人々は「叱ることが大事」の方が有効だと信じるために、あまり人気がない「褒めて伸ばす」。この「褒めて伸ばす」試みでおもしろい!と思ったのが、青少年の犯罪が多く、犯罪率も高かった地域で、大きく改善したという王立カナダ騎馬警察の試みでした。この内容は、ビジネスで知られている研究成果とも通じるものがあり、子供の教育全般でも使えるものだと考えられます。
2022/03/25まとめ:
●褒めることの効果は自分にもある 褒めることは気持ちいいことだ
●良い人間を悪い人間に変えることは可能!実験でも証明済み
2014/9/2:以前、
ミルグラム実験とスタンフォード監獄実験 ネットリンチと正義の暴走を書いたのは、今回の記事
「スタンフォード監獄実験」の逆は実行できるか | グレッグ・マキューン/HBRブログ|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー(2014年05月14日)を紹介したかったためでした。
作者のグレッグ・マキューンさんはスタンフォード監獄実験の教訓を、"W・エドワーズ・デミングが著したように、「悪しきシステムはいつも、善良な人間を打ち負かす」ということだ"としていました。
これを踏まえた上で、では、その逆は成り立つだろうか?というのが、この記事のメインの話。逆というのはどういうことかと言うと、"小さな成功の積み重ねにより、「善良への階段をゆっくりと、1段ずつ上る」仕組みを設計する"ことはできるだろうか?というものです。
●王立カナダ騎馬警察が良い行いをした若者に善行切符ばらまき
再犯率が約60%で青少年の犯罪が急増していた王立カナダ騎馬警察(RCMP)のリッチモンド署において、新任の若き署長ウォード・クラッパムさんはこれまでと違う取り組みをやってみました。よい行いをしている若者をつかまえて「ポジティブ・チケット」(善行切符)を与えるという奇妙な試みです。
なんか小学校でこういうのありそうな取り組みですね。褒めて伸ばす…みたいなイメージでもあるかな? だとすれば、これは大人の社会でも通じる考え方だと言えるでしょう。しかも、善行によってもらえるポジティブ・チケットは"映画館や地域の青少年センターなどに無料で入れる"というものなので、実用性もあります。
リッチモンド署は年間平均で4万枚のポジティブ・チケットを与えました。この数字だけ見てもイメージが湧かないでしょうけど、同期間に切られた違反切符の3倍と聞くといかに多くのポジティブ・チケットを配ったかがわかります。相当熱心にやったようです。
●「褒めて伸ばす」の絶大な威力 青少年犯罪が半減した警察署の試み
作者のマキューンさんは、この比率は結果的にほぼロサダラインと呼ばれる比率になっていると指摘。これは、チーム内でのポジティブな感情がネガティブな感情の2.9倍を超えればチームの成功につながる、とされる比率であるということを指摘していました。
先程何気なく「大人の社会でも通じる」だとか「褒めて伸ばす」だとか書いたんですけど、ロサダの法則でしたらモロに社会人向けの話。うちでも過去に
部下を叱る上司は皆馬鹿である 最低でも3回褒める・1回怒るのバランスが必要で紹介しています。
ロサダの法則のようになっているってのはわかりましたが、これに犯罪抑止効果があったかどうかが問題です。まあ、この流れなら予想できるでしょうけど、本当に効果はあったのです。
"クラッパムによれば、青少年の再犯率は60%から8%へと低下し、犯罪の数は全体で40%減少、青少年による犯罪は半減し"ました! 劇的な効果です。しかも、"コストは従来の司法制度の10分の1に抑えられた"という副産物もついてきました。良いことづくめですね。
●小さな成功でも積み重ていくだけで社員のモチベーションが上がる
記事ではここから、私が結びつけたようにビジネスの話に。考えてみると、これはビジネス記事ですので、ビジネスに話が結びつくのは当然だったかもしれません。
マネジャーは従業員に比較的小さな成功の積み重ね(進捗)を経験させることで、満足度とモチベーションを著しく高めることができるとされている、と書かれた"The Power of Small Wins"(進捗の法則)という論文も紹介しています。さらに具体例まで出していました。
1.ミーティングの冒頭で5分間、「前回のミーティング以降、うまくいっていることは何だろう」とメンバーに話し合ってもらう。
2.毎日2分間、よいことをしている人を見つけるために時間をとる。
3.オンラインの掲示板をつくり、従業員やパートナー企業、そして顧客までもが、日々感謝する対象を共有できるようにする。
(メディア・出版会社Mind ValleyのCEO、ビシェン・ラキアニがGratitude Logで実行しているとのこと)
