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日本のGDPあたりCO2排出量はなぜ多い?理由は原子力発電ではない


 日本のGDPあたりCO2排出量の削減が、米中と比べて進んでいないという話がありました。ただ、米中は元が悪すぎですので、そりゃそうだろうという話でもあります。ところが、経済規模や経済成長の影響を除いたGDPあたりCO2排出量で見ても、日本はドイツやイギリスより昔から悪かったようです。環境先進国のイメージと違いますね。

 この日本が悪かった時期というのは、日本の原発がまだ元気だった頃でもあります。にも関わらず、ドイツやイギリスに負けていたということは、このときの差は原発の差ではないとも言えます。じゃあ何?というのはわからなかったのですけど、日本が悪いというのは予想外すぎて驚く話でした。

 <日本のGDPあたりCO2排出量はなぜ多い?理由は原子力発電ではない>、<石炭多用のイギリスでも日本よりGDPあたりCO2排出量が低かった>、<日本のGDPあたりCO2排出量が多いのは、あの産業が強すぎるため?>、<CO2排出量削減と経済発展は両立?労働生産性改善で変わる可能性>などの話をまとめています。

2022/12/26追記:
●CO2排出量削減と経済発展は両立?労働生産性改善で変わる可能性 【NEW】
●成長産業である脱炭素市場で凋落日本が一人負け 復活できる? 【NEW】


●日経新聞「米中に比べて日本は削減できていない」

 このデカップリングという言葉を使っていたのは日経新聞だったのですが、CO2排出量の多いアメリカと中国が大きく減らしているのに対し、日本は停滞していると強調していました。

 ただし、最大排出国の中国は、発電部門を石炭から太陽光などに転換したことが大きいです。石炭が多かったということで、元が悪すぎたんですよ。100基単位の石炭火力発電所の閉鎖も検討するということで、まだまだ中身は悪いです。とりあえず、14年の発電量は石炭が73%を占めていたのが、30年51%、40年43%に下がる見込みです。

 世界2位の排出国、アメリカも元が悪すぎて今なお悪いところ。加えてにシェールガス革命という特殊事情もあります。これにより、発電燃料として石炭からの転換が進みました。CO2対策は経済に悪影響だと主張するトランプ政権はパリ協定離脱を宣言したものの、企業の動きは止まらないとされています。

 一方の日本は16年時点で世界資源研究所(WRI)が選んだデカップリング達成21カ国からも漏れました。GDPあたりのCO2排出量は2.6トン。米中より00年からの減少幅は小さいとしています。
( 成長しながらCO2抑制 世界、GDPあたり15年で2割減 米中大幅減、日本は停滞 2017/11/5付 日本経済新聞 竹内康雄、草塩拓郎、榊原健より)


●日本のCO2排出量削減が進まないのは原発稼働停止のせいだ!

 日経新聞は、日本のCO2排出量削減が進まない理由として一つ再生エネルギーのコストが他国より高いことを指摘していました。またこれに加えてさらっと「原発は再稼働の進め方に知恵を絞る必要がある」と書いていました。今回の記事では露骨ではなかったものの、CO2削減のために原発再稼働せよ!という声は出てくるものと思われます。

 実を言うと、WIREDでは、中国は石炭の削減と再エネ利用が二本柱としつつ、"中国では、新たに5基の原子炉が運転を開始し、原子力によって発電できる電気量を25パーセント増やした"ということも伝えていました。

 また、本文では触れられていなかったものの、原子力発電所だらけのフランスのGDPあたりCO2排出量は以前から日本より低い上に、2015年はさらに減っています。これらだけ見ると、原発が重要そうに見えます。


●日本のGDPあたりCO2排出量はなぜ多い?理由は原子力発電ではない

 ただ、日経新聞でGDPあたりCO2排出量を見ると、ドイツやイギリスは2000年時点で日本よりやや低いんですよ。本文では数字の記載がなく正確な数字はわかりませんが、今回の削減割合も日本より大きくなっていました。かなり減っています。しかし、私が一番気になるのは、日本の原発が動いていたは2000年時点で日本より低いというところです。

 日本がCO2削減に熱心に取り組まない言い訳はいくつかあり、一つが排出量の多いアメリカと中国がやらないから意味がないというもの。この言い訳は前述の通り、使いづらくなってきました。

 また、外国がCO2排出量を減らせるのはもともとの排出量が多すぎるため、既に環境対策を施している日本は減らしようがないといった反論も見たことがありました。これは中国などには当てはまるものの、2000年時点で日本よりGDPあたりCO2排出量が少ないドイツなどには当てはまりません。

