2020/03/08:
●新型コロナウイルス対策で「いろいろやるべき!」が危険な理由
2014/8/11:
●「正義」の主張が非科学的言説を生む…「疑似科学」が持つ5つの特徴
●「エイズの原因はHIVウィルスではない」「放射能騒動」などが該当
●説得は無理…疑似科学を信じる人たちは放っておいた方が良い?
●相手にしないことが一番?疑似科学蔓延を放置した結果…
●疑似科学, ニセ科学, 似非科学はすべて批判されなくてはいけない
●新型コロナウイルス対策で「いろいろやるべき!」が危険な理由
2020/03/08:新型コロナウイルスの日本の流行において、「科学者の言うことが正しいとは限らない」「何でもやってみるべき」として、科学的根拠のない施策を指示する声が出ており、たいへん危険だと思いました。
まず、前者である「科学者の言うことが正しいとは限らない」は事実ではあるものの、それは科学者ではない素人の考えた施策を正当化する根拠にはなりません。なぜなら科学者は間違うことがあるのは確かではあるものの、非専門家はもっと間違う確率が高いためです。
こうした誤解はよくあるものなのですので、不正をして東大に入った人がいたケースで考えてみましょう。この場合、「たとえ東大生であっても学力が東大レベルにあるとは限らない」とは言えるものの、「東大に入れなかった人が東大生より学力が高い」とは言えないとわかりますよね。
一方、後半の「何でもやってみるべき」がなぜ危険なのか?と言うと、本来やるべきことをやらないことで問題解決を遅らせるだけでなく、様々な弊害が出て逆効果になってしまうことまであり得るため。科学的根拠のないことをとりあえずやってみる…というのは、皆さんが考えているより危険なのです。
こちらの方はわかりやすい例が思いつかず考えていたのですが、ひとつ思い出したのが「エイズの原因はHIVウイルスではない」という考え方に政治家が理解を示したことによる悲劇でした。そこまで今回の新型コロナウイルス問題とそっくり…という話でもないんですけど、参考として読んでみてください。
●「正義」の主張が非科学的言説を生む…「疑似科学」が持つ5つの特徴
2014/8/11:科学的に正しいわけではないが科学であるように擬態した説などについて、私は「疑似科学」と呼んでいますが、より批判的なニュアンスがわかりやすそうな「ニセ科学」「似非科学」(えせかがく)といった言い方もされます。橘玲さんはこのうちの「似非科学」という言葉を採用し、その特徴を以下の5点で表していました。
①一見するともっともらしい理屈を装っている。すくなくとも、専門以外の者が「たしかに一理あるかもしれない」と思う程度の説得力は持っている。
②その主張の背後に「正義」が隠されている。「こうあるべきだ」というイデオロギーが先にあり、それに都合のいいデータだけが選択的に集められる。
③自分に甘くて相手に厳しい。自らの主張を非科学的だと批判されると、「わずかでも可能性があるのなら対等に扱われるべきだ」と強弁する。それに対して相手のミスは絶対に見逃さず、完全無欠の証明を要求する。とりわけ、統計学的な議論はいっさい受け付けない。
④さらに立場が悪くなると、容易に陰謀論に走る。「自分たちの主張が間違っているように見えるのは、権力者が重要なデータを握りつぶしているからだ」などとすぐに言い出す。
⑤言い逃れができないような状況では、感情論を持ち出す。すなわち、「たとえ間違っていたとしても、自分たちの善意には意味があるのだ」などという。
●「エイズの原因はHIVウィルスではない」「放射能騒動」などが該当
上記の話は、
「エイズの原因はHIVウィルスではない」という似非科学はいかに生まれ、不幸を招いたのか([橘玲の世界投資見聞録] ザイオンライン 2014年6月12日)であったもの。
この記事は以前の
アメリカ人が信じるエイズ否認主義「原因はHIVウイルスではない」でも用いたものです。ですので、当然「エイズの原因はHIVウィルスではない」という「エイズ否認主義」は、これらの特徴に当てはまっているわけです。
また、元記事の書かれていた頃に話題になっていた、漫画『美味しんぼ』の「放射能」の影響について擁護する議論についても、すべてこの特徴を満たすと橘玲さんは書いていました。その他に、騒動が未だに収まらないSTAP細胞問題における擁護者の議論にも当てはまりそうですね。
●説得は無理…疑似科学を信じる人たちは放っておいた方が良い?
