私は基本的に「クーデター」のような暴力的な手段による政権打倒は支持しません。ただ、「革命」と呼ばれるものが暴力的な手段による場合もあり、そちらまで全面否定するとなるとどうだろうとも思います。
そして、困ったことにこれらの違いは微妙です。立場によって「クーデター」と呼んだり呼ばなかったりというのがあります。
ですので、私は「
軍部によるクーデターは基本的に支持しない」という言い方にしておきます。
時事用語のABC
クーデター(くーでたー)(coup d'etat)
非合法的な手段によって政権を掌握すること
武力を行使するなど非合法的な手段によって現行の政府を倒し、政治的権力を奪い取ること。政権内の軍部が暴走する例が多い。
コトバンク
軍部によるクーデターは基本的に支持しない私は、日本では好意的な報道のあった2013年のエジプトクーデターも望ましいものではなかったと考えています。
同様に微妙なケースであるのが、タイの軍部によるクーデターです。このタイのクーデターに関して、"現地メディアの『DACO』編集部が、仕事仲間のタイ人たちに、その本音を聞いてみました"というものがあり、読んでみました。
タイ人たちはクーデターをどう捉えているのか | ザイオンライン 2014年6月4日
http://diamond.jp/articles/-/53970 記事では"あなたは「タクシン派」? 「反タクシン派」?"という質問をしています。政権を降ろされたのは「タクシン派」の方であり、デモをしていたのは「反タクシン派」です。
この質問項目で驚いたのは、回答者が「反タクシン派」と「どっちでもない」しかいなかったということです。「反タクシン派」も「どっちかといえば」という人ばかりでしたが、それですら「タクシン派」がいなかったのです。これは驚きです。
しかし、この記事はかなり良くない記事でした。「タクシン派」に票が入らなかった理由は、以下の記事を読むとわかります。
タイのクーデターを肯定する罪:日経ビジネスオンライン 池田 信太朗 2014年6月9日(月)
誤解を恐れずにざっくりと整理すれば、カネはあるが頭数は少ない都市生活者が「反政府派」であり、頭数は多いが貧しい地方生活者・地方出身者が「タクシン派」である、と整理できる。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20140606/266308/?n_cid=nbpnbo_mlp
おそらく編集部は都市部にあったのでしょう。ですから、「反政府派」という人はいても、どっちかといえばを含めても「タクシン派」と言う人はいなかったのです。
そして、上記のような支持層の偏りが"タイが立憲君主制に移行してからこれで軍事クーデターは19回目。5年に一度以上の頻度でクーデターが発生している"理由となっています。(ただ、近年は1991,2006,2014という5年に一度よりかなり少ないペースです)
「反政府派」「反タクシン派」と「タクシン派」の関係について、記事では他にもざっくりとした説明を行っています。
タイ軍部は、一般にタクシン派より反政府派と利害が近い。喧嘩両成敗のように振る舞うが、結局のところ、軍部はタクシン派を政権内から一掃し、その後に「タクシン派抜きの政権」を樹立させて民政を復活させることになるだろう。 (中略)
だが、タクシン派は選挙に強い。(中略)頭数の多さが決する民主主義の原則から言えばタクシン派が強い。が、既得権益は反政府派に偏っている。軍上層部は既得権益者層に近い。
だから、正しく選挙が実施されればタクシン派が勝利し、軍が後押しした反タクシン政権は敗北する。タクシン派が再び政権を掌握する可能性が高い。
これに不満を抱く反政府派がタクシン派政権打倒を目指し、「選挙」では勝てないため、デモや選挙妨害などの手段を取る。再び政治は膠着する。両派の対立が激化したところで軍が登場し「喧嘩両成敗だ」と軍政を敷く。また振り出しに戻る、というわけだ。
"地方に支持基盤を持つ新興勢力に既得権益を奪われることを恐れる層が、軍と結託し、これをひっくり返そうとする"構造だと、作者の池田信太朗さんは説明していました。トルコ・エルドアン政権でも同様の軍部の動きが3度もあったそうです。
また、前半の記事での「どっちでもない」派の人は、双方に問題があるという指摘とともに、クーデターでは何も変わらないと言っている人が多かったです。これはクーデターを恒例化するほど繰り返してきたというタイの歴史をよく知っているためでしょう。
ところで、私と違って日本の報道や評論家は、タイのクーデターに優しいそうです。これは前半の記事同様に、記者らが都市部にいて「都市生活者」の意見を世論にしているからでは?と、池田さんは予測していました。
一方でイギリスの雑誌エコノミストは、日本での配信記事でもこの偏りについて指摘していました。軍事クーデターの前、首相が失職となったときの記事です。
タイの危機:すべてが壊れてしまった国 2014.05.16(金)The Economist
首相のインラック・チナワット氏が2011年に親類を優遇するために国家安全保障会議事務局長を更迭した人事に関して、憲法裁判所が首相と閣僚9人を失職とする判決を下した後、タイは混乱状態に陥った。
(中略)この人事は首相の失職に値するほどの違法行為ではなかった。(中略)
タイ人の多くが受け取ったメッセージは、裁判所は、3年前に地滑り的な勝利で首相に就いたインラック氏と、特に同氏の兄で、2006年のクーデターによってやはり首相の座を追われ、自主亡命中のタクシン・チナワット氏による政治を粛清することに血道を上げる王党派の支配階級の味方だ、ということだった。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40698
タクシン派が正しいと主張するわけではないのですが、反政府派の見方に偏るのはおかしいです。ここらへんは視野を広くして見ることが重要でしょう。
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