書ける時間が作れなくて遅くなった
理研の任期制研究員の問題 基礎研究は成果主義に馴染まない?の続き。
この話は日経新聞がベースで、他にも紹介したい内容がありました。ただ、引用が多くなりすぎるために、別サイト由来の
文科省の理想の教育で育った小保方晴子 AO入試,グローバルCOEなどを間に挟んでいます。これが実質的な続きでした。
日経新聞では前回の後ポスドク問題についても触れていましたが、この話は特にいろいろなところで触れらていますので、やはり他からの引用を多めにします。
東洋経済オンラインでは、ポスドク計画についてこのように書いています。
理研だけが悪いのか、科学政策の根深い問題 STAP騒動で浮かび上がった研究者たちの不都合な真実- 東洋経済オンライン(2014年5月20日14時30分)
博士号を取得した若手研究者、ポストドクター(ポスドク)も過酷な状況に置かれている。94~2000年に文部科学省が推進した、いわゆる「ポスドク1万人計画」は、もともと学術研究の強化のため助教授の多くを教授に格上げし、実験を手伝う助手が極端に減少したことが背景にあった。
このため、博士号を持つ研究者の増員が必要となった。当時、国立大学のポスドクの正規ポストは3000。優秀なポスドクがしのぎを削り、あぶれた7000人は企業や、小中学校の教員としての受け入れを想定していた。
http://news.infoseek.co.jp/article/toyokeizai_20140520_37843
また日経新聞では、「ポストドクター等一万人支援計画」を主導した加藤紘一自民党政調会長(当時)は、「東京大学の先生から、当時7000人だったポスドクを1~2割増やしてほしいと言われて」と計画を進めた…と理由を説明していました。
スター誕生の裏側 小保方博士と理研の迷宮(中) 2014/5/13 7:00 日本経済新聞 電子版 (編集委員 金田信一郎)
http://www.nikkei.com/article/DGXBZO71055780S4A510C1000000/ 5年計画の4年目でポスドクは1万人を達成、さらに1万5000人を超えるという急増ぶりを示しましたが、この結果は現在全く「成功」とはみなされていません。
たとえば、東洋経済オンラインでは、以下のように書いていました。
ところがその目算は外れ、企業での受け入れは思うように進まず、教育機関での受け入れはいまだにゼロという。現在、ポスドクの数は1.8万人といわれ、生命科学系のポスドクの約4割が年収400万円以下(11年、日本学術会議調べ)。5年程度の任期内に成果を出さなければ次の受け入れ先が決まらないため、プレッシャーに苦しむポスドクは多い。
企業が受け入れ体制が整っていないのに、ドクターだけ増やしたって仕方ないんですよね。私の学生時代は、修士なら採ってもらえるけど、博士は「使いづらい」と思われて普通の企業の就職は難しいという認識でした。東洋経済オンラインは上記の通りですし、他でも似たような話を目にしますので、今でもそうなのでしょう。
東洋経済オンラインはこの後、
文科省の理想の教育で育った小保方晴子 AO入試,グローバルCOEなどと重なる内容へと行きます。
一方、若手育成支援で潤沢な資金が与えられる者もいる。小保方氏はその恵まれたコースに乗った。博士課程在学中、日本学術振興会の特別研究員に選ばれ、08年からの3年間に科研費と毎月の研究奨励金を受け取った。同期間に奨励費として年間60万円の研究費も支給され、3年間の合計額は推定1350万円。08年に特別研究員として選ばれた研究者(工学系)は127人で、小保方氏はその一人。
ただ、こちらでは"有望な若手とみて小保方氏を理研が採用したのも無理はない"などとも書いています。そうですかね?
