「選択と集中」の成功事例と失敗事例の話。ポイントとなるのは、「経営の多角化」の他、タイトルには入れきれなかったものの残すべき事業の選び方の問題。ときには本業を転換するような選択も必要で、かつて企業の中心であった事業であっても、躊躇なくて切り捨てなくてはいけないのではないかという話です。
その後、<あの東芝が多角化の失敗事例の典型?大赤字事業に資金突っ込む>、<日立グループでも御三家だった日立金属は多角化失敗で売却>を追記しました。
2023/04/04追記:
●あの東芝が多角化の失敗事例の典型?大赤字事業に資金突っ込む
2023/10/05まとめ:
●日立グループでも御三家だった日立金属は多角化失敗で売却 【NEW】
●選択と集中・経営の多角化で成功と失敗を分けるもの 日立の例
2014/9/29:
業績好調の日立。製造業復活のモデルケースなのか? | The Capital Tribune Japan(Staff Editor on 2012年9月15日 11時00分)という記事では、「選択と集中」の成功事例と失敗事例の両方が見えます。この記事の当時も日立製作所は好調だったようで、"不採算事業から撤退するのはもちろん、採算事業であっても無理な拡大はせず利益率を重視した結果、全体として筋肉質の会社に変貌した"おかげだと分析していました。
前回の投稿
日立製作所、年功序列廃止で競争力アップ 選択と集中に成果主義は必須?と重なるので省略しますが、"日立は「総合電機メーカー」のカンバンを降ろ"し、選択と集中を行って稼げる部門だけを残しました。これは「選択と集中」の成功事例といえます。
一方、「選択と集中」で余計失敗するケースも多いのではないかと思われます。記事で出ていたNECやシャープは、専門分野に特化しており、ここだけ聞くと「選択と集中」をうまくやったと思うかもしれません。ところが、当該分野の不振がそのまま経営全体を直撃してしまい、結果的に失敗したような形になってしまいました。
では、日立製作所は何が違ったのかというと、選択と集中をしつつも、多角化は維持していたというところ。日立の場合は、ITシステム、インフラから建機、金融など幅広い分野に分散していたんですね。加えて非常に重要なポイントではないかと思うのが、なおかつ<それぞれの部門がそれぞれに利益を稼ぎ出す仕組み>になっていること。
「選択と集中」では、「ノンコアな事業は外部に放出するのがよい」とされているそうです。これに当てはまりそうなのはたNECやシャープであり、素直に見ると日立製作所は失敗パターンのように見えるという逆転が起きました。これについて、記事では"「厳しい競争環境が維持されているならば」という前提条件が付く"としていました。
「選択と集中」では得意な事業を残すべきなのですが、それは自社が得意だと「思っている」事業という意味ではありません。私は主体となる事業を転換していく企業が典型的な良い企業だと考えています。たとえかつての中心事業であっても、将来性がないと見られると躊躇なく捨てなくてはいけないんですよ。
ですから、日立製作所のような多角的な経営になっているのは理想型でしょう。しかし、多角化しても競争力を失くした事業を切り捨てられなかったり、伝統部門を廃止できなかったりすると、全く意味がありません。残すのは飽くまで勝てる事業だけです。こうして間違ったやり方をしているために、選択と集中で余計悪くなった…という事例が増えているのだと思われます。
●企業の元となった事業・花形事業であっても躊躇なく捨てるべき
日本で選択と集中がうまくいかないのは、かつて花形だった事業に情緒的にこだわることが多いからかもしれません。最近のソニーの例(2017/11/09:時間経って忘れちゃいましたがたぶんVAIOの売却のことじゃないかと)でもそうですが、不採算部門の売却、特にかつてその会社で代表的だった事業を手放すことには多くの非難が集まります。記事でも以下のような分析がありました。
<ある分野に集中したものの、当該分野が不振になってしまった場合には、社員を総入れ替えするくらいの激しいリストラが必要となる。それを受け入れる覚悟があるのならば、選択と集中はベストの経営戦略となるだろう。
だが、米国と異なり日本では従業員の雇用や経営体制の維持が株主利益よりも優先され、ドラスティックなリストラが実施されにくい(シャープの例を見れば明らか)。そのような社会風土において選択と集中を進めてしまうと、経営危機になっても身動きがとれず、破滅の道をひた走ることにもなりなねない。「決断できない日本社会」において「選択と集中」は実は大きなリスク要因なのだ。
この点、日立のように相互にあまり関連しない事業が混在している会社は、抜本的な業態転換を行う必要がなくリストラを進めやすい。日立が選択と集中をさらに進めていたら、これほどスムーズに事業再構築は進まなかったかもしれない>
前回の
日立製作所、年功序列廃止で競争力アップ 選択と集中に成果主義は必須?で「日立製作所にとっては、成果主義導入は必須とも言える状況ではなかったのか?」と私は書きました。
日立製作所は選択と集中によって勝てる部門を絞りこみましたが、記事で出てきたように、これが成功するのは常に競争力を維持していた場合のみ。競争力を失ってしまえば、またダメな日立製作所に舞い戻ります。ですから、競争力強化のために有効とされている成果主義の導入は、日立製作所にとって必須だったのではないか?と考えられるのです。
●ユニ・チャームも「選択と集中」「多角化」「本業の転換」の成功例
2017/11/09:ユニ・チャームの記事で、「選択と集中」「多角化」「本業の転換」といった話が出てきました。ただ、ブログ内で追記にぴったりそうな投稿が見つからず苦労します。あまりにも見つからなくて、最後は仕方なくこの投稿に決めたのですが、読み直してみると予想以上にぴったりな内容でした。