 なお、「GDPあたり」で見ているために、日本とドイツとの経済規模の違いは考慮されていますし、好景気・不景気の影響もあまり関係なくなっています。

 それから、前述の通り、2000年時点で日本の原発は元気に動いていましたので、少なくとも原発のせいとは言えません。理由はなぜだかわからないものの、日本はもともとドイツやイギリスよりもCO2を抑えられていない国だったようです。


●石炭多用のイギリスでも日本よりGDPあたりCO2排出量が低かった

 WIREDではEUで特にCO2削減が進んだ国として、イギリスを挙げていました。意外なことにイギリスも石炭からの転換が主な要因。他に天然ガスの価格が安いことや、排出1トン当たり18ポンド(約21ユーロ、2,500円)という高い炭素税などが挙げられるそうです。

 炭素税は、日本ではアベノミクスを肯定したというところが強調されるスティグリッツ教授が、安倍首相に提案しているものでもあります。ちなみにスティグリッツ教授は、法人税の減税は無意味だとも言っており、<法人税減税にメリットなし ノーベル賞のスティグリッツ、炭素税導入を日本の安倍首相に提言>(実質賃金は過去数十年間最低 法人税減税分を庶民が消費税で肩代わりにまとめ)で書いています。

 イギリスの削減成功に話を戻すと、再生可能エネルギーの役割も大きいとのこと。英国では2015年第2四半期、再生可能エネルギーの割合(25.3パーセント)が石炭火力(20.5パーセント)や原子力発電(21.5パーセント)を初めて上回りました。また2016年には、風力発電が石炭火力を上回ったということで、どんどん増えていました。

 イギリスで石炭が多かったということは、やはり「元が悪すぎた」と言えそうなものなのですけど、前述の通り、それだけ内容が悪くても2000年時点で日本よりGDPあたりCO2排出量が低かったわけなので、むしろ余計謎が深まってしまう情報。原発ではない別の何かが、日本のネックになっているのかもしれません。


●日本のGDPあたりCO2排出量が多いのは、あの産業が強すぎるため?

2019/01/22:日本が悪い理由を思いつきました。日本は他の国と比べてGDPに占める製造業の割合が多い国のため…という理由を考えてみたんですよね。で、今回はその確かめ。以下のように、製造業・建設業・電気ガス事業などが含まれる第二次産業の比率は、イギリスより高くなっています。

日本のGDP構成比
一次産業(農林水産) 1.1%
二次産業(鉱業、電力を含む) 25.6%
三次産業(通信や金融、小売などサービス関連) 73.2%

イギリスのGDP構成比
一次産業(農林水産) 0.7%
二次産業(鉱業、電力を含む) 20.5%
三次産業(通信や金融、小売などサービス関連) 78.9%
(日本の経済 - 世界経済のネタ帳イギリスの経済 - 世界経済のネタ帳より)

 製造業は、二酸化炭素の排出量が多くなる産業でしょう。加えて、日本の製造業は労働生産性の低い仕事ばかり 国も海外委託を推奨、工場国内回帰信仰は間違いだったでやっているように、従来型の製造業は労働生産性が低いため、GDPが低い割にCO2の排出ばかり多いといった風に、二重に効いてくる感じがありそうです。

 これが理由だった場合、日本は製造業が強い国なので仕方ない…という声はあるかもしれません。ただ、日本の製造業は労働生産性の低い仕事ばかり 国も海外委託を推奨、工場国内回帰信仰は間違いだったは、従来型の製造業は途上国向きの産業で、労働生産性が低いという話でした。労働生産性の低さはブラック企業を生みやすくするとも考えられるため、脱製造業の方向性は進めた方が良いでしょう。

 …と書いてから、ドイツを調べていなかったことに気づいて見てみたら、日本よりむしろ二次産業が多くなっていました。うーん、製造業の多さだけでは説明できませんね。(2022/12/26追記:ひょっとしたらこれも結局製造業の中身の違い、日本の労働生産性の低さで説明できるかもしれません)

ドイツのGDP構成比
一次産業(農林水産) 0.8%
二次産業(鉱業、電力を含む) 30.1% (日本は25.6%)
三次産業(通信や金融、小売などサービス関連) 69.0%
(ドイツの経済 - 世界経済のネタ帳より)


●CO2排出量を抑えるには経済成長を諦めるしかない…はすでに嘘に

2018/01/10:WIREDで"経済成長とCO2排出量は「比例しなくなっている」:IEA報告書"という記事がありましたが、「比例」とまで言うと言い過ぎでちょっと問題ありますけどね。「比例」はタイトルだけであり、本文でも「比例」という言葉は使われていませんでした。

