私がエリート教育に興味を持ったのはドイツのケースですが、その後はほとんど調べることもなく、
シンガポール成功の理由 エリート主義と高度人材の受け入れでシンガポールの方を先にやりました。
今回、たまたまドイツのケースを読むことができました。
これは
大人の学力=国際成人力調査(PIAAC)で日本が1位 読解力と数的思考力で書いた大人の学力テストについて書いた記事です。
当時、私が日本が1位だったことについていろいろなことを書きましたが、この学力テストの順位については様々な見方ができます。
今回のドイツのケースについても単に「あまり良くなかった」として終わりではなく、複数のことを考えてなくてはなりませんが、ドイツの教育制度の欠陥を一つ浮き彫りにしたというのは間違いないようです。
大人の学力テストに表れたドイツの隔靴掻痒 子供に自由を与えすぎた旧西独は東独に惨敗:JBpress(日本ビジネスプレス) 2013.10.30(水) 川口マーン 惠美
ECD(経済協力開発機構)が、このたび初めて、いつもの子供の学力テストではなく、大人の学力テストを行った。24カ国の産業国の16歳から65歳が対象だ。
その結果が、去る10月8日に発表されたのだが、それによると、ドイツ人の大人の学力が全くトップクラスではなく、読解力においても、簡単な計算においても、ごく中庸であることが判明した。
ドイツ人はショックを受けているが、私にしてみれば、当たり前。一般のドイツ人の学力は、私が普段感じることだけを取ってみても、日本人と比べるとかなり貧弱だ。
テストされたのは、高度な知識の有無ではなく、ごく基礎的な内容だ。第1次世界大戦がなぜ始まったかとか、なぜ月には上弦と下弦があるかなどという難しいことは問われない。温度計を読めるかどうか、そして、その温度より20度下がると何度になるかというような、中学1年生程度(あるいはそれ以下)のものだ。
ただ、今回のこの問題の場合、答えがマイナスの温度になったので(例えば、17.5度から20度下がるとマイナス2.5度)、間違う人が増えた。日本の読者は信じてくれないと思うが、ドイツ人には、負の数字、分数、小数点以下の計算、そして%が分からない人が少なくない。もちろん、子供ではなく、大人の話だ。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39021 上記のようにドイツ人は悪い、日本人は良いという話から記事では入ります。
では、"日本人が一様にドイツ人より優秀かというと、それは違"います。
ドイツ人に優秀な人が多いことは、私が別にここで力説しなくても、ノーベル賞受賞者を見ただけで分かる。
先のOECDのテストは、いわゆる寺子屋の「読み、書き、そろばん」という基礎知識のテストであったが、打って変わって大学生、大学院生を対象に、もう少し高度な知識のテストをするなら、ドイツはおそらく上位につけるだろう。少なくとも、日本の大学生が1位で、ドイツの大学生が中庸とはならないはずだ。
じゃあ、ドイツ人は大学生なら日本人より優秀か?というと、これまた単純には行きません。
日本は大学全入時代と言われて大学に入る人が増えていますので、大学生の平均が下がるのは当然です。対するドイツは徹底したエリート主義ですから、大学生だけの平均で見ればドイツの方が良いというのは言うまでもありません。
ノーベル賞の受賞者の多さを基準にすると、トップレベルはドイツ人の方が上……みたいな言い方はできるかもしれませんが、結局どこを見るかによって変わってきてなかなか単純にはいきません。
しかし、ドイツが一つうまくいってない点というのは、はっきりと見えています。
大人の学力=国際成人力調査(PIAAC)で日本が1位 読解力と数的思考力で強調したように、この大人の学力テストで一番わかるのは高度な学力ではなく、基礎的な学力です。
ドイツが基礎学力の低い人が多いという理由は、日本のときに書いたことの全く逆で、教育の格差が極めて大きいためです。
作者はこれを「初等教育システムの欠陥」によるとしていました。
ドイツは戦前までの長い間、アカデミックな層と職人の層が確固たる2本の屋台骨となって、しっかりと社会を支えてきた国だった。学問を究めた者はもちろん尊敬されたが、職人で修業を積んでマイスターの称号を得た者も、社会でそれなりの地位を確保し、人々の尊敬を集めることができた。
この両者の棲み分けと、互いの立場の尊重こそが、ドイツのよき伝統であり、発展の要だったことは疑うべくもない。
