<高い目標を立てると良い・宣言すると成功しやすい…は本当か?>などといった目標関連の話をまとめ。高い目標を立てるのは自信があるからと思いきや逆であるとか、目標を立てることでダメ人間になってしまうとかいった意外な話をやっています。
一方で、目標に効果がありすぎたとしても問題だという、<死者を出しかねない…目標を立てることは本当に良いことか?>という別投稿も同じページにまとめました。
●高い目標を立てるのは自信があるからと思いきや逆だった!
2019/06/17:私は目標大嫌い人間なので、多少偏りがあるかもしれませんが、検索してみると、目標についてネガティブなことを指摘しているものが結構見えています。
一方、「目標を立てることは良いこと」派でも、タイトルだけ見て説得力ありそうだったものはあります。目標がないと終わりがわかりづらくなるというもの。ただ、「目標を立てるのは良くない」派を含めて、学問的な裏付けがなさそうなものばかりで読むのをためらいました。
で、ここらへんをクリアできそうなところを…と探すと、
「目標を宣言すると、モチベーションが下がる」 挫折しがちな人の共通点を、社会心理学者が解説 - ログミーBiz(Derek Sivers デレク・シヴァース 社会心理学者/起業家)というのが出てきちゃいました。むしろモチベーションというのは、目標を立てる一番のメリットに思えるので意外ですね。
ただ、実を言うとこれは「目標を立てるとモチベーションが下がる」というのではなく、「目標を言うとモチベーションが下がる」という意味みたいですね。これだけでは「目標を立てることは良いこと」派を完全に否定するものではありません。宣言派にとってはやはり残念な話でしょうけど。
あと、過去にやった
批判する人ほど仕事ができない・自信がない人ほど批判的 理由は?で、自分に自信がない人ほど高い目標を公言しやすいとされていたことも思い出しました。
●宣言して退路を断つ!目標を宣言すると成功しやすい…は本当か?
さて、「目標を言うとモチベーションが下がる」の話。要するに「目標は誰にも言うな」ということです。となると、私がいた会社もそうでしたが、部下に目標を作らせる会社はバカかもしれませんね。部下のモチベーションを下げてしまっているのです。あと、大抵失敗する禁煙宣言なんかもダメってことですね。
社会心理学者のデレク・シヴァースさんによると、他人に自分の目標を話すのは、気分がいいというのが実が問題。良い気分が、それを実現したいというモチベーションを下げるというのです。目標を話した人から高い評価をもらったり、既に1歩、夢の実現に近づいているような気分になったりってのが、良くないんだそうな。やはりさっき書いた「自分に自信がない人ほど高い目標を掲げる」を思わせます。
本来であれば、目標を達成しないと満足を覚えないはずなのに、目標を他人に話し、他人にそれを認めてもらってしまった場合、それがあたかも実現されてしまったかのような錯覚に陥るとされていました。すでに「社会的現実」という名前も付けられているということですから、ある程度研究が進んでいるのかもしれません。
●実験で目標を宣言した人とそうじゃない人で比較すると…
複数の心理学の実験が、他の人に自分の目標を話してしまうと、それが実現しにくくなることを証明しているとされていました。具体的な実験の話はないのかと思ったら、これも出てきていますね。
ヴェラ・マーラーさんの1933年の古い実験だそうですが、ペーター・ゴルヴィツァーさんが1982年に本にした他、2009年に新たに実験を行いそれもまた本になっているとのこと。「他人に認識されたものごとは、自分の意識上では現実のように感じられる」「代償行為」などと書いていたものの、具体的な実験を見た方がずっとわかりやすいです。以下のようなものでした。
(1)163人が実験に参加。この後作業する目標を紙に書いてもらい、被験者のうち半分だけ、目標の実現を会場の皆に宣言してもらった。
(2)45分の時間を与えられ、目標実現のための作業に従事。ただし、作業はいつでも好きな時に止めてしまってよい、とされていた。
目標を宣言しなかったグループは、平均で45分間、作業を完遂したと書かれていました…が、変な言い方ですね、誤訳でしょうか。与えられているのが45分間ですので、みんな作業を最後までやめなかったという意味かもしれません。また、目標達成について聞かれた質問では、「目標実現までには、さらに頑張る必要がある」と答えていたそうです。
●ダメ人間製造機!作業を途中でやめて「あと少しだったのに…」
