「毒親」とレッテル貼りしてしまうのも良くないと思いますが、子供への干渉が強すぎて支配してしまったり、干渉によって子供の健全な成長に悪影響を与えてしまう…という話。困ったことにこうした教育は、過去にはむしろ良いものだと考えられていたものであり、現在でも支持者が多いと思われます。これがこの問題が難しい理由でしょう。
2022/10/06まとめ:
●両親がケンカばかりしている家庭の子…まずこの時点で問題がある 【NEW】
●褒められなかった子が現実逃避の末に手を染めてしまったモノとは? 【NEW】
●「勉強頑張りなさい」も「子供のためを思って説教」もダメな理由 【NEW】
●簡単にやる気を引き出せるのに…親も上司も逆にやる気を削ぐだけ 【NEW】
『 犯罪心理学者が教える子どもを呪う言葉・救う言葉 』(犯罪心理学者・出口保行)


●20年前の「いいお母さん」像が今は毒母…が問題を複雑化する
2014/9/29:聞いたことはあったけど、特に調べずに何となく雰囲気で読み流していた「毒親」という言葉。毎日新聞がこれをピックアップした
過干渉:子どもの人生を支配 「毒親」本相次ぎ出版(2014年09月23日 13時33分(最終更新 09月23日 14時37分))という記事を書いていました。
こちらの記事では「毒親」について「子どもの人生を支配するように関わる親」と説明しています。いわゆる「過干渉」です。何となくモンスターペアレントのことも思い出させる説明でもありますね。ここでは、「毒親」の他に「毒母」とも呼ばれるとしていました。「毒父」がないのは、母親である例が多いためなのでしょう。
「毒親」というのはおそらくもともとはネットスラングでしょうからネット上には毎日新聞よりよい説明があるかな?と思いました。ただ、予想に反して、検索してみてもなかなか良い説明が見つかりません。現状では毎日新聞のこのシンプルな説明が一番良いのかもしれません。
この毒親の問題でややこしいのは「『毒親』になる人は、最初からひどい親だったわけではない」(原宿カウンセリングセンターの信田さよ子所長)ということ。さらにややこしいのが、「20年ぐらい前なら『いいお母さん』と言われたような人たち」だということです。むしろ昔は良い母親であるとみなされてきた人たちなのです。
●子供のためにいろいろと「してあげる」のは良い母?悪い母?
では、具体的にどのような行動をしている人が、「毒親」と呼ばれているのでしょう。(ルーマニアのカリン・ペーター・ネッツアー監督の映画「私の、息子」は、監督自身の母との関係を基にした作品で、裕福なキャリアウーマンの母親が、30歳の無職の息子が起こした問題を解決しようとする内容だといいます。
こういった子供のためにいろいろと「してあげる」というのが、「最初からひどい親だったわけではない」「20年ぐらい前なら『いいお母さん』」ということなのでしょう。現在でも評価する人がいると思われます。しかし、子どもたちにとっては、干渉されすぎて迷惑であるときも…。「してあげる」という親側からの一方的な姿勢であり、望んで「してもらっている」わけではないためです。
この映画の母親は結局問題解決のために、「自ら関係者と交渉し、恋人と同居中の息子の生活にも立ち入る」ことになりました。ここまで来ると、多くの人がおかしいと思うはず。息子が一大決心をして母と距離を置こうとして、必死に訴えても母親はそれを許さないという、いつまでも子供を所有物のように独占しておきたいという面が顕著に見えてきます。
●毒親の過干渉という呪縛からはなかなか抜けられない
漫画家の田房永子さん(35)は、「私も、この息子と同じせりふを母に言った」と語っています。田房さんも毒親に悩んだ経験があり、同様の体験をした人のインタビューを漫画にした『
うちの母ってヘンですか? (Akita Essay Collection)
』などを出版しています。
『うちの母ってヘンですか?』というタイトルですが、田房さんは「うちの親は変だと思いつつ、自分の苦しみの理由が母にあると考えたくなかった」と振り返っています。先ほどの心理カウンセラーの説明の中にも、実は「お母さんの望み通りの娘じゃなくてごめんね」というものもありました。子供が自分を責める形になることが多いと思われます。
田房永子さんの母はいつも「あなたを愛しているから」と愛情を強調していました。さらに母の「私は悪くない」「言う通りにすればいい」という主張に影響されていて、その状態から抜け出せなかったようです。しかし、カウンセリングなどで、自分の生きづらさの原点が母親にあると理解すると、恨みがあふれました。
ただ、それでも、母に住所も知らせていなかったことに、「こんなことで親と縁を切っていいのか」と罪悪感を抱いたこともあったといいます。過干渉によって与えられた呪縛は、簡単に断ち切ることはできないようです。
●「過干渉」で子供の脳が変形する悪影響、でも無関心も問題が…
