JAXA研究関連のまとめ。<JAXA古川聡飛行士らの研究で不正 データ捏造の他に別の問題も…>、<JAXA論文が盗用の研究不正、Rachid Amrousse・堤明正らの論文>、<過去にははやぶさ論文も撤回、隠蔽の疑いも>などをまとめています。
7番目に追記
2023/01/06追記:
●不正が相次いだのは必然?政府推進の大型予算と企業連携が理由か
2023/01/28追記:
●研究費削減・重点配分・企業連携…日本の重要論文順位急激に低下
2023/03/01追記:
●低レベルなJAXAの研究にむしろ大量の税金が投入される不思議 【NEW】
●JAXA古川聡飛行士らの研究で不正 データ捏造の他に別の問題も…
2022/11/26追記:
JAXA古川飛行士の研究で不正 実験データ捏造、改ざん:東京新聞 TOKYO Web(2022年11月25日 17時16分 (共同通信))によると、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が、緊急記者会見を開き、古川聡飛行士(58)が総括責任者を務めた実験で、参加した研究者がデータを捏造、改ざんする不正行為があったと発表したそうです。
<不正があったのは、茨城県つくば市にある宇宙基地を想定した閉鎖環境施設で16~17年に実施した実験。計40人の成人を約2週間滞在させ、精神的なストレスなどを評価したが、いないはずの研究者が参加したように記録するなどしていた>
不正の例として具体的だったのは、<いないはずの研究者が参加したように記録するなどしていた>というものだけ。ただ、その前に「データを捏造、改ざんする不正行為があった」とあるので、こちらの方がより悪質。ひょっとしたら「いないはずの研究者」もデータ捏造に絡んだものかもしれません。
JAXAは古川聡飛行士について処分を検討するものの、2023年ごろに予定している国際宇宙ステーション(ISS)滞在計画については変更しない方針を示したとのこと。不正を行ったのは別の研究者のようですので、これに絡んで「古川聡飛行士に責任はない」という擁護もあるかもしれません。
ただ、この擁護は無理筋。古川聡飛行士は、「総括責任者」なのですから「責任」があって当然というか、責任を取らないとむしろ問題があります。本来でしたら、こうした不正などがないように責任を果たさなくてはいけませんでした。これは、仮に研究に全然関与せず、名前を貸していただけだった場合も同じです。
仮に名前を貸していただけだった場合は、実績を水増しする・有名人物の権威で研究の評価を上げるなどといった別の問題が発生。先程あった「いないはずの研究者がいる」で多いのは、名前だけ入れて実績づくり…というパターンですね。これも不正の一種である不適切行為であり、どちらにせよ問題だと言わざるを得ません。
●「飛行士、時間ない」発言は、擁護ではなく実質「不正の自供」
2022/12/03追記:<「飛行士、時間割けない」 研究不正、古川氏を擁護 JAXA幹部>(22/11/26(土) 7:39配信 時事通信)という記事が出ていました。どうもJAXA幹部は古川聡・飛行士の擁護のつもりで発言したようなのですけど、これは私が前回最後に書いた不正の「自供」になっています。むしろ不正が決定づけられてしまいました。
<宇宙飛行士の古川聡氏(58)が責任者を務める宇宙医学の研究でデータの捏造(ねつぞう)などの不正が発覚したことを受け、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の佐々木宏理事は25日の記者会見で、「本人は指導が足りなかったと反省している。宇宙飛行士は仕事が多く、十分に時間が割けなかった」と擁護した。
問題となったのは、将来の火星探査などを想定し、長期間の閉鎖環境下でのストレスを測る実験。被験者への面談が適切に行われていないのに、記録が捏造されたり、診断結果が鉛筆で書き換えられたり、佐々木理事の口からは宇宙開発を担う研究開発機関とは思えないずさんな実態が次々と明らかにされた>
https://news.yahoo.co.jp/articles/5ce10e0d2fc837ed469c7624b5b9522eeae7a256
