と安心は違う。市民の方が未知のGM食品に不安を持って当たり前」とも言っていますし、私も前述の通り表示義務そのものはいいと思いますけどね。


 ところで、この遺伝子組み換え作物に関連して以下のようなニュースがありました。
「GMトウモロコシで発ガン」論文を科学誌が撤回 « WIRED.jp 2013.12.2 MON

『Food and Chemical Toxicology』誌は、遺伝子組み換え(GM)トウモロコシを与えられたラットに腫瘍ができたと主張する論文の掲載を撤回した。(中略)

Food and Chemical Toxicology誌は声明文のなかで、問題の論文には「不正行為やデータに関する故意の虚偽表現の証拠は見られなかった」と述べているものの、実験群の数が少ないという点と、実験に使われたラットの系統がもともと腫瘍を発生しやすいものだったという点の両方に関し、懸念すべき正当な理由がある」と主張している。したがって、該当の論文を不確実なものと結論付けている。(中略)

この論文(PDF、関係した論文の日本語訳はこちら)を発表したのは、仏カーン大学のギレス-エリック・セラリーニ教授が率いる研究チームだった。同チームはFood and Chemical Toxicology誌による論文の撤回について、同誌の編集部にバイオ化学メーカーのモンサント社に以前勤めていた生物学者リチャード・グッドマンが携わっているせいだと主張している。

だが、グッドマン氏は問題への関与を否定しており、「セラリーニ教授のチームによる研究については、データを調査していないばかりか、Food and Chemical Toxicology誌への掲載や撤回の決定には関わっていない」と述べている。
http://wired.jp/2013/12/02/gmos/

 バイオ化学メーカーにとっては、遺伝子組み換え作物の安全性を確かめることには大きな価値になります。しかし、前述のように遺伝子組み換え作物への恐怖感が強いということは、危険性を指摘することでも商売になるということです。この手の不安を煽る商法は、日本でも海外でもおなじみです。

 この論文の不正度合いはよくわからん話で断定を避けますが、ちょっとそこらへんの意図が働いたのかなと思ってしまいました。


 よくわからん不正度合いに関しては、スラッシュドット・ジャパンでの感想も見てみました。
遺伝子組換えトウモロコシが癌を引き起こすという研究論文、学術専門誌より掲載を撤回される | スラッシュドット・ジャパン サイエンス

私は個人的には、遺伝子組み替え食品に、日常生活で気にするレベルの発癌リスクが存在するとは考えていませんし、元論文が主張するような数倍の死亡率という話であれば尚更です。

が、それでも、一度レビューされて掲載された論文を、生データも提出させた上で「データの改竄などがなかった」と確認したにも関わらず、作者の承認もなしに強制的に撤回させるというのは尋常な事態ではないですね。明らかに頓珍漢だったり激烈に質が悪かったりする論文でも、段取りさえ満たして掲載されたなら、普通は後だしで出版社が撤回することはありません。質の悪い論文を掲載したことで出版社の評価が落ち、論文自体は黙殺されたり反論されたりしますが、それでも元論文自体は残ります。

「元々発癌率が高いラット」であること自体は手法として無効という程ではないように思います。なんにせよ同じ動物を群にわけて遺伝子組み換え食品の投与の有無で比較検討はしているので。「サンプルが少なくて決定的なコトは言えない」レベルの論文は星の数ほどあります。原文をちゃんと読めば、この分野の専門家にとってはあまりにトンデモに見える論文なのでしょうか。出版社の言い分からそういう雰囲気は感じられませんが。

 上への返信。
いえ、これは論文のレビューとして当然です。
ピアレビューのある雑誌では投稿してそのまま掲載されるということはまずなくて、
実験のデザインや記述内容についてレビュアーが問題点や疑問点を指摘して、著者が
それに答えたり追加実験したりして論文の内容をよりよくしてから掲載されます。
この場合はレビュアーからラットの数が少ないことを指摘されたが、著者らがそれに
対して回答して、リジェクトするほどの問題ではないとレビュアーかエディター(引用者注:編集者)が
最終的に判断したということだと思います。

ただ、内容のインパクトを重視して不十分な論文を載せてしまった可能性はあると
思います。インパクトというよりは多大な努力を無にするのは可哀想という同情かも
しれませんが。

