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厚底靴は怪我しやすい?マラソンや箱根駅伝のナイキヴェイパーフライ


 アスリートファーストのナイキが作った厚底靴が、停滞していた日本マラソンに革命をもたらしたという話。ただし、厚底靴さえ履けば速くなるわけではなく、かなり特殊な走り方を要求されるため、他の走り方が身についた人はたいへんだそうです。あと、そういう話があったせいか、怪我するんじゃないの?と心配している人がいました。ただ、記事内ではむしろ怪我を減らす靴だという全く逆の説明が出ています。

冒頭に追記
2022/01/24追記:
●やっぱり厚底靴シューズで怪我増える?股関節の故障増加の研究 【NEW】
●一方で今まで多かったすねの炎症は減少?対策できる可能性も… 【NEW】




●やっぱり厚底靴シューズで怪我増える?股関節の故障増加の研究

2022/01/24追記:厚底で怪我をする!と主張している人が多かったものの、私が読んだ記事はむしろ怪我しづらいと指摘されていたんですよね。逆に言うと、厚底靴禁止は怪我を多くすることになります。選手に良くないため、私は禁止論に反対でした。ただ、その前提を覆す「厚底靴で怪我」という研究が登場。こうなると、逆に禁止した方が良い可能性も出てきます。

 「厚底靴で怪我」という話があったのは、<人気の“厚底シューズ” 好記録の一方でトレーニング見直しも>(2022年1月21日 6時20分 NHK)というニュース。こちらでは厚底靴の魅力として怪我の減少は挙げておらず、「好記録が出る」という魅力だけ強調されていました。一方、怪我については以下のような説明です。

<「厚底シューズ」について、早稲田大学スポーツ科学学術院の鳥居俊教授の研究室が、去年5月から10月にかけて高校から実業団までの全国レベルの長距離選手にアンケート調査をしました。
 その結果、厚底シューズを使った経験のある男子選手408人のうち、「シューズを使った期間に股関節を故障した」という回答がシューズを使っていなかった時と比べて、21件、実に2.3倍に増えていたことがわかりました> 
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220121/k10013441731000.html


●一方で今まで多かったすねの炎症は減少?対策できる可能性も…

 記事では、<ことしの箱根駅伝では、主力選手が股関節に近い「仙骨」と呼ばれる部分を疲労骨折するなどして、戦力が整わないチームがあった>ともしています。ただし、それ以外の部位の怪我が減っている場合、結局、厚底靴の方が良い可能性があります。実際、以下のような話があり、怪我の部位が変わっているってことみたいですね。

<これまでのシューズでは着地の衝撃を吸収していたのはひざより下の部分で、すねのあたりが炎症を起こす「シンスプリント」という症状がランナーを悩ませてきました。
 ところが厚底シューズで走るスピードが上がってくるに連れて足への衝撃が大きくなったため、鳥居教授は足の上の部分の股関節の付近まで衝撃がきていると見ています>

 鳥居俊教授は「シューズの効果で疲れたときでも走れてしまうので、フォームが乱れて股関節に衝撃が伝わりやすくなった状態でも走れてしまう。その結果、けがが発生するのではないか。きちんと履きこなせる体でないと防御できない」と説明。逆に言うと、体ができていれば怪我を防止できるといった言い方です。

 実際、「故障する部位が変わってきた」として、厚底シューズに対応した、外側の筋肉を鍛える“アウタートレーニング”というトレーニングを導入していた青山学院大学は、2022年の箱根駅伝で厚底靴を使って大会新記録のタイムで総合優勝しており大成功。厚底靴だと必ずダメになるというわけではないのかもしれません。

 一番知りたいと思った相対的な怪我の多さの比較については、記事ではなし。私は厚底シューズ擁護ありきじゃないので、怪我が多すぎて対策もできないのなら選手を守るために禁止すべきと思うのですが、この記事からはわかりませんね。これは薄底靴でも同様のことが言えます。とにかくデータ的なところが知りたいです。


●「ハングリーさがない」…停滞する日本マラソンで精神論の復活

2018/01/05:『あまりに細かすぎる箱根駅伝ガイド! 2018』(ぴあMOOK)を刊行した西本武司さんによれば、日本マラソンの問題は長く二つあったそうです。ひとつは長い距離を走ることによって故障する確率が高くなるということでした。怪我の問題があるのです。

