不正を犯した研究者の追放で、研究不正問題は解決可能なのか?という話。事前の倫理教育に意味がないという話がある一方で、不正を犯した研究者のリハビリには効果がありそうなところが見られます。ただ、実際の不正の原因を見ると、そもそも個人の問題だけではない可能性も感じました。
2017/08/17:
●罰による抑止効果は怪しい…研究不正で解雇処分に効果はあるのか?
●別名「研究者のリハビリ」、不正を犯した研究者の更生の試み
●倫理教育では研究不正は防げない…実は研究ですでにわかっていた!
●「ルールを守りさえすれば良い」では実際にはルールを守れない
●誰もが不正を行う可能性がある 参加者の72%の原因は~だった
●研究不正は個人の問題とはいえない より重要な対策とは何か?
●罰による抑止効果は怪しい…研究不正で解雇処分に効果はあるのか?
2017/08/17:以前、私は、研究不正を行った研究者は追放すべきだと考えていました。不正を行う研究者は、大抵たまたま一つ不正を犯したというのではなく、多数の不正を行っています。ですので、不正を行った研究者を排除することで、未来に起きる不正をゼロにできます。更生を促すより確実でしょう。
上記が主な理由ですが、日本の研究者はあぶれ気味で、ポスト不足。不正をせずに真面目にやっているせいで、良い仕事が得られない研究者にとってはチャンスともなります。また、大学などの研究機関側も資金不足なのですから、不正を口実に研究者を減らせるのであれば、それはメリットになるはずだと思っていました。
ただ、研究不正に限らない一般の犯罪などで言えば、即「死刑」ではなく、更生を促すというのが常識的な話です。体罰やしつけ、仕事のペナルティに関する研究を見ても、罰による抑止効果はあまり高くなく、不正判明後の更生を重視した方が良いかもしれません。
●別名「研究者のリハビリ」、不正を犯した研究者の更生の試み
以上のようなことを前々から考えていて、機会があれば書こうと思っていました。で、今回、
“不正”を働いた研究者は更生できるか──米大学による「リハビリ」への挑戦|WIRED.jp(2017.08.16 WED 08:00、MALLORY PICKETT)という記事を見つけたので、中身を読む前にいわゆる見切り発車的に書き始めてしまいました。実際には、どんな内容なのでしょう?
記事で取り上げられていたのは、「プロ意識と誠実さに関するワークショップ」でした。主催するジム・デュボワ教授自身は認めていないものの、別名「研究者のリハビリ」とも呼ばれているものです。ここに参加しているのは、"解雇処分を受けるほどひどくはない"程度の深刻な不正を犯した研究者らが参加していたようです。
その内容は、交通違反者への講習会というよりは、グループセラピーに近いものだと説明されていました。デュボワ教授は、「これは倫理学の授業ではありません。研究の際に責任ある行動を取るように、基本的なルールを教えるわけではないのです」と参加者に言っています。
「なぜ科学者になったのですか?」といった質問などでいろいろと話してもらい、それぞれの科学者の研究室をとりまく暗黙のルールや文化、思考の偏りを導き出すといったことをしているようです。数日かけて自分たちの弱点について話し合い、それを管理するためのスキルを習得することは、現実的に役立つ経験になるとも説明されていました。
●倫理教育では研究不正は防げない…実は研究ですでにわかっていた!
デュボワ教授自身は意外なことに、当初この試みにたいへん消極的でした。なぜかと言うと、こうした科学者の行動を“修正”するのは不可能だと思っていたためです。
更生とは時系列が逆の話になりますが、研究機関が予防策としてよく用いる「モラルを育む訓練」は、ほとんどの場合、科学者の未来の行動にまったく影響を与えないと研究を通じて知っていたというのがその理由だと言います。私は、不正を犯さないようにする倫理教育について、やらないよりはマシだけど効果は低いと批判してきましたが、現実はもっとひどくそもそも意味がないんですね。
では、なぜデュボワ教授がその方針を改めたの?という理由の方ですがだいぶ曖昧。2011年のに、米国立衛生研究所(NIH)が新しい研究倫理訓練プログラムの開発に助成金を支給するという公示を目にして、イノヴェイションのチャンスだと思ったという説明であり、科学的根拠があるわけではないに見えますね。
とはいえ、ダメだったとしても、それはそれで一つの知見になりますからね。過去に多数の失敗例があり、結論がすでに出ているというわけでないのなら、チャレンジしてみる価値があると思われます。そして、幸い、この試みは一定の成果がありそうなものでした。
●「ルールを守りさえすれば良い」では実際にはルールを守れない
このワークショップに参加した研究者は、「きちんとルールに従っていればいいんだ」と言っていたのですが、実はこれは参加前に言っていたこと。読者の方でもそういう人は多いでしょうが、「ルールを守りさえすれば良い」と思っている人は実際には不正を犯しやすいのかもしれません。
では、ワークショップの後に参加者がどう考えるようになったのか?というと、以下のようなもの。この研究者はその後、実際にそういった考えで実験を進めるようになったそうです。
「何かするときは『起こり得る最悪のシナリオ』について、いつも考えておかねばなりません。それがチームにどう影響を与えるかも考慮する必要があります」
●誰もが不正を行う可能性がある 参加者の72%の原因は~だった
上記の時点で、
性善説と性悪説、どちらも人間は悪という前提 間違った意味が浸透でやった話を思い出しました。不正を行う人のほとんどは、典型的な悪役のようなキャラクターではなく、むしろ善人に見えるという話です。
何をやるにもおかしいという人も実際にはいるのですが、ちょっとしたことで、人が不正を犯してしまうということも多いのです。今回の記事でも上記の後、デュボワ教授の「ミスはあなたにも簡単に起こり得る」というメッセージには反発が強いと書かれていました。誰にでも起き得るというスタンスなのです。
このメッセージに対する反発の典型が「知識があるのに、正しい行動をしようとしない連中に無駄金を使うのをやめて、公金から“しばらく”遠ざけよ」といった反応だそうです。この試みが紹介される度に、嫌がらせのメールが大量に届くと言いますから、これはこれで精神の異常さを感じます。
ただ、デュボワ教授の調査によると、ワークショップの参加者の72%が、ミスの原因は長時間労働と人手不足からくる不注意だったと言います。誰にでも起き得る間違いということは、正しそうでした。
●研究不正は個人の問題とはいえない より重要な対策とは何か?
一方で、ミスの原因の72%が、長時間労働と人手不足からくる不注意だったとすれば、デュボワ教授のワークショップがどれくらい有効なのか?という疑問も出てきます。というのも、これが本当であれば、最も大きな理由は個人の問題ではなく、環境などの問題であるためです。
長時間労働や人手不足というのは、研究者に限らない労働環境の問題。また、ワークショップの参加者はプレッシャーなどについても言及していましたが、これは成果主義的なところと結びつきます。実は、過去の研究不正においても、上司の無言の圧力によるトップダウン型の大型不正が何度も発生していました。
このように見ていくと、研究不正に対する対応が進まないというのは、不正を個人の問題と済ましてしまい、科学界全体の問題だと捉えるような危機感がない、というのも大きいと思われます。
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