JR東海グループに「日本車輌製造」というところがあり、新幹線や超電導リニアなど、多くの鉄道車両を作っているそうです。ただ、アメリカで鉄道車両の製造を大量受注したのは良いものの、安全基準を満たすものが作れなくて、えらいことになっているんだそうな。この話以外に、他の鉄道関係の話も入れて、日本の鉄道製造総まとめになっています。
冒頭にまとめ
2021/12/15追記:
●逆じゃない?日立金属社長が「安全が大事」と品質不正の隠蔽を指示
2022/06/15追記:
●川崎重工の製造ミスで新幹線台車亀裂 新幹線初の重大インシデント 【NEW】
●逆じゃない?日立金属社長が「安全が大事」と品質不正の隠蔽を指示
2021/12/15追記:問題を起こした日立製作所の英高速鉄道とは無関係でしょうが、「日立」と名前がつくところの安全関連不正の話を紹介。日本企業の不正はよくあるとはいえ、社長自ら品質不正の隠蔽を決断・指示。多くの拠点が広範な製品でさまざまな品質不正を行ったということで、他の例よりひどいです。
社長が隠蔽を指示、30年超えて品質不正に染まっていた日立金属 | 日経クロステック(xTECH)( 近岡 裕 日経クロステック 2021.11.02)では、「品質不正のデパート」とも書いていました。記事によると、日立金属は、2020年に磁石製品などで1980年代以降、長年にわたって品質不正行為を続けてきたことが判明。しかし、これが全部ではなく、隠蔽されていたものがあったという話です。
<同社は2021年10月26日、新たに品質不正を発表した。航空機・エネルギー分野の特殊鋼製品などで品質データを偽装するなどの不正が発覚。顧客仕様を満たさない製品(以下、不適合品)を出荷していた。不適合品を納めた顧客は105社で、不適合品の種類(鋼種)は約380に及ぶ。30年にもわたって不正を行っていたことが明らかになった>
<当時(引用者注:2020年の品質不正判明時)の日立金属代表執行役社長が、航空機・エネルギー分野における特殊鋼製品の品質不正については報告の対象から外すように指示。技術開発本部長と安来工場長、さらに当時の金属材料事業本部長に対し、リストの草案からの削除を要請した>
航空機・エネルギー分野の特殊鋼製品の品質不正について隠蔽にこだわった理由について、報告書は明らかにしていません。ただ、日立金属こだわりの分野であり、なおかつ安全性が極めて重視されるため、イメージ悪化のために隠蔽したと推測できる記述があります。「安全が大事な分野だから品質不正を隠蔽」って、ひどすぎる理屈なんですけど…。
●川崎重工の製造ミスで新幹線台車亀裂 新幹線初の重大インシデント
2022/06/15追記:アメリカの川崎重工業製地下鉄が不具合だらけ…という話はここでもやりました。ただ、新幹線亀裂の話は書いていなかったので、その部分だけ別のところで書いた話をこちらにも追記。地下鉄不具合の話の後、「川重の車両事故は今回が初めてではない」として、新幹線の話をしている記事があったのです。
それは、a href="https://biz-journal.jp/2021/11/post_265654.html" target="_blank">新幹線の台車に亀裂も…川崎重工の危機、地下鉄車両で不具合多発、米当局が調査開始(2021.11.26 ビジネスジャーナル)という記事。2017年12月11日、東海道・山陽新幹線を走行中だった博多発東京行きの「のぞみ34号」(N700系)の台車の側面に14センチメートルの亀裂が生じた問題を取り上げていました。
<原因はあろうことか、川重の製造ミスだった。その後の調査で、台車製造時に溶接部分を決められた仕様よりも薄く削りすぎ、溶接後の処置も不十分だった不正が判明した。「のぞみ」は途中の名古屋駅で停車したまま、それ以降の運行を中止した。国土交通省は新幹線初の重大インシデント(重大な結果につながりかねない出来事)に認定>
なお、車両事業は新幹線台車の不具合や米国向け車両の納期遅れなどで、2018年度までに2期連続で100億円超の損失を計上しているとのことで、不振でもあるようです。2020年11月、他部門とのシナジー効果が薄い二輪車と車両事業を分社する…ということにもなっています。日本を代表する名門だったんですけどね…。
●新幹線やリニア新幹線を作っているJR東海の子会社「日本車輌製造」
2017/7/18:知名度が高いとは言えないでしょうが、日本車輌製造というのは、東証一部上場企業。JR東海の子会社であり、JR東海の鉄道車両を多く作っています。
日本車輌製造 - Wikipedia(最終更新 2017年7月14日 (金) 17:41)では、JR東海の一部車両を除くほぼ全形式や超電導リニア・新幹線を作っているとしていました。
