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ミルグラム実験とスタンフォード監獄実験 ネットリンチと正義の暴走


 前から紹介したかった話ですが、後回しにしてきました。しかし、先にこの二つの実験の知識が必要となる記事を引用したくなったので、慌ててこの二つの実験の話を紹介。(その話は「褒めて伸ばす」の絶大な威力 青少年犯罪が半減した警察署の試みで)

 私は知りませんでしたが、ミルグラム実験はユダヤ人を絶滅収容所に輸送する責任者であったアドルフ・アイヒマンにちなんで、アイヒマン実験とも呼ばれることがあるようです。
ミルグラム実験(ミルグラムじっけん)とは、閉鎖的な環境下における、権威者の指示に従う人間の心理状況を実験したものである。俗称としてアイヒマン実験(アイヒマンテスト)とも呼ばれ、またこの実験の結果示された現象をミルグラム効果とも呼ぶ。

 概要

ミルグラム実験とは、アメリカ、イェール大学の心理学者、スタンリー・ミルグラム(Stanley Milgram)によって、1963年にアメリカの社会心理学会誌『Journal of Abnormal and Social Psychology』に投稿された、権威者の指示に従う人間の心理状況を実験したものである。

(中略)イスラエルにおけるアイヒマン裁判の過程で描き出されたアイヒマンの人間像は人格異常者などではなく、真摯に「職務」に励む、一介の平凡で小心な公務員の姿だった。

このことから「アイヒマンはじめ多くの戦争犯罪を実行したナチス戦犯たちは、そもそも特殊な人物であったのか?  それとも、家族の誕生日に花束を贈るような平凡な愛情を持つ普通の市民であっても、一定の条件下では、誰でもあのような残虐行為を犯すものなのか?」という疑問が提起された。

この実験は、アイヒマン裁判の翌年(1961年)に、上記の疑問を検証しようと実施されたことから、「アイヒマン実験」とも呼ばれる。
Wikipedia

 さて、実験の内容です。
 前提条件

この実験における実験協力者は新聞広告を通じて、「記憶に関する実験」に関する参加者として20歳から50歳の男性を対象として募集され、一時間の実験に対し報酬を約束された上でイェール大学に集められた。実験協力者の教育背景は小学校中退者から博士号保持者までと変化に富んでいた。

実験協力者には、この実験が参加者を「生徒」役と「教師」役に分けて行う、学習における罰の効果を測定するものだと説明された。各実験協力者はくじ引きで「教師」(実はこの実験の真の被験者)とされ、ペアを組む別の実験協力者(実は役者が演じるサクラ)が「生徒」(あるいは「犠牲者」)となった。クジには二つとも「教師」と書かれており、サクラの実験協力者はくじを開けないまま本来の被験者に引かせ、被験者が確実に「教師役」をさせるようにしていた。

 つまり、「被験者」たちはみな「教師」ということです。以降も、「被験者」=「教師」と思って読んでいってください。
 実験の内容

被験者たちはあらかじめ「体験」として45ボルトの電気ショックを受け、「生徒」の受ける痛みを体験させられる。次に「教師」と「生徒」は別の部屋に分けられ、インターフォンを通じてお互いの声のみが聞こえる状況下に置かれた。そしてこの実験の肝とも言うべき部分は被験者には武器で脅されるといった物理的なプレッシャーや、家族が人質に取られているといった精神的なプレッシャーは全くないことである。

「教師」はまず二つの対になる単語リストを読み上げる。その後、単語の一方のみを読み上げ、対応する単語を4択で質問する。「生徒」は4つのボタンのうち、答えの番号のボタンを押す。「生徒」が正解すると、「教師」は次の単語リストに移る。「生徒」が間違えると、「教師」は「生徒」に電気ショックを流すよう指示を受けた。また電圧は最初は45ボルトで、「生徒」が一問間違えるごとに15ボルトずつ電圧の強さを上げていくよう指示された。

ここで、被験者は「生徒」に電圧が付加されていると信じ込まされるが、実際には電圧は付加されていない。しかし各電圧の強さに応じ、あらかじめ録音された「『生徒』が苦痛を訴える声」がインターフォンから流された。電圧をあげるにつれて段々苦痛のアクションが大きくなっていった。また電気ショックの機械の前面には、200ボルトのところに「非常に強い」、375ボルトのところに「危険」などと表示されている。これは記録映像を見ればわかるが、音声はまるで拷問を受けているかの如くの大絶叫で、生徒のアクションはショックを受けた途端大きくのけ反る等、一見してとても演技とは思えない迫力であった。

 ここで被験者である「教師」が"実験の続行を拒否しようとする意思を示した場合"、その拒否の回数に応じて"白衣を着た権威のある博士らしき男が感情を全く乱さない超然とした態度で次のように通告"することが決められていました。