前回書いたように、古川聡飛行士を「総括責任者」にするのでしたら、その責務を確実に実行しなくてはいけません。実験について十分に関わることができないのに「総括責任者」という役職をやっていたのであれば、それはもう不正に限りなく近い状態です。この幹部は研究不正問題に無知だから逆効果なことを言えたのでしょう。
さらに、<来年に予定されている古川氏の国際宇宙ステーション(ISS)長期滞在について話が及ぶと、「研究責任者に求められる資質と、宇宙飛行士の資質は異なる」と繰り返した>ともあって唖然。「研究責任者に求められる資質」がない人を「総括責任者」にするのが、そもぞも大問題なんですよ。全然理解していませんね。
ただ、研究論文の考え方としては完全に間違っているこの擁護を、一般の人は受け入れちゃうかもしれない…と思ってヤフーニュースのコメント欄を見てみました。すると、そもぞも私が指摘した問題に触れていない人も多かったのですが、とりあえず、幹部の言い訳に騙されているコメントは上位にありませんでした。
<古川聡宇宙飛行士が研究代表者を務めたいた、将来の火星探査などを想定し、長期間の閉鎖環境下でのストレスを測る実験で、被験者への面談が適切に行われていないのに、記録が捏造されたり、診断結果が鉛筆で書き換えられたり、ずさんな実態が次々と明らかにされている研究について、文部科学省の科学研究費補助金など計1億9千万円が使われたと報じられています。
(中略)この不祥事については、JAXAの佐々木宏理事と研究代表者の古川聡宇宙飛行士は管理責任をとってJAXAを辞職すべきだと思います>
<「十分に時間がさけなかった」として擁護しているが 研究責任者である以上、その様な言い訳は通用しないし 古川氏は責任者としての責任を取るべきでしょう>
<そもそも実際の研究ニーズよりもJAXAのPRの為に強引に始められた研究の匂いがする。だから知名度を利用しようと「忙しい」宇宙飛行士をわざわざお飾りの責任者にしたのだろう>
<だったら本来研究責任者の資格はない
時間割けなくてもチェック出来なくても責任者は責任を取るのが研究では当たり前
責任者を有名人にしておけば研究費取りやすいのは事実だが、責任も負う必要が出る
自分で管理できなければ実施責任者にしっかりとした人を置いてキチンと管理するのが普通
秘書が勝手にやった 知らなかった 自分は関係ない 単純なミスで修正して報告します いざとなれば黒塗り、捏造、隠蔽、シュレッダー、責任転嫁 政治の世界は楽で良いですね>
<研究に時間が割けない人を研究の総括になぜしたのでしょうか。有名な人を割り当てることで、論文の閲覧数を上げたかっただけですね。このような多忙な人を総括に選んだこと自体も、JAXAに責任がある>
●2億円の公費使って研究ノートすらなし!参加企業も怪しい動き
2022/12/10追記:JAXAの不正ニュースのコメント欄を見ると、もう少し詳しく報じられている感じだったので、検索。ただ、全然見つかりませんね。とりあえず、
費用2億円、研究ノートなし JAXAの研究不正、関係者も苦言|【西日本新聞me】(2022/11/26 6:00)という記事タイトルから、研究ノートすらなかったというので考えられないレベルの低さだったことがわかります。
ただし、これは有料記事だったので、詳細はわかりません。で、考え方を変えて、社説で取り上げている新聞がいくつかあったので、そちらを読んでみることに。
(社説)JAXA不祥事 組織の問題点洗い出せ:朝日新聞デジタルでは、やはり研究ノートに触れていました。これに2億円突っ込んでるって、本当考えられませんね。税金の使い方がおかしいでしょう。
<JAXAの報告書には、研究ノートがほとんど作成されておらず、後から確認することができなかったという信じられない記述も出てくる。態勢の立て直しが不可欠だ>
<2016~17年に計5回実施されたこの実験は、宇宙での長期滞在を念頭に専用施設で2週間過ごしてもらい、血液や唾液(だえき)などのデータや精神状態の変化を調べるものだ。応募した約1万1千人から選ばれた40人が参加したといい、多くの善意と信頼を裏切った>
<実験の責任者らは動機や理由について「業務多忙」を挙げているという。計1億9千万円の公的な研究費が使われており、到底許されない。計画は事前の内部審査で2度不承認になった後に承認されており、この段階で問題を把握できていた可能性もある。個人の責任に帰するのではなく、組織の問題として捉えるべきだ>