この新幹線については、JR東日本向けはE2系を最後に製造していないものの、JR西日本向けには作っています。ただ、在来線の場合、JR西日本向けでもキハ187系を最後に製造していないとのこと。同様に他のJR向けの車両も作っていません。JR東海専用っぽい感じです。(ただし、私鉄向けなら結構作っています)
このようにほぼJR東海専用であるといった説明の後だと非常に意外なのですから、最初からJR東海の子会社だったわけではないそうです。"2008年8月東海旅客鉄道(JR東海)と業務資本提携契約を締結。JR東海がTOBを実施し、株式の50.1%を取得。JR東海の連結子会社となった"と説明されていました。
●JR東海の子会社・日本車輌製造、米の鉄道車両の安全試験で不合格に
で、この日本車輌製造ですが、アメリカでピンチになっているとのこと。
あの新幹線メーカーが米国市場で陥った窮地 期待の準高速2階建て試作車が「試験不合格」 東洋経済オンライン / 2017年3月6日 8時0分という記事が出ていました。
2012年にカリフォルニア、イリノイ、ミシガン、ミズーリの米国4州は共同で準高速鉄道用2階建て客車130両を2016年夏から2018年夏にかけて導入することを決めていました。この最終入札には5社が参加。そして、見事に日本車両が受注しました。
当局が客車130両の価格を5億ドル強と想定していたところ、日本車両はそれを大幅に下回る3.5億ドルで入札したというのが大きかったようです。非常に安い金額のため、受注することができました。ただ、あまりにも安すぎる金額の場合、何か問題があることも多いですからね。この時点で嫌な予感がする話でした。
ただし、安全軽視ではなく、利益度外視で仕事を取りに行った可能性もありました。アメリカは、2008年の旅客鉄道投資および改善法に基づき、製造コスト削減を目的とした鉄道車両の仕様標準化が求められていたんですね。今回製造する車両が今後スタンダードとなれば、将来の同タイプの車両受注において価格面でがぜん優位に立てます。
将来を見込んで初回は利益度外視で取りに行ったのかもしれません。こう聞かされると、ビジネス的には一応アリの判断のようにも見えますね。安全軽視で安かろう悪かろうにしたのではなく、きちんとした車両を作るけど、将来分を見越して安く設定しただけ…という可能性は受注の時点では考えられたのです。
ところが、日本車輌製造は根本的なところでつまずきました。それは、"2015年に製造したプロトタイプ車両が、連邦政府の定めた衝突時の衝撃吸収基準をクリアできなかった"というもの。日本の製造企業は無駄に価格が高いものの、安全性は良いというイメージでしたが、その安全性で不合格となってしまったという想定外の展開に。これは私も予想外でした。
●求められる品質のものが作れない!日本の製造業はもうボロボロ…
安すぎる受注額とテストの不合格は、直接的には関係ないのかもしれません。ただし、どうもかなり日本車輌製造が甘く見ていたというのは間違いなさそうなので、安全性が低い車両だから安く作れるつもりだった…という可能性はありそう。このような事態になった理由として考えられるのが、以下二つの問題だというのです。
・今回の車両は最高時速200キロメートル程度。これまで日本車両が米国向けに製造してきた車両の最高速度は時速126キロメートル。速度の違いが衝突時の強度計算に影響を与えた可能性。
・今回の車両は、米国製部品の100%使用、車両の仕様の標準化、メンテナンスをしやすい車両にするなどの諸条件がついている。そのため過去のノウハウが役に立たなかった可能性。
理由はともかく、損失がひどいのは確かで、"設計見直しによる材料調達の変更にかかわる費用などとして2015年度にも54億円の損失引当金を計上"していました。ところが、これでは全然足らずに、「車両構造の基本となる構体構造からの見直しが必要」(日本車両)と判明。2016年10月には「新たに104億円程度の損失発生が今後予想される」と発表し、38億円の追加引き当てを行いました。
しかし、ここまでやっても、まだダメな可能性が出てきたのです。第3四半期の決算短信では、以前あった「設計の見直し等に的確に対応」が消えて、「今後の案件遂行の方向性について現在協議を行っております」と記載。つまり、続行不可能というレベルになってきているようです。めちゃくちゃですね。
この場合、"2017年9月までに車両が納入されないと米国4州は補助金を連邦政府に返却する必要がある"と現地で報道されています。怪しいほど安い日本車輌製造を選んだという、安物買いの銭失い的なところはありますが、米国4州は被害者なので請求して当然という話。日本車輌製造にとっては、増え続けていた損失額がさらに膨らむおそれがあるということです。
