●「メンバーの多様性が組織に与える効果」は研究者によってバラバラ
2014/2/14:
「日本企業に女性はいらない」が、経営学者の総論:日経ビジネスオンライン 入山 章栄 2013年12月24日(火)は、タイトルだけ見ると女性や外国人差別主義者の主張みたいですが、真面目な研究の話でした。記事ではまず、「メンバーの多様性」に関する研究は多いものの、その研究結果がバラバラに見えることを指摘していました。
<「メンバーの多様性が組織に与える効果」は経営学の重要な研究テーマであり、40年以上にわたって多くの実証研究が行われてきました。(中略)
実は経営学者のあいだでも、「組織メンバーの多様性の効果」についてのコンセンサスは、長いあいだ得られませんでした。ある研究は「多様性は組織にプラス」となり、別の研究では「むしろマイナス」という結果が得られてきたのです。>
このような矛盾が起きたのは、「多様性」の定義が曖昧だったため。「多様性」を2種類に分けて考えると、一貫した傾向が得られました。同じ「メンバーの多様性」の研究をしていると思ったら、研究者によって定義が違うために、異なる研究をしていたようです。そうなると、矛盾するように見える結果になるのも当然だったと言えます。
●プラスになる人材の多様性とマイナスになる人材の多様性がある!
「多様性」の種類のうち、一つは、タスク型の人材多様性(Task Diversity)と呼ばれるものこれは、実際の業務に必要な「能力・経験」の多様性です。例えば「その組織のメンバーがいかに多様な教育バックグラウンド、多様な職歴、多様な経験を持っているか」などがそれに当あります。このタスク型の人材多様性は、組織パフォーマンスにプラスの効果をもたらすそうです。
一方、もう一つの多様性は、デモグラフィー型の人材多様性(Demographic Diversity)というもの。こちらは、性別、国籍、年齢など、その人の「目に見える属性」についての多様性です。ただデモグラフィー型の人材多様性は、「組織パフォーマンスに影響は及ぼさない」あるいは「むしろ組織にマイナスの効果をもたらす」とされていました。
女性・外国人採用はこちらのデモグラフィー型の人材多様性に当たるわけで、むしろマイナスという研究結果。ただ、これが単純に「女性・外国人を採用すべきではない!」というわかりやすい結果になるわけではないと考えられるので、最後まで読んでください。人はわかりやすい結果を求めがちなので注意が必要です。
●性別や人種の多様性はマイナスだから優秀な人でも不採用にすべき?
プラスになる「タスク型の人材多様性」の効能はこれまでも考えられてきたもので、「知の多様性」をもたらします。一方で「デモグラフィー型の人材多様性」に負の作用があるのは、「男性対女性」や「日本人対外国人」といった組織内グループのあいだで軋轢が生まれ、組織全体のコミュニケーションが滞り、パフォーマンスの停滞を生むためとされてしまいました。
男性ばかりの会社でも派閥作って醜い争いをしている気がしますが、「男性対女性」「日本人対外国人」といったよりわかりやすい、分裂しやすい対立軸ができてしまうということでしょう。この「デモグラフィー型の人材多様性」の研究結果により、"男性社員ばかりの日本企業"は女性や外国人を登用しても良いことがないという結論が導き出されました。
ただ記事では触れられていなかったものの、「タスク型の人材多様性」を求める副作用で「デモグラフィー型の人材多様性」が高まるということはあるでしょう。わかりやすく言うと、最高の人材を探していたら、女性や外国人や若手だったので採用したところ、マイナスとされる性別、国籍、年齢などの多様性が増えてしまった…というケースです。
逆に「デモグラフィー型の人材多様性」を増やさないことに固執すると、「タスク型の人材多様性」の向上を失うこともあり得ます。これを先程の例で言うとわかりやすいでしょう。最高の人材を探していたら、女性や外国人や若手だったので採用するのをやめて、能力の劣る日本人男性高齢者をわざわざ採用する…といったケースです。本末転倒でしょう。
ですから、「タスク型の人材多様性」のメリットを最大限得ながら、「デモグラフィー型の人材多様性」のデメリットを軽減するというのが理想です。「デモグラフィー型の人材多様性」は飽くまでおまけであり、組織パフォーマンス向上を捨ててまでこだわる必要はないとも言えるでしょう。
多様性増加を理由に能力が低い女性や外国人を採用する、また、逆に多様性のマイナス効果のを嫌って優秀な女性や外国人を採用しない…というのは、企業の成長を阻むおそれがあります。実際、日本的な企業より多様性のあるグローバル企業の方が成功しているのですから、多様性を拒否して優秀でない人を優先して入社させるより、普通に優秀な人材を獲得する方が成功しやすいと考えられるでしょう。
なお、似たような感じなのが、成果主義ですね。後にいろいろ読んで知ったのが、成果主義って実はマイナスという研究結果が結構出ているということ。にも関わらず、世界最高峰の企業は成果主義ばかり。これは成果主義のマイナス効果以上に、劣る人材を放出して優秀な人材だけを集める効果が大きいためだと考えられます。人間は能力差が大きい生き物ですからね。(ここだけ2021/04/19追記)
●今の日本企業の女性・外国人採用はマイナスにしかならない 活用は可能?
作者の入山章栄さんも別段、日本企業が女性や外国人を活用しないことを望んでいるわけじゃありませんし、むしろ効果が高いと考えていますので、この「デモグラフィー型の人材多様性」を軽減する研究についても紹介していました。まず、<「デモグラフィー型の多様性」のマイナス効果は、時間の経過とともに薄れていく>というのがあります。ただし、一部の研究では「軋轢は時が経過しても消えない」というものもあり、まだ結論はついていないそうです。
また、もう一つが、以下に説明するフォルトライン(=組織の断層)理論を活用するという対策があります。これはやり方を工夫して、マイナスの効果を少なくしようというもの。時間の経過とともに薄れていくのを待つのではなく、対策しようというのですから、有望なのはこのフォルトライン理論ですね。
<たとえば、6人のメンバーから成る組織があったとして、そのうちの3人全員が「男性×白人×50代」で、残りの3人全員が「女性×アジア人×30 代」だったらどうでしょう。この場合、それぞれの3人のグループが、「性別、人種、年齢層」の複数次元で共通項を持ってしまうので、それぞれの3人同士が固まりがちになってしまいます(=組織にフォルトラインができてしまう)。
これに対して、もし男性3人には30代、40代やアジア人もおり、他方で女性3人の中にも、50代や白人もいたらどうでしょうか。この場合は、男性・女性以外に、両者に複数のデモグラフィーの「次元」が入り組むので、はっきりとした組織内グループの境界線(=フォルトライン)がなくなり、結果として組織内のコミュニケーションがスムーズに行くのです>
要するに、やるのであれば徹底的に多様な人材にして、仲良しグループを作りづらくしてしまえばいいという考え方みたいです。そうなると、自然と皆コミュニケーションを取らねばいけないのでしょう。したがって、今の多くの日本企業による中途半端な女性・外国人採用は、フォルトライン理論で見るとダメ。差別主義者が喜びそうですが、やはり「今のやり方ならマイナスにしかならない」というのは間違いではないようです。
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