こういった疑似科学はきちんと否定されなくてはいけないでしょうか? その考え方は人によって異なります。
前回の
アメリカ人が信じるエイズ否認主義「原因はHIVウイルスではない」でやったように、疑似科学を信じる人というのは、一般的な科学の説などを否定するところに価値を感じていますので、言っても時間の無駄…というのはあります。結論ありきであり、彼らにとっては真実すらどうでも良いことなのです。
前回のエイズの話でも、専門家側は疑似科学的な言説を途中から相手にせず、放置しました。話の通じない相手と対話を続けることは、労多くして功少なしです。私も経験があり、理解できます。
また、むしろ否定するからこそ図に乗るのだ…という意見もあるでしょう。陰謀論と結びつきやすい彼らは、否定されればされるほどありがたがってますます疑似科学を信奉する…というところも確かにあります。
●相手にしないことが一番?疑似科学蔓延を放置した結果…
では、相手にしないことが一番の対策となるのでしょうか。そうとは限らないのではないか?と言うのが、実を言うと、これまたエイズの話から見えてくるのです。
実を言うと、検索上位に見える「エイズの原因はHIVウィルスではない」という説に、当のエイズ患者が共感し、治療を拒否してしまうというエピソードがあったんですね。目に見えやすいところに存在する時点で害悪なのだと考えられます。やはりこの検索順位を下げるように努力する必要があるでしょう。
また、未紹介だった逸話としては、南アフリカの悲劇もあり、やはり放置してはいけないだろうと思われる話でした。ムベキ南アフリカ大統領は「異論にも誠実に耳を傾けるべきだ」という考えで、大統領エイズ諮問委員会のおよそ半分をエイズ否認主義者にしてしまったのです。
さらに、ムベキ政権の保健相も、従来のエイズ患者の治療を許可せず、否認主義者が販売するビタミン剤を推奨するという選択をしてしまいます。結果、南アフリカでは、"1日にほぼ800人がエイズで死亡し、1000人が新たにHIVに感染し、産婦人科を訪れた妊婦の3割がHIV検査で陽性と診断される"という悲惨なことになったとされていました。
●疑似科学, ニセ科学, 似非科学はすべて批判されなくてはいけない
また、表現の自由との関連としては、橘玲さんは別の記事を書いていました。
「表現の自由」を守って似非科学を擁護したことでエイズの蔓延を引き起した悲劇[橘玲の日々刻々] ザイオンライン 2014年6月9日という記事です。
「自分に甘く他人に厳しい」というのは人間の本性でしょうが、それが目に余るのは似非科学を振りかざすひとたちです。
彼らはまず、相手に対して厳密な証明を求め、すこしのミスも許しません。そして、自分の主張が非科学的だと批判されると「表現の自由」だと言い張ります。
似非科学が流布する背景には、それを支持する知識人(と呼ばれるひとたち)がいます。彼らは、あらゆる意見には発言の場が与えられるべきであり、国家権力がそれを制限するのは不当だといいます。
これは一見、正論のようですが、だとしたら「朝鮮人を殺せ」と叫ぶ集団の表現の自由も命がけで守らなければなりません。しかし彼らは、そんなことをする気はまったくないでしょう。「表現の自由」は、自分の気に入った意見にだけ適用されるのです。
(引用者注:この論法は左右逆で右派のヘイトスピーチ正当化でも多用されていますので、左派特有の問題ではありません。橘玲さんは他の記事でも、多少右派より左派に批判的なところがある気がします)
こういった犠牲があることを考えると、やはり疑似科学は批判されるべきでしょう。そういえば、以前やった
マスコミとネットの健全性「福島放射線でヤマトシジミ異常」報道の例でもそういったことを書いていましたね。
疑似科学に完全に染まってしまった人は変えられないにしても、その予備軍を減らすことは可能でしょう。疑似科学による犠牲者を減らし、大量虐殺を防ぐためにも、我々は疑似科学を批判する必要があるのです。
【本文中でリンクした投稿】
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