<昔の日本は治安が悪かった!犬は番犬で重宝もその犬すら盗まれた?>など、犬を中心とした昔の日本の話をまとめ。<犬殺しに目をつけられてしまった犬、タダじゃ返してもらえない!>、<「犬とり」だけじゃなく「猫とり」も…三味線の皮にするため>といった話をやっています。
冒頭に追記
2022/06/18追記:
●外出した犬が首に固く針金が巻かれて帰ってきた…その理由は?
2022/06/24追記:
●食糧難の戦時中に猫二匹を連れて疎開したため、村の重大問題に!
2022/07/05追記:
●戦時中の犬鍋はごちそうで、防空壕からわざわざ出てきて食べた? 【NEW】
●外出した犬が首に固く針金が巻かれて帰ってきた…その理由は?
2022/06/18追記:
犬 (中公文庫)の話は今回で最後。最後は林芙美子さん(1903~1951)のエッセイです。林芙美子さんは何度か出てきている犬好きの川端康成さんの紹介で動物を飼ったそうですが、その動物は犬ではありません。なんとミミズクでした。
犬の話ですので、当然犬も飼ってはいました。どうも「ペット」という妙な名前にしていたみたいですね。このペットは、前述のミミズクを飼ったときに家出してしまったそうです。嫉妬したのではないか?と見られています。確か他の人のエッセイでも新しく飼った犬に嫉妬した…という話がありました。
二三日すると犬は戻ってきたのですが、これは単なる家出では済まない話になっています。戻った犬の首には固く針金が巻かれており、骨と皮というほどやせ衰えた状態だったのです。針金のせいか、何を与えてももどしてしまいます。やせ衰えていたのも何も食べられなかったからかもしれません。
動物愛護精神のない時代だったので虐待?と思うかもしれませんが、林芙美子さんは別の推測。赤犬だったので絞め殺して食べるつもりだったのだろう…と書いていました。日本では、赤犬(茶色い犬)はおいしいと言われていた…と私も聞いたことがあります。ここらへんも当時の様子がわかる話でしたね。


●食糧難の戦時中に猫二匹を連れて疎開したため、村の重大問題に!
2022/06/24追記:
犬 (中公文庫)が終わったので、ここから同じシリーズの
猫―クラフト・エヴィング商会の話を。最初に紹介する洋画家の猪熊弦一郎(いのくま げんいちろう)さんの「みつちやん」は、以前読んだときも印象に残った話でした。
戦時中、猪熊弦一郎さんは猫2匹を連れて吉野村に疎開。ただ、犬の話でもあったように、当時は食糧難であったため、猫を連れてきた猪熊家の疎開は村でも相当重大な問題であったそうです。おまけに連れて行った猫のうちのオス猫の方が、この村で重大な事件を起こしてトラブルとなってしまいます。
猪熊弦一郎さんの家のオス猫は、たいへん穏やかで優しい猫でしたが、疎開先で性格が徐々に変化。だんだんひねくれて野生に返っていったとのこと。人からの餌を食べなくなり、野山でネズミや虫を食べるように。猪熊弦一郎さんは慣れない土地のせいと予想していましたが、田舎のせいというのもあるかもしれません。
この流れで大体想像つくように、野生化したこの猫は農家のうちの鶏を殺してしまいました。卵を生み出したばかりの若鶏で当然ながら食糧難の当時は超貴重。弁償するように言われたものの、当時は闇値で相当高額だったというだけでなく、そもそも出回ることが極めて稀。ここらへんも戦時中のひどさがわかる話です。
で、どうしたか?と言うと、村の老人が酒一升で解決してあげると申し出てくれました。ただし、この酒一升を手に入れるのも困難だというのが、戦時中のひどさ。なんとか上酒を見つけて金一封とともに老人に預けて送り出します。結果、老人は金一封は出さず、お酒だけで解決してしまったとのこと。幸いでした。
一方、被害者から「猫はまた盗むので縄でつないでおくように。見かけたら猫の骨を折る」という趣旨のことを言われたので、仕方なく言う通りに。やせ衰えたものの、終戦まで生き延び東京に戻れました。ただ、帰宅後も一度得た野性味は失わなかったようで、東京でも鶏をとるなど悪事を働いていたそうです。
●戦時中の犬鍋はごちそうで、防空壕からわざわざ出てきて食べた?