一方、目標を宣言したグループは、平均33分後に作業を止めてしまいました。しかも、作業が完了して作業をやめていたわけではないようで、「あと少しで、目標を実現できる所まで来ていた」と答えていたそうです。典型的な「仕事ができない人」みたいなことをおっしゃています。
ただ、これはおそらく無作為にグループ分けされたものですから、もともとダメ人間だったわけではなく、目標を宣言させられたためにダメ人間みたいな感じになってしまったということ。目標宣言は、ダメ人間製造機なのです。
ということで、やっぱり会社は社員に目標を提出させない方が良さそうだと思いました。ただ、宣言じゃなくて書かせるだけならセーフなんでしょうね。実験でも目標を立てて誰にも言わなかったグループは、悪影響がありませんでした。会社でやるなら、目標を立てさせつつも、それについては一切話し合わない…みたいな感じでしょうか。でも、やたらと目標を立てさせたがる上司や経営者は、そういうのは好きじゃなさそうです。
あと、目標嫌いと言いつつ、私も目標を立てていることがあることに気づきました。うちのブログが当初「千日ブログ」という名前だったのは、1日1投稿で1000投稿するのが目標だったため。1000日はとっくに過ぎましたし、投稿は再投稿を抜いても1万以上していてよくわからなくなりました。それから今は、その日1日+10日分の44投稿をストックしていることを決めています。でも、こういうのを言わない方が良いんでしょうね。
この目標関連では、
数値目標が悪い理由 スケジュールの立て方と年収の高さは関係?というのも書いています。私の1000投稿・44投稿ストックみたいな自分の努力だけで達成できるものは良いものの、100万アクセス達成とかブログランキング10位以内とかいった目標は精神的に良くない…などの話をやっています。
●気高い理想をかかげよ!という説も…高い目標を達成する「法則」
2021/04/04:研究によって異なる結論になるということはよくあり、ひとつ研究が出て確定ということはありませんので、異なる結果になる論文も重要です。そこで、
高い目標を達成する「原因と結果の法則」のマインド | Biz Drive(ビズドライブ)-あなたのビジネスを加速する(あさき みえ)というのも読んでみました。
ただ、こちらはそもそも研究ですらなく、書籍由来の話でがっかり。こうした書籍を説得力あるように感じて、研究よりもむしろこうしたものの方を信じるという人も多いのですが、本当は良くないことです。最近日本でも海外でも、反知性主義・学者不信なんかも猛威を奮っており、危ない傾向を感じます。
<目標を、なかなか達成できずに悩んでいる人もいれば、高い目標でも、あっという間に達成してしまう人もいます。
ジェームズ・アレン氏の著書、『「原因」と「結果」の法則』によると、私たちの周りで起こっていることは、自分の内面の状態が原因となって、結果を引き起こしていると述べています。本記事では、アレン氏の著書にある「原因と結果の法則」から、目標を達成するのに必要なことについて解説していきます。
アレン氏の著作によると、「私たちは理にかなった人生の目標を心に抱き、その達成を目指すべき」であると述べています。目標を持たなければ、つまらないことで思い悩んだり、ちょっとした失敗で絶望したりしてしまうからだそうです。
また、アレン氏は頭の中で目標や理想を視覚化した「ビジョン」を持つことの大切さについても説いています。気高い理想をかかげ、ビジョンを見続けている人こそが、それを現実のものとすることができるとしています>
「原因」と「結果」の法則
●「目標を達成するには心を強く!」精神論・根性論系で非科学的?
さらに、「うまくいかない中でも努力を継続することは、心の強さを身につけることになります」「集中力や自分をコントロールする能力を磨くことにもつながるそうです」といった記述もあったため、問題を感じました。ここらへんは、非科学的な根性論・精神論系の考えに見えますね。
成功例についても、<「絶対に最後までやり遂げるのだ」と固い決意をもって改革に取り組んだからこそ>とも強調しており、やはり根性論系。アレンさんは著書で、弱気になってしまう人について、「自分は目標を達成できる」という信念にとって、疑いや恐れは最大の敵であると明確に述べているといいます。心を強く持てばうまくいくという教えなのでしょうね。
実際には、人間は意志だけでどうにかできる生物ではなく、周りの環境など様々な要素の影響を受けることも以前指摘されていました。精神論だけでどうにかできるといった主張は非科学的すぎですね。また、こうした「心を強くすれば成功する!という思想はブラック企業思想ともつながることが多く要注意。この話はNTT東日本のサイトに載っていたんですけど、大丈夫なんでしょうか…?