2017/11/06:2017年10月28日放送【世界一受けたい授業】(日本テレビ系)では、「マルトリートメント」(「マル(mal)」=「悪い」、「トリートメント(treatment)」=「扱い」で「不適切な養育」)の例として、「過干渉」というものが挙げられていたそうです。
これは、<風呂上がりに裸でウロついてない? 子どもの脳を変形させる「虐待」かも(J-CAST ニュース - 11月05日 08時00分)であった話。タイトルになっていた「風呂上がりに裸でウロウロする」ことを子どもが本気で嫌がっている場合は、立派な「性的マルトリートメント」だと指摘。「視覚野」が変形し、記憶力、認識能力が低下するとしていました。
http://ecnavi.jp/mainichi_news/article/aa9cc7ee6cf6801fe56adbb668dea4fa/
一方、「過干渉」に関しては、自己管理できる子どもに行き過ぎた管理をしていると、子どもは信用されていないと感じ、危険や恐怖心を感じる脳の「扁桃体」が変形してしまうとの説明。結果として、いつもビクビクした大人になってしまうことがあるそうです。「毒親」とはちょっと違うものの、親による子供のコントロールが悪い方向に働くものとして、
親の期待は子供を伸ばすのか?潰すのか? 「無関心」「認める」などというのも書ています。
なお、最初の投稿時に「毒親」の例は母親ばかりと書きましたが、父親はむしろ無関心すぎることを心配した方が良いかもしれません。
親の期待は子供を伸ばすのか?潰すのか? 「無関心」「認める」などで出てきた論文では、無関心ですとか、子供の能力を見限っているだとかも良くないことが指摘されていました。期待がまったく無いと「張り合い」や「見守り」といったものをなくし,発達に悪影響を与える可能性もあるのです。
なので、毒親が悪いから放任主義が良い…みたいな極端なことではないんですね。子供を別のひとりの人間として認め、思い通りにコントロールしようとしないと同時に、子供のやることを見守っているといった感じ。難しいことを…と思うかもしれませんが、世の中の物事は、わかりやすい両極端なものではなく、その間のところに正解があることが多いです。
●感謝などせず罵倒し続ける「毒親」でも子供は親を介護するべき?
2021/06/28追記:
「毒親」でも介護するべき? しんどい親子関係を今すぐ終わらせる方法とは | mi-mollet(ミモレ) | 明日の私へ、小さな一歩!というインパクトあるタイトルの記事がありました。藤木美奈子・元龍谷大学准教授(博士は大阪市立大で取得)の書籍『
親の支配 脱出マニュアル 心を傷つける家族から自由になるための本 (こころライブラリー)』を転載したもののようです。
タイトルの<「毒親」でも介護するべき?>の答えはノー。そもそも「子は親孝行するもの」や「子は親の面倒をみるもの」というのは、プログラミングされたものだと指摘。呪縛みたいなものですね。私は逆である「親が子供の面倒を一生見なくてはいけない」は根拠がなくおかしいだろうと思っていたのに、今回の問いでは答えを迷ってしまいました。私も呪縛に囚われていたようです。
こうした呪縛の例では、「家族がいちばん。血のつながりほど大切なものはない」「誰からも好かれる人になりなさい」「世のため人のために生きることが最善の生き方」「人に迷惑をかけるな。人を頼るべからず」などといったものも。いずれももっともらしく聞こえるものの、親子関係で苦しんでいる人は疑ってみるべきだとしていました。
ただ、なかなかこの呪縛から脱することは難しいようです。ある男性は、罵倒され、脅され、振りまわされてきながらも、親の介護を苦しみながら頑張る「いい子」でした。「施設に託すのもひとつ」などと藤木美奈子さんはアドバイスしますが、「私が見ないと」と譲りません。子供の方も親から離れられない「共依存」の関係に陥っていました。
●一見バラバラに見えるが実は似てる…子どもを傷つける親の5パターン
不幸なことに毒親に育てられた子は、人間関係がうまくいかず、転退職をくり返したり、結婚生活や子育ても悩み多きものとなることが多いとされていました。なかにはうつ病やパニック障害などの精神疾患を患ったり、酒、薬物、ギャンブル、過食や自傷行為などに救いを求める人もいるそうです。
これは、「親に自分の気持ちを大切にされなかったため」「価値を認めてもらえなかったため」という説明。自分に価値を感じられなくなると問題が起きやすい…というのは、よく指摘されることです。以下の「子どもを傷つける親」のパターンは、一見多種多様でバラバラに見えるものの、「子どもの気持ちを大切にしない」という共通点があるとされていました。
・感情的で、すぐに暴言・暴力をふるう (「出来損ない」なども暴言)
・なんでも自分の思い通りにしようとする (勉強や就職や結婚などで介入。挫折した親だけでなく、成功した親でも見られる)