2022/07/05追記:同じ時期に集めた犬と猫のエッセイ集を続けて読んでいるのですが、だいぶ雰囲気が違います。なぜか犬のエッセイはつまらないのが多かったのに対して、猫は普通におもしろい話が多いです。犬と猫の違いというよりは、昔の犬好きとネコ好きの作家の性格の違いなのかもしれません。
また、犬の方で多かった時代性を感じさせる話では、なぜか猫の方だと少なめ。これは犬の方が当時生きづらい時代だったせいでしょうかね。あと、犬の方が身近だった…という可能性も。今は猫の方が増えて逆転していますが、おそらく以前は圧倒的に犬を飼っている人の方が多かったはずです。
そんな猫のエッセイでも時代を感じさせる話があったのが、『二十四の瞳』が有名な女性小説家・壺井栄さんの『木かげ』。ただ、正確に言うと小説ですね。エッセイ集と言いつつ小説というのは、犬の方でもあり、いい加減。また、タイトルが一部「小かげ」と誤字っていて、編集者の愛のなさも感じてしまうものでした。
この『木かげ』内の時代を感じさせる話というのは、猫などが姿を消した戦時中の暗い記憶を思い出した…というエピソードがそうでした。また、結局、犬の話なんですけど、犬の料理方を引き受けていた巡査が太っていたことなど、町内の犬を食べていたという人たちを思い出した…という話もあります。
さらに、村会では犬の大鍋があり、それを目当てに防空(おそらく防空壕)から出てくる人もいたという噂があったとも。ここらへんは小説である上に伝聞調であり、事実かどうかはわからないものの、当時はそのようなことが信じられるような状況だったということはわかりそうでした。
●賢さは無関係?昔は血統書付きなら全部「名犬」と呼んでいた
2021/05/28:
犬 (中公文庫)は、1954年に発売された犬に関する「幻の随筆集」を、クラフト・エヴィング商會というところがデザインなどをやり直した書籍です。ただ、正直言うと、ほとんどの作品が読むのが苦痛などほどおもしろくなく、 クラフト・エヴィング商會のセンスも私と合いませんでした。
とはいえ、戦後から10年ほどの間の当時の事情や雰囲気がわかるという意味では、価値がある本だと感じます。例えば、本の中で盛んに出てくる「名犬」「駄犬」という言葉。現在ではそもそもほとんど使われませんが、当時は単に血統書つきを「名犬」、雑種を「駄犬」と呼んでいた感じです。今はこういう使い方はしない気がします。
これは、網野菊(1900年1月16日 - 1978年5月15日)の『犬たち』(年数不明)でも出てきた用法です。この作品は随筆というよりは小説風であることは注意。ただ、網野菊を調べてみると、作者が直接に経験したことをほぼそのまま書いた小説である「私小説」が多い作家。内容と生い立ちを照らし合わせても合うため、おそらくほぼ実体験だと考えて良さそうです。
この『犬たち』では、主人公である作家を悪く批評していた評論家がが雑種の犬を「名犬」という見当違いな評価をしていたのを愉快に思ったと書いており、雑種との対比としての「名犬」だとわかります。「駄犬も名種犬も平等に」と書いている部分が1箇所だけあったため、「名種犬」と「名犬」は同義のようだということも推測できました。
また、
デジタル大辞泉「駄犬」を見てみると、「駄犬」は血統のわからない雑種の犬という意味しか今でも載っていません。今でも一応そういう意味なんですね。私は血統に関係なく、ダメ犬というイメージでしたので意外でした。一方、「名犬」については、デジタル大辞泉でも「かしこく、すぐれた犬」と説明しており、血統書付きという意味合いはありません。
●昔の日本は治安が悪かった!犬は番犬で重宝もその犬すら盗まれた?
この作品『犬たち』は、特に当時の犬事情が多くわかった話です。これによると、戦争中は食糧事情があるため、多くの犬は処分されたとのこと。人すら食べ物がなかったために、犬にやる食べ物がなかったためという意味だと思いますが、ひょっとしたら犬も食べたのかもしれません。ただし、戦後である本を書いた当時でも人間の食糧事情は依然悪く、犬たちも困窮していました。
また、戦争中殺されていたせいで、戦後まもなくは犬が少なかったため、駄犬でも当時は高かったとのこと。なので、安く番犬が手に入れば喜んだとありました。当時の犬はペットというよりは番犬という役割が大きかったことや、昔の日本は治安が悪かったことがわかるでしょう。治安の悪さの話は他にも多数出てきます。
前述の話のすぐ後には、ダメ犬が母屋から遠いところで繋がれっぱなしにされていた一方、番犬に役立つ犬の方が大事にされて、具合が悪くなると医者に見てもらうほどだったという話も登場。また、同時に慌てて戸締まりをきちっとしたともあります。「昔の日本人は立派だった」「今は治安が悪くなった」という誤解が蔓延していますが、昔の日本人の方がひどくて治安も悪かったんですよね。
主人公のいたところは焼跡からの復興が遅いせいか、引っ越してすぐに、老婆殺人事件と強盗事件がひとつずつの他、空き巣狙いに何度もあった家があったという、モロに治安が悪い!という話も出てきました。また、住んでいたお店の使用人が主人が飼っているダメな方の犬に怒って棒で叩き後遺症が残った…という話も今では考えられません。この話はさらっと流されており、主人に使用人が怒られたという話もなく、当時は特に問題ないことだったのでしょう。
どこに書いてあったのかわからず、私の記憶違いだったかもしれませんが、本の中では番犬であるはずの犬すら盗まれたので、家の外に逃げないように大事にしていた…という話もあった気がします。あと、「犬とり」という犬を捕まえる職業の人の話が、特に説明なくいろんなエッセイで登場し、犬とりから犬を取り返す話も。当時犬とりはよくあることだったようです。
●犬は少量の食べ物で充分!たくさん食べるとバカになると言ってた
2022/01/29追記:『犬たち』では、当時の雰囲気のわかる話が他にも出てきました。「犬は少量の食べ物で充分であり、たくさん食べるとバカになると、人々から聞かされた」といったことが書かれた部分があったんですよ。太平洋戦争のせいで食べ物が不足していたため、犬に食べ物をあまりあげないことを正当化する意味もあったのかもしれません。
犬とは関係ないのですが、結婚して子供が生まれなかった女性主人公が「子供を生まぬ女は人情がない」と面と向かって言われた上に破婚(離婚のこと)となった…という話も当時の様子がわかるもの。前回書いたように、私小説風なので実際に言われた言葉かもしれません。網野菊自身、離婚しており、失敗した結婚をもとにした作品が多数あるそうです。
なお、「子供を生まぬ女は人情がない」の話の直前には、実母が浮気して離婚されて以来、何人かの継母を迎えたものの、母性愛なしで育った…という話が出ており、これもまた網野菊のプロフィールと合致していそうな話。
網野菊 - Wikipediaでは、以下のような説明をしている部分がありました。
<(引用者注:父である)亀吉は信州の農家の出だが、赤坂田町の馬具辰こと金子辰五郎に奉公して馬具職人となり、戦争需要で成功し、馬具革具軍需品一式製造販売のほか東京電線株式会社の監査役も務めた。(中略)取引先の若い店員との不倫により母親が姦通罪で実刑となり両親が離婚したため実母とは7歳で生き別れ、3人の継母を迎え、腹違いの異母弟妹に囲まれるという複雑な家庭で育つ>
●犬殺しに目をつけられてしまった犬、タダじゃ返してもらえない!