 そして、もうひとつはスピードの低下。アスファルトの上を長い距離、トップスピードで走り続けることは不可能ですから、長い距離に対応するためはスピードを犠牲にしたフォームとなってしまいがち。そのためトラック競技でスピードを身に着けてから、マラソンに移行するというのが定番スタイルだったそうです。

 ところが、これによりマラソンの日本記録が伸びたか?というとそうではありません。長らく日本記録は止まったまま停滞。限界があったようで、頭打ちになってしまいました。

 トレーニング手法が違う、アメリカに行こう、そもそも日本人の体型の問題だとかいろいろ言われてきて、しまいに「ハングリーさがない」「古き良き時代に戻ろう」なんていう精神論まで語られてきたといいます。根性論を捨てて成功した室伏広治の父室伏重信 努力は人を裏切るを思い出しますね。
(箱根駅伝「薄底vs.厚底」靴の知られざる闘い | スポーツ | 東洋経済オンライン  泉美 木蘭 : 作家・ライター 2018年01月02より)


●分厚い靴は日本人に合わない?ナイキが日本マラソンに革命をもたらした

 しかし、こうした日本マラソンの停滞を打ち破るイノベーションが生まれました。ナイキが2017年に発表した「ヴェイパーフライ4%」という靴です。これは「4%速くなる」という意味が込められているそうです。ヴェイパーフライ4%は、ものすごくソールの分厚い靴。これはマラソンでは完全な非常識でした。むしろれまでマラソンシューズは、薄くて軽いのに反発力があるというところがポイントで、技術的にもみんながそこを目指していました。全く逆の発想です。

 2017年5月、ナイキが、42.195kmを2時間以内に完走するという目標を掲げて「ブレイキング2」というプロジェクトを立ち上げ、その中で発表。結果は「2:00:25」というフルマラソンにおける人類史上最速のタイムが出たという衝撃的な成功を収めました。

 ただ、日本らしいなと思うのが、「分厚い靴は日本人に合わない」「薄ければ薄いほどいい」という定説が根強く、ブレイキング2を経ても、当初はあれは凄いし気になるけど、ケニア人や欧米人向けのもので、僕ら日本人が履くもんじゃないよなといった感じだったそうです。

 ところが、2017年4月のボストンマラソンで3位入賞の快挙を成した大迫傑選手が、分厚いシューズを履いていたことが話題に。9月、今度は、設楽悠太選手が、この靴でチェコのハーフマラソンを走り、日本新記録。さらに1週間後、ベルリンで2時間9分台の自己ベスト。日本人にも合うとわかりました。


●箱根駅伝などでもヴェイパーフライ4%が結果を出す

 2017年10月の出雲駅伝では、東洋大学の学生もヴェイパーフライ4%を履いていました。そして、下馬評ではあまり良くなかったこの東洋大学が、突然活躍しはじめました。全日本大学駅伝では、一時は首位に立つほど。

 "東洋大学は、ヴェイパーフライ4%を取り入れたトレーニングによって、上位食い込みも「あり得るんじゃないかな?」というところまで来ている"と、西本武司さんはおっしゃていました。

 記事は箱根駅伝より前だったようですが、箱根駅伝でも東洋大学は往路優勝、総合で2位と活躍。一人勝ち状態だった青山学院大学に迫る活躍をしました。ちなみにこの青山学院大学は、ほぼアディダスだそうです。


●ヴェイパーフライ4%さえ履けば速くなるわけではない

 ただし、ヴェイパーフライ4%さえ履けば誰でも早くなるか?というと、そうではありません。西本武司さんは「両刃の剣」と表現されていました。この靴で試合に出るなと指示した大学もあると言われているそうです。なぜダメなのか?というと、この底の厚い靴が特殊すぎるためです。

 西本さんが実際に履いたところ、第一印象は「アブナイ!」というもの。かかとが厚いのでまっすぐ立つと前かがみになり、勝手に走らされてしまいます。日本人は薄い靴でぺたぺた走るミッドフット走法に馴染みがありますが、この靴で走ってみると、足の前のほうから着地するフォアフット走法になるそうです。

 西本さんは人生でそんな走り方をしたことがありませんから、この靴では3kmまでしか走れないと思ったそうです。全身の筋肉が対応できないんです。前述の通り、日本人の走り方と違うのですから、これはマラソン選手でも同様。

