書店ではよく倒産が多いと騒がれています。ただ、きつい言い方をしてしまうと、そこまで必要とされていないから潰れるわけで、潰れるのは当然だと言えるでしょう。これは逆に言えば、お客さんに必要とされるにはどうすれば考える必要があるということ。酒商山田のとりくみを読んでいて、酒屋や書店が生き残る方法がたくさん書かれていると感じました。
2014/5/8:
●取扱ジャンルをむしろ少なくして逆に成功した酒商山田
●大口顧客ではなく小さな取引先を増やすという不思議な戦略
●小口の取引ばかりだと手間…一方で予想外のメリットがあった!
●酒屋・本屋が生き残るには?必要とされる目利きになった酒商山田
●宣伝広告活動や売り込み営業もしない…ではどうやって取引先を増やのか?
●取扱ジャンルをむしろ少なくして逆に成功した酒商山田
2014/5/8:酒商山田は、地域住民や企業と取り引きしていた家族経営の零細企業でした。しかし、1989年から経営改革に取り組みはじめて、今では全国160の酒蔵と取引し、日本酒130銘柄、焼酎276銘柄、アイテム数にして4800を取り扱うようになりました。
地元の個人客だけでなく、全国の飲食店など1000を超える納入先と取り引き。1988年度の売上は1億6000万円弱だったのが、2011年度は6億円になる見込みです。
当時の多くのお店は拡大や効率を追求。もし酒商山田も拡大や効率を追求していくと、他の多くの酒屋がやっているように、アルコール以外の商品も広く扱う、コンビニかディスカウントショップになったはずです。
しかし、酒屋に商品アイテムをいろいろ増やして売っていくという発想ではなく、逆に取り扱う商品を絞っていく方向に。前述のように銘柄数・アイテム数が多いため、一見多様化させたように見えますが、実際のアプローチは逆。よく読むとわかるように、銘柄は多くても日本酒と焼酎しか取り扱っておらず、むしろ絞り込んでいたのです。
多くの酒屋では当時も今も売上の主力はビールだといいますから、あえてそれとは逆の日本酒と焼酎等の販売に特化したというのは、かなり大胆かもしれません。
(
売れない酒を全国に売る:日経ビジネスオンライン 内藤 耕 2011年10月11日(火)より)
●大口顧客ではなく小さな取引先を増やすという不思議な戦略
また、「全国160の酒蔵」「全国の飲食店など1000を超える納入先」とあるように、地域特化型でないのも大きな特徴です。従来の酒屋は、小商圏の中で地域密着型で営業していましたので、かなり特異な形態だと言えます。
あと、驚いたのが、多くの企業は上位2割の取引先に8割の売上を頼るのに、酒商山田は特定の取引先に多く売ることを目指すことなく、小さな取引先を増やしてきたということ。特定の取引先の売上が全体の3割を超えようとしていたのをわざわざ少しずつ引き下げて、"他の取引先を開拓するようにしていった"とのことですから、完全に意図したものです。
特定の企業との取引に経営を左右されないってのは魅力だとは思います。記事でも出てきましたが、いわゆるロングテールの商売です。ネット関連の事業であれば1つ1つの取引にかかるコストを下げていくことができるため、小口取引で食っていくこのやり方は可能でしょう。
でも、酒商山田はそういったコスト削減をしているわけではないと思われます。先ほどの全国相手というのと考えあわせても、効率はたいへん悪いように見えますね。たいへん不思議でした。
●小口の取引ばかりだと手間…一方で予想外のメリットがあった!
ここらへんについてはまず「小さな取引を数多くした方が経営は安定するから」という理由が出てきました。私の先ほど書いた「特定の企業との取引に経営を左右されない」でしょうか?
次にあったのは「払い込まないと次を送らないことから、貸し倒れもほぼない」という点。これは思いつきませんでしたね。「1回の取引は約1万5000円がほとんど」ということでやはり小口ですが、それでもいいんですね。
何か個人相手のネット販売のような規模です。ネット販売と同じだと考えれば、あまり奇妙なこともないでしょうか。また、普通の個人相手の販売とは違い、相手は継続的に購入する可能性が極めて高くいので、そういった面でも相性が良いのかもしれません。
ただ、顧客一人一人にたいへん手間がかかっている感じで、その点はネット販売と大きく異なりそうです。例えば、飲食店の要望を最大限聞き、どういった料理を出しているのか、客単価がどれくらいなのか、どういうような商売をしたいのかを聞くようにしています。
そして、多くの飲食店は価格競争を意識し、仕入れ価格を優先してしまうことから、料理に合った酒をリーズナブルな価格で提供できるよう、予算の中で最もいいと思う酒を薦めるように選択。そして、なぜその商品がいいのかという理由まで説明するそうです。
●酒屋・本屋が生き残るには?必要とされる目利きになった酒商山田
他にも、慣れていない飲食店の店主のために、ある程度のメニューまで提案。さらに、その飲食店の営業が軌道に乗るために、イベントの企画も手伝うというのですごいです。手間かけすぎですね。
でも、「目利き」や「アドバイス」を売りにするというのは、中小企業・零細企業の生き残り戦略としては一つ有望だと思います。私は以前やった「本屋さんがこの先どうするか?」といったものを意識しながら、今回の話を書き始めました。
本屋に関しては、以前、
ベストセラーが売れない恵文社一乗寺店が、本屋生き残りのヒントにというのを書いています。恵文社一乗寺店も目利きになっている部分があり、共通点のある話です。本屋さんじゃないところだと、以下も中小企業・零細企業の生き残り戦略のようなコンセプトでした。
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縮小市場を生き残るための多角化戦略 成功事業にしがみつかない ■
藤田道具の営業をしない経営 売れる高額商品は他人の金で買う商品 酒商山田は無名の銘柄しか扱えなかったという事情があるようですが、逆に無名の銘柄を育てて有名にすることで得たメリットもあります。有名になってからでは、"なかなか商品を入手することは難しい"というものです。
ここで思いましたが、主力のビールを捨てたというのはたいへん重要な選択でしたね。私はお酒に詳しくないので間違っているかもしれませんが、ビールだと銘柄数が少なく差別化が難しいのではないでしょうか? 零細企業が作る多種多様な商品、雑多な商品があったからこそ、差別化が可能であり、目利きの必要性が出てきます。
●宣伝広告活動や売り込み営業もしない…ではどうやって取引先を増やのか?
なお、取引先を増やすことに重点を置きながら、"宣伝広告活動や売り込み営業もしない"というのも驚きでした。"顧客として話ができるまでに時間がかかるから"というのが理由です。そんなことをするより取引先を繁盛店にして、口コミで広げる方が良いとのこと。実績があるのですから、それでうまくいくものなんでしょうね。
「1回の取引は約1万5000円がほとんど」とありましたが、こういう丁寧な商売をしていると末永く付き合いができて、お得意さんになりやすそうな気がします。
とはいえ、これだけ手間暇かけた上に小口注文が多いのに、本当にやっていけるのだろうか?など、驚くことばかりある話でした。
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