以前から「何で振り込め詐欺に引っかかるんだろうね。自分は絶対詐欺に合わないわ」って人ほど危ないという話は聞いていました。これが本当かどうかはわからなかったのですが、警察が公開した詐欺に合う人の特徴にもこれが含まれていました。
2022/07/25追記:
●自信過剰が問題?若者より高齢者の方が「騙されない」と自信満々 【NEW】
●金融に自信あります!と言う人ほど完全に間違った理解が多い 【NEW】
●自信過剰が問題?若者より高齢者の方が「騙されない」と自信満々
2022/07/25追記:詐欺被害に合う人の特徴を探していて、
高齢者はなぜ詐欺被害者になりやすいのか:「自信過剰」という心理的バイアス | 日経リサーチ(2019.05.28)というコラムを見つけました。慶應義塾大学経済研究所ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センターの荒木宏子さんによるコラムです。
<オレオレ詐欺などの被害が高齢女性に集中しているのは、在宅時間が長く独居割合も高いため、自ら電話等の応対をする頻度が高いといった生活パターンもその要因の1つでしょう。(中略)ただし、高齢者の詐欺に対する脆弱性には、上記のような生活スタイル以外にも、加齢に関わる特徴的な心理や行動が関係していることが、行動経済学、心理学など様々な分野の研究から明らかになってきています。今回は、そのうちの1つである「自信過剰バイアス」に着目してみます>
驚いたのが、2016年に内閣府の行った「特殊詐欺に関する世論調査」によれば、「自分は(特殊詐欺の)被害にあわないと思う」と答えた人の割合は年齢を重ねるごとに高くなりました。実際の被害者は高齢者ほど多いので、被害の実態とは全く逆。自信と騙されやすさが相関しているようです。
また、自分は被害にあわないと思う理由を聞いたところ、回答者の約半数が「だまされない自信がある」と回答しており、まさに自信満々。この傾向は男性(51.7%)が女性(41.4%)より強く、30代:40.5%、60代:50.2%、70歳以上:50.6%といった感じで、高齢になるほど強まることも明らかになったそうです。
<同様に、警視庁が2012年に振り込め詐欺の高齢被害者に行った調査においても、回答した被害者の92%は「自分は大丈夫だと思った」「考えたこともなかった」と回答しています。 行動経済学では、この「自分はだまされない」といった、自分自身の能力や性格に対する過度な楽観を「自信過剰(バイアス)」と呼びます>
●金融に自信あります!と言う人ほど完全に間違った理解が多い
高齢者が自身の金融行動や判断に自信満々である…というのは、日経リサーチが60歳以上の高齢者を対象に金融意識や投資行動などについて聴取したシニア調査でもおもしろいデータがあります。自信がある人は正しい知識が多い一方で、完全に間違った思い込みも多い…という両面の傾向が見えているんだそうです。
<「GRAND100®」調査には、分散投資、インフレーション、複利計算といった金融リテラシーを測定する4つの質問があり、「はい」「いいえ」「わからない」の選択肢から回答を選ぶようになっています。投資判断に自信があると回答した人の4問の平均正答率は71.6%で、それ以外の人の41.0%を大きく上回っており、多くの人にとって金融知識は投資判断への自信の根拠となっている様子が伺えます。
その一方で、不正解であった人の選択肢の選び方に注目すると、興味深い事実が浮かび上がってきます。「わからない」ではなく誤った選択肢を選んで不正解になった人はすべて、自分の投資判断に自信があると回答したグループでした。
投資判断に自信がある人の内、およそ1/3が誤った選択を行っていることからも、自信過剰は、自己の能力に対するいわば健全な疑いの余地を排除してしまう危険性をはらんでいると言えます。また、誤った選択肢を選んで不正解になる人の割合は、年齢を重ねるほど高くなることも分かりました>
うちで繰り返しやっている投資への注意をうながす投稿の関係で言うと、そもそも「知識がある」と「投資で稼ぐことができる」はほとんど無関係ということも強調しておきましょう。金融関係の教授が投資で稼いでいる人たちばかり…ってことはないですよね。投資会社の人でも損している人が多いとも言われています。
●絶対騙されないと豪語していた父、まんまと15万円の健康食品を買わされる
2014/5/5:自分は騙されないと思っている人が詐欺に合うという話。証拠としては弱いですが、経験談としてはあります。以下の
ヤフー知恵袋に載っていた話は詐欺と言えるかどうかわからない例ですけど、それに「騙されるわけない」と思っていた人が騙されてしまった良い例でした。