 ただ、「経済が成長すればCO2排出量も増加する」と今まで考えられていたのが、そうではなくなってしまったとは言えます。というのも、世界経済が全体的に成長を続けているにもかかわらず、二酸化炭素の排出量は2016年まで3年連続でほぼ一定にとどまっていたためです。
(経済成長とCO2排出量は「比例しなくなっている」:IEA報告書|WIRED.jp 2017.03.29 WED 21:00 TEXT BY JOHN TIMMER TRANSLATION BY MAYUMI HIRAI/GALILEOより)

 このように経済成長しながら温暖化防止に向け二酸化炭素(CO2)排出量を抑えることを、デカップリング(切り離し)と言っている記事がいくつかあります。デカップリング(decoupling)というのは要するに「分離」という意味で、CO2問題に限らずいろいろな分野で使われているものです。


●CO2排出量削減と経済発展は両立?労働生産性改善で変わる可能性

2022/12/26追記:ちょっと違う話のような気がしますが、CO2関連でCO2排出に追記 450兆円争奪戦に取り残される日本、脱炭素市場で影薄く:日経ビジネス電子版という記事をブックマークしていましたので読んでみます。周回遅れの日本は以前のような環境先進国に戻れるのか?というシリーズ記事のひとつのようです。

<脱炭素市場。それは成長が約束された市場である。世界各国は温暖化ガス排出量の削減義務を負い、再生可能エネルギーやEV(電気自動車)の産業振興を成長の起爆剤にする。変化を先取りした欧州企業は、「脱炭素の巨人」に生まれ変わった。かつて省エネや環境関連の市場を席巻した日本勢は復活できるのか>

 国際通貨基金(IMF)トップであるゲオルギエワ専務理事は、2021年10月5日の講演で、「再エネの導入や自動車の低炭素化などで、世界の国内総生産(GDP)は20年代に約2%押し上げられ、3000万人の新規雇用が創出される可能性がある」と述べました。ただ、この市場急拡大の波に、日本勢は乗り切れていないといいます。

<かつては新エネルギー開発の国家プロジェクト「サンシャイン計画」などの後押しがあり、2000年代前半には太陽光パネル市場で、シャープや京セラなどの日本勢が世界シェアの上位を独占した。
 だが、日本政府と電力会社が再エネ普及に対して消極的な姿勢を取り続け、日本メーカーも事業構造改革や投資をためらった結果、世界市場の中で急速に存在感を失った。かつて環境先進国と言われた国の姿は今はない。
 逆に、欧州や中国の企業は、この巨大市場を貪欲に狙ってきた。汎用品になった太陽光パネルは、中国メーカーが積極投資で急成長。東日本大震災以降の太陽光発電バブルにおいて、日本のメガソーラーに導入されたパネルの多くは中国製だった>

 こうした製造業の敗戦は、労働生産性が低い製造業がCO2排出量を増やしているのでは?という私の説のことを思い出させます。効率的に利益を出せないことは、ビジネスで利益を出せずに負けるだけでなく、GDPの割にCO2排出量が多い原因になっている可能性があるため。これが本当ならCO2削減と経済発展が両立するという話ですね。


●成長産業である脱炭素市場で凋落日本が一人負け 復活できる?

 価格競争では勝ち目がないので、日本が目指すべきは高付加価値でしょうか。ただ、記事では、<単価が高く技術の差異化がしやすい製品群でも、日本勢は太刀打ちできていない>とされていました。日本と同じ先進国枠であるヨーロッパ企業が単価が高い分野で存在感を出す一方、かつて上位だった日本勢は撤退しているそうです。

<風力発電機の市場が拡大する中で、デンマークのヴェスタスや独シーメンスはリスクを取った投資で着実に成長した。三菱重工業はヴェスタスと14年に洋上風力発電機の合弁会社を設立し、世界シェア上位の常連だったが、経営の主導権を握れず20年に撤退した>

 記事では、この他に日本が強かったリチウムイオン電池でも没落したことを指摘。現在の日本の中心産業である自動車でも、かつて強かったハイブリッド車からEVシフトになって日本勢が上位から消えたために危機感。ただ、脱炭素市場は今でも新興企業ではない古い企業が中心なので、日本にもまだチャンスがあるとしていました。


【本文中でリンクした投稿】
  ■<法人税減税にメリットなし ノーベル賞のスティグリッツ、炭素税導入を日本の安倍首相に提言>(実質賃金は過去数十年間最低 法人税減税分を庶民が消費税で肩代わりにまとめ)
  ■日本の製造業は労働生産性の低い仕事ばかり 国も海外委託を推奨、工場国内回帰信仰は間違いだった

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