2022/02/12追記:『犬たち』の話は今回最後でふたつ紹介。いずれもすでに紹介したことの補足的な話になってしまうのですが、まず、「戦後まもなくは犬が少なかったため、駄犬でも当時は高かった」の補足から。これは前回の「犬は少量の食べ物で充分」の関係ですし、これまた以前書いた「名犬」の用法も確認できるものです。
主人公は大家から充分に食料を貰っていない2匹に餌を上げていたものの、これが大きな負担に。貰い手があれば一番ではあるものの、「終戦直後とちがつて犬が行き渡つた現在では、名犬の種ならいざしらず、こんな成犬を貰つて飼はうといふ物好きはなかつた」と書かれている部分があったんですよね。
もう一つは以前書いた「犬とり」関連のエピソード。2匹のうち子犬の方は、大家さんがなかなか手放したがりませんでした。この理由は、子犬が表で遊んでいるときに「犬殺し」に連れて行かれそうになったのを二百円出して返してもらい、鎖や首輪をわざわざ買ってつなぐようになったため「愛着を持つた」されていたんですよね。
自分ち(家)の犬なのに、無料じゃ返してもらえないという理不尽さ。犬殺しは「証拠がないだろ」と主張したのかもしれませんが、ひどい話ですね。当時の日本の様子がわかります。また、二百円は当時としては大金じゃないかと思いました。上記は「少なからぬ金を出して取り返したから惜しくなった」というニュアンスですし、実際結構な金額だったんだと思われます。
●戦後6年で物価が100倍というアホみたいなインフレを引き起こす
2022/02/19追記:前回追記の犬殺しから飼い犬を取り返すために支払った二百円の件。当時の二百円が今で言う何円か?を調べようとしたものの、よくわかりません。もともとこうした物価の換算は難しいのですが、この当時は特に難しい時期でした。激しいインフレの真っ最中だったためです。
これらも当時のひどさがわかる話なのですが、ものすごい勢いでインフレが起きていた…というのは、戦争が理由でした。以下のサイトによると、戦後6年で物価が100倍になったとされており、時期によって全然価値が異なってきます。1年違うだけで、一気に1円の価値が変わるという時期でした。
<1934年~1936年の平均を1とすると、終戦年の1945年時点で3.5だった指数が1951年には342.5で、たったの6年でおよそ100倍になった。
100倍ということはつまり、今1万円札でお菓子を100個買えてるのが6年後には1つしか買えなくなるということ。上手く想像できないけどこれ多分当時貯金してた人は悲惨だったよね…
このインフレは、戦時国債や軍人への退職金支払いなどの費用を賄うために政府が発行した国債を日本銀行が直接引き受けたことが原因とされている。
中央銀行が、政府が発行した国債を直接引き受けると、中央銀行が際限なく通貨を発行してしまい、インフレーションを引き起こす可能性があるため、現在では日本も含めほとんどの国で禁止されている>
(
昔の1円を今の価値に換算すると… - 気になったデータをグラフや図にして
「へー」ってなるページより)
とりあえず、1945年(昭和20年)の1円を2018年の貨幣価値に換算すると200円くらいとされていたので、このときの200円なら2万円です。インフレ後の200円はもっと安いのですが、文脈からすると安いということはないでしょう。ひょっとしたら2万円以上の価値を感じる「200円」だったのかもしれません。
●「許して!」近所の奥さん総出で犬取りに懇願して取り返す例も
2022/02/26追記:
犬 (中公文庫)の最初の話『赤毛の犬』でも「犬とり」が出てきたのに紹介していませんでしたので、今回はこれを紹介。この本は「随筆集」ということになっているんですが、初っ端から随筆じゃありませんね。いかにも私小説とまでは感じなかったものの、直接経験したことをほぼそのまま書いた私小説の可能性はあります。
この短編の作者は、小説家・評論家・英文学者の阿部知二さん。Wikipediaを見てみると、私小説の話は一切ないですし、今回の小説の内容とプロフィールが多く一致するわけでもありません。ということで、実話(昭和27年の作品)ではない可能性が高いですが、当時の雰囲気はわかるでしょう。
小説の主人公が住んでいた下宿の近くでは、人懐っこい赤茶色のメス犬が地域猫ならぬ「地域犬」のようにして愛されていました。特に子どもたちからは大人気。本来はお屋敷の犬なのですが、ほとんど家には戻ることはなく、自由に歩きまわっていたとのこと。ただ、そんな状態ですから、「犬取り」に捕まりました。
犬取りはそのまま持っていこうとしたものの、子どもたちが泣いて大騒ぎ。そこで下宿のおばあさんが説得にかかり、さらに近所の奥さんたちがぞろぞろ応援に来て、犬取りが「うん」と言うまで引き下がらずに取り返すことに成功。このケースでは、お金を出さずに取り返すことができています。
あと、記憶に残っていなかったのですが、ここを読み直していて、説得の際に「この犬は絶対に悪いことしやしません、わたし等で責任持つて見ますから、どうぞ許してやつて下さい」と言っていることに気づきました。ここだけ読むと、保健所の野良犬駆除みたいな役割に見えるのでこの後確認しています。
●「犬殺」は今で言う保健所的な役割で悪い人じゃない可能性は?