<父が興味本位で(中略、悪徳商法疑惑のある企業のサービス)の見学?に行ってきました。
おれはぜーーーーったいにひっかからないと言っていた父・・・かってきましたよ。15万円の健康食品買ってきました>
・ベストアンサーに選ばれた回答
<一般的に「自分は絶対大丈夫」と思ってる人ほど危ないんです。そういう人ほど「いいお客さん」になるそうです。「自分はだまされやすい」と思っている人のほうが用心深くて、引っかかりにくいです。
業者はみんな明るくてハキハキしていますし、トークは流暢で笑いもあり、フランクな雰囲気で「怪しい商売」というイメージを薄めます。
最初は全員にタダで商品を配り、次には雑貨などを定価の9割引きとかで販売します。この時に「早く手を上げた人10人だけ」とか言うと、みんな必死で手を上げます。他の人には負けたくない、あの商品が欲しい!という心理状態に持っていくんです。その後、高額商品を登場させます。
または「通常は30万ですが今日は半額です」と言われると、15万が高いかどうかより「半額」という言葉に気を取られて、「半額=安い」という判断をしてしまう場合もあります>
●警察が発表した詐欺被害者の特徴 自分は騙されないと言う人など
私は実際に「大丈夫」と言う人ほど引っかかるのだろうか?というのは半信半疑でした。しかし、警察が公開した詐欺被害者の特徴にも、そういった話がありました。これは千葉県警が、振り込め詐欺被害防止のため、実際に被害にあった県内の高齢者らの体験を記録した冊子「振り込め詐欺被害者の声」(A5判、40ページ)に載っていたものです。
<被害者に共通する特徴>
〈1〉真面目で、他人を信用しやすい
〈2〉
「私はだまされない」という自信を持っている〈3〉家族に相談せず、一人で判断している
<「お母さんに電話してない」…崩れ落ちた被害者>(読売新聞 2014年3月23日)より
www.yomiuri.co.jp/national/news/20140323-OYT1T00310.htm
「他人を信用しやすい」と「私はだまされない」は何となく相反しそうなんですけどね。以上のように、警察の被害者に共通する特徴では、セットで出ていました。両方の性質がある…という意味ではなく、1つでも当てはまれば騙されやすい…ということかもしれません。
●家族の助言を聞かず突っ走ってしまう例
なお、上記を紹介していた記事タイトル<「お母さんに電話してない」…崩れ落ちた被害者>のもとになった事例の場合は、以下のように「家族に相談せず、一人で判断」に近いところがあり、思い込みが激しかったという例でした。
電話で「昨日からせきが止まらない、肺炎かも。携帯をトイレに落として、別のをレンタルした」などと言われた女性は、男を長男と信じ込んだ。
(中略)長男の弁護士の秘書を名乗る男に手渡し、長男に連絡を取るまで被害に気づかなかった。
女性は夫の「(息子の)声がおかしい」という指摘に「何言ってるのよ! 肺炎で声が変になっているのに、そんなこともわからないの?」と相手にせず、詐欺を疑う銀行員の制止さえも「お金を下ろすのを妨害する敵にしか見えなかった」と振り返った。
●政府も「私は大丈夫!が危ない」と広報
私は面倒なので見ませんでしたが、政府インターネットテレビでも以下のようなものがありました(例によって政府の無駄遣い事業くさいのでぜひ活用してください)。やはり大丈夫と思っている人が危ないというのは、ある程度定評があるようです。
私は大丈夫!が危ない 振り込め詐欺 知っておきたい心がけ - 政府インターネットテレビ
オレオレ詐欺や架空請求詐欺など「振り込め詐欺」をはじめとする特殊詐欺の数々。「私は大丈夫」と思っていても騙されてしまうのはなぜか!?今回は、犯人の実際の音声を交えた最新の手口や、ご家族に伝えて欲しい普段の心がけなどについて、警察庁担当者が詳しく解説します。
http://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg8317.html?c=20
●「チョイスブラインドネス」という効果
もう一つ、毛色が違う感じの記事も追加。
新手詐欺「私は大丈夫」という人なぜ騙される?疑ってるのに陥る『チョイスブラインドネス』 : J-CASTテレビウォッチ
東京大学の渡辺克己准教授は「自分は詐欺に引っかからない、私に限っては騙されないという思い込みが、最大の落し穴なんです」と警告する。
http://www.j-cast.com/tv/2014/01/29195373.html
「自分は騙されないぞと言う人」は「格好の餌食」とまで言っていました。"これほど詐欺被害が報道され、警察も注意を呼び掛けているのに"、なぜ騙されるのでしょう?