こういう風に見込みが甘すぎて「求められている品質のものが作れない」というのは、三菱重工の豪華客船やMRJ、東芝のアメリカの原発などとそっくり。実際には高い技術やノウハウがないにも関わらず、「うちならできる」と慢心して失敗していました。こうやって見ると、最近、日本の製造業はボロボロですね…。
●台湾で日本車輌製造の列車が脱線事故、株を大きく下げる
2018/10/23:台湾北東部で起きた特急列車の脱線事故が起きました。この車両を製造したのが日本車両製造です。今回の場合、日本車輌製造のせいではない可能性も感じるのですけど、日本車輌製造の株価は2018年10月22日、前週末比7・3%安の2601円と今年の最安値を更新しました。
(台湾の脱線車両製造、日本車両の株価が最安値 読売新聞 / 2018年10月22日 18時55分より)
https://news.infoseek.co.jp/article/20181022_yol_oyt1t50098/
朝日新聞によると、200人以上が死傷する惨事に。台湾鉄道は、運転士から運行中に、ブレーキに連動する装置の「気圧が足りない」という報告を複数回受けていたことを明らかにしており、人災の疑いがあります。かなりいい加減ですね。また、現地報道によると、地元の検察当局は走行速度の超過が事故原因になったとする初期段階の見解を明らかにしたとのこと。
(
脱線、台湾検察「速度超過が原因」 運転士は異常を報告:朝日新聞デジタルより)
やはり今回の事故は台湾のいい加減さが問題であり、日本の問題ではないような感じ。株価は下げていますけど、比喩的な意味での「株を下げる」話ではなさそうです。ただ、前述のアメリカの件はマジで日本の問題ですし、その後書いた日本の鉄道関連だと、<日本の技術を誇ってた日立製作所の英高速鉄道、初日からトラブルを連発>というのもありました。日本の製造業は引き続きイマイチです。
●設計ミスで仕様書の通り製造していなかった…日本車両製造が認める
2018/11/20:上記のように書いていたのがどうやら日本にも問題があった模様。脱線事故での「プユマ号」をつくった日本車両製造(名古屋市)は、車両の安全装置「自動列車防護装置」に設計ミスがあったと発表。本来は運転士が装置を切ると、その情報が運行を管理する指令員に自動で伝わるはずだったのに、設計ミスが原因で伝わらないようになっていたとのこと。
ただ、全面的に日本車両製造が悪いとまでは言えないのが、台湾側の問題も大きいため。まず、運転士は台湾検察の調べに、事故が起きる約30分前に安全装置を自分で切ったことを認めているということ。また、無線記録などから、指令員は運転士とのやり取りを通して事故の約3分前には装置が切れていたことを知っていたとみられています。
(
台湾脱線事故の車両に設計ミス 製造元の日本企業が発表:朝日新聞デジタル 2018年11月1日19時37分より)
とはいえ、安全問題でいつも言っているように、人が間違った行動を取ることを想定するのが安全設計なんですよね。「人が完璧に動けば問題ない」という理解は数十年前のレベルです。他社でできていることができていなかったとすれば、日本車両製造のレベルの低さも示すことにもなるでしょう。
また、"設計担当者のミスで配線の接続が仕様書と一部異なり、この機能が働かなかった"とも記事がありました。つまり、仕様書の通りに製造できていなかった、ということでもあるようです。このところ日本企業では、仕様書の基準を満たしていない製品を大量に出荷し続けていたという事例が数多く判明しており、この方向性でも日本企業の悪い話題を思い起こさせるものでした。
●日本企業製造の地下鉄がアメリカで脱線事故 事故前にも不具合
2021/10/25追記:JR東海の子会社「日本車輌製造」の話じゃありませんが、日本の鉄道の話総まとめということで、アメリカの地下鉄事故の話をこちらに追記。
ワシントン地下鉄脱線車両 川重製、事故前も不具合 2021/10/20付 日本経済新聞などの記事が出ていました。
<ワシントン首都圏で12日発生した地下鉄脱線事故を調査中の米国家運輸安全委員会(NTSB)は18日、川崎重工業製の事故車両と同様の車両が事故前にも不具合を繰り返していたとして、同社製の車両を使用している他の地域の交通局に注意を喚起した。
事故は12日夕方にワシントン郊外のロズリン駅付近で起き、トンネル内で脱線した車両から乗客が脱出した。死傷者はなかったが重大な事故につながった可能性があるとしてNTSBが調査している>
