防犯カメラに関する話をまとめ。<ダミーカメラは犯罪を防止するどころか逆効果との指摘も>、<街灯の方がマシ…米英では防犯カメラに否定的な研究結果>、<防犯カメラではなく「犯罪捜査カメラ」…これが唯一のメリットか?>、<唯一のメリット犯罪捜査でも問題 防犯カメラで冤罪連発の理由>などをまとめています。
●監視カメラ・防犯カメラの犯罪抑止力、実はデータなし?
2019/03/01:
匿名じゃなくて実名ならひどいコメントしない → むしろ逆効果にを書いているときに、気になった話がありました。<人々は行動をビデオに撮られていてもやがて無視するようになる>とあったのです。とりあえず、いつものように
Wikipediaを見ると、防犯カメラではなく、監視カメラという項目がありました。
この監視カメラで役立つものとしては、事件が起きたときの犯人割り出しのようです。たとえば、イギリスで2005年7月7日に起きたバス、地下鉄を標的とした爆弾テロの例。このテロ事件"において犯人の検挙が迅速に行われたのも、監視カメラの記録に負うところが大きいと見られている"そうです。
ただ、これは既に起きてしまった事件であり、犯罪抑止効果という観点で見ると、むしろ事件化を防げなかったという悪い例になってしまいます。<テロ自体確信犯的犯罪であることから、監視カメラによる抑止効果はあまりないと考えられている>とWikipediaは書いています。防犯カメラなのに防犯できていません。
●ダミーカメラは犯罪を防止するどころか逆効果との指摘も
一方、「非確信犯的な一般犯罪」については「期待されている」という、微妙な表現でWikipediaは書いていました。日本でも既に、各都道府県警は、繁華街等の防犯対策の一環として、繁華街、街頭、街路周辺に監視カメラを設置している他、鉄道会社なども積極的に導入しているようです。
この他に、Wikipediaではダミーカメラについても触れていたところが、参考になりそうなところでした。心理的な犯罪抑止効果を狙い、監視カメラに外観を似せた録画機能を持たないダミーカメラを設置するという作戦です。「防犯」という意味では、ダミーカメラであったも意味があるように思えます。
ところが、安易なダミーカメラの設置は、カメラに精通した人やプロの犯罪者にとっては、防犯に関する対策がおろそかであることを伝えることになり逆効果ともありましたので、うまく行かないところもあるのかもしれません。一番効いてほしい犯罪者に逆効果…となると、意味がなさそうですね。
●街灯の方がマシ…米英では防犯カメラに否定的な研究結果
Wikipediaではやや肯定的だった一般犯罪の抑止効果ですけど、他のサイトも読んでみると、否定しているところもあります。リンク切れしていますが、下記のページでは以下のように否定的な情報を載せていました。防犯カメラなんかより、街灯の方が犯罪防止に効果がある!ってのもおもしろいです。
<自民党や民主党のマニフェストでは、すべてを少年と外国人のせいにしている。外国人犯罪は増えてはいるが、全体に与える影響はそんなに大きくない。マニフェストの前提になっている事実認識が間違っている。対策も間違っている。警察官の増員や監視カメラ、重罰化は、犯罪学の分野では犯罪対策として効果がないというのが定説になっている。
キャンベル共同計画という国際的なネットワークが行った調査では、
監視カメラについてアメリカでは効果がない、イギリスでも駐車場をのぞいてその他の場所では効果がない。その一方では、街灯は犯罪防止に効果がある。これが最も科学的に厳密な調査をおこない、それを分析して出てきた結論である(まもなく詳細な報告書が出る)。 警察官を増やせば、間違いなく検挙人数は増えるので、犯罪は増えたと認識される。刑務所はますます溢れる。こういう悪循環がアメリカでは既に起きている。現在の状況では、財務省は、警察官の増員は認め、教員の増員は全部却下したという。根本的解決の方が減って、効果のない対処療法的なものが増えている、と私は認識している>
(「NO!監視」ニュース 【第6号】 2004-01-30より)
http://www009.upp.so-net.ne.jp/kansi-no/news/documents/news_2004-006.htm
●多くの研究で効果なし、効果ありの研究でも抑止力はごくわずか
PDFで見づらいですが、詳しかったのは
2006予防時報224 防犯カメラの効果と利用について 小出 治 東京大学工学系研究科教授という論文です。論文ですので、ウェブサイトなどの個人の情報より信頼性が高いですね。