2022/03/07追記:書籍の話はもう少しやれそうだったのですが、曖昧にして意味を確かめていなかった「犬とり」を少し調べておくことに。「犬殺し」とも同じ意味なのかどうかも気になるので、この際にはっきりさせておきたいところです。ただ、辞書やWikipediaにはほぼない言葉でかなり苦労しました。
辞書系で唯一あったのは、
精選版 日本国語大辞典の「犬殺」。「いぬごろし」ではなく読み方は「いぬころし」となっていました。「狂犬病を予防したり、犬の危害を防止したりするために、野犬を捕らえること」という意味。江戸時代の仮名草子・片仮名本因果物語(1661)に「犬殺(イヌコロシ)の役に出(いで)たる、庄助と云者、有時(あるとき)犬を殺(ころし)に行に」という用例があります。
この場合は、保健所的な役割で、「悪」とは言い切れないでしょう。一方で、検索してみると、本文は全く見れないのですが、ジャーナリストの木俣 秋水さんによる
差別行政の一典型--いわゆる"犬取り"について という論文があることを発見。どうも部落問題研究所出版部の雑誌に載ったものだったようです。こちらは不浄な仕事とされて被差別部落民の専用業務だった…みたいな問題の指摘かもしれません。
参考:
死牛馬取得権 - Wikipedia<死牛馬取得権(しぎゅうばしゅとくけん)とは、江戸時代に存在した、死亡した牛馬の遺体を取得する権利のことである。処理・解体し、皮革などを生産した。(中略)江戸時代においては、穢多(引用者注:えた。差別民とされるが、一方で江戸時代までは経済的には富裕だったとの指摘も)がこの権利を独占した>
●「犬とり」だけじゃなく「猫とり」も…三味線の皮にするため
また、前述の保健所的に見える「犬殺」ですが、私が本で読んで出てきた「犬とり」とは異なりそうな感じ。辞書系がほぼ全滅だったので、一般人の記述を探してみたところ、書籍で出た例と似たものが見つかりました。これを読むと、保健所的な役割というわけではなく金儲けが目的。同様に「猫とり」もあったようです。
<昭和時代は好きだけど、いい事ばかりの時代じゃなかったよね。今は見なくなって良いなぁと思うのは犬取り、猫取りのこわ~いおっさん
今の若い人達は知らないと思うけど、字の通り町をうろついてる犬や猫の捕獲を仕事にしている人達の事。(中略)
近所のおばちゃんが、えっちゃんのおばあちゃんに「犬取り、来たでぇ」とか「猫取り来たでぇ」とか言いに来てくれたんです。そしたらおばあちゃんは急いで、飼っていた猫(猫の名前覚えてない)とプクを探しに行って急いで家に入れて捕獲されないようにしてました。
おばあちゃんが「取られたら、大変やねんで。昔取られたことがあって返してくれ言うても絶対返してくれへん。三味線にされてもた。」と言ってました。メス猫の皮は最高級の三味線の皮になるんだそうです>
(
2014年3月11日 犬捕り、猫捕り - 神戸のタバコ屋のえっちゃんより)
●ずっと犬を飼っていなかった人が飼うと決めた理由がやはり治安
2022/03/14追記:再び
犬 (中公文庫)の話。この書籍で出ている治安が悪いエピソードはなんとなく都会の例ばかりだった気がしたのですが、作家・伊藤整(せい)さんのエッセイ「犬と私」(年数不明)を読み直していて、そうではなかったことに気づきました。
この伊藤整さんはそれほど犬好きな感じではなく、川端康成さんの家を訪ねると、犬がたくさんいて吠えられるなどして肩身が狭かった…といった話をしています。ただ、犬を飼ったことはありました。早稲田大学仏文学科の根津憲三さんからテリアの子犬をもらったことはあるそうです。
当時はこの犬を可愛がって育てていたものの、わずか1年でバスに轢かれてしまったとのこと。そういう辛さもあって、飼っていなかったんですかね。これはどうも戦前の話っぽかったんですけど、交通量の少なかった当時ですら犬の交通死亡事故があったと驚く話でもあります。
この事故以来、一度も犬を飼っていなかった伊藤整さんですが、また犬を飼おうと話になりました。理由はやはり治安です。「戦後住んでいる家は、ひどい田舎で、近所ではみな用心のために、犬を飼っている」状態。そこで、伊藤整さんのところでも飼おうということになったそうです。むしろ田舎ほど治安が悪いという理解でした。
●犬に贅沢は「戦後の窮乏せる人間社会の秩序を破壊する」と憤慨
こうした方針が決まるとタイミング良く、工業大学の東宮隆・助教授から当歳の犬をあげましょうという話が来ます。「当歳」というのは、たぶん数え年の1歳のことなので今で言う0歳です。ただ、すでに贅沢を覚えており、パンはバタ(バター?)つき、ご飯は肉汁つきでないと食べないとのこと。タダのパンやご飯だと絶食するという筋金入りのグルメです。
東宮隆・助教授は伊藤整さんなら大丈夫だと思ったと説明。ところが、当の本人は「しまった!」と弱ります。「戦後の窮乏せる人間社会の秩序を破壊する人だ」とも憤慨。東大の先生は余裕があったのかもしれませんが、他の人は苦しかったんでしょうね。これまた当時の様子がわかる話です。