事故車両は川崎重工業の米国現地法人が製造した「7000系」。調査によると同種の車両は2017年以降31回、検査で不具合がみつかり、年々不具合が増えていたそうです。事故車両は事故直前に2回脱線し、ブレーキの一部が破損していたこともわかっているとのこと。ワシントン首都圏交通局は、7000系の全車両の使用を一時停止した他、前述の通り、国から他の交通局にも注意喚起が出ていました。
●ページ名が痛い…日本の技術を誇っていた日立製作所の英高速鉄道
2017/10/18:最近日本にとって悪い話は意識して減らしており、実際かなりボツにしています。が、あまりにもひどすぎ…というのがありました。日立製のイギリスの高速鉄道が初っ端から大トラブル。しかも、日立は事前に日本の技術の高さを誇る宣伝ページまで作っていたというのですから、余計格好悪いです。
トラブルそのものの前に日立製作所のウェブサイトの話から。今見ると恥ずかしくて穴に入りたくなるのですが、
日本の優れた技術が生んだ高速鉄道が鉄道発祥の地、英国を走る:社会イノベーション:日立というページがありました。「日本の優れた技術」というタイトルからして痛いんですが、中身ももちろん以下のように自慢げです。
・日立は、2005年に日本の車両メーカーとして初めて鉄道発祥の地、英国の車両製造を担った。さらに2012年、その実績が評価され、英国鉄道史上最大規模となる都市間高速鉄道計画にも参画することとなった。
・欧州との規格の違いを克服し、日本の高速車両技術を英国の鉄道システムに適応させ、安全性、快適性を実現してきた。
・英国鉄道システムへの適合と高信頼性を両立させた車両となっている。
●日立製作所の英高速鉄道、初日からトラブルを連発
安全で快適で高い信頼性を誇っていたはずの日立の鉄道車両ですが、2017/10/16の営業運転初日からトラブルを連発します。ネットでは例によって、「日本のせいじゃない」という責任転嫁も出ていましたが、日立はツイッターで「大変申し訳ない」と謝罪。そもそも前述の通り、日本のすごい技術だと自慢していたんですからね。
(1)技術上の問題で出発が25分遅れる。
(2)さらに到着が41分遅延する。
(3)客車天井の空調機器が故障で水漏れを起こし、座席がずぶぬれになる。
(
日立車両、早速トラブル=営業運転初日に-英鉄道:時事ドットコム 2017/10/17-19:41より)
また、朝日新聞によると、ツイッターでは水漏れをよけるために通路に立つ乗客の写真が投稿されていたとのこと。乗客らはたいへんな思いをしました。
(
英高速鉄道、座席がずぶ濡れ 日立製車両「出発に暗雲」:朝日新聞デジタル ロンドン=寺西和男 2017年10月17日10時45より)
●問題の高速鉄道の車両は、神戸製鋼の改ざん製品も使用
時事通信によると、BBCは「英国の新高速鉄道の門出に暗雲」と指摘し、乗客の不満の声を伝えたとのこと。
日本企業の不正事件 神戸製鋼データ改ざん、東洋ゴムの免震ゴム不正、日産、三菱自動車やスズキの燃費不正で、神戸製鋼の海外向け製品の不正により、日本のものづくりのネガティブな宣伝になっていると書いたように、日立の高速鉄道も日本製品の信頼性をまた一つ貶めることとなりました。
で、実は、この高速鉄道の車両は、その神戸製鋼製品が使われていることも報じられていました。日立では、「独自に強度を検査していて安全性に問題はない」ということでした。ただ、悪いイメージがついたのは確かでしょう。
(
神戸製鋼 「鉄粉」でもデータ改ざん疑惑|日テレNEWS24 2017年10月11日 14:09より)
高速鉄道の件はネットだとなぜかイギリス人を猛烈に叩いている人がかなりいたのですが、それよりも日本企業の問題を真摯に受け止めて、日本製品の信頼性回復に努めるべきでしょう。問題起こして迷惑かけておいて逆ギレなんて、あまりにもみっともないです。
【本文中でリンクした投稿】
■
日本企業の不正事件 神戸製鋼データ改ざん、東洋ゴムの免震ゴム不正、日産、三菱自動車やスズキの燃費不正【その他関連投稿】
■
三菱重工の客船損失で見えた日本のものづくり崩壊 日本人には技能的に作れない豪華客船 ■
延期しすぎの三菱重工のMRJ、違約金地獄に?納入も初飛行も延期連発 ■
電車で席を譲らない人が増えたのは親切を断る高齢者が増えたから? ■
全国の通勤時間帯の満員電車混雑率ランキング 東京がひどすぎて、関東以外が出てこない ■
断られて傷つくことなく電車で席を譲る方法 断る人は空気を読めない面倒な人? ■
商品・サービス・技術についての投稿まとめ
Appendix
広告
【過去の人気投稿】厳選300投稿からランダム表示
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
|