 つまり、この靴でフルマラソンを走るには、いままで培った自分のフォームをすべて捨てて、作り直さなければならないのです。

 また、最後まで速度を維持できる選手は件局多くありません。福岡国際マラソンでヴェイパーフライ4%を履いた選手はたくさんいたものの、ヴェイパーフライ4%の特徴を活かしてかかとを浮かせたまま走れたのは大迫選手くらいだったといいます。多くの選手は終盤で疲れて腰が落ち、かかとから着地してぺたぺた走るようになっていたと指摘されています。


●ヴェイパーフライ4%では怪我が心配…という誤解

 日本マラソンの問題は長く二つあったと最初に出できましたが、ここまではスピードの話ばかりです。ただ、記事ではもう一つの怪我の問題についても何度か出ています。

 「アブナイ!」という言葉があったせいか、はてなブックマークでは、「厚底ランで故障が多発しないかどうかが気になる」というコメントが10番目でギリギリ人気コメントとなっていました。ただ、むしろこの靴がすごいのは故障が少ないことだと記事では書いていました。

 先程出てきた設楽悠太選手も、ハーフマラソンの日本新記録を出すほど走って、翌週フルマラソンでまた自己ベスト。ダメージが残らない凄い靴だということがわかります。

 この靴を履かない青山学院大学がすごかったのは、「青トレ」という体幹トレーニングによって、故障が減り、継続して練習ができることになったおかげで選手が底上げされたこと。一方、東洋大は、厚底靴に代表される走り方を会得して、別のやり方で故障せずに長く速く走って勝つという方向に向かっているようです。

 なお、記録が良くなりすぎて、禁止になるのでは?という反応が、はてなブックマークの人気コメントでは最も多くなっていました。スポーツ界ではよくある話で、あり得そうです。

 ただ、この靴の場合、故障を減らすという効果をきちんと証明できれれば、それが武器になるでしょう。むしろ怪我を誘発するような靴の方が危険であり、そちらを規制するというのが筋だと思われます。


●アスリートファーストのナイキだから作れた靴

 ヴェイパーフライ4%は、速く走るというだけでなく、怪我を抑えるということで、ランナーに優しいと言えます。西本武司さんは、この靴はアスリートファーストのナイキだから作れたとしていました。逆に言うと、アスリートファーストではない他の企業では作れなかっただろうということです。

 ナイキの創業者のフィル・ナイトは陸上選手出身で、利益先行ではなく、常にランナーファースト。その考えが、いまのナイキにも脈々と続いていて、「薄く軽く」という今までの靴の常識をいったんすべて疑って、新しく作り出してしまうという凄さがあるとしていました。

 「バスケットシューズにエアが入ったときと同レベルのイノベーション」とおっしゃっていましたが、そっちもナイキが始めたって意味でしょうか。

 とりあえず、ナイキには、アスリートの声を一番大切にしてきたところがあるといいます。さらに、ナイキ卒業生ってのがまたみんな凄く、ニューバランスがスポンサードしているニューヨークシティマラソンでも、元ナイキの人が責任者としてランナーファーストの精神を発現。これから走ろうとするランナーを待たせちゃいけないとして、受付や買い物などの列を、すべて5分以内でさばくという目標が掲げられていたそうです。


●箱根駅伝もナイキの靴を履いたランナーが活躍

2019/01/05:ヴェイパーフライ4%は、長く走っても疲れないのが特徴ですから必ずしも駅伝向きとはいえません。ただ、箱根駅伝は駅伝の中でも1人20km程度と距離が長いです。2019年は特に多かったみたいで、ナイキが特集をやっていました。選手に好まれて、以前より増えているのではないかと思われます。

 ナイキの靴ということで、ヴェイパーフライ4%とは限らない感じですけど、230人のランナーの内95人が使用。ちょうど4割くらいです。


 最も多かったのは、1区と7区。23人中12人ですので半分以上でした。




 山登り・山下りという特殊なところではどうだろう?と思いましたが、そこでも結構履いていて、7人と10人でした。前述の通り、厚底靴とは限らないのですけど。




 また、これまでの記録を大幅に上回る区間新を出した相澤晃選手は、東洋大学ですので当然ナイキの靴だったようです。


 ただ、これらのツイートへの反応は、悪意の強いコメントが多くなっていました。なぜなんでしょうね?


●マラソングランドチャンピオンシップ日本代表はナイキを使わなかった?

