私も知らないでそのまんま載せちゃったのでマズかったのですが、STAP細胞に関してiPS細胞と比較する報道があり、京都大の山中伸弥教授が反論する声明を2月12日に載せました。どうもiPS細胞が不安全なものだなどの風評被害が広まったために、誤解を解こうとしたもののようです。
「iPS細胞、がん化リスク克服」山中教授声明 : 医療ニュース : yomiDr./ヨミドクター(読売新聞)(2014年2月14日 読売新聞)
京都大の山中伸弥教授は、iPS細胞(人工多能性幹細胞)と新しい万能細胞「STAP(スタップ)※細胞」に関する声明を、同大iPS細胞研究所のホームページ(HP)に載せた。
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=92968
マスコミの初期報道でSTAP細胞がiPS細胞より優れているとしていたポイントは、主に3点あります。なお、下記の数字は一例でもっと極端な数字を挙げていたところもあったようです。
1.作製に要する期間 iPS細胞 2~3週間 STAP細胞 2~7日間
2.細胞が変化する確率 iPS細胞 1%未満 STAP細胞 7~9%
3.がん化するおそれ iPS細胞 ある STAP細胞 ない
上記3点にそれぞれ対応する山中伸弥教授の指摘は、以下の通り。
1.作製に要する期間
13年には海外グループが「7日間ですべての細胞をiPS細胞にした」。
2.細胞が変化する確率
通常の細胞からiPS細胞ができる効率は、06年の0・1%から、09年には20%に向上し、13年には海外グループが「7日間ですべての細胞をiPS細胞にした」。
3.がん化するおそれ
2006年に発表した最初のiPS細胞に比べてがん化のリスクが大幅に減り、安全性は動物実験で十分に確認されている。
マスコミとしては最も問題があったのは、iPS細胞の情報がいつの時点のものなのか明記しなかったことでしょう。時間の情報は必要でした。
逆に言えば、上記を元にiPS細胞はSTAP細胞より優れていると言うのもおかしいです。世界中の研究者が研究して発展させたiPS細胞のデータと、できたばかりSTAP細胞を比較するのはアンフェアです。大人と子供を比較するようなものですね。
ですから、iPS細胞の情報は発表当時であるものを断った上での比較であり、iPS細胞の現状のデータを記していれば、私はそれでも良かったと思います。
なお、この他に山中伸弥教授はiPS細胞が既に"世界で何百という研究グループが作製した再現性の高い技術"だということも強調されていました。この場合もSTAP細胞はまだ発表から間もなく再現性が確かめられているはずがないので、iPS細胞と比較してしまうのはおかしいです。(山中教授自身は比較したつもりはないと思います)
ただ、再現性の重要性はもちろんですので、言及することは特に不思議ないです。また、今現在STAP細胞への再現性への疑問が数多く提示されていることを考えると、意味深な発言でした。(関連:
山中伸弥教授もSTAP細胞再現失敗と報道 ハーバード大が調査示唆)
ところで、最初の3つの比較ですが、マスコミ側でこういった情報をスッと出せたんだろうか?というとちょっと不思議です。どこか1箇所の情報がベースとなってみんなで転載したのかもしれませんが、マスコミ以外で誰かが「この3点がポイントですよ」と広報した人はいそうなものです。
とりあえず、理研のプレスリリースにおいて既に売りとしていたところも多少あります。マスコミ叩きは楽しいでしょうが、理研の宣伝効果狙いの売り文句にも罪があるんじゃないでしょうか? プレスリリースを確認しておきます。
体細胞の分化状態の記憶を消去し初期化する原理を発見 | 理化学研究所
http://www.riken.jp/pr/press/2014/20140130_1/3.がん化するおそれ
まず、「さすがにそれは理研は言っていないよな」というのは、がん化のおそれです。「がんになりません」という話は皆無でした。「安全」というキーワードもないです。
(追記:理研じゃないですが、利害関係者が発言していました。
STAP細胞共同研究者大和雅之「iPS細胞はがん化に課題」発言していたを参照)
1.作製に要する期間
2.細胞が変化する確率
しかし、短期間であること、効率が良いことに関する売り文句は出てきます。
"STAP細胞は胚盤胞に注入することで効率よくキメラマウスの体細胞へと分化します"という文章もありましたが、最も顕著だったのは下記の部分。iPS細胞と比べた優位性も極めて強く意識されています。
また、今回の研究成果は、多様な幹細胞技術の開発に繋がることが期待されます。それは単に遺伝子導入なしに多能性幹細胞が作成できるということに留まりません。STAPは全く新しい原理に基づくものであり、例えば、iPS細胞の樹立とは違い、STAPによる初期化は非常に迅速に起こります。iPS細胞では多能性細胞のコロニーの形成に2~3週間を要しますが、STAPの場合、2日以内にOct4が発現し、3日目には複数の多能性マーカーが発現していることが確認されています。また、効率も非常に高く、生存細胞の3分の1~2分の1程度がSTAP細胞に変化しています。
太文字ばっかりであんまり意味ない強調になっちゃいましたけど、それだけSTAP細胞の成果が驚異的であることを畳み掛けている部分だということです。
とりあえず、不適切な比較とされた一つである「1.作製に要する期間 iPS細胞 2~3週間 STAP細胞 2~7日間」の出どころは理研と見て良いでしょう。「2~3週間を要します」が2006年当時であることも全く書かれていません。
