2018/11/11:
●深井智朗・東洋英和女学院院長に研究不正疑惑 架空の論文引用か?
●中村元賞・日本ドイツ学会奨励賞受賞など受賞歴が多い研究者
●偉い人の研究不正疑惑がきちんと調査されることは珍しい?
2019/05/11:
●東洋英和女学院院長、想像で神学者捏造する研究不正で解雇に
●想像で書いて捏造されたカール・レーフラー、ツイッターでブレイク
●神学者の捏造だけでなく盗用や別の論文での資料捏造も判明
2019/07/15:
●人文・社会系の問題は専門家のチェックがない書籍重視の伝統
●深井智朗・東洋英和女学院院長に研究不正疑惑 架空の論文引用か?
2018/11/11:深井智朗(ともあき)・東洋英和女学院院長の著書で引用された神学者の論文の存在が確認できていないといいます。架空の論文を引用するという研究不正が疑われています。
・問題の著書は、「
ヴァイマールの聖なる政治的精神――ドイツ・ナショナリズムとプロテスタンティズム
」(岩波書店、2012年刊行)。
・4ページにわたり、「カール・レーフラー」(Carl Loevler)という名の神学者が書いたとされる論文「今日の神学にとってのニーチェ」に基づいて論考が展開されているが、論文の書誌情報は示されていなかった。
・北海学園大の小柳敦史准教授が、日本基督教学会を経由し、公開質問状。書籍やネットで調べ、論文が掲載されている可能性のある雑誌も30年分閲覧したが、名前も論文も発見できなかったため、創作であると疑われる内容が含まれると指摘。
・深井院長は、「Carl Fritz L●(●はoに〈ウムラウト〉付き)ffler」であったと説明。ドイツ語の書籍(カタログ)の名を挙げ「ご指摘の文献の指示があります」と回答。
・しかし、書籍を小柳准教授が入手し、全文を検証したが、引用したとされる箇所は見つからなかった。
・深井院長は取材に対し、「不明と指摘された引用元の確認をとりましたが、このカタログではありませんでした。お詫(わ)びします」とメールでの回答。
(
東洋英和女学院院長に研究不正疑い 引用論文存在せず?:朝日新聞デジタルより)
●中村元賞・日本ドイツ学会奨励賞受賞など受賞歴が多い研究者
深井智朗 - Wikipediaによると、深井智朗院長は以下のような経歴です。
1989年 東京神学大学大学院修士課程修了
1996年 アウクスブルク大学(ドイツ語版)哲学・社会学部で哲学博士(Dr. Phil.)
1996年 聖学院大学教授
2012年 金城学院大学教授
2016年 東洋英和女学院大学人間科学部教授
また、第13回中村元賞、2009年度日本ドイツ学会奨励賞受賞、2018年に第19回読売・吉野作造賞などを受賞しているといいます。そのような方ですので、著作も多くありますね。Amazonでもいっぱい出てきます。
●偉い人の研究不正疑惑がきちんと調査されることは珍しい?
私が記事で気になったのは、「研究活動上の不正行為の疑いがある」として、学内調査委員会を設置することになったという話。学長などの大物だと、こうした研究不正疑惑がなかなか調査されなかったり、かなり無理のある形でシロ判定されたりすることがあります。まず調査を開始する…という時点でハードルが高いです。
例えば、
井上明久前学長の不正研究疑惑、東北大が捏造・改ざん告発を無視や
論文撤回、佐藤敬弘前大学長・佐藤能啓元教授の不正・不適切行為を認定は、大学トップが関わる不正疑惑の件でした。
また、トップではなくても学内での権力が影響したと疑われる例としても、
東大不正、渡邊嘉典教授のみ捏造認定は忖度か?医学系は全部シロ判定や
岡山大の森山芳則教授と榎本秀一教授、不正指摘の報復で解雇か?といった件がありました。
今回の件は、日本基督教学会を経由した公開質問状ということで、学会を巻き込んだのが良かったのかもしれません。ただ、権力者は学会内でも力を持っている場合があり、必ずしもうまくいくとは限らないでしょう。また、調査が行われても結局形だけの調査で不正なし判定…といった結果になることが多いので、その後の経過に注目していきたい案件です。
●東洋英和女学院院長、想像で神学者捏造する研究不正で解雇に
2019/05/11:学校法人・東洋英和女学院は、深井智朗・東洋英和女学院院長の問題の論文について、学内の調査委員会が捏造や盗用があったと認定、と発表。さらに学院は臨時理事会で、深井院長を懲戒解雇とすることも決定。権力者相手に文句なしの対応。素晴らしいですね。
報告書では、一連の不正行為について、「研究者としてわきまえるべき基本的な注意義務の著しい懈怠(けたい)があった」と指摘。さらに深井さんの著書や論考が「研究者のみならず一般読者にとっても非常に悪影響を及ぼしている」としていました。それだけ不正が深刻だった…というわけですが、そうであってもすんなり処分とはならないのは前述の通りです。