2019/09/18:なんだか知らないですけど、日本人に非常に嫌われている厚底靴ヴェイパーフライ4%とナイキ。日本人に合わないというバッシングもありました。伝説的な日本のシューズ職人三村仁司さんもシューズ職人三村仁司氏、ナイキ厚底を全否定 でも薄底もダメと指摘で書いたように否定的です。

 2020年東京オリンピック(五輪)マラソン代表選考会「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)」では、前述の設楽悠太や大迫傑が内定を逃したので、アンチナイキや日本人に合わない派は大喜びかなと思って検索。ところが、むしろナイキの大勝利だったみたいですね。

 代表権を獲得した男女4人のうち、3人がナイキ製「ナイキズームXヴェイパーフライネクスト%」の厚底モデルを使用。中村匠吾選手、服部勇馬選手、鈴木亜由子選手の3人が使用しています。もちろん3位で惜しくも代表内定を逃した前述の大迫傑選手も使用していました。

 男子はもともと「ナイキズームXヴェイパーフライネクスト%」の使用が多かったらしく、30人中16人が使用。アンチは単に履いている人が多かっただけ!と言いそうですが、選手に選ばれるという時点で信頼性の証とみなせなくもありません。また、使用率は半分ちょっとなのにも関わらず、ベスト3を独占していますので、使用率を考慮すると余計すごいということにもなりそうです。
(MGCでナイキ大躍進、五輪決めた3人を支えた厚底 - 社会 : 日刊スポーツ[2019年9月15日20時48分]より)


●ナイキの厚底靴を履いた選手、人類初のフルマラソン2時間切りを達成

2019/11/25:日本の話じゃないのですけど、キプチョゲが非公式ながら人類初のフルマラソン“2時間切り”を達成 「ナイキ」の“超”厚底シューズが足元を支える | WWD JAPAN.com(2019/10/19)という話を。どうもナイキの宣伝的なチャレンジみたいですね。ここらへんはPRがうまいです。

 ケニアのエリウド・キプチョゲ選手が、フルマラソンで1時間59分40秒を記録し人類初の“2時間切り”を達成しました。もちろんナイキの厚底靴での記録。“ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%”の後継モデルと思われます。トレンドである厚底の一歩先を行く“超”厚底で、“エア マックス”を思わせるエアも確認できるシューズでした。

 ただし、今回の記録は飽くまで非公式記録。オーストリア・ウィーンの起伏が少なく直線の多いコースだったためです。また、ペースを保つために、40人体制のペースメーカーがサポート。さらに、先導車がペースの目安となるライトを地面に照射し続けるという好条件下でのレースでした。

 ということで、いろいろと特別すぎて、ルール的にも非公式記録。本当に靴のおかげなのかもわかりません。とはいえ、“2時間切り”を達成というのはインパクトありますし、最初にも書いたように宣伝が上手だと思います。

 こうした宣伝手法は、悪徳商法や詐欺とは全然違っていて叩かれるようなものではないと思いますし、もっと叩かれるべきことをやっている企業がたくさんあるとも思います。ナイキ叩きのデマの方が問題を感じるくらいです。ただ、ひょっとしたらこうした巧みさがアンチを増やしている理由なのかもな…とは思いました。


●アディダスがスポンサーでも…箱根駅伝出場選手のほとんどがナイキに

2020/01/06:復活優勝した青山学院大学は以前はナイキの靴を履いていないイメージでしたが、2020年の箱根駅伝ではナイキの靴に見えて気になっていました。報道によると、結局、10人全員ナイキだったようです。やはり気になっている方が多く、アディダスと契約しているのにいいの?といった反応も見られました。

 ただ、アディダスはどうも飽くまでユニフォームの契約であり、シューズは関係ないようです。ツイッター情報であり、真偽不明ですが、レース後のインタビューでアディダスに履き替えていてずるいといったツイートもあり、それでもスポンサーには気を遣っているのかもしれません。

 また、今回は青山学院大学以外を見ても、とにかくナイキが多かったですね。同時に長く破られていなかった区間も含めて、ほとんどの区間で区間新記録が出た大会でもあります。林田順子さんは、<今大会は、選手のシューズがほとんどナイキのヴェイパーフライになった大会として語り継がれると思います>としていた他、以下のようなエピソードを書いていました。