教育せずに上げてきた早稲田大学は悪いですし、特別研究員や奨励金の選考がずさんだと言えますが、同様に理研の採用もいい加減すぎました。そもそも小保方晴子さんに関しては、わざわざ通常ルールを無視して特別に採用したようです(確か毎日新聞が報道)。責任がないわけ無いですね。
あと、同じ記事では、以下のような指摘もありました。やはり特別扱いしたというものです。
理研が、特定国立研究開発法人(特定法人)の指定を受けるために功を焦った、iPSで京都大学に後れを取ったので巻返しを狙ったという見方もある。だが当時、特定法人の指定はほぼ固まっていた。小保方晴子氏が所属する発生・再生科学総合研究センター(CDB)は、ES細胞の笹井芳樹氏やiPS細胞の高橋政代氏など世界的に有名なメンバーを擁し、そこまで功を焦る必要があったとは考えにくい。また、理研の論文が英科学誌『ネイチャー』をはじめとする有力論文誌に掲載されることは珍しくない。
にもかかわらず、一つの研究テーマで会見まで開いたのはSTAPが初めてだった。それは、竹市雅俊CDBセンター長をはじめ、同センターの重鎮が、「STAPにインパクトを感じた」からだ。
これだけ特例的に扱っておいて、「何も調べていませんでした。被害者です」ってのは通らないでしょう。
話が逸れてきましたが、ブログに寄せられたメールでもポスドク問題について触れたものがあります。(確か
理研の任期制研究員の問題 基礎研究は成果主義に馴染まない?へいただいたものです)
現在の研究者の問題
1 博士課程を作りすぎて博士が増えたが、ポストはまったく増えていない。
2 地方国立大は昔は博士課程がないなどの理由で、優秀な人は地方国立大を出て旧帝大院へ進んだ。今は地方国立大も博士課程ができて、教授は使い慣れた院生をそのまま使いたい。もともと理系は教授のもとで実験などするので、教授と気心が知れている人がいい。院進学も入りたい研究室の教授に気に入られるのが肝心。
3 上と関係するが、日本の研究職はこうした昔ながらの師弟関係、徒弟制度が強い。アカポスもコネで決まることが多い。
4 日本は社会全体がいまだに終身雇用社会なので、どの業界も途中から参入するのがむずかしい。なので、30歳まで院にいたような人はアカポスがゲットできないとバイト生活になる。職業社会の非流動化(終身雇用)の中で研究職だけ流動的(任期制)にしている。
5 上の方の世代は終身雇用で採用されていて、よほどの不祥事がない限りクビにならない。論文を書かなくても教授になれるケースも多い。しかも定年は65歳以上。以前は東大などは定年60歳だったが、東大退官しても次がない人が増えてきたので5歳延長した。
6 東大京大がありがたがられたのは昔の話で、今は東大京大の院はバカでも入れると言われているところがある。東大京大院だから優秀とは限らない。ただ、他の大学院もひどいので、優秀な人はいる。でも、優秀な人が報われないのが日本のシステムでもある。優秀な人ではなく、教授など上の人に都合のいい人が選ばれるという例をいくつも見てきたが、小保方氏はその最たるもの。というか、私は東大院ですが、昔、小保方氏のような何もしてないけど女子力だけはある女性にアカポス奪われて、この世界に見切りをつけました(なので今はワープア)。
(6/4追記:メールで補足があったので、最後に追加しています)
この他に「ポスドク1万人計画」ネタを二つ用意していた気がしたんですけど、見つからず。日経新聞で一つ、
文科省の理想の教育で育った小保方晴子 AO入試,グローバルCOEなどで一つと数えて、四つだったのかな? 時間が経ちすぎて忘れてしまいました。
とりあえず、以上のように「ポスドク1万人計画」に対する評価は総じて悪く、以前の投稿でも計画への批判が出てきていました。
文科省の理想の教育で育った小保方晴子 AO入試,グローバルCOEなどの件と合わせて、STAP細胞問題は国の作ってきた制度のひずみが表面化した典型的な事例とも言えそうです。
ところで、先の日経新聞によれば、計画を引っ張った加藤紘一議員がポスドク1万人達成後に東大を再び訪れてみると、「いや、研究施設が老朽化しているからダメでした」と言われたようです。どういうことなの?