報告書によれば、共同で参加していた企業が18年、自社の商品紹介と合わせて結果の一部を先行して発表しており、「この点も極めて不適切」と指摘。ここらへんもきな臭いところ。政府やJAXAは現在、分野の企業参入を積極的に支援しているそうで、企業への利益供与的なところも疑いたくなってきます。
●古川聡飛行士、無関係どころか隠蔽を主導?報告遅らせた可能性
2022/12/16追記:前回に続きもう一つ別の新聞の社説を読んでみました。
〈社説〉JAXA実験不正 宇宙開発の信頼を損なう|信濃毎日新聞デジタル(2022/12/07 09:31)では、JAXAの報告書から以下のようなずさんすぎる実態が明らかになっているとのこと。日本中で研究資金不足になっている中、このお粗末な研究に2億円というのは、本当考えられないです。
<JAXAの報告書によると架空のデータの作成、データの書き換えなどの不正行為のほか、計算ミスや未記入も多数あった。研究ノートがほとんど作られていないため、その日に何がどう実施されたのかを確かめるすべがない。あまりにずさんで、実験の体を成していない>
さらに社説では、研究実施責任者を務めた宇宙飛行士で医師の古川聡さんが「不正への直接関与はなかった」としている点についても疑問視。隠蔽したのではないか?という話ですね。また、当初は古川聡さんを目立たせて宣伝に使っていたのに、不正判明後はかばって隠していることも指摘。組織全体に問題を感じます。
<不正発覚のきっかけとなったミスが18年1月に判明した際、報告を受けた古川氏は、JAXA倫理審査委員会に報告せずスケジュールを優先しようとした―。結果として報告は翌月にずれ込んだ。
JAXAは、宇宙飛行士として知名度の高い古川氏を実験の前面に押し立ててきた。研究代表者として採択された文部科学省の研究費は、合計で1億円近くに上る。16年には古川氏が記者会見を行い研究の意義を語っている。
不正が明るみに出ると一転、かばい立てに懸命だ。報告書では古川氏の名前が伏せられ、会見にも同席していない。理事は「飛行士の業務が多く、研究に十分な時間を割けなかった」と説明する。であれば、研究全体の責任者のポストに置くべきではなかった>
不正を隠蔽した点については、社説より先に<古川飛行士、倫理委に報告せず JAXA実験不正、発覚当初>(22/12/5(月) 21:54配信 共同通信)などの記事が出ていました。これを証言した関係者は「古川氏の責任が矮小化されている」と指摘。古川聡さんは無関係どころか、隠蔽を主導した可能性があるようです。
<発覚するきっかけとなったミスが2018年1月に判明した際に、報告を受けた古川氏が不正問題を担当するJAXA倫理審査委員会には報告せずにスケジュールを優先しようとしたと、当時の関係者が5日までの共同通信の取材に証言した。関係者は「古川氏の責任が矮小化されている」と訴えている>
https://news.yahoo.co.jp/articles/f7e4d49e54459b1a2cd147112d77b557bf66ea5f
●「ストレスを受けやすい弱い人で実験しよう!」結論ありきで不正
2022/12/23追記:古川聡飛行士が責任者だった研究での不正の件では、<「13泊14日で38万円のバイト」と話題だったが…JAXAの「宇宙兄弟ごっこ」が研究成果"ゼロ"に終わったワケ>(22/12/12(月) 8:16配信 プレジデントオンライン 知野 恵子)という記事が出ていました。2億円かけて不正して成果ゼロは特に重いです。
<この研究は、2016年から17年まで5回にわたって行われた「長期閉鎖環境におけるストレス蓄積評価に関する研究」。宇宙の閉鎖環境を模擬した施設の中で、健康な成人8人に13泊14日過ごしてもらい、血液、尿、心拍、唾液などの生理データや、研究者による面談や精神心理状態分析を基に、ストレスを調べる、というものだ>
<研究は、開始前から世間の関心を呼んだ。
閉鎖環境下での宇宙飛行士の選抜試験の様子は、人気マンガ『宇宙兄弟』(小山宙哉、講談社)にも登場するので親しみやすさもあるが、特に注目を集めたのは、研究に参加する被験者への謝礼だった。
JAXAが外部企業を通じて行った被験者募集では、「協力費」、つまり謝礼は総額38万円。ここに多くの人が反応した。
「2週間ひきこもるだけで38万円もらえる」「宇宙兄弟ごっこをして38万円とは、おいしいバイト」などの投稿がさかんにSNSに投稿された。
