黒川伊保子『妻のトリセツ』は非科学的、四本裕子東大准教授が指摘

2019/04/08：
●黒川伊保子『妻のトリセツ』は非科学的、四本裕子東大准教授が指摘
●OECDや日本神経科学学会が科学的根拠を否定する男性脳・女性脳
●血液型性格占いそっくりで典型的な疑似科学な『妻のトリセツ』


●黒川伊保子『妻のトリセツ』は非科学的、四本裕子東大准教授が指摘

2019/04/08：人工知能研究者だという黒川伊保子さんが、夫婦間のコミュニケーションのすれ違いを「脳の性差」で説明した『妻のトリセツ』がベストセラーになっているとのこと。

　ただ、この手の男女論はほぼ100％科学的根拠が不十分で非科学的です。理由については、以前書いた男性脳・女性脳のデマ 男性は女性より脳が大きくIQも高い…は疑わしい研究で十分なのですけど、今回読んだ記事では一般の人にもわかりやすいズバリな指摘がありました。

　脳科学や心理学が専門の四本（よつもと）裕子・東京大准教授によると、書籍の「脳梁」で取り上げられたデータは、１４人の調査に基づいた４０年近く前の論文。調査人数が14人って小学生の自由研究レベルですよ。「科学」の域に達していません。

　さらに、この調査人数14人の研究論文の結果は、多くの研究ですでに否定されているというもの。なのに、40年前の自由研究レベルの論文を引っ張り出してきて、持論の根拠に使ったようです。科学者じゃありませんね、この人。

　また、本に登場するそのほかのデータも「聞いたことがない」とのこと。これがイコール捏造とは限らないものの、支持されていないマイナーな研究を引っ張り出してきている可能性が考えられます。
(妻のトリセツが説く脳の性差　東大准教授は「根拠薄い」：朝日新聞デジタル　木村尚貴 2019年4月7日12時05分より)


●OECDや日本神経科学学会が科学的根拠を否定する男性脳・女性脳

　先進国でつくる経済協力開発機構（ＯＥＣＤ）の２００７年の報告書は、「男女の脳ははっきり異なる」という主張などは科学的根拠が薄い「神経神話」として退けているとのこと。日本神経科学学会の研究倫理指針においても、神経神話が脳科学への信頼を失わせる危険があるとしているそうです。

　『なぜ疑似科学を信じるのか』の著書がある信州大の菊池聡（さとる）教授（認知心理学）は最近迷走していますが、この件については以下のようにきちんとした批判をしていました。

「夫婦間の問題に脳科学を応用する発想は、科学的知見の普及という意味では前向きに評価できる。だが、わずかな知見を元に、身近な『あるある』を取り上げて一足飛びに結論づけるのは、拡大解釈が過ぎる。ライトな疑似科学に特有な論法だ」


●血液型性格占いそっくりで典型的な疑似科学な『妻のトリセツ』

　菊池聡教授は以下のようにも指摘していました。むしろ科学的に正しくない言説の方が皆さん本当だと思って信じるので、出版する方にしてはすごく儲かるんですよね…。

「人間は、因果関係を明らかにしたい志向性や、複雑さを避けたい思考のパターンを持つ。疑似科学は分かりやすさを求める人々のニーズに応えるため、支持を集める。血液型性格学や水からの伝言など枚挙にいとまがない」

　実を言うと、調査人数の極めて少ない自由研究レベルの研究論文や全く支持されていないマイナー論文を使うというのは、血液型性格占いと全く同じ手口です。これは、血液型診断の祖・古川竹二の論文が予想以上にひどい 根拠以前の問題や血液型性格診断に根拠があった！日本人が騒いだ論文は問題だらけでやった話。

　マイナー論文でも正しいかもしれないじゃないか？と思う人もいるかもしれませんが、科学の世界では最初受け入れられなくても評価されれば同じ方向性の研究が増えますし、引用も増えていきます。引用数はノーベル賞予想に使われてなおかつ結構当たっているものであり、ある程度信頼できる手法だと考えられるでしょう。

　さらに、カネさえ出せば載せてくれる偽物の学術誌というものがあり、業績水増しのために使われるなど問題にもなっています。このように注目されていないマイナー論文というのは、内容に大きな問題があることも多いのです。これは、ハゲタカ偽学術誌SCIRP利用の日本の大学ランキング 驚きの1位は？が関連する投稿でした。


【本文中でリンクした投稿】
　　■男性脳・女性脳のデマ 男性は女性より脳が大きくIQも高い…は疑わしい研究
　　■血液型診断の祖・古川竹二の論文が予想以上にひどい 根拠以前の問題
　　■ハゲタカ偽学術誌SCIRP利用の日本の大学ランキング 驚きの1位は？
　　■血液型性格診断に根拠があった！日本人が騒いだ論文は問題だらけ

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