したがって、当時の学校制度はそれに見合うものであった。全生徒が一斉に教育を受けるのは4年生までで、そのあと、進路は3本に分けられた。大学に進む生徒が行くギムナジウム、職人になる生徒が行く基幹学校、そして、その中間の、学問はしないが職人にもならない生徒が行く実業学校だ。
職人の行く基幹学校には、当然のことながら、良き職人を目指す志の高い生徒がいたのである。ところが、今、ドイツの職業地図は様変わりし、昔のような職人の世界は消滅しつつある。職人がコツコツと身につけた技は、今ではコンピューター制御の機械がやってくれる。
なのに、学校制度だけが残っている。(中略)その結果、何が起こったかというと、基幹学校の崩壊だ。今やここには、家庭からのサポートを受けられない、あまり恵まれない環境の子供や、外国人でドイツ語を満足に解せない子供ばかりが流れ着いてしまう。もちろん、職人になるつもりもない。
ただ、基幹学校だけは、どんなに成績が悪くても、誰でも入れてくれる。そうでなくては、義務教育を終了できない生徒ができてしまう。
良貨は悪貨を駆逐するがごとく、実業学校の程度もあまり芳しくない。皆が大学に行きたい時代なので、多くの人がギムナジウムに殺到するからだ。だから、辛うじてレベルを保っているのは、現在、ギムナジウムだけ。
"ドイツでは、知的水準の二極化が起こっている"ということで、これが私の言い方だと「教育の格差が極めて大きい」ってことですね。
この他に記事では、"旧西独の人の学力が、旧東独にくらべて、軒並み低かった"ことも指摘していました。
基礎的な知識を徹底的に教え込もうとすると、それは押しつけであると非難されたものだ。うちの子供たちが小学校時代、教師は、長い休み中に宿題を出すことさえできなかった。
これでただちに詰め込み教育が良いか?となるとまた別の話で他の証拠が必要となりますが、少なくとも基礎学力レベルでは「押しつけ」がたいへん有効だということです。
ということで、単純に日本が良い、ドイツが悪いという話ではないのですが、作者はそれでも明らかに日本の方に軍配を上げているようです。
たとえば、終りの部分で作者はこう書いています。
いずれにしても、国民の学力の最低レベルの高い国とは、単純労働しかできない人の割合が少ない国だ。労働効率におけるポテンシャルが高い。
確かにこれはその通り、納得です。レベルが多少落ちたとしても日本は大学進学率の高さのおかげで、アメリカと比べて高度人材不足にならなかったという記事も過去に読みました。レベルを底上げしているのは確かです。
以下は前半で同様の指摘をしたもの。
国民の学力水準が低ければ、社会にロスが多くなる。社会というのは分業で、高度な社会ほど複雑な分業になっているが、分業の末端にいる人たちの能力が低いと、システム全体がスムーズに動かない。
さらにもう一つ、前半から。
国民の学力水準が低い国では、民主主義はうまく機能しない。民主主義は数が勝負なので、烏合の衆の意見が通ってしまうと都合が悪いだけでなく、多数決の力を借りて、皆で積極的にとんでもない指導者を選ぶ可能性もある。良い民主主義の前提は、国民に考える力があることだ。
これも一般論としては納得できるものだとは思うのですが、たぶん「いや、日本人は最近になってもとんでもない指導者を選んだ」と反発しそうな人は多そうです。
また、作者は他に"道徳や倫理などというものも、学力水準とは切っても切れない縁がある"としていました。
これは日本が世界に誇る倫理観の高さの理由なのか!と納得する人が多いと同時に、「いや、最近の日本人は劣化している」と納得しない人もいそうで、反応が分かれそうです。
最後の方はともかく、基礎学力が高いということは素晴らしいことだというのは、万人が賛成すると思います。
作者は"日本は、今、手にしているその貴重な財産を手放さないよう、十分に気をつけた方がいい。エリートを育てるのは、その後のことだ"として、この利点を失わないように警告していました。
この"エリートを育てるのは、その後のことだ"は、エリートを育てる必要はないという意味ではありません。
「全体には基礎的な学力を底上げして、エリートはとことん伸ばす」でも良いわけで、日本は良いものを守りつつ、今苦手なところを克服していいとこ取りすればいいと思います。
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