しかし、紳士としては引けない、犬なんぞに負けられない…と貰い受けることに。幸い魚なら食べると聞いて一安心したということもあります。ちなみに、そんな犬がいるか!と思ったし、うちでは贅沢させないぞ!とも思ったものの、実際普通のパンは当初食べなかったとのこと。ただ、上品な犬でむしろ敬愛してしまったといいます。
一方、当初の目的は番犬であったのですが、こちらは執筆時点ではまるっきり役立たず。全然吠えないし臆病なのです。今なら吠えない犬が良いと思っちゃいますが、当時は番犬ですからね。伊藤整さんだけでなく、犬をゆずった東宮隆・助教授も気にしていました。当時は本当に治安が悪かったんだ…とわかる話です。
●犬が愛されなかった時代と思いきや尋常じゃなく溺愛する人も…
2022/03/21追記:前回の作家・伊藤整(せい)さんが川端康成さんのお宅を訪ねると犬だらけで居心地が悪かったという話を書いていたのですが、
犬 (中公文庫)では、続けて川端康成さんの犬エッセイ(「わが犬の記、昭和7年)が載っていました。川端康成さんは犬好きに見えましたし、愛犬家と言われたそうですが、本人は愛犬家ではないと否定しています。
ただ、これは謙遜か近所の極端な例と比較しているため。書籍では当時の犬は今ほど愛されていない…という感じの話ばっかりだったのに、ここで登場する藤井浩祐(祐の旧字体)さんは現在でも聞かないような溺愛ぶり。エッセイで説明なかったのですが、彫刻家だそう。「こうすけ」だと思ったら「こうゆう」でした。
<藤井 浩佑(ふじい こうゆう、1882年(明治15年)11月29日 - 1958年(昭和33年)7月15日)は、彫刻家、日本芸術院会員。初名は浩祐(引用者注:エッセイではこちらの字) >
<唐木細工師藤井祐敬の長男として東京府東京市神田区錦町に生まれる。祖父は、旧摂関家で公爵の九条家の執事であった藤井祐澄。不同舎を経て1907年東京美術学校彫刻科卒、第一回文展に出品、以後出品を続ける>(
Wikipediaより)
藤井祐敬宅では、犬は土足のまま出入りしているだけでなく、なんとそのまま布団に潜り込んでも大丈夫。加えて繁殖期のメス犬がいると布団に血までつくといい、神経質を自認する川端康成さんにはとっても無理だといいます。まあ、これは、川端康成さんじゃなくっても無理でしょうね。
川端康成さんはそもそも散歩のお供と神経質を治す助手という「実用的な目的」で犬を飼っているということで、これではますます持病が悪化しそうです。なお、実際、犬を飼ってイライラが減ったそうな。とはいえ、たくさん飼う必要はないでしょうから、犬が好きというところもあるんでしょう。
藤井祐敬さんの話の続き。腕枕で眠る犬も多く、寝返りもなるべくしないとのこと。まるでネコの話みたいです。川端康成さんもこれを「女の猫可愛がりに似た愛犬ぶりには、正気の沙汰と思へぬ」と少し女性蔑視な感じで表現。そういう川端康成さんも肌に触れさえしなければ、犬を寝床に入れるのを許しているらしんですけど…。
●川端康成「盗難はよくある。家の外に出せば盗まれると覚悟せよ」
2022/03/27追記:作家・伊藤整(せい)さんが川端康成さんのお宅を訪ねたときは、確か5匹の犬がいたという話でした。その次にあった川端康成さんご本人のエッセイのときには6匹。畜犬家としては日が浅く、まだ亡くなった犬は1匹だけ…と説明していたので、伊藤整さんのエッセイの少し後の話ですね。
このときに「犬が盗まれた」という話が出てきました。飼っていた犬には、グレイハウンドやワイヤア・ヘエア・フオツクス・テリヤ(ワイヤヘアーのフォックステリア、ワイヤーフォックステリア)などがいましたが、盗まれたのはつがいで飼っていたコリイ種のオス。盗まれた理由ははっきりしないものの、普通の犬とりとは違う感じです。
幸い新聞配達が見つけてくれた…ということで、殺しは目的ではなさげ。はっきりと書いていないものの、血統書つきだからと言った感じですね。伊藤整さんが「後から由緒ある犬ばかりだと知って驚いた」と書いていたのですが、川端康成さんは当時の言い方で言う「名犬」ばかり飼っていたようです。
エッセイでは「犬の盗難は頻々と(ひんぴんと、絶え間なく)ある」とした上で、「少し筋の通つた犬ならば、門を出したら先づ(まず)とられるものと覚悟しなければならない」という説明。ちなみに犬が見つからないと川端康成さんが怒るので、家人(家族)は探しに行ったきりなかなか帰ってこないとしていました。
あと、このコリイ種のオスは、メスのグレイハウンドを犬舎から追い出すか、自分が軒下に逃げてしまうほど大嫌いで困ったとのこと。川端康成さんはこれをコリー種の特性とみなしていたものの、たまたまでしょうね。血統にこだわりあるようなので、勝手に異種と繁殖して雑種ができるよりは良かったかもしれません。
●愛犬家なら雑種ではなく純血種を飼うべき!川端康成のこだわり
2022/04/03追記:大作家だからか犬好きだからか、書籍では川端康成さんはもう1つエッセイ(「愛犬家心得」、昭和8年))を収録。私にとってはこの2つ目のエッセイが書籍の中でも最高クラスに苦痛な出来。川端康成さんの偏見バリバリな「愛犬家心得」を記したものだったんですよね。正しいと思われない主張があり、押し付けがましくもあります。