約1万1000人が応募し、その中から42人が選ばれ、5回の実験の被験者になった>
https://news.yahoo.co.jp/articles/921da5d3faaadba0b8e4b584dfe0e8b1bb2808c6?page=1
こちらによると、まず、2017年の実験で、血液サンプルの取り違えが発生。それをきっかけに、JAXA内で調査を進めたところ、データの捏造や書き換えなどの不正がぼろぼろと出てきた…という経緯だといいます。不正は、面談や精神心理テストで行われており、捏造やデータ書き換え、ルール違反など、不正のオンパレードでした。
・研究者3人が被験者を面談してストレス状態を評定するはずだったが、2人で行い「3人で面談を実施」と記載した
・ストレスの評価方法が曖昧なまま実験を開始し、最後までそのままだった
・面談をしないで評価を行った
・面談の評価の書き換えが多数あった
・精神心理テストで、多くの計算ミスがあった
・人を対象とする実験に求められる文部科学省・厚生労働省の倫理指針に抵触していた
・JAXAの内部規定を守っていなかった
「ストレスの評価方法が曖昧なまま実験を開始」の時点ですでに研究になりませんね。最初に評価基準を決めておかないと、後から都合よく結果を主張できるため。日本の製薬会社の作った新型コロナウイルスでの新薬評価で後から基準を変えて「効果あり」と主張しだして問題視されたのも、同様の理由です。
JAXA実験は最初に評価基準がなかったので、新型コロナウイルスでの新薬よりさらに悪い例。ストレスに関する、はっきりしたデータが取れなかったため、「2回目以降はストレスに弱い被検者を選択する」と研究者が発言したことも、報告書に記載されており、最初から結論ありきで不正だらけの実験だったようです。
●共通点アリ…過去にも多額の予算集めた企業参加の研究でニセ科学
2022/12/29追記:前回記事の続き。佐々木宏・JAXA理事は古川聡飛行士を変に擁護していた方でしたが、研究については「研究不正以前に、研究計画が稚拙で、科学合理性がなかった」と話していたとのこと。非科学的なものだったんですね。これにより、どちらにせよ「研究成果も公表できない」という成果ゼロになります。
繰り返すように問題なのは、日本中の研究者が資金不足に苦しむ中、こうした研究に「JAXA予算から9500万円、文科省の科学研究費補助金(科研費)から9600万円、計1億9000万円が使われた」ということ。言及がなければ私も書こうと思っていたのですが、過去にも多額の資金を集めた企業共同研究でニセ科学実験があったんですよ。
<JAXAの研究不正が組織内で判明した頃、内閣府の大型研究でも問題が発覚した。「失敗を恐れない」「年度ごとの予算にとらわれず、大型資金を出す」「ハイリスク・ハイインパクト」など、国の研究費の常識を覆すという触れ込みの研究事業「革新的研究開発推進プログラム(ImPACT=インパクト)」(引用者注:安倍首相(当時)の肝いり政策でした)でのことだ。
公募した16人のプロジェクトマネージャーに予算と権限を与え、さまざまな研究者や組織を集めて、研究テーマに取り組んでもらう。そのために550億円の基金を新設した。問題になったのは、その中のひとつ、大手IT関連企業と大手製菓会社との実験だ。
この研究チームは、2017年1月に記者を集めてセミナーを開き、「高カカオチョコレートを4週間食べると、脳の動きが活発化し、脳が若返る可能性がある」と発表した。製菓会社は新聞に大きな広告を出すなど、大々的に宣伝し、発表には内閣府の担当者も同席した>
しかし、すぐに学術界やマスコミから批判が殺到。実験の基本中の基本である、「チョコレートを食べた人」と「食べなかった人」を比較していないという、信じられないお粗末さだったためです。子供の自由研究ですよ、これ。うちでは、
研究費不足の中、日本政府と明治のニセ科学研究に多額の税金投入でやった話でした。
●不正が相次いだのは必然?政府推進の大型予算と企業連携が理由か
2023/01/06追記:前回、<共通点アリ…過去にも多額の予算集めた企業参加の研究でニセ科学>といった話がありましたが、プレジデントオンライン記事作者の知野 恵子さんは、これらで不正が起きたのは偶然ではなく構造的な問題があるのではないか?としていました。大型化そのものにリスクがあるという指摘です。