なお、目標が励みになって成功しやすくなる…といった指摘は、他のサイトでも見られました。これが事実なら一見良いことに見えるのですが、高すぎる目標にこだわって無理することで最悪死んでしまうことがある…といった問題も指摘されていたんですよ。これがこの後、後半にまとめた話です。目標がたとえ効果的であった場合でも、ブラック企業思想などと結びつきやすいというデメリットはありそうでした。
●死者を出しかねない…目標を立てることは本当に良いことか?
2019/06/18:前半の<高い目標を立てると良い・宣言すると成功しやすい…は本当か?>では、目標を設定することは否定していないものの、他人に言ってはならないという話でした。一方、今回はかなり特殊なケースではあるものの、目標の設定そのものがデメリットになるといった話。
目標設定の「暗黒面」、エベレストでの死者数急増から知る | BUSINESS INSIDER JAPAN(Allana Akhtar Jun. 02, 2019, 07:00 AM)という記事からです。
エベレストでは今シーズン、確立された登山ルートにおいて、雪崩や猛吹雪ではない理由で11人が死亡しています。あまりにも多くの登山者が山頂を目指して列をなし、"渋滞"になっているから…などといった理由が大きいようです。しかし、心理学は、頂上に到達したいという登山者の執着心である「サミット・フィーバー」 が影響した可能性を示しているとのことでした。
組織心理学者のクリストファー・ケーズ(Christopher Kayes)さんは、2004年の研究論文で、ケーズ氏はエベレストの山頂に到達することが登山者の社会的アイデンティティーの一部になっていると指摘。登山者たちは目標を達成したいあまりに、他の問題を見えなくし、引き返すという選択肢を消し、誤った判断を下したと指摘しています。
●目標にこだわるのは二流がすること…一流登山家の中では常識
こんなのこじつけだ!と目標大好きな方は思うかもしれません。ただ、過去に
勇気と無謀を混同してはいけない 植村直己氏は臆病な名登山家だったという投稿で書いた日本の代表的な登山家植村直己さんが、まさにこれと同じ状態に陥ったと考えられています。
植村さんは大胆不敵な面がクローズアップされていることが多いです。人間ってそういうのが好きですからね。しかし、実際には人一倍臆病な性格で、十分な計画と準備を経て必ず成功するという見込みがなかった場合には決して実行しない人だったといいます。精神論的で猪突猛進的な人ではないのです。
しかし、彼が亡くなった最後の登山では、逆で目標にこだわっていました。日記には「何が何でもマッキンリー、登るぞ」と書かれていたのです。これについて、登山家の野口健さんは、「『何がなんでも』っていう言葉は素人が使う言葉」で、「自然を相手に、植村さんなら、そんなことするべきではないってよくわかってるはずですよね。だから、その彼がどうしてなのか、と」と驚いていました。
●登山は特殊…ビジネスなら目標を立てることに弊害はない?
最初に特殊なケースだと書いたように、登山以外なら目標を立てることは問題ない…と思う人もいるでしょう。それどころか、目標があることでそれに向かって一生懸命努力しているのだから、目標に効果があるってことじゃないか!と思う人もいるかもしれません。ここらへんは目標のメリットに見えます。
しかし、注目しなくてはいけないのは、結局、登頂にこだわった登山家らは目標を達成できなかったということです。また、忘れてはいけないのは、精神をいくら奮い立たせても、達成することができない目標があり得る…ということ。頑張ればなんでもできる…という誤解を無意識にしているのだと思われます。
ビジネスにおいても結局、達成が難しい目標達成にこだわるばかりに、誤った判断をしてしまい、それによって大きな問題を引き起こすという可能性はあります。例えば、東芝では到底不可能な目標をただちに達成するように上司が部下に命令したため、不正会計が起きました。無理な目標が不正を呼び込んだのです。
さらにビジネスだと登山と違って、目標にこだわるしぎても命に関わることがない…というわけでもありません。実際、過労死が問題になっていますよね。こうした過労死はブラック企業問題と密接に関わっており、無理な目標設定とも絡むことがあります。目標達成にこだわりすぎて死ぬということもあり得るため、ビジネスなら大丈夫とも言い切れないでしょう。
正直言って私は目標嫌いなところがあるのですけど、目標を設定することすべてが悪いと断定はしません。良い目標もある可能性があります。ただ、今回はとりあえず、少なくとも高すぎる目標は立てない方が良いのではないか…という話。それ以上については、もうちょっといろいろな話を読んでからにしたいですね。
【本文中でリンクした投稿】
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