前回の最後に「血統にこだわりあるようなので」と書いたのですが、読み直してみると、「純血種を飼ふことは、愛犬家心得の一つ」という主張もありました。この理由は「犬の純潔さ」(「純血」ではない)は、純血種の方に美しく伝わっている…というよくわからない説明のみしか書かれていません。
また、雑種への偏見や、前回書いたように個別の例を安易に品種の特徴とするような遺伝に関する誤解もありそう。加えて、育て方次第で悪癖を治せるといった理解も見られました。こうした誤解は今の人でもよくありますし、昔の人だから仕方がないですかね。ここらへんの話については、次回、もう少し補足します。
●川端康成の雑種嫌い炸裂「放し飼いの雑種犬は乞食も同然である」
2022/04/11追記:前回の補足の話。川端康成さんの飼っていた中に稀に寝小便をする犬がいて、これは「だらしのない狆(ちん、日本の犬種)の血が交じっていたからだとしていました。また、別の雑種は大人になってからも穴掘りをやめないなど、悪癖が多かったとしています。雑種のせい…的な考えがありそうです。
ただ、うちで飼っていた血統書付きの北海道犬でも1頭穴掘り名人がいて、よく脱走していたんですよね。穴を掘られたところは大きな石で埋めて掘られないようにするのですが、わずかの隙間を見つけて掘ってしまうので犬小屋のフェンス周りは石だらけになっていました。雑種かどうかの問題ではないと思われます。
ところで、川端康成さんの家では多頭飼育だったため、他の犬までが脱走する事態に…。このせいで、毎度毎度迷子犬探ししていたようです。ここで再び「東京では犬を門から出せばまず盗まれる」といった話が登場。ただ、それだけでなく、川端康成さんのこだわり、雑種などへの偏見も出てきます。
川端康成さんいわく、放浪しがちな犬は飼い犬ではなくもはや野良犬で、美しさもないとのこと。特に出歩く雑種犬などは乞食同然だといいます。逆に放し飼いにしても盗まれない犬は犬ではない…とも言っていました。このエッセイはこういう偏った「愛犬家心得」が次々出てくるもので、読んでいて苦痛でした。
●「こんなの自分にだって書ける」という文章や小説、実は難しい
2022/04/18追記:以前も書いたように、
犬 (中公文庫)は随筆集とされているものの、小説が含まれています。幸田文(あや)の「あか」も小説風です。これも以前書いたように、収録作品は読むのが苦痛な話ばかりだったのですが、この幸田文の「あか」だけはおもしろかったです。他の作品がひどいと感じただけでに、圧倒的に良いこの作品はキラキラ光って見えました。
文体やリズム感もダントツでテンポよくスイスイと読めます。子供向けを意識している感じもありますが、とにかく独特のテンポがある良い文章。ただ、正直ここらへんは好みで、難解でわかりづらい文章を評価する人もいます。読みやすい文章は、むしろ評価されづらいところがあるかもしれません。
例外はあるでしょうが、「こんなの自分にだって書ける」と言われやすい作家って、実は真似できないめちゃくちゃ文章がうまい人が多いです。書けそうに見えるものの、読みやすい文章はセンスと才能がいて、なかなか書けないんですね。前述の通り、好みの問題ではあるんですけど…。
この幸田文は子供の頃にも読んでいて、おもしろかった記憶はありました。感性の鋭さ、多感さも覚えがありました。ただ、こんな天才的にうまい文を書く人だという記憶はなくてびっくり。幸田文は文豪・幸田露伴の娘ですが、祖父の七光り的な物書きもいますし、文章の才能を受け継いだのはやはり稀有だと思います。
ちなみに幸田文の娘・青木玉も随筆家で、芸術選奨文部大臣賞を受賞。幸田文も青木玉も親が亡くなってから書き始めたようです。さらに、孫の青木奈緒もエッセイスト。ただ、私は彼女らの作品は読んだことがないので、そこらへんはよくわかりません。実を言うと、幸田露伴もなぜか今まで読む機会がありませんでした。
●犬ころしがつかまえようとしていた野良犬を談判して買い取る話
この幸田文の「あか」(昭和23年)でも、「犬ころし」が登場。「犬とり」と呼ばれていないいものの、大体似たような感じですね。「お父さんが談判」して、犬ころしがつかまえようとしていた野良犬を買い取ったという話です。前述の通り、この話は小説風で普通なら創作なのですが、実話ベースなところがあるかもしれません。
というのも、主人公の名前が「幸田あや」に似た「幸田ア子」で、父も物書きであること。名前が一郎で、実際の名前の成豊(しげとよ)とは違いますが、弟がいるというのもいっしょです。さらに登場する犬好きの新聞記者・沢田撫松(さわだぶしょう)が実名っぽいと思って検索すると、やはり実在の人物でした。
小説の内容のほとんどは、子供の頃の話となっていますが、最後でおばあさんの思い出話と判明しており、ここは事実ではないかも?と計算。幸田文は1904年〈明治37年〉生まれで、作品が書かれた昭和23年(1948年)ですと、44歳くらいであり、やはり「おばあさん」ということはありません。完全な実話でもなさそうでした。
●家にゐる熊は熊ではない熊だ…志賀直哉の子の作文が名文だった
2022/04/26追記:最初読んだ後の感想では、志賀直哉の「クマ」(昭和14年)なども比較的良かったとのメモ。今読み直して見るとかなりいい感じ。旧仮名遣いの文章が気持ち良いです。それ以上に良いと思ったのが、志賀直哉の息子の書いた作文。ユーモアがありますし、テンポも良い名文だと思いました。