1. 続行して ください。
2. この実験は、あなたに続行して いただかなくては。
3. あなたに続行して いただく事が絶対に必要なのです。
4. 迷うことはありません、あなたは続けるべき です。

 しかし、"四度目の通告がなされた後も、依然として被験者が実験の中止を希望した場合"には、"その時点で実験は中止され"ました。一方、その回数に満たなかった場合は、最大ボルト数の"電圧が三度続けて流されるまで実験は続けられ"ることになっていました。

 この実験に対する事前の予想は以下のようなものでした。
実験を行うにあたって、ミルグラムによりイェール大学で心理学専攻の四年生14人を対象に、実験結果を予想する事前アンケートが実施された。回答者は全員、実際に最大の電圧を付加する者はごくわずか(平均1.2%)だろうと回答した。同様のアンケートを同僚たちにも内密で行ったところ、やはり一定以上の強い電圧を付加する被験者は非常に少ないだろうとの回答が得られた。

 この最大の電圧(450ボルト)に至るまでの「生徒」役の演技は、以下ように決められていました。

1. 75ボルトになると、不快感をつぶやく。
2. 120ボルトになると、大声で苦痛を訴える
3. 135ボルトになると、うめき声をあげる
4. 150ボルトになると、絶叫する。
5. 180ボルトになると、「痛くてたまらない」と叫ぶ。
6. 270ボルトになると、苦悶の金切声を上げる。
7. 300ボルトになると、壁を叩いて実験中止を求める。
8. 315ボルトになると、壁を叩いて実験を降りると叫ぶ。
9. 330ボルトになると、無反応になる。

 ですから、このような状態になる前に実験の中止を何度も申し出るのが普通だろうと予想したのでしょう。この予想は非常にもっともなものである気がします。

 ところが、実験結果は衝撃的なものでした。
実際の実験結果は、被験者40人中25人(統計上62.5%)が用意されていた最大V数である450ボルトまでもスイッチを入れた、というものだった。中には電圧を付加した後「生徒」の絶叫が響き渡ると、緊張の余り引きつった笑い声を出す者もいた。全ての被験者は途中で実験に疑問を抱き、中には135ボルトで実験の意図自体を疑いだした者もいた。何人かの被験者は実験の中止を希望して管理者に申し出て、「この実験のために自分たちに支払われている金額を全額返金してもいい」という意思を表明した者もいた。しかし、権威のある博士らしき男の強い進言によって一切責任を負わないということを確認した上で実験を継続しており、300ボルトに達する前に実験を中止した者は一人もいなかった。

「教師」と「生徒」が同じ部屋にさせた場合や「教師」が「生徒」の体に直接触れさせることで電圧の罰を与えて従わせる場合など「先生」の目の前で「生徒」が苦しむ姿を見せた実験も行われたが、それでも前者は40人中16人(統計上40%)・後者は40人中12人(統計上30%)が用意されていた最大V数である450ボルトまでスイッチを入れたという結果になった。

 命令の前では良心はかくも無力なのです。極めてショッキングな結果です。

 一方、実験には批判もあるようです。
同時に倫理性の観点からは、痛みを与える要素の社会的イメージ、生徒との隔絶の差等、同様の閉鎖環境でも個々の細かな要素によって結果の変動が大きく、同じ実験では同様の結果が得られる一方、類似する実験ではまったく違う結果になり易い事から、その影響が過剰に喧伝されているとして批判の声もあった。

 ただ、"同じ実験では同様の結果が得られる"というのはいっしょなんですね。痛みの種類や生徒との近さによってかなり異なるようです。

 心理学研究史の観点からは、このミルグラム実験のバリエーションとも考えられているのが、スタンフォード監獄実験です。
スタンフォード監獄実験(スタンフォードかんごくじっけん、Stanford prison experiment)とは、アメリカのスタンフォード大学で行われた、心理学の実験である。(中略)

 概要

1971年8月14日から1971年8月20日まで、アメリカ・スタンフォード大学心理学部で、心理学者フィリップ・ジンバルドー (Philip Zimbardo) の指導の下に、刑務所を舞台にして、普通の人が特殊な肩書きや地位を与えられると、その役割に合わせて行動してしまう事を証明しようとした実験が行われた。模型の刑務所(実験監獄)はスタンフォード大学地下実験室を改造したもので、実験期間は2週間の予定だった。

新聞広告などで集めた普通の大学生などの70人から選ばれた被験者21人の内、11人を看守役に、10人を受刑者役にグループ分けし、それぞれの役割を実際の刑務所に近い設備を作って演じさせた。
Wikipedia

 実験では"囚人役をよりリアルに演じてもらう為"に、"現在ほとんどの国の本物の刑務所では見受けられず、実際の囚人待遇より非人道的"にして、屈辱感を与えたようです。
 実験の経過