ここによると、防犯カメラの設置はその即効的有効性が高く評価され、設置を促進する要因となっているものの、カメラの効果の評価はかなり困難なものであると書かれています。つまり、高い評価で導入が進んでいるものの、その高い評価が確かだと言えるかどうかは怪しいということでしょうか。
理解が容易ではない難しいもののようですが、論文では以下の"2002年英国のHome Office の報告書"を紹介していました。
Brandon C., Welsh and David P. Farrington," Crime prevention effects of closed circuit television: a systematic review"Home Office Research Study 252,2002
① 英国と米国で22の研究レビューを行い、比較検討可能なものをとりあげ整理したもの。
② 18の研究によれば、CCTVは有意な望ましい効果をもたらしている。ただし、全犯罪への効果は4%で、9研究が効果あり(英国の研究だけ)、他は効果なし(うち5つの米国の研究が含まれる)。
③ 暴力犯罪(violent crime)には効果なし(5研究)、車犯罪には効果あり(8研究)。
④ 中心地と公営住宅地では2%の減少効果あり。英国では小さいが有意な差があるが、米国ではない。4つの公共交通施設での効果は半々である。罪種や設置場所により効果が異なること、特に米国と英国では評価が大きく異なっている。
かなり評価が分かれていますが、犯罪への効果ありという研究は少ないですね。「9研究が効果あり」ということは、残りの13の研究は効果なしだったということです。「有意な望ましい効果」が18と多いですけど、これはたぶん犯罪以外の効果を含めたのだと思われます。また、犯罪への効果ありとされているものも、それほど大きい効果ではない模様。全体に防犯カメラにネガティブな効果でした。
●13ある防犯カメラシステムを調べて減少効果が出たのはいくつだった?
もう一つ、、2005年に行われた"英国の13のシステムを対象に独自の調査研究"についても、論文では紹介されています。"中心地、駐車場、病院、住宅地に設置された13のシステム評価を行ったもので、犯罪発生率、住民の認知度、その他の防犯施策の調査、管理室の操作・管理および経済性の評価を目指し"たものだそうです。
先ほどあった「NO!監視」ニュースにおける"イギリスでも駐車場をのぞいてその他の場所では効果がない"は、これのことを指しているのかもしれません。ただ、かなり難しい書き方をしているために、理解が難しそうなものでした。何を意味しているかわからない部分も多かったです。
(1) 犯罪発生率へ影響
① 13のうち6システムで減少効果が見られた。ただ2つのみが統計的に有意であった。
② 駐車場や病院を含む混合用途地区では顕著な犯罪減少が見られた。
③ 中心地や住宅地では増加も減少も見られた。
④ 住宅地でカメラを移転する方法は長期的な効果は見られず、短期的な評価手法に問題がある。
⑤ 罪種によって効果に差異がある。衝動的犯罪(アルコール関連)は計画的犯罪(車窃盗)に比べ効果が小さいようだ。
⑥ 国の犯罪傾向に応じ、対人暴行は増加し、車窃盗は減少。
⑦ カメラ属性に効果が依存する。カメラの監視領域の大きさは効果に比例する(統計的には有意ではない)。カメラが出入り口など流入ポイントに設置すれば更に効果がある。
⑧ 空間転移はすべてではないが、認められる。1つのシステムではすべての犯罪転移、あるシステムでは泥棒、車泥棒が転移。
Martin Gill and Angela Spriggs ”Assessing the impact of CCTV” Home Office Research Study 292 ,2005
とりあえず、重要そうなのは最初のところ。「13のうち6システムで減少効果が見られた」とあるものの、「ただ2つのみが統計的に有意であった」のですから、減少が見られたものの統計的に有意な差がない、意味のない差のものが多かったってことでしょうか。この「有意な差」というのは、統計的に大事な考え方で、差が小さい場合は信頼できないと考えられます。というか、僅かな減少ですら「13のうち6だけ」という時点でもう効果が薄そうな感じですね。
●日本には効果ありの研究がある!日本人は欧米人と違う?