…ポスドクが必要だと要求した張本人ですらこの有り様ですから、他でも得るものはあまりなかったと想像されます。「ポスドク1万人計画」が遺したものは、負の遺産ばかりということになりそうです。
(6/4追記:補足のメールコメント
"私のコメントが引用されていて、最後は私怨が入ってるので、少し恥ずかしかったですがこれは理系のポスドク問題だけではなく、大学院を増やした政策全体の問題でもあります。
たまたまスタップ細胞問題があったので、理系の、特に実験系のポスドクのことばかりが言われていますが、実際は、これは文系も含む全分野の問題です。
そもそも、昔は大学院が少なかったのに、文科省がどの大学にも院を設置し、教授は院に所属する、という方針を打ち出したので、大学は院を作って、なおかつ、院に学生を集めなければならなくなったのです。定数に満たなければ予算が削られます。
そんなわけで、大学側は院生をどんどん増やしてしまっている、という実態が、ポスドクの理系以外でも起こっているのです。
また、学生の方も、学部で就職がないから、くらいの理由で院に進学してしまい、その後もモラトリアムで上に行ってしまう人が多いように思います。
ただ、院を出て正規雇用がない人以前に、学部卒や高卒で正規雇用がない人がたくさんいるわけで、その背景には企業が非正規雇用を増やしてきたことがあります。また、ブラック企業のように、就職しても続かない企業が増えたこともあるでしょう。なので、ポスドク問題は非正規雇用というもっと大きな問題の中の一部にすぎないという認識も重要ではないかと思います。
以前奨学金の問題が取り上げられていましたが、大学院博士まで奨学金を借りると大変な額になります。博士出ても非正規雇用では奨学金の返済などできませんから、奨学金もいずれ破たんするでしょう。
ポスドクに限らず、非正規雇用が増えるということは、奨学金は返せない、年金も健康保険も払えない人がこれから増えるということです"
"先ほどのメールで書き忘れましたが、大学院増加の問題の1つに法科大学院があります。
ここでもすでに取り上げていたかもしれませんが、以前は司法試験は個人が勉強して合格するものだったのが、法科大学院を出ればもっと合格者を増やせる、弁護士を増やせる、ということで作られたものです。が、実際は、法科大学院を出た人の合格率が低いこと、しかも院を出てしまうとほかに就職先がないことが問題になっています。
また、日本は訴訟社会ではないので、弁護士になったけれど仕事がない人が増えているとの話も。
もともと法科大学院はアメリカの発想で、アメリカは学部に医学部と法学部がなく、他の学部を出た人が法科大学院や医科大学院に進学するのですが、その法科大学院を、日本とアメリカの実情の違いをまったく無視して作ってしまったのです。
高い学費を払って法科大学院へ行き、司法試験に合格せず、企業にも就職できず、だまされた、と思っている院卒者も多いようです。(中略)
あと、小保方氏が受けた返還不要の奨学金の中には貧しい研究者のためのものもあるようで、父親が三菱、母親が大学教授で、明らかに年収数千万円の金持ちの娘が貧乏人の奨学金を奪ったわけですから、これは許せませんね。アメリカでは、優秀さの証明に金持ちの子供が難関の奨学金(返還不要)の試験を受けるということがありますが、合格したあと、辞退します。金持ちなのに辞退しないと、人間としてだめなやつの烙印を押されます"
文系の院生ってのも増えているんですね。私は文系の大学院というもの自体が想像つきませんでした。私の大学時代でも結構いたのかな? 自分の学部ですら興味ないのに、他学部なんか全くわからんかったですわ。
でも、法科大学院の件は私も似たところがあるなとうっすらと思っていました。国は似たような失敗を繰り返していますね。ちなみに、法科大学院はうちのブログでは全く取り上げたことないです。良い記事があれば紹介したいですけど、そういや最近全く話題になりませんね。
"大学院博士まで奨学金を借りると大変な額"。これ読んで鳥肌が立ちました。本当奨学金はキツいですわ。
この奨学金返済は結局雇用の問題、ポスドクも雇用の問題というのは、なるほどです)
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