2019/12/18:
●元農林水産事務次官の長男殺害、懲役6年の判決は重い?軽い?
●尊属殺人は重くなるって本当?元農水次官子殺しで話題
●尊属殺人重罰はおかしい!法の下の平等に反して違憲という意見
●日本では理解できる殺人だと考えられていた?卑属殺人は逆に軽い!
●むしろ尊属殺人の方が罪を軽くするべき?最近では伝統と反対の傾向に
●元農林水産事務次官の長男殺害、懲役6年の判決は重い?軽い?
2019/12/18:先に元農林水産事務次官の長男殺害事件についての説明。元農林水産事務次官は、自宅でひきこもり状態だった長男を殺害しました。この求刑は懲役8年でしたが、東京地裁は懲役6年の実刑判決を言い渡しています。
被告は殺害の動機について公判で「同居の翌日に頭を家具などにたたきつけられ、殺されると思った」「事件当日は長男から殺すぞと言われ、怖くなって反射的に台所の包丁を取って戻り、もみ合いの中で刺した」と供述。被告が長男を支援してきたこともわかっています。
しかし、判決は、被告がほぼ無傷で体格差のある長男に30カ所以上の傷を負わせていたことから、供述の信用性は乏しいと指摘。無理心中をにおわせる「他に方法がありません」という手紙を妻に書いたり、殺人罪の量刑をネットで検索したりしていたことも、殺害を念頭に置いていた証拠と認定しました。
その上で「暴力について主治医や警察に相談できたのに、同居してわずか1週間で殺害を決意した」と批判。長年にわたり月1回ほど長男の発達障害について主治医に相談して長男に薬を届けていたなどを考慮しても執行猶予にはできないとする一方、同種事件の中で重い部類に属するとは言えないとも説明しました。
これらを考慮した上での懲役6年(求刑懲役8年)となったようです。裁判長は「強固な殺意に基づく犯行で、短絡的な面があると言わざるを得ない」と述べていました。
(
長男殺害の元農水次官に懲役6年の実刑判決 東京地裁:朝日新聞デジタル 阿部峻介 2019年12月16日15時16分より)
ネットでは、この判決が重すぎか?軽すぎか?で激論。かなり意見が分かれています。私自身も迷うところで、報道に気になる部分もあります。ただ、今回はこの論争に加わるつもりはなく、別のところが気になっての投稿です。
●尊属殺人は重くなるって本当?元農水次官子殺しで話題
気になったというのは、この件に関しての2ちゃんねるまとめサイトでの反応。彼らがどちらの見方をするか?というのに興味を感じて軽く覗いてみたところ、これまたかなり分かれた反応でした。やや「懲役6年は重すぎ」が優勢なくらいですね。いろいろな見方が出ています。
その中で一番気になったのは、まとめサイトで「尊属殺人は通常の殺人より罪が重いって勉強したので、罪が軽すぎる」といった主張があったこと。これについては「全然勉強してなくて笑える」といった反応が出ていました。いろいろと間違っているのです。
まず、尊属殺を法律上特に重く罰することは多くの国で見られており、日本でもそうだったこと自体は本当。ただし、この後見るように、それ以外の理解がだいぶおかしいのです。
<日本では、1908年制定の明治刑法により、自己または配偶者の直系尊属を殺した者について、通常の殺人罪(刑法第199条)とは別に尊属殺人罪(刑法第200条)を設けていた。通常の殺人罪では3年以上 - 無期の懲役、または死刑とされているのに対し、尊属殺人罪は無期懲役または死刑のみと、刑罰の下限が高く、より重いものになっていた>(
尊属殺 - Wikipediaより)
●尊属殺人重罰はおかしい!法の下の平等に反して違憲という意見
さて、尊属殺人に関する法律があったのは本当でした。ただ、これはかなり昔の話なんですよ。尊属殺重罰規定については法の下の平等の観点で議論があるため、現在でも残っている国はほとんどなく、日本でも廃止されました。正式に削除されたものでも1995年とかなり昔な上に、使われなくなったのはなんと1973年からです。