日本での研究も一つありました。"前田によれば、2000年と2002年の犯罪統計の比較による有効性の検証がなされている"として、紹介されています。これは、<前田雅英「犯罪統計から見た新宿の防犯カメラの有効性」ジュリスト No.1251,2003.9.1>という調査のようです。
この場合、<その結果、凶悪犯、侵入窃盗犯においては顕著な効果があり、非侵入窃盗犯においても侵入窃盗ほどではないが顕著な効果が見られる>ということで、英米の調査とかなり違う結果になりました。顕著な効果を認めているのです。
しかし、この研究を紹介した論文の作者は、"犯罪統計によるものという限定されたもので、「効果」を判定しようというものではない。また、短期的な事前事後評価であり、今後の研究が期待される"と書いています。研究の精度に問題があるようです。
また、「その後、歌舞伎町の犯罪が微増」しているという、防犯カメラの効果を疑わせる現象が起きているにも関わらず、追跡調査などはされていないともありました。結論ありきで効果ありとしたかった論文なんですかね? 何かかなりダメっぽい研究に見えます。
ざっと目についたものを引っ張ってきましたが、大部分の話は街頭の防犯カメラですね。コンビニなど店内の防犯カメラに関するものは、あまり見つかりませんでした。
今回見つかったものは、否定的な話が多かったのですけど、まだまだ研究途上なのかな?という印象で、私としては結論を急がないようにしたいと思いました。ただ、さも効果があるような感じで導入を進めている割には、ずいぶん根拠が薄弱なんだなとは正直思います。積極的に導入を進める十分な科学的根拠はまだ確かめられていないと言って良さそうです。
●防犯カメラではなく「犯罪捜査カメラ」…これが唯一のメリットか?
2019/03/01:最初のときにあまり強調していませんでしたが、テロ捜査で役立ったという話を載せていたように、防犯カメラが役に立ちそうなところはあります。最近、防犯カメラの映像が犯罪関係のニュースで多く流れているように、すでに起きてしまった犯罪の捜査にはめちゃくちゃ便利。犯罪の発見にも役立たせることができそうです。
ただ、これは最初のときにも書いたように、防犯カメラの「防犯」という言葉が素直に意味する「犯罪を防止する」といった効果ではありませんよね。「防犯カメラ」ではなく、「犯罪捜査カメラ」などといった呼び方をした方が良いでしょう。主に警察などの捜査を楽にするための道具だと考えられます。
ということで、無意味ではないものの、本当の効果ではない嘘の効果で宣伝して正当化している格好で、ちょっと良くありませんね。「心臓のペースメーカーが止まる」という現実にはほぼありえない理由で、電車内の携帯電話使用をやめさせるアナウンスをしていたことがあり、これと似た感じだと思いました。
また、警察もそういう結論を導き出したがっているのですが、一般人はこの事実を知らず、防犯カメラに強い犯罪抑止力があると信じていて、安心感を与えています。こうした思い込みによる安心感が大きいことは、アンケート調査でも確認済み。そのために税金をたくさん使ってよいのかは議論すべきでしょうが、一般の人からも防犯カメラを望む声が大きいというのも事実のようです。
●唯一のメリット犯罪捜査でも問題 防犯カメラで冤罪連発の理由
2020/11/28:名前に偽りアリで、防犯効果はたいへん怪しい防犯カメラ。一方で前回追記したように、犯罪捜査の道具としては優秀として、ここが唯一胸を張れるメリットのように思えました。ただ、これ、実を言うと、ちょっと注意したいところなんです。確かに捜査の役には立つケースがある一方で、捜査を邪魔しているケースがあるのです。
防犯カメラの映像があれば、正確に犯人を割り出すことができ、一見、デメリットはないように思えます。ところが、この防犯カメラを証拠として利用した事件では、冤罪・誤認逮捕も続出。専門家によると、防犯カメラ映像は誤認が多く、本来、専門的な知識が必要であり、一般的な警察官にはその能力がないと指摘されています。