<2000年代に入ってから、政府は国の政策に沿った研究に多額の予算を注いでいる。イノベーション」を起こすために、組織の枠を超えた多人数での研究体制や、産業界との連携を推進している。しかし規模が大きくなればなるほど研究チームなどの構造が複雑化し、全体像をつかみにくくなる。責任者の目も届きにくくなる。JAXAのケースでは、不正を働いた研究者は2人だというが、1回あたりの実験に60人~80人の研究者が関わっていたという>
研究者が多いと監視の目が行き届かなくなるので、一理あります。ただ、2つの研究はそれ以前の時点、スタート地点からしておかしかったかもしれません。知野 恵子さんは、政府がもう一つ推進する「産業界との協力」も非科学的な判断や企業の宣伝優先を招くおそれがあるとしており、こちらも問題でしょう。
なお、作者は以前、東大教授から「日本の宇宙実験や研究の中には、レベルが低いものがある」と聞かされたそう。そもそもレベルが低いようです。これは宇宙実験の場合、レベルが低くても「宇宙では初めて」などとアピールできるためだとのこと。結局、これも政府の予算配分のあたりが問題だと考えられるでしょうね。
●研究費削減・重点配分・企業連携…日本の重要論文順位急激に低下
2023/01/28追記:ここまで書いてきた話のまとめ的な感じになりますが、今回は日本の研究事情について。日本は政府方針により研究費不足に陥っています。一方で、政府は一部の研究にだけ重点的に予算を配分。しかし、JAXAのようにこうした重点配分の研究で不正やニセ科学的な内容が問題になっています。
前回まで引用してきた記事のヤフーニュースでは以下のようなコメントがあり、企業連携を優先するため問題が起きやすくなっているとの見方。この企業連携も政府方針です。加えて日本の重要論文ランキングが急激に低下しているという事実があり、政府方針のせいで日本の研究レベルは著しく低下していると言わざるを得ません。
<政府のこの種の大型予算ならありうるよね。本来は研究の能力と実績のある研究者が代表者になって、研究能力のあるメンバーを集めて申請して予算を獲得するもの。だけど、政府のこの種の大型予算では、産業界との連携や社会的なインパクトを意識して、必ずしも研究者として能力や実績がある人が代表者やメンバーになっているとは限らない。ある種の裁量が働いて、研究以外の要素で採択されている。当然、不正や企業の宣伝に使われるなど、今回のような問題が起きる可能性はある。そもそも、公的研究費にこういう「特別枠」を設定してること自体が変なんだけど>
●低レベルなJAXAの研究にむしろ大量の税金が投入される不思議
2023/03/01追記:メモしていた<高市早苗氏「JAXAの対応は非常に遅い」…古川聡宇宙飛行士のチームで研究不正>(読売新聞オンライン)は、報道初期である2022年11月29日の記事。今回の件はすでにたくさん書いたので削除してしまう気でいましたが、読み直すと気になる反応があったので紹介します。
<宇宙航空研究開発機構(JAXA(ジャクサ))が宇宙医学の実験でデータ捏造(ねつぞう)などの不適切行為を行った問題を受け、高市科学技術相は29日の閣議後記者会見で「報告などJAXAの対応は非常に遅い」と批判した。
(中略)2017年に検体の取り違えが起き、その後、JAXAの研究者2人によるデータ捏造などもわかった。高市氏は文部科学省への報告が21年だったことから「速やかに公表、報告し、調査をするのが望ましかった」と述べた>
https://news.yahoo.co.jp/articles/e5cb9091ecd71f780b3f2a68ad44019bfba2f1b9
コメントは11件と少ないので、ヤフーニュースコメント欄の創意といった感じではありません。批判だらけであり、この批判は主に3種類。「(1)自民党の対応の遅さよりマシなどの批判」「(2)JAXAを所管するのは大臣なので政治家自身の責任」「(3)日本の宇宙事業は基本的に低レベルすぎる」といったものです。
今回読み直して気になったのは、このうちの「(3)日本の宇宙事業は基本的に低レベルすぎる」ですね。今回の報道でも日本の宇宙研究は低レベルなものがあるという声が出ていた他、宇宙技術全般も以前レベルが高くないと言われていた覚えがあり、ある程度そういった認識が広まっているのかもしれません。
(1)自民党の対応の遅さよりマシなどの批判
<「速やかに公表、報告し、調査をするのが望ましかった」