そう思うのも元の論文に対するコメントを読んでいるのところですが、確かに実験
及び論述に問題があるからです。
ストーリーでも指摘している通り、元々ガンを発症しやすいラットを使っているのですが、
対照実験においてラットの自然死としている中にガンが原因だったものが除かれている
可能性が強いこと、餌の組成が書かれておらず、GMO側がマイコトキシンなど発癌性の
ある汚染を受けていないという証明がない、また、GMOあるいはラウンドアップの
毒性に濃度依存性が見られない、過去の研究と矛盾する結果になったことに対して
十分な説明がない
という指摘は全てごもっとも、と思います。

ただ、ちょっと予断が入りますが、この雑誌のインパクトファクターを考えると、
この程度雑誌にこの程度の突っ込みどころのある論文はよくあるけどな、とは思います。

 バルサルタン(ディオバン)松原弘明撤回論文、発表時から疑惑があったの話もそうですけど、載せちゃう雑誌も悪いです。100%通るものじゃないんですから、最初から落としておきゃいいのに。

 衝撃的な実験だと注目を集められるって魂胆があるのでしょうかね?「この雑誌のインパクトファクターを考えると~」というのも、雑誌側の問題を指している感じです。もともとレベルの低い雑誌なんだし、これくらいのレベルの論文はザラって意味だと私は解釈しました。

 上記で強調した部分はずいぶんひどい内容だと感じますので、これが横行しているとなると困ってしまいますけどね。


 あと、この研究者は常習犯だったみたいです。これまた何で載せているの?という話になってしまいます。
日本語訳しか読んでないのでアレですが、書きかたからするとレビューアーが指摘したが、エディターが掲載を決定したというところでしょうか。最終的な判断はエディタ(引用者注:編集者)にあるので、これは当然といえば当然なのですが。

なんといいますか、この結果は今迄の知見とかなり異なるもので、

Séraliniの研究が世界中の食品安全機関から厳しくしかられたのはこれで3度目である。彼らのグループの全ての論文が「不適切なデザイン、解析、報告」である。

という背景を抜きしましても、「途方もない主張には途方もない証拠が必要である」という原則を守っていただきたかったところです。

論理があいまいであるとか、サンプル数の少ない論文なんてのは確かに良くみますが、大抵その手のものは引用されることもなく忘られてていくだけで済んでしまうんですけどね。
先日natureに載った"NIH mulls rules for validating key results"という記事や、疑似科学な人々がサンプル数の少ない論文を後生大事に抱えている様子を見ると、もう少しなんとかならんもんかな、と思います。

 「3度目である」以外にも「途方もない主張には途方もない証拠が必要である」というのは非常に大事な話です。

 「仮にこの論文が間違っているっていうなら掲載を取り消すのではなく、有害性が低いことを示した実験データを掲載すべきでないの?」と書いちゃっている人もいましたけど、定説と異なる研究結果の方により厳密な証明を求められることは当然です。

 これがなぜ当然であるかを説明しなくちゃならんというのが残念なのですが、

「10人に体重計のアナログを読み取ってもらうと、9人は同じような数値を言ったものの、1人だけ大きく異なった。その違う方の1回の数字を体重として採用したところ咎められて、何でこの1回の数字が正しいと証明しなくちゃならんの?9回の方が正しいことを証明しなよと主張する」

 といった話です。

 ここらへんが理解されないために、不安を煽る商法が通用し(本人に自覚は全くないものの)搾取されるということが起きるのでしょう。


 追加
  ■米で農薬の効かないスーパー雑草出現!遺伝子組み換え作物のせい?

 関連
  ■バルサルタン(ディオバン)松原弘明撤回論文、発表時から疑惑があった
  ■後天的な遺伝とエピジェネティクス 恐怖の記憶で遺伝子にスイッチ
  ■長寿遺伝子の操作で寿命が延びる?酵母菌で初確認 小林武彦教授のグループ
  ■「ヒトの祖先がサル」は正しいのか?
  ■黒板を引っ掻く音が嫌なのはなぜ?
  ■その他の科学・疑似科学について書いた記事

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