さらに、この唯一のメリットの犯罪捜査にも活用しきれていない…という、予想外のエピソードがありました。現金自動預払機(ATM)コーナーでおろしたばかりの現金20万円がなくなった記者が盗まれたと考えて、防犯カメラの映像を確認してもらうように頼んだものの、金融機関どころか警察も相手にしてくれなかったという話だったのです。
<ATMを管理するこの大手金融機関は「社内規定で、映像を提供するのは警察から照会があったときだけ。個人には見せられないし、映像の確認もできません」。警察署に被害届を出そうとしたが、対応した刑事は「デイパックの中から気付かれずに盗むのは無理。落としたか、置き忘れでは」とにべもない>
(
防犯カメラは何のため 岩本誠也|【西日本新聞ニュース】 2020/3/11 11:00より)
ただし、これは対応者によりけりだそうで、福岡県の地銀は、顧客からの依頼で行員が映像を確認することがあるとのこと。大手コンビニも「困った人がいれば普通確認するのでは」と取材に答えています。盗難だけでなく、現金置き忘れの場合でも本来なら活用できますし、不可解な対応だとは思いますね。
●「目の写真」があるだけで、人は犯罪を犯さなくなるという心理実験
2021/07/05:ブックマークだけして読んでいなかった
日本の防犯カメラ、500万台に迫る:日経ビジネス電子版(2018.11.13 吉野 次郎 日経ビジネス記者)という記事。この記事の最初におもしろい心理実験の話が出ていました。英ニューカッスル大学の行動生物学者が実施した有名な心理実験だそうです。
<大学の共有スペースに誰でも利用できるコーヒーポットを設置した。飲みたい人は隣に置いてある箱に代金を自主的に入れる。ポットを管理する人はその場にいないので、代金を払わない者もいる。だが、ポットの上に「目の写真」を貼ると、支払い率が3倍近くに跳ね上がった。「見られている」と意識するだけで、人は品行方正になると研究者は結論付けた>
なので、「やっぱり防犯効果はあるんだ!」と思うかもしれませんが、こういうのは注意が必要ですね。防犯カメラに防犯効果があるかどうかは、実際の犯罪件数などを用いて出したデータで調べる方が正確であり、そうじゃない研究の方を重視できません。で、今出ている研究を見る限りは、防犯効果は怪しい…というのが現実でした。
●「事件が減った」という証拠エピソードをよくよく聞いてみると…
記事で出ていた「歌舞伎町に死角なし、犯罪半減」の事例もへんてこでした。以前書いていたように、犯罪が減っていたとしてもそれが防犯カメラの効果かどうかは慎重に検討する必要があるのですが、そもそもそれ以前…という話なんですよ。というのも、まず「違法風俗店などの摘発強化と相まって、今では半分以下の水準」と書いています。防犯カメラ以外の効果がやはり入っているんですね。
さらに、歌舞伎町商店街振興組合の城克事務局長が胸を張って言う「暴力団同士のトラブルがあっても、仲間の組員が応援に駆けつけるより先に、映像で異変を察知した警官が到着する。防犯カメラの効果だ」という説明。これ、よく考えるとトラブルは防げておらず、トラブルは起きたが警察の対応が早い…という話なんですよね。
これまでにも書いてきたように、事件発生そのものは防げないものの、事件が起きたときの解決に役立つ…という意味では、防犯カメラの効果は高そう。事件を大きくしない…という意味でもある意味、「防犯」ではあります。ただ、この大事な部分が誤解されているというのは問題。調査では8割が防犯カメラに「安心する」と答えているそうですが、嘘で誤解させず、事実を言うべきでしょう。
また、ある県警の幹部は、「繁華街に防犯カメラを設置しても、保守の予算が付かない。現在では多くのカメラが故障したまま放置されている。周辺で事件が発生しても、解決に向けて頼りにならない」と嘆いていたそうです。こうなると、ダミーカメラ的な問題が出てきそうですし、事件解決でも役に立ちません。こういう予想外の問題もあるみたいですね。
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