なぜそれを安倍さん菅さん岸田さんに向かっては言えなかったのか。立場の弱い人には強気でいられるのかな?>
<JAXA対応が遅いと言うけれど自民党の統一協会問題への対応があまりにも遅すぎるのよりはマシだと思う>
<政治、特に国政については遅いとかスピードの話以前だろ>
<統一信者一択のネット番長登場>
(2)JAXAを所管するのは大臣なので政治家自身の責任
<JAXAを所管する科技大臣と文科大臣は責任を取って辞任すべき。高市と永岡はJAXAに文句を言う立場ではなく、当事者。古川氏は懲戒免職もの>
<担当、所轄大臣の責任だな>
(3)日本の宇宙事業は基本的に低レベルすぎる
<こんなの氷山の一角。JAXAの研究なんて学芸会の方がまだマシなレベル。何故これだけ税金がゴミみたいな研究に使われているのか厳しく見る必要がある>
<挽回できない程で遅れているのだから他国に任せた方が良い>
●JAXA論文が盗用の研究不正、Rachid Amrousse・堤明正らの論文
2018/11/13:検索してもニュースが見つからないですし、大学での研究不正などならあるリリースもJAXAでは見つからないのですけど、JAXA論文が盗用の研究不正で撤回されたとのことで、はやぶさ論文のこの投稿に追記しておきます。
●過去にははやぶさ論文も撤回、不正なのか単なるミスなのか?
2014/8/30:不正疑惑にはなっていないんですけど、論文撤回なので
研究不正疑惑についての投稿まとめに入れようかな?と迷って、やっぱり
科学・疑似科学についての投稿まとめに入れることにしました。…と書いているうちにもう一度撤回は研究不正系に含めた方がわかりやすいかな?と思ってきて、やっぱり不正研究の話として書きます。
もちろん望ましいのは撤回されない論文ですが、ミスにより撤回される論文というのはあります。ミスを隠す方がずっと良くないんですから、堂々と研究不正疑惑とは別にしておきましょう…と最初書いていたものの、下書きしている途中で結局研究不正に入れた方がふさわしいと思ったため。理由はその気づいた部分で説明します。
では、本題。
「はやぶさ」のデータ 処理に誤り 論文撤回 NHKニュース(8月29日 17時11分)というニュースが入って参りました。この論文、最近のものではなくかなり前のものです。"日本の小惑星探査機「はやぶさ」のデータによって小惑星の成分を明らかにした8年前の論文"だそうです。アメリカの科学雑誌「サイエンス」に掲載されていたのですが、"JAXA=宇宙航空研究開発機構は、データの処理方法に誤りがあったとして、この論文を撤回する"ことを公表しました。
●論文の結論は変わらない…JAXAは解析ミスだとして、不正は否定
JAXAは<「はやぶさ」と同じタイプの観測機器に不具合が見つかったことをきっかけに当時のデータ処理の方法を見直したところ、ことし7月、誤りがあったことが分かった>と説明していました。
また、この論文の「調査した小惑星の成分は、地球に飛来する隕石(いんせき)と同じだと推定される」という結論は変わらないとしています。これは怪しい主張だと思いましたが、"はやぶさが地球に持ち帰った微粒子の分析でも得られているため、事実関係に変更はない"という説明。なるほど、これ自体は筋が通っています。
当時の論文掲載を伝える記事は、
「はやぶさ」の成果が科学雑誌「サイエンス」の特集に!【2006年6月2日 宇宙科学研究本部 宇宙ニュース / 小惑星探査機 はやぶさ】で読むことができます。こちらも今回の件を受けて更新がされており、NHKと同様の内容をもっと専門的に書いていました。
<2014年8月29日更新
掲載論文の1つ「はやぶさ探査機による小惑星イトカワの蛍光X線分光観測」について、論文中の蛍光X線データの解析方法に誤りがあったことから、主著者らがサイエンス誌に対し論文の撤回を申し入れた。「イトカワの元素組成は地球に多く飛来する隕石(普通コンドライト型隕石)と同じ組成である」という論文の主な結論についてはその後のサンプル分析により解明され、結果として影響はない>
初めのところに不正疑惑うんぬんの話を書きましたが、JAXAはこの点にも触れており、
はやぶさ論文、撤回申請 解析に誤り「不正はない」 ― スポニチ Sponichi Annex 社会[ 2014年8月29日 12:44 ]なんかは記事タイトルにもそれを入れています。