「遠方にいるので困った。カバンの現金は今日中に払わないと大変な事になる」。母は「銀行から下ろしてこようか」と言ってしまった。こうなると怪しい話でもまったく疑いを待たなくなってしまう。受け身でなく、自分で「下ろす」という選択をしたことで、以降は判断は正しかったんだと思い込みたい心理が働くのだという。
日本総合研究所の武山尚道上席研究委員が説明する。「切迫した状況を犯人は演出します。相手を冷静にさせない、高齢者は限られた時間の中で判断する『即断能力』が低下しています。加えて、被害者自身に判断させると、その判断に盲目的になって後戻りが効かなくなります。これを『チョイスブラインドネス』といいます」
対策はあるのか。相手の話をゆっくり聞いて、間を置くというのだが、詐欺師はこっちを慌てさせたりすることにかけてはプロだ。この程度のアドバイスでは、やっぱり被害はなくならないだろう。
私は以前書いた過去の自分の判断の間違いをなかなか認められず、正当化しやすいバイアスのことを思い出しました。いずれにしろ、「被害者自身に判断させる」ってのはポイントですね。最初の話のような高額商品購入パターンでも、商品購入した本人は決して損をしたと認めないということが多く、自分の判断を正当化するバイアスが働いているように見えます。
先の千葉県警は「被害者にとってはお金だけでなく、精神的な被害も大きい」としていました。千葉県警の冊子の例がそうであるように、振り込め詐欺は親心を利用したものが多く、特にショックが大きいでしょう。
腹立たしいことですが、詐欺は巧妙になる一方であり、なかなか減らせないのかもしれません。
●絶対に引っかからないと思っている人は「正常性バイアス」で逆効果に
2017/10/05:自分は騙されないと思う人が騙されちゃう理由について、バイアスで説明している記事も見つけました。
正常性バイアスと多数派同調バイアスの危険な合わせ技と具体例でやった「正常性バイアス」と「確証バイアス」による説明です。
その記事というのは、
なぜ詐欺に遭った人は皆「私は大丈夫だと思ってた」と言うのか? まぐまぐニュース! / 2017年10月4日 0時43分というもの。ただ、「皆」は言い過ぎじゃないですかね。ちょっと良くないタイトルです。
それは良いとして、作者のマンション管理士の廣田信子さんは、振り込め詐欺などの特殊詐欺被害者が減らない理由について、「社会心理学でいう「正常性バイアス」が大きく絡んでいるといいます」と説明していました。
この「正常性バイアス」とは、自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりしてしまう人の特性。例示されるのは地震の例が多く、ここでもそうでした。「地震が発生しても、まだ大丈夫だろうとすぐに逃げない」などが、正常性バイアスだと説明されています。
同様に、自分なら詐欺に引っかからないと思っている人は、正常性バイアスによって、ちょっとした違和感があっても、それを無視してしまうというわけです。
●ほぼ第一印象だけで決まる評価と「確証バイアス」
もう一つの「確証バイアス」とは、仮説や信念を検証する際にそれを支持する情報ばかりを集め、反証する情報を無視または集めようとしない傾向のことを言います。
いったん、いい人だと思って信頼してしまうと、その後、いい人だと思うところばかりを拾い、「あれおかしい~」と違和感を持つ部分をあえて見ないようにしてしまうとのこと。人を好きになると、いいところだけを見るようになり、悪いところは見えなくなるというのもそうだと言います。
こちらは特殊詐欺について具体的に適応して説明されていなかったもののの、おそらく、最初に「本人」だと思ってしまうと、以降、違和感を無意識に無視し、本人に違いないと思える情報だけを見てしまうといった感じでしょう。
さらに、過去に何度か紹介している、人はほんの一瞬と言って良い第一印象だけで相手の評価を決めてしまうという話も付け加えておきます。例えば、
普通の面接は無意味だった 就職後の業績がわかるのは構造化面接では、面接官が最初の10秒で得た第一印象を確認するためだけに、残りの時間を使っているという話をやっていました。
こうやって見ていくと、むしろ「特殊詐欺を防ぐことは難しくて当然」といった感じですね。
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