知らなかったのですが、紙おむつやペット商品で今有名なユニ・チャームは、最初の事業(祖業)は建材(建築材料)事業だったとのこと。現在の高原豪久社長のお父さんの時代は、ここから多角化を進めて企業は大きくなったものの、無理な多角化の影響で社内はバラバラ、不採算事業の整理が必要な状態になっていました。
(
売上高4倍を実現した「ユニ・チャーム」2代目社長の勝ちパターン | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン) 2017/11/08 17:00 Forbes JAPAN 編集部 より)
高原豪久社長が打ち出したのは、「本業多角化、専業国際化」です。今そうではないことでわかるように、ここで言う本業とは建材事業ではありませんでした。祖業の建材事業を含め、多角化事業の多くを整理の対象にしたとのこと。ただ、これは社内の反発が大きかったようです。
上でソニーの例を出しましたし、
GEジャック・ウェルチは嫌われ者だった 徹底した選択と集中に非難 ユニ・チャームがこのとき本業としたのは、不織布・吸収体の加工成形技術でした。経営資源をここに集中させて、そこから派生した事業のみを展開。その中で強いものは海外にも展開させる戦略を取りました。最近こだわる必要はないのでは?と思ってきています(上記の日立も関連性の低い多角化と説明されていました)が、これは私がかつて好きだった「関連性のある多角化」でもあります。
あと、「本業の転換」で成功しましたので、
これから伸びる企業=変化する企業 M&Aや事業構造の変化が大切の例だとも言えますね。ユニ・チャームは様々な観点で学びがあり、非常に良いビジネスの教材になりそうです。
●あの東芝が多角化の失敗事例の典型?大赤字事業に資金突っ込む
2023/04/04追記:多角化の失敗事例としては、あの東芝がわかりやすいかな?と思いました。東芝は多角化を進めており、本来なら悪い事業を良い事業がカバーするはずでした。ところが、むしろ切り捨てるべき大赤字事業に多額の資金を突っ込んで玉砕。利益が出る有望事業を逆に売却して生き延びる…という理想とは全く反対の形になりました。
東芝がなぜこうなってしまったのか?と言うと、東芝が政府や自民党と近い企業であったため。中国や戦前の国策会社のように政府の影響力が強すぎる企業として業界では「東芝は国策企業」と言われていたそうです。この政府の意向により、有望さに関係なく事業に投資。むしろ切り捨てるべきダメな事業に多額の資金を突っ込んでしまったのです。
その事業というのは、自民党政権が重視した「原発」。東芝の倒産危機の原因となり、「不適切会計」の原因となったのは、ウェスチングハウス(WH)を考えられない価格で買ったためです。そして、この無謀な買収は、経済産業省が「とにかく日本勢に『買え、買え』とうるさかった」ことが原因だとされていたんですよね。こういう理由で事業を選んではいけません。
(関連:
国策企業東芝の倒産危機は国に責任 原発推進でWH買収に圧力かけて高値買い)
●日立グループでも御三家だった日立金属は多角化失敗で売却
2023/10/05まとめ:当初の投稿で、日立製作所は多角化の成功例とされていました。ところが、別の日立関連の投稿を読みなおしていて、多角化で失敗した日立系の企業もあったことに気づきました。<御三家の日立金属売却へ 多角化失敗で他社も買収したくないお荷物に>という小見出しで書いていたものを転載しておきます。
2021/04/09:日立金属売却については、
日立金属売却へ 応札候補が映す多角化の功罪: 日本経済新聞などが、<日立製作所が上場子会社の日立金属を売却する方針を固めた>と報じています。記事では、<同社はグループ会社のなかでもかつて「御三家」と称され、高い技術力でトップシェア製品も多く持つ>として、御三家であることに触れていました。
また、記事タイトルに「多角化の功罪」とあるように、記事では、良いとされる多角化が日立金属ではうまく機能しなかった…という見方ですね。日立金属の売却観測が流れた2020年8月、鉄鋼会社幹部は「特殊鋼は魅力だが、他の事業は要らない」と言っていたといいます。要するに日立金属全体としては魅力がないということです。
かつて日立金属を語る上でよく出た言葉は「ニッチトップ」。小さな市場でも技術力を武器に高いシェアを獲得し、高収益をあげていたためです。例えば、半導体などに使うリードフレーム材も世界シェアトップで、近年は中国メーカーに押され気味の磁石も多くの特許を持っていたとのこと。ただ、2010年代以降、その路線に狂いが生じ始めて、このような魅力のない会社になったという説明でした。
<まず13年に日立主導のもと、5期連続の最終赤字だった日立電線を吸収合併した。さらに14年には規模の拡大を目指し、約1300億円を投じて鉄鋳物メーカーの世界大手、米ワウパカ・ファウンドリーを買収。幅広い製造業で使う特殊鋼と磁石、電線、自動車向け鋳物といった素形材の4セグメントで稼ぐ体制となった。
もっとも現時点でグループに取り込んだ事業は相乗効果を生み出せていない。新型コロナウイルス禍前の19年3月期の連結業績は売上高が1兆234億円、純利益は313億円。それぞれ8077億円、481億円だった14年3月期と比べ、規模は拡大したものの稼ぐ力は伸びていない。
足元では業績も低迷している。21年3月期の連結最終損益は460億円の赤字(前期は376億円の赤字)と、2期連続で過去最大の赤字となる見通し>
【本文中でリンクした投稿】
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国策企業東芝の倒産危機は国に責任 原発推進でWH買収に圧力かけて高値買い ■
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