(
東洋英和の院長を懲戒解雇に 著書での捏造や盗用を認定:朝日新聞デジタルより)
調査委は深井さんの「立証妨害」も認定しています。深井さんの説明は揺れ動き、そのたびに確認に追われためです。例えば、雑誌「図書」に掲載された論考は、神学者の家の借用書や領収書とされる資料に基づくとされていました。ところが、深井さんが提出した8枚の資料を調べると、別の神学者が書いた議事録と判明。時間の浪費となりました。
(
架空の神学者「でっち上げ」 二転三転した前院長の説明:朝日新聞デジタルより)
●想像で書いて捏造されたカール・レーフラー、ツイッターでブレイク
あと、当初は全然話題にならなかったと思うのですけど、深井院長は一部については「想像で書いた」などと話す一方、意図的な不正は認めていないという報道があり、ツイッターで「カール・レーフラー」か大人気になっていました。
●神学者の捏造だけでなく盗用や別の論文での資料捏造も判明
この「想像で書いた」という供述が広まったのは、NHKの報道のせいだった模様。"論文不正で東洋英和女学院長解雇"(2019年05月10日 17時20分)では、"院長は一部については「想像で書いた」などと話す一方、意図的な不正は認めていないということです"とありました。
https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20190510/0029520.html
この記事では、他の重要な記述も。先に軽く出てきた盗用というのは、問題の『ヴァイマールの聖なる政治的精神ードイツ・ナショナリズムとプロテスタンティズム』で、別の研究者の論文とほぼ同じ内容の記述が10か所で認められたことを指していたようです。
さらに、院長が4年前に雑誌『図書』に発表した「エルンスト・トレルチの家計簿」についても、院長が根拠として提出した資料は全く関係のないもので、ねつ造した資料によって書かれたと認定されてました。
いつも言っているように捏造などの研究不正を行っている人は、一つではなく多数やっていることが多いです。この時点ですでに複数の不正となってきていますけど、今後さらに増えていくかもしれません。
●人文・社会系の問題は専門家のチェックがない書籍重視の伝統
2019/07/15:研究不正を防ぐ手段としては、同じ専攻の研究者による発表前の査読があります。わかりやすく言うと、専門家によるチェックです。この査読を通った論文であっても不正などが多いというのは、現代科学の問題。ただし、ないよりはあった方が絶対良く、査読を経ていない論文の方が良い…なんてことはありません。
ニセ科学なんかでは、そもそも研究論文を出していないとか、賛同者である仲間内でしか発表していないとか、こうしたチェックが入らないように工夫していることがあります。問題が多いマスコミ記事でも、素人のネット投稿よりマシだと言えるのは、多少チェックが入っているためです。
深井智朗さんの場合で特徴的だったのは、このチェックの有無が関連する人文・社会系独特の慣行というものもあったとのこと。
研究不正対策、機能するには 東洋英和・前院長、論考捏造:朝日新聞デジタル(2019年5月15日05時00分)によると、人文・社会系は単行本も主要な発表手段として重視されているんだそうな。当然これは、査読を経ずに出せてしまうことが多いのです。
一応、書籍というのも編集者が関わっているため、ネットの投稿よりはマシ。出版前に素人が少し見ています。ただ、所詮は素人ですし、売れる本を出すことを優先してしまうでしょう。
芸能人が健康やいじめを語ると人が死ぬ…山口もえやダルビッシュが炎上で出てきたように、世の中で売れている健康本は怪しいものしかない…といった状況になっています。
実はこのときにも、書籍はほとんど著者と編者だけで作られており、他の専門家のチェックが入らないことがひどい健康本だらけといった状況に繋がっている、と指摘されていました。「学会の守旧派が既得権益を守るために画期的な研究成果を抹殺しようとしている」というのはニセ科学信奉者の決まり文句ですが、他の研究者のチェックというのは大切なのです。
【本文中でリンクした投稿】
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芸能人が健康やいじめを語ると人が死ぬ…山口もえやダルビッシュが炎上 ■
東大不正、渡邊嘉典教授のみ捏造認定は忖度か?医学系は全部シロ判定 ■
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研究不正疑惑についての投稿まとめ
Appendix
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