「ゴッドファーザーPARTIII」(1989年、アメリカ)
マルチンクス大司教がバチカン銀行の総裁を退任した1989年に公開されたこの映画において、ロベルト・カルヴィ暗殺事件とヨハネ・パウロ1世の教皇就任直後の突然死が、長年のバチカンとイタリア政界、マフィア3者の癒着を象徴するプロットとして使用された。
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しかしながら、カトリック教会のみならず、カトリック教国並びにキリスト教にとって一種のタブーである2つの事件の関係を堂々と扱ったことが影響したためか、同作はアカデミー賞にかろうじてノミネートはされたものの、最終的に1部門も賞を得ることは出来なかった。
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アル・パチーノの演技力 2005/3/7
ゴッドファーザーの1作目と2作目で印象的だったのは、アル・パチーノ演ずるマイケルの「眼光の鋭さ」だった。父ヴィトーの重厚感、長男ソニーの血の気の多さ、次男フレドの弱々しさと対比して、三男マイケルのカリスマ性が輝きを放っていた。
しかしこの3作目では、家族の愛、真の幸福を求めて葛藤し、もがき苦しむマイケルが描かれている。「眼光の鋭さ」はアンディ・ガルシア演ずるヴィンセントが譲り受け、猫背になったマイケルは、ダイアン・キートンが演ずる妻ケイと並ぶと、背丈の低さが際立ってしまっている。
この3作目は「ゴッドファーザー最終章」というよりも、「マイケル・コルレオーネの晩年」といった内容である。前2作と比較すると、確かに登場人物のスケールが小さいかもしれない。
しかし…アル・パチーノは凄い。マイケルの晩年の悲劇を見事に演じ切っている。糖尿病に冒され、過去に犯した罪を懺悔して泣き崩れるシーンからは、前2作では決して描かれることのなかったマイケルの「弱さ」がどっとあふれ出ている。
そしてクライマックス、最愛の娘が銃弾に倒れるシーン…魂が抜け落ちるほどに泣き叫ぶマイケルの姿には、何度観ても絶句してしまう。このシーンはほとんどサイレントになっていて、それがまたアル・パチーノの演技力を引き立てている。
最晩年の、一人孤独に死を遂げるシーンに続き、マイケルが幸せに満ちた笑顔を浮かべていたダンスシーンの回想(娘&最初の妻&ケイ)が連なり、物語は静かに幕を閉じる。このゴッドファーザー3部作のフィナーレには、後にも先にも類を見ない、映画史上最も熟成された「深み」があると思う。
ゴッド・ファーザー3部作の中では最も評価が低いと思われるこのパート3。だが老境のマイケル・コルレオ-ネ、完全合法化を目指すコルレオ-ネファミリ-の宗教も絡んでの苦闘、新世代の台頭と抗争の連鎖という重いテーマが醸し出す悲哀は個人的には納得できるものだった。「ゴッドファ-ザ-」という怪物的な作品がその1、2作目で手にした大きすぎる名誉と衝撃を経てこうした枯れ方をしていくことは、常に若さと躍動感、きちんとした起承転結を求める、例えば一部のアメリカ映画ファンには違和感を残すのかもしれない。
よく言われるようにロバ-ト・デユバルの不在、ソフィア・コッポラの起用、軽すぎる双子のギャングなど一部のキャスティングは贔屓目にも納得しにくい。またヘリコプタ-による大量殺戮シーン、後半の大司祭や眼鏡の敵対マフィア暗殺シーン、銀行家の死体のシーン等は、パート1のように練られた映像から比べると凡庸に映った。
しかしそうした苦言も織り込んでなお、僕はこの偉大なシリ-ズの3作目を評価する。
評価
マフィアとイタリア政界、バチカンの不明朗な関係と腐敗が巻き起こしたスキャンダルを、ほぼそのまま内容に取り込むことであからさまに批判した内容が災いし、アカデミー賞には7部門でノミネートされながらも結局受賞には至らなかった。批評家たちからの評価も芳しくないまま、興行的にも前作に届かぬ結果となった。
しかし、同作品を評価する者も多く、著名な映画評論家であるロジャー・イーバートは、本作品に星3つ半のスコアを与えた。これは過去にイーバートが『Part II』に与えた星3つを上回る評価である。
モデルとなった実在の人物と組織
本作品は1978年の教皇ヨハネ・パウロ1世の急死と、1982年に発生し世界を揺るがす大スキャンダルとなったロベルト・カルヴィ暗殺事件を作品内にほぼそのままに取り入れることで、現実におけるバチカンとイタリア政界の腐敗体質を批判している。その中で、下記のように2つの事件に登場した複数の実在の人物をモデルとしてあてはめている。
ランベルト枢機卿 - アルビーノ・ルチアーニ(枢機卿、その後のヨハネ・パウロ1世)
ギルディ大司教 - ポール・マルチンクス(大司教、宗教事業協会総裁)
フレデリック・カインジック - ロベルト・カルヴィ(アンブロシアーノ銀行頭取)
ドン・リーシオ・ルケージ - リーチオ・ジェッリ(イタリア社会運動幹部、ロッジP2代表)もしくはジュリオ・アンドレオッティ(元イタリア首相)
劇中において、コンクラーヴェの結果「教皇ヨハネ・パウロ1世」となり、バチカン内の腐敗体質の浄化を行おうとして毒殺された「ランベルト枢機卿」については、枢機卿時代の名前こそ違うが、教皇に選ばれた後の名前は実在のものと同じ「ヨハネ・パウロ1世」となっている。それだけではなく、劇中のコンクラーヴェにおける他の候補者の名前(「ジュゼッペ・シーリ枢機卿」と「アロイーシオ・ロシャイデル枢機卿」)とその得票数も実際のものと同じであるというように、あからさまにモデルとしてあてはめている。
なお実際にヨハネ・パウロ1世も、就任後にカルヴィやマルチンクス、ジェッリ、アンドレオッティらによるバチカンとイタリア政界、マフィアの癒着によるバチカンの腐敗体質を改めようとしたものの、就任後わずか33日に不可解な状況下で自分の居室で死去し、その後証拠隠滅が図られたことから、毒殺による暗殺が疑われている。
さらにジェッリが代表を務め、カルヴィやマルチンクスが会員となっており、カルヴィ暗殺やヨハネ・パウロ1世の「暗殺」にかかわったとされる極右秘密結社「ロッジP2」の名前が、実際に劇中で出てくるほか、劇中においてバチカンと関係の深い投資会社として登場した「インターナショナル・インモビリアーレ」社も、イタリアに実在する不動産を中心とした投資会社で、バチカン銀行が大株主であった「インモビリアーレ」社をモデルにしたとされている。
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