それから、直後に「生存細胞の3分の1~2分の1程度がSTAP細胞に変化」としています。私は「7~9%」の方が印象的だったので、「2.細胞が変化する確率 iPS細胞 1%未満 STAP細胞 7~9%」と先程記述しました。しかし、理研のプレスリリースはそれより誤解を招くものです。この部分はマスコミより悪いですわ。
「2.細胞が変化する確率」のうちの「iPS細胞 1%未満」や一番まずかった「3.がん化するおそれ」はプレスリリースには記述が見えません。しかし、上記引用部は理研に罪なしとは到底言えないものです。
なお、途中で書いたようにiPS細胞との比較自体は悪だとは思えません。ただ、ついでなので比較している部分も引用しておきます。
"今回、共同研究グループは、マウスのリンパ球などの体細胞を用いて、こうした体細胞の分化型を保持している制御メカニズムが、強い細胞ストレス下では解除されることを見いだしました。さらに、この解除により、体細胞は「初期化」され多能性細胞へと変化することを発見しました。(中略)この初期化現象は、遺伝子導入によるiPS細胞(人工多能性幹細胞)の樹立とは全く異質のものです"
"動物の体細胞で初期化を引き起こすには、未受精卵への核移植(クローン技術)や未分化性を促進する転写因子と呼ばれるタンパク質を作らせる遺伝子を細胞へ導入する(iPS細胞技術)など、細胞核の人為的な操作が必要になります(図2)。
一方、植物では、分化状態の固定は必ずしも非可逆的ではないことが知られています。分化したニンジンの細胞をバラバラにして成長因子を加えると、カルスという未分化な細胞の塊を自然と作り、それらは茎や根などを含めたニンジンのすべての構造を作る能力を獲得します。しかし、細胞が置かれている環境(細胞外環境)を変えるだけで未分化な細胞へ初期化することは、動物では起きないと一般に信じられてきました(図2)。小保方研究ユニットリーダーを中心とする共同研究グループは、この通説に反して「特別な環境下では動物細胞でも自発的な初期化が起こりうる」という仮説を立て、その検証に挑みました"
"STAP細胞をFGF4という増殖因子を加えて数日間培養することで、胎盤への分化能がさらに強くなることも発見しました。一方、ES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞は、胚盤胞に注入してもキメラマウスの組織には分化しても、胎盤などの胚外組織にはほとんど分化しないことが知られています。このことは、STAP細胞が体細胞から初期化される際に、単にES細胞のような多能性細胞(胎児組織の形成能だけを有する)に脱分化するだけではなく、胎盤も形成できるさらに未分化な細胞になったことを示唆します"
"STAP細胞はこのように細胞外からの刺激だけで初期化された未分化細胞で、幅広い細胞への分化能を有しています。一方で、ES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞とは異なり、試験管の中では、細胞分裂をして増殖することがほとんど起きない細胞で、大量に調製することが難しい面があります。小保方研究ユニットリーダーらは、理研が開発した副腎皮質刺激ホルモンを含む多能性細胞用の特殊な培養液を用いることでSTAP細胞の増殖を促し、STAP細胞からES細胞と同様の高い増殖性(自己複製能)を有する細胞株を得る方法も確立しました(図7)" (引用者注:ここは長所の強調ではなく、短所の克服?)
以上です。
上記の部分は別として、前述の通り「作製に要する期間 iPS細胞 2~3週間 STAP細胞 2~7日間」といった比較は、理研自らしていました。
また、今起こっているSTAP論文画像不正疑惑というのは、疑惑が出るようなかなり粗い論文の提出を許してしまったということです。
早稲田大も小保方晴子の博士論文を調査 広報は「影響しない」と先手で書いた若山照彦山梨大教授の説明を素直に信じれば、全く載せる必要のない画像があるのに誰も気づかなかったというお粗末ですから、能力的に疑問符が生じました。
さらに、疑惑が出たときの対応としてもあまりよろしくないように見えます。本来速やかに応答しなくてはいけない論文掲載誌であるネイチャーの調査に、小保方晴子リーダーが即座に対応できませんでした(下書き時点でまだ連絡ありの報道はなし)。論文の証拠となる大切なデータ提出も遅れています。これはたとえSTAP細胞が最終的に正当であったとしても、理研にとってマイナスになることには間違いありません。
今回の件で、理研というのは結構胡散臭い組織なのかなぁ?と思ってしまいました。どうも理研には税金が多量に投じられているようなので、こうなるとそちらの方も問題視していかねばならないと感じました。
(逆に国の支援獲得のために、不適切であっても大げさな宣伝文句を使って研究成果を誇示しているという順番なのかも)
追加
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STAP細胞共同研究者大和雅之「iPS細胞はがん化に課題」発言していた 関連
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山中伸弥教授もSTAP細胞再現失敗と報道 ハーバード大が調査示唆 ■
早稲田大も小保方晴子の博士論文を調査 広報は「影響しない」と先手 ■
ネイチャーも小保方晴子STAP論文の調査 「単純な取り違え」と擁護も ■
小保方晴子STAP論文画像の捏造を疑う人に批判殺到、韓国人認定も ■
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