<この明治刑法は、大日本帝国憲法から日本国憲法に変わった後も効力を保っていたが、1973年(昭和48年)4月4日に、最高裁判所で石田和外(大法廷裁判長)により、こうした過度の加重規定は、日本国憲法下では違憲であると違憲判決の確定判決が下され(尊属殺重罰規定違憲判決)、それ以降は適用されなくなり、1995年(平成7年)の改正刑法で正式に削除された>
<(引用者注:1973年の最高裁判所の)判決の多数意見(15人中8人)は、尊属殺人罪の規定を置くことは合憲であるが、執行猶予が付けられないほどの重罰規定は法の下の平等(憲法14条1項)に違反するとした。少数意見(6人)は尊属加重罪そのものを違憲とした>
<尊属殺人罪と同様に尊属加重を定めた尊属傷害致死罪などに対しても違憲を訴える裁判が起こされたが、最高裁は「違憲とするほどの重罰規定ではない」として合憲判決を出している。
しかし、村山富市政権下の1995年に刑法が改正され(平成7年法律第91号)、条文が文語体から口語体に変更されると同時に、尊属殺人罪だけではなく尊属傷害致死罪・尊属遺棄罪・尊属逮捕監禁罪も含めたすべての尊属加重規定が削除された>
●日本では理解できる殺人だと考えられていた?卑属殺人は逆に軽い!
上記を考慮して、「今は2019年だぞ」というツッコミもまとめサイトではあったのですけど、実はこれも微妙にズレたツッコミ。一番わかってないな…と思うのは、そもそも今回の殺害事件は子殺しなので尊属殺人じゃないんですね。尊属殺人の定義を全く理解していません。
海外では、尊属殺と卑属殺を区別せず近親殺という構成要件で重く処罰する立法例もみられました。一方、日本は尊属殺と卑属殺で分けています。そして、子殺しは尊属殺人の逆の概念である卑属殺人の方なんですね。こちらは日本だと逆に罪を軽くするという考え方が適応されていました。卑属殺人を軽くするのは、日本の特徴だったみたいです。
<尊属殺(そんぞくさつ、英: parricide)は、祖父母・両親・おじ・おばなど、親等上 父母と同列以上にある血族(尊属)を殺害すること>
<近親殺のうち尊属が客体となる場合を尊属殺、卑属が客体となる場合を卑属殺という>
<尊属殺と同様、卑属に対する殺人についても加重類型が存在することもある。他方、日本では、歴史的にみて卑属殺はむしろ普通殺人よりも軽く扱われており、卑属殺が常に加重事由になるとはいえない>(ここのみ
殺人罪 - Wikipediaより)
●むしろ尊属殺人の方が罪を軽くするべき?最近では伝統と反対の傾向に
なお、歴史的には重くされていた尊属殺人ですけど、最近では逆に軽くなるケースが多いようです。(今回の元農林水産事務次官の長男殺害事件も他の殺人事件と比べれば、情状酌量が認められました。でも、これは卑属殺人のケースでしたね。21時訂正)
<具体的事案に即した場合にも、親子間の葛藤の中で生じた殺人事件には他人間の場合とは比較にならない「特別の情状」が存在することも多いとされている。このように情状において同情すべき場合に一律に加重類型として取り扱うより通常の殺人罪の規定のもとで具体的事案に即して刑の軽重を判断するほうが妥当であると考えられるようになった>
尊属殺人を重く、卑属殺人を軽くという考え方は、法の下の平等の観点で完全にアウト。加えて、個々の事情を反映させた判決ができないというのですから、尊属殺人・卑属殺人の考え方には全く良いところがありません。廃止は当然でしょう。1973年の判決で「尊属殺人罪の規定を置くことは合憲」が多数派となったこと自体が、私には信じらませんでした。
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