ビジネスの話、犯罪の話…という内容ですけど、この概念は子供に対してもおそらく有効でしょう。犯罪の話はもともと青少年犯罪に対して…という話でしたから、なおさらその可能性を感じさせます。一言で言うと褒めて伸ばす…なわけですけど、事例などが豊富でたいへん有意義な記事だったと思います。
●褒めることの効果は自分にもある 褒めることは気持ちいいことだ
2014/8/28:ここから「褒めることの効果は自分にもある 褒めることは気持ちいいことだ」というタイトルで書いていた投稿をまとめ。面白法人カヤック代表取締役の柳澤大輔さんは、昔メルマガで毎回1人の社員を褒めちぎるというコーナーをやっていたそうです。
知人から「社長が社員を景気づけるというマネジメント方法もあるんだなと感心した」と言われたそうですが、実は好き好んでやっていたわけではないとのこと。古参の社員に「創業者の3人は全然人を褒めない。人を褒めることを学ぶためにやってみたらどうか」と言われて始めたものでした。
しかも、「これは全員褒めてあげないと不公平です」と言われてしまい、毎週原稿を催促されながら必死にやる羽目に。ただ、辛いことばかりだったかと言うと、そうでもありません。柳澤さんは「人を褒めるというのは、案外気持ちがいいものだ」と気づいたと言います。
褒めることの重要性は何度か書いています(
部下を叱る上司は皆馬鹿!怒るの3倍褒めるロサダの法則は嘘だった?など)が、それは褒められた側の効果でした。しかし、今回の自分が気持ちいいってのは相手ではなく自分への効果です。これはおもしろいですね。
●褒めまくったら、いい感じの「正のスパイラル」が生まれる…
この話が書かれていた記事のタイトルは、<褒めまくったら、いい感じの「正のスパイラル」が生まれる>(日経ビジネスオンライン 2014年6月11日)でした。多くの「褒める」の話がそうであるように、もちろん相手にも良い効果があります。褒めることで良い連鎖が起きるのです。
<褒めている過程でその人のことを好きになる。褒められた側も決して悪い気持ちにはならない。相手がまんざらでもないうれしい顔をしていると、こちらもまたうれしくなる。このような正のスパイラルが生まれます>
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20140609/266490/
私も経験あるので同意しますが、絵師の人がリクエストされたキャラクターの絵を描いたら「描く前より好きになった」と言っていました。これは相手の良いところを探す…というのと似た感覚だと思います。この他に柳澤大輔さんは、お互いを永遠に褒め合うという、すごい飲み会のことも勧めていました。
<だまされたと思ってぜひ一度やってみていただきたいのですが、これほど楽しい飲み会はありません。数人で集まって相手を褒め合うと、その飲み会が終わった時に本当に楽しくなるので不思議です。それがどんな相手であろうとです>
これは何か冷めた気持ちになりそう…と水を差すようなことを言いたくなりますけど、飲み会という席なら勢いでイケそうな感じ。こうやって読んでいると、褒めると自分にも良い効果がある!という話は結構あるのでは?と思い、ネット検索してみました。しかし、予想に反して全然出てきません。私や柳澤さんみたいな人はひょっとしたら少数派なのでしょうか…。
●相手を気持ちよくさせる上から目線にならない褒め方とは?
求めていたものは見つからなかったのですが、上記を調べていた過程で出てきたおもしろかったものも紹介。<英語のプレゼンで相手を気持ちよくさせるためのほめる方法>(U-NOTE【ユーノート】2014/01/25)というもので、上から目線にならない褒め方は?というコンセプトです。
http://u-note.me/note/47489089 タイトル見てわかるように、英語での話なんですけど、内容的には通じるところもあるので大丈夫でしょう。ポイントはただ褒めるのではなく「具体的に」というところ。具体的に言うことで、無理やり褒めている感じ、お世辞感を無くします。
さらに、"将来起きそうなシチュエーションを想定して褒めると"特に良いという話もありました。それが難しいんじゃないか?という気もしますが、やっぱり相手のことにしてもプレゼン内容にしても真剣に知ろうとしないとなかなか褒められないものです。
前半の話と合わせると、対象をよく知ろうとすることは褒めることへの第一歩であり、好きになることの第一歩でもあるといった感じ。「褒める」というのはやはり難しんだな…と思う話でしたし、逆に叱るというのは簡単で楽しているんだな…とも思います。仕事ができない人ほど、悪口ばかり言っていますしね…。
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