次第に、看守役は誰かに指示されるわけでもなく、自ら囚人役に罰則を与え始める。反抗した囚人の主犯格は、独房へ見立てた倉庫へ監禁し、その囚人役のグループにはバケツへ排便するように強制され、耐えかねた囚人役の一人は実験の中止を求めるが、ジンバルドーはリアリティを追求し「仮釈放の審査」を囚人役に受けさせ、そのまま実験は継続された。

精神を錯乱させた囚人役が、1人実験から離脱。さらに、精神的に追い詰められたもう一人の囚人役を、看守役は独房に見立てた倉庫へうつし、他の囚人役にその囚人に対しての非難を強制し、まもなく離脱。

離脱した囚人役が、仲間を連れて襲撃するという情報が入り、一度地下1階の実験室から5階へ移動されるが、実験中の囚人役のただの願望だったと判明。
又実験中に常時着用していた女性用の衣服のせいかは不明だが、実験の日数が経過するにつれ日常行動が徐々に女性らしい行動へ変化した囚人も数人いたという。

 実験の中止

ジンバルドーは、実際の監獄でカウンセリングをしている牧師に、監獄実験の囚人役を診てもらい、監獄実験と実際の監獄を比較させた。牧師は、監獄へいれられた囚人の初期症状と全く同じで、実験にしては出来すぎていると非難。

看守役は、囚人役にさらに屈辱感を与えるため、素手でトイレ掃除(実際にはトイレットペーパの切れ端だけ)や靴磨きをさせ、ついには禁止されていた暴力が開始された。

ジンバルドーは、それを止めるどころか実験のリアリティに飲まれ実験を続行するが、牧師がこの危険な状況を家族へ連絡、家族達は弁護士を連れて中止を訴え協議の末、6日間で中止された。しかし看守役は「話が違う」と続行を希望したという。

後のジンバルドーの会見で、自分自身がその状況に飲まれてしまい、危険な状態であると認識できなかったと説明した。ジンバルドーは、実験終了から約10年間、それぞれの被験者をカウンセリングし続け、今は後遺症が残っている者はいない。

 こちらもまた衝撃的な結果となりました。もっともらしく言うと、"時間が経つに連れ、看守役の被験者はより看守らしく、受刑者役の被験者はより受刑者らしい行動をとるようになるという事が証明された"というものですけど、内容はもっと過激なものです。
 実験の結果

権力への服従

強い権力を与えられた人間と力を持たない人間が、狭い空間で常に一緒にいると、次第に理性の歯止めが利かなくなり、暴走してしまう。

非個人化

しかも、元々の性格とは関係なく、役割を与えられただけでそのような状態に陥ってしまう。

 これらの実験が一般的にどういう理解をされているのかは今回調べませんでしたが、思いついたことをいくつか。

 真っ先に思い出したのは、海外の反応 ~日本人は本当に正直で真面目?~で出てきた中国への出向した日本人社員の話です。日本人は中国でももちろん真面目……と思いきや、現地の中国人が呆れるほど不正や汚職を行う日本人社員が珍しくないという記事でした。

 私はこれは日本人が本当に真面目なのではなく、不正を許さないという日本の空気を読んで国内では不正をしていないだけで、不正が多い中国に向かうと現地に合わせて悪事をしでかすものなのだと捉えました。


 また、かなり違う話ですけど、「自分に合う仕事なんてない。仕事が人を作るんだ」という考え方も思い出しました。私は人には必ず向き不向き(比較優位など)があると考えていますので、この考え方に全面的には賛成をしているわけではありません。

 ただ、ある程度仕事が人を作っていくというのは、経験が人を作るということからすれば当然であり、役割が先にあって人の行動を決める……という上記の実験との共通点を感じました。あと、子供が生まれて親らしくなる……みたいなのもそうですかね? これも役割が先に……というパターンです。


 それから、最後はネットリンチに関して。これまたかなり状況が異なるのですけど、ネットリンチに歯止めが効かなくなって法を犯すようなところまで行ってしまうことがままあるのが、上記の実験と重なるところがありました。

 これは正義感や大義名分というのが大きいのだろうとは思います。ただ、「もっとやれ」という空気感(あるいは実際の書き込みなど)が実験における命令のよう形になり、暴走しやすいのかな?と感じました。


 下書きでは以上でしたが、書き終えた後皿洗いしていてもう一つ思いつきました。役割を与えられてそのことに疑問を持ちながらもやめられないというのは、ブラック企業の社員がその環境から抜け出せない心理とも似ているかもしれません。
(ブラック企業の話では、プロのライターや有名人で「辞めりゃいいじゃん。はい、解決」と言う人がちょくちょくいます)


 以上、パッと思いつくまま適当に並べましたので、かなり粗いものにはなりました。いろいろと考えさせられるショッキングな実験であるってことは間違いないと思います。


 追加
  ■「褒めて伸ばす」の絶大な威力 青少年犯罪が半減した警察署の試み

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