<熊にはひ熊、月輪熊(つきのわぐま)、白熊、マレイ熊等があるが家にゐる熊は熊ではない熊だ。熊とは犬の名前である。熊と名前をもらふだけあつて長い毛がもじやもじやしてゐる。唐獅子にも似てゐるし、熊にも似て居るが、やはり犬である以上には犬にも似てゐる>(引用者注:2回めの「もじや」は原文だと縦書き複数字用の踊り字)
志賀直哉さんも「確かに犬にも似てゐる犬である」との感想。この犬は子が欲しがった子犬ですが、いかにもゲテモノなムク犬。当然駄犬(=雑種)で、「さういふ犬の野良犬根性に梃子摺(てこず)り切つた事」があり、志賀直哉さんは嫌だった模様。やはり雑種への偏見があります。ただ、実際は賢く下品さのない犬だったそうです。
●昔なら人に吠える犬は歓迎…と思いきや、志賀直哉は違っていた
2022/05/04追記:前述のクマの賢さにつていは、具体的な逸話がありました。志賀直哉さんはあるとき、アヒルのひなを2羽購入。食べるのではなく育てるつもりだったようです。クマはアヒルが袋の中のときから異常に興味津々。以前からトノサマガエルなどを追い回していたクマは、アヒルも追い回してしまいます。
このときクマは捕まえられて、かわいそうにお尻をさんざんに殴られました。ただ、これにより、アヒルを追ってはダメだと完全に理解。近寄りもしないようになります。このアヒルのうちの1羽が死んでしまったときも、完全に信頼されていたクマは疑われなかったといいます。
一方、アヒルの方は群れで暮らす習性のためか、相棒がいなくなって寂しがり、自らクマの後をついていくように。クマは別段喜ばないものの、アヒルは寝転ぶとくっついていっしょに眠るほどに。始終いっしょにいて、外出までついていき、しかも犬を警戒しないので、友人の家の犬に往来で殺されてしまったそうです。
次に鶏のひなをたくさん飼ったときは、クマは最初から遠くにいて近づかず。一方、ひなの方は寄ってくるので、クマは志賀直哉さんを横目で見ながら、ひなに近づかないようにわざわざ遠回りしてから外出。健気でかわいそうになります。このひなたちも慣れてクマの上に乗るようになったそうです。
こういう賢い犬だったクマですが、いくら叱っても人には吠えて、ときには噛んだとのこと。他の話と異なり、番犬は求められていなかったようです。歩いて東大寺という話があるので、住んでいたのは奈良。田舎の治安が悪いとする話もありましたが、ここでは犬とりの話もなく、東大寺近辺の治安は良かったのかもしれません。
●犬殺しと保健所…日本では野犬を積極的に「保護」している?
2022/05/14追記:弁士、漫談家、作家、俳優など多方面で活躍した徳川夢声さんの「トム公の居候」(執筆年不明)も読みやすいエッセイでした。文体・内容ともにユーモアがあり、軽快な文章です。ここでは「犬とり」ではなく「イヌコロシ」が登場。以下のようにここでは「規則」と関係するという書き方をしています。
<なにしろ近来は、規則がやかましくて、昼間は絶対に、つないでおくようにしないと、いつイヌコロシに連れて行かれるか分からない。だから、(引用者注:徳川家の飼い犬トム公のところにいつの間にか居候していた別の犬の)クロ公の如く出あるく癖は、禁物なのである>
気になったので再び「犬殺し 法律」などのキーワードで検索。ただ、直接的な話はありません。以前書いたように、辞書の「いぬころし」の意味説明は、「狂犬病を予防したり、犬の危害を防止したりするために、野犬を捕らえること」でしたので、この場合はやはり保健所的な意味っぽいのですが…。
現在の保健所の犬捕獲についても補足。
【パブリネット】保健所の捕獲対象の動物と理由では、「日本で野犬は保健所や動物保護センターによって積極的に保護され、原則処分されます」とした上で、以下のような説明。「保護」と言いつつ、原則殺処分だそうです。
・飼い犬
犬を飼う場合には登録が義務付けられており、鑑札が付いていないと罰則の対象となります。放し飼いを捕獲対象とし、飼い主に指導を行なってから返還する自治体も多いです。
・野良犬
野良犬は捕獲対象です。これは「狂犬病予防法」に基づくもので、大半が殺処分されることになります。
●飼い主の目の前で犬を奪う犬とり 役所の仕事としては変な逸話も
2022/05/22追記:「犬とり」の方もまた気になってきたのでもう少し検索。まず、以前出てきたものの、詳細がわからなかった「犬殺し」と「被差別部落民」に関わる話が出てきました。『サンカ社会の深層をさぐる』(筒井功 · 2006)では、以下のように書いている部分があるそうです。ただ、今回も詳細は不明でした。
<第五章高知県鏡川に沿って これは小学校の高学年くらいになってから耳にしだしたことだが、犬捕りは被差別民のする仕事だと話す人がよくいた。「えた」系の被差別民を指す隠語を挙げ、犬捕りはみんな、それだというのである>
私が知りたかったのは、犬とりの目的。今回検索でヒットした
野良犬を最後に見たのはいつですか?10年やそこらは見ていないような気がします。 - Quoraでは、以下のような話がありました。これによると、犬殺しだけでなく犬とりも役所の仕事みたいですね。犬殺しと基本的に同じなのかもしれません。