<7区の注目は、明治大の阿部弘輝選手がどこのシューズを履くかと言うことでした。阿部選手は一昨年11月に行われた八王子ロングディスタンスで、1万メートル27分56秒45の記録を叩き出したすごい選手。
 明治大学はアディダスからウェアなどの提供を受けているいわゆる“アディダススクール”で、阿部選手もずっとアディダスを履いていました。果たして小田原中継所に現れた阿部選手は何を履いているのか?……(「陸王」みたいな展開ですね)……やはりナイキのヴェイパーでした。
 なんと阿部選手まで……という思いも込めて、ネットでは「アヴェイパー」と言う言葉が誕生しました>
(中央大・舟津選手と田母神選手の最後を見届けたかった――箱根駅伝2020「TVに映らなかった名場面」復路編 文春オンライン / 2020年1月4日 21時10分より)

●突然の厚底禁止論!世界陸連による五輪前の不可解な規則変更

2020/06/20:その後、現行の厚底靴はOKということになったのですが、一時、厚底禁止論が出ていたようです。ただ、検索しても、禁止論に賛成するマスコミ記事は見当たらず、疑問視するものばかり。以前はネットではナイキ叩きが目立っていた気がするものの、ツイッターでも禁止反対ばかりになっていました。

 禁止に反対する記事では、自身もフルマラソンをやっているという山口一臣さんの厚底シューズ“禁止”のロジックは? 世界陸連による五輪前の不可解な規則変更 | 朝日新聞デジタル&M(アンド・エム)(2020年1月24日)が厚底禁止論騒動の経緯を知るのに一番わかりやすそうでした。

 世界陸連の規則では〈競技に使用されるシューズは、すべてのランナーが合理的に利用可能でなければならず、不公平なサポートや利益を提供するものであってはいけない〉とのこと。これにより、ナイキの厚底はソールにカーボンプレートを入れているのが問題としている記事があったようです。

 しかし、反発を発生させるのは飽くまでランナーの筋力あってのものであり、不公平なサポートや利益だと言えるものとは言えないでしょう。ナイキに追随して他社もカーボンや厚底を使った靴を作っており、ナイキの靴に特有のものでもありません。他社も使っている技術の靴を不公平というのは無理があります。不当なナイキ叩きでした。


●市販品はむしろ公平、ナイキよりも日本人選手特製靴がずるい?

 また、“ナイキの厚底”の最新モデル「ナイキ ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%」が約3万円なのが問題とする解説記事もあったそうです。「高すぎて買えないからすべてのランナーが使えるものじゃない」ってことでしょうね。ただ、3万円が極端に高い靴かというと疑問。そもそも量産市販品で誰でも買える靴ですからね。

 〈競技に使用されるシューズは、すべてのランナーが合理的に利用可能でなければならず、不公平なサポートや利益を提供するものであってはいけない〉に関して言うと、かつて日本人ランナーのために特別に開発されていた靴の方がおかしいような感じ。そちらの方がよほど不公平だった気がします。

 例えば、シューズ職人三村仁司氏、ナイキ厚底を全否定 でも薄底もダメと指摘で書いたように、三村仁司さんは選手からの別注シューズの製作を開始し、オリンピックを目指す選手をフォローしてきたとされていました。どちらかというと、こちらの方が「すべてのランナーが合理的に利用可能」に反しそうな感じです。


●厚底靴は怪我しやすいって本当?履いている選手の評判は…

 また、私が一番ひっかかるのが、選手の身体への影響を考えると厚底シューズの方が安全であるということ。怪我しやすいと陰口を叩かれるナイキの厚底シューズですが、今のところそういったデータはなく、経緯や評判はむしろ逆。となると、選手の足を守る靴を禁止して、選手の足を壊しやすい靴を履かせるというおかしなことになります。

<もともとは、キプチョゲ選手らケニア勢から選手生命を長く維持するためにクッション性の高いシューズが欲しいと言われたことがきっかけだった。それまでの長距離用シューズは軽さを重視するため、クッション性が犠牲になり脚への負担が大きかった>
<カーボンプレートを入れるなどの工夫で反発性と安定性も確保した。速く走るというよりも、脚への負担を減らしアスリートを保護することが重要なテーマだった。“速さ”は結果としてついてきたものなのだ>
<この靴を履くと「疲れが少ない」「リカバリーが早い」という選手の声はたくさん聞いた。設楽悠太選手(Honda)が日本新記録を出した直後に「僕の中では毎週、ハーフマラソンを走れるくらいのシューズ。ダメージが少ないので、結果に結びついている」と語っていたのは有名だ。
練習後、疲れがとれるのが早いため「より強度の強い練習ができるようになった」と話す選手もいた>