JAXAの説明は「データの解析法に誤りがあることが判明し、論文の結論を主張できなくなった。故意ではなく研究不正にあたらない」というものです。観測データを再調査すると、正しくは街頭の観測データの場合、"岩石の成分が何であるかは分からないという結果"だったみたいですね。
●ミスには以前から気づいていて隠蔽した可能性
ただ、NHKのところで引用した<ことし7月、誤りがあったことが分かった>の部分は、少々怪しいところがあります。
はやぶさXRSに係る論文撤回の申し入れに関する記者説明会(の質疑応答) - ただいま村( いまむら (id:Imamura) )に、記者会見の様子が載っていました。
これによると、「データ解析が間違っているのではないかと気付いたのは論文が出る前だったのか」という質問が出ています。それに対し、「気付いていたとは思うが…」と主著者の岡田達明JAXA宇宙科学研究所 太陽系科学研究系/准教授は答えています。
結局、この点は明確にならずに、藤本正樹JAXA宇宙科学研究所 太陽系科学研究系/研究主幹・教授が続けて発言。「当該論文は2006年、次の論文は2008年に出ている。2本目の論文の主要著者は別の解析方法に気付いていた。そのときもっと議論をして訂正するかどうかを話題にしていればと思う」という内容でした。
「訂正するかどうか」とありますから、藤本教授の説明を採用したとしても、2008年には気づけていたと思われる言い方です。今日の最初の部分で"ミスを隠す方がずっと良くないんですから"という話をしましたけど、その意味でいうと、ここらへんは良くない感じでした。
●解析ミスではやぶさ論文撤回、不正は否定 思い込みの魔力のせい?
また、研究者として注意しなくてはいけない点、不正に繋がりかねない点として重要な「思い込み」の魔力がこの件でも出てきています。STAP細胞問題で言う「STAP細胞はあると信じること」ですね。
NHKによると、岡田達明准教授は「データの処理に問題があることに気付くべきだったが思い込みがあり、事前の予想に引きずられてしまった。共著者間の情報共有も足りなかった」と話していたそうです。
また、先の質疑応答では、藤本正樹教授も「ミスとしてはどういうレベルか」の質問に以下のように回答していました。
「けっこう恥ずかしいこと。論文の撤回はすごいことなので。根本的に準備不足。信号が弱かったときどうするかなどの戦略をもっと考えておくべきだった。
根本原因にこういうデータが取れるはずという思い込みがあった。探査でこういうデータが出るはずと思うのだったらなぜ探査するのか。思い込みがあると目が曇る。探査計画を立てるときに『ここを探査するとこうなるはず』と書く。実際にやるときはそれをいったん忘れて、ある種謙虚な気持ちを忘れてはいけない」
こういった不正に繋がりかねない典型が見られるので、うちの投稿分類としては不正研究疑惑に入れた方がいいと考えました。
●「撤回になるような論文を出す科学者はいない」は本当か?
なお、記者会見では不正の疑いについて、この後もかなりツッコまれています。たとえば、論文は「はやぶさの特集号が出たときの1本であろう。データが不十分だったのに多少無理があっても論文として提出するという動機がこの論文が出された理由にないと言いきれるのか」という質問が出ています。
岡田准教授は「解析の手法に問題があったとあとでわかった。妥当だったかは別として、決めたプロセスにのっとって答えを出したということ。研究結果に問題があると自覚しつつ論文を書いたわけではない。XRSの十分なレビューがされていなかった。データ処理に問題があり気付いてもおかしくはなかった。事前のレビューが足りていなかった。ただ無理をして出したというつもりはない」という回答。
さらにこの後、藤本教授は「論文の撤回は大きなペナルティになる。特集だから無理してでもということは科学者は行わない」としていますが、これは実際の現実と合わないマズい回答だと言えます。ペナルティになるから無理はしないなどと言い出すと、不正をする研究者は世の中に存在しないということになりますからね。実際には無理してやる科学者がいるから、研究不正が存在するのです。
こういう非論理的な説明がまかり通っているから、研究不正がなくならないと思うんですよね…。
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