<62才ですが、日本(東京)では恐らく見た事が無いです。 1960年代前半までは通称『犬捕り』と呼ばれた役所のトラックがうろついて居る犬を捕まえていました。 でもそれは飼い犬だったと思います。 当時は犬だけで散歩に行かせる事が珍しくは無く・・・朝夕に放して、30分か1時間して犬が帰って来たら給餌をする。 多分ですが1964年のオリンピックを境に『犬捕り』も見なくなりました>
上記が正しければ、行政は犬とりが必要な仕事だと考えていたということ。ただ、野良犬ではなく飼い犬を捕獲するのが目的という説明ですからひどい話。また、大切な任務であれば、お金(賄賂?)をもらって捕獲した犬を返すことが多いのは変です。また、以下のようにめちゃくちゃな仕事ぶりだったようですね…。
<戦後まもなくの頃について、父も戦地から帰り、玲子は早々に柴犬や紀州犬を父に買ってもらい、飼うようになった。紀州犬については玲子が何度も何度も語る思い出話がある。
「ある日、紀州犬と引き綱をつけて散歩をしていた。途中、引き綱を手放して散歩をしていたところ、2 人組の「犬取り」がやってきてな、目の前で犬を釣る道具でさっと獲って鳴いているのに自転車にくくりつけようとしはったんやで。大急ぎで父のところに行くと、父が一緒に駆けつけてくれて、財布からお金を出し、『これで離したって』と、犬取りを説得してくれてな、やっと返してもろたんよ。家に帰って自分を鏡で見たら、恐ろしさのあまりに総毛立ってましたわ。身の毛もよだつっていいますが、本当に髪の毛は立つんやで。」>
(
(PDF)人とペット犬との共生空間に関する研究 - CORE 兵庫県立大学大学院環境人間学研究科 学位論文より)
●戦時中は毛皮不足で野犬を捕獲 さらに飼い犬も強制的に奪われる
2022/05/28追記:これまで見てきた感じ、犬の捕獲が必要だと理解できる部分はありました。ただ、やり方がかなり乱暴であったこと、目的から離れて捕獲ありきになっていたことは問題。一方で、賄賂で捕獲をやめることもあり、やはり本来の目的から離れていません?という、変なところも感じられました。
戦争にペットまで動員されたってホント?|公文書に見る戦時と戦後 -統治機構の変転-によると、戦時中はさらにいろいろな目的がごっちゃになっていたようです。農林大臣官房総務課『農林行政史』第三巻(農林協会、1958年)など、多数の参考文献をもとに、関連部をまとめると以下のような感じです。
・ペットに食糧をまわすなら、人間に寄越せと言われるようになり、1940年(昭和15年)第75回帝国議会では、北昤吉議員(きた れいきち、戦後も議員で自民党などに所属)が、軍用犬以外の犬猫を処分してしまえと主張する。
・当時、動物の毛や皮革は重要な資源として利用されていた一方で、平時でも不足していて輸入頼りだったため、戦争が始まると、さらに不足が深刻に。1941(昭和16)年になると農林省畜産課が野犬毛皮の統制を開始。野犬対策は狂犬病予防としても進められ、地方自治体が中心となって野犬の捕獲に力を入れる。
・1943(昭和18)年になると、さらに皮革が不足。そのため、野犬や野良猫だけでなく、ネズミやイタチ、はてはアザラシやオットセイなど海獣の毛皮も利用。
・1944(昭和19)年、軍用犬・警察犬や登録されている猟犬、天然記念物の指定をうけた日本犬を除いた畜犬(飼い犬)は、献納もしくは供出買上することに。ただし、多くは利用されること無く廃棄。食糧不足に加え、空襲も激しくなっており、飼い犬が野良化すること、さらには狂犬病が流行ることを恐れた当局が、人びとに半ば強制的にペットを献納させ、次々に撲殺・薬殺したため。
●昔の日本の大人は子供が動物に石をぶつけても叱らなかった?
2022/06/11追記:再び
犬 (中公文庫)から。「昔は大人が子供を叱ったのに今は叱らない」みたいなことが言われますが、評論家の長谷川如是閑(にょぜかん、1875~1969)のエッセイでは、「大人が子供を叱らない」という話が出ていました。ただし、動物愛護に限った話みたいです。
というのも、エッセイで「大人が子供を叱らない」とされていたのは、子供がカエルに石をぶつけたときの話のため。当時の日本人は、動物に大して人間と同じように扱わないで良いと思っていると批判。当然犬も人間に意地悪されているので、性質の悪い犬になってしまう…とされていました。
話がガラッと変わりますが、長谷川如是閑さんの家の犬は色々教わっていて、中でも驚いたのがはしごを上り下りすること。階段じゃなくて、はしごですよ! 特別な芸ではなく、普通に犬ははしご上りを覚えるとされていました。もちろん当時の人たちも犬がはしごを上るとは考えておらず、驚かれたようです。
このはしご上りが上手な犬たちのおかげで一騒動起きました。何も知らずにはしごをかけて屋根に上った屋根修理屋さんが、突然屋根の上に現れた2匹の犬に驚いて、悲鳴を上げながら屋根の上を逃げ回る…という事件が起きたそうです。まさかはしごを上るとは思わないですからね。驚くのも無理はないでしょう。
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