 記事の後、世界陸連は厚底の厚さ制限や、カーボンプレートの枚数規制を行いました。これについて、「ルールがあるのが大事だから問題なし」という意見もあったものの、賛成しません。この規制は安全性が理由になっていなかったため。選手にとってより安全に走れる靴の開発を禁止してしまった可能性があります。


●厚底禁止、日本のアシックスに忖度したためとの説が出るが…

2022/01/01追記:厚底シューズ禁止論に関して、ナイキ厚底規制問題 巨額賠償問題に発展する可能性はあるか 2020年1月28日(火)16時0分 NEWSポストセブンという記事も出ていたみたいですね。このタイトルの損害賠償の件は弁護士によると、難しいとのこと。突然厚底を禁止したからと言って、ナイキが訴えるのは無理だろうという話です。

 そうなると、アシックスやミズノなど、ナイキの後塵を拝してきた日本のメーカーには追い風となる規制だと言えます。実際、騒動の第一報が出た翌日の2020年1月16日には、アシックスの株価が急伸していました。なので、「東京五輪の公式スポンサーであるアシックスへの配慮から規制問題が浮上したのでは」という噂も出ていたようです。

 ただし、スポーツライターの酒井政人さんはこれをデマだと否定。「トップ選手のなかには、メーカーとの契約があって、ナイキのシューズを使えない選手もいる。今回の規制問題は、あまりに好記録が続出するなか、ナイキを使用できないアスリートグループが世界陸連に不満を訴えたことが発端とされています」としていました。

 でも、このデマの否定するはずのこの説明、それはそれでやばそうな感じ。というのも、前回の追記で書いた世界陸連の規則では〈競技に使用されるシューズは、すべてのランナーが合理的に利用可能でなければならず、不公平なサポートや利益を提供するものであってはいけない〉にひっかかりそうなためです。

 ということで、「スポンサーのアシックスに配慮したのなら東京五輪関係者がクズ」「他社メーカーがナイキの靴の使用を契約選手に禁止していたのならそのメーカーがクズ」といった感じでどちらにせよナイキは悪くありません。そして、規制の動機がちっともアスリートファーストじゃない…ということになってしまいます。


●ナイキ96%・アシックス0%だった箱根駅伝でアシックス巻き返し

2022/01/10追記:箱根駅伝でナイキの厚底靴以外が増えているとする記事がありました。<【箱根駅伝】1区で中大の吉居大和が飛び出す 注目の「シューズ争い」はナイキ厚底以外も巻き返しへ>(2022年1月2日 8時35分スポーツ報知)という記事です。この記事では過去の箱根駅伝のデータもわかりました。
https://news.infoseek.co.jp/article/hochi_20220102-OHT1T51013/

 2019年大会からナイキの厚底シューズを選択する選手が増加し、この年のナイキの占有率は37・4%(86人)でした。これが翌年の2020年には84・3%(177人)と激増。さらに前回大会の2021年には95・7%(201人)でほぼナイキが独占していました。96%ってすごい数字ですね。

 一方、そのあおりを受けて、日本の「名門メーカー」だったアシックスは19年が22・2%(51人)、20年が3・3%(7人)と減少し、前年の2021年にはついに0人まで減っていたと記事では指摘。前回書いた「厚底規制は日本のアシックスに忖度した」説が出てくるのもわかる激減ぶりですね。

 しかし、2022年は「ナイキ圧勝」の状況から変化が濃厚だと記事では書いていました。タイトルも「ナイキ厚底以外も」だったので、てっきり厚底以外が靴が出てきたのかと思ったら、ナイキ以外の各メーカーも厚底シューズの開発に力を入れから…という説明。結局、あんなに叩かれていた厚底を他社もやるようになったようです。

 結果、<前回「惨敗」したアシックスの巻き返しが目立っている>と記事では分析。1区時点では、ナイキ15人、アディダス3人、アシックス2人、ニューバランス1人だとのこと。結局ナイキが多く、アシックスもまだ少ないのですがこの傾向は今後続きそうですし、厚底規制が影響した印象も受けてしまいます。


【本文中でリンクした投稿】
  ■シューズ職人三村仁司氏、ナイキ厚底を全否定 でも薄底もダメと指摘
  ■根性論を捨てて成功した室伏広治の父室伏重信 努力は人を裏切る

【関連投稿】
  ■箱根駅伝の歴代山の神がダメな理由 今井正人,柏原竜二,神野大地
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