・自分の価値観を子供に強要する
・子供を他者と比較する (兄弟などと比較。扱いに差をつけるのも良くない)
・夫婦仲が悪く、そこに子供を巻き込む (愚痴を聞かせるのも良くない)
『 犯罪心理学者が教える子どもを呪う言葉・救う言葉 』(犯罪心理学者・出口保行)


●両親がケンカばかりしている家庭の子…まずこの時点で問題がある
2022/10/06まとめ:個別事例をベースにした話は科学的根拠とはならないので注意が必要なのですが、<母親に「頑張りなさい」と言われ続けて育った男性が、現実逃避の末に手を染めてしまったモノとは>(22/10/6(木) 6:12配信 文春オンライン)で出てきた話は、過去に紹介してきた様々な指摘と一致する内容でしたのであちこちに追記しています。
これは1万人の犯罪者を心理分析してきた犯罪心理学者・出口保行さんの著書
『 犯罪心理学者が教える子どもを呪う言葉・救う言葉 』から抜粋した宣伝記事だったようです。この「1万人の犯罪者を心理分析してきた犯罪心理学者」などといった宣伝文句も ニセ科学的なものでも使われるものなので、一般的には注意が必要ですけどね。
で、記事で出ていた事例の話。これは、ケンカばかりしていた両親が離婚した「ナオト」の事例です。父は営業成績が上がらず給与が低かったので、母親がしょっちゅうなじっていたそうです。「お父さんみたいになっちゃダメだからね」と繰り返し言われたともいいます。まず、この時点で問題ですね。両親が喧嘩する様子を子供に見せるというのはよくないと言われています。
<(引用者注:両親の離婚)以来、ナオトは落ち込むことが多くなった。もともと勉強も遊びも集中することがあまりない。(中略)「そんなんじゃお父さんみたいになるよ。あんなふうになったらおしまいよ」そう言って母親は「勉強頑張りなさい」と繰り返すのだった>
https://news.yahoo.co.jp/articles/2bd5b3114a744b7e44c64e9b1459de1ab814f813
●褒められなかった子が現実逃避の末に手を染めてしまったモノとは?
しかし、小学6年生の担任はいい先生で、「ちょっとずつでいいんだよ」と努力を認めてくれます。努力が結果に結びつくとは限らないというのが現実の残酷さですが、このときは結果も出ました。どうしても2しかとれなかった国語が3になったのです。ところが、母親は、「3で喜んじゃいけない」「小学生のうちに国語ができるようになっておかないと中学で苦しむよ」とこの結果を褒めなかったのです。
<内心はほっとしているのだが、もっと頑張ってほしいという気持ちで厳しくあたるのだった。ナオトは心底がっかりした。頑張っても評価してもらえないんだと思い、それ以来コツコツ努力することをやめてしまった。
その後、高校はなんとか卒業したものの、何に対しても前向きな気持ちが起きない。先生に言われるままに機械メーカーに就職したが、3か月で離職。家にひきこもってゲームをする毎日だ。
母親は「だから勉強しろと言ってきたのに」「どうしようもないクズになった」などと叱責ばかりする>
記事は、<母親に「頑張りなさい」と言われ続けて育った男性が、現実逃避の末に手を染めてしまったモノとは>というタイトルでした。この手を染めてしまったモノとは「大麻」。ナオトは似たような状況の中学時代のゲーム仲間と再会して、「外国じゃ普通だし、副作用もないし。他はともかく、大麻は大丈夫」とハマってしまったそうです。
話がそれますが、これは当然大麻にハマるのは良くないこと…という理解のもとで使われています。「そりゃそうだろ」と思うかもしれませんが、たぶん大麻推進派の方はこれを読んでお怒りでしょう。彼らはまさに「外国じゃ普通だし、副作用もないし。他はともかく、大麻は大丈夫」という主張。むしろ大麻を解禁し、本当に危険な薬物に手を出させないようにすることで、日本は良くなるといいます。
●「勉強頑張りなさい」も「子供のためを思って説教」もダメな理由
大麻の話はいいとして、犯罪心理学者・出口保行さんの解説です。「頑張って」は、一般的に応援の意味で使われる言葉ではあるものの、実際には「応援してもらっている」とは感じないどころか、否定的な言葉としてとらえられたことを指摘。父親に対する悪口とセットであったことも災いしたといいます。
<そもそもなぜ被害感や疎外感が強くなったかといえば、親子間における日ごろのコミュニケーションに問題があるわけです。ナオトの場合、父親のことはさておいても、「あなたのことを大事に思っている」ということが伝われば、また違った受け止め方をしたでしょう>
非行少年の親でも、別に暴言を吐いたこともないし、いい言葉をたくさん言っていると思っている人はいるとのこと。実際、自分はいい親だと思っている人も多いのでしょう。ただし、大事なのは親の思いではなく、子がどう受け止めているかが大事だとの指摘。「子供のためだから」という親の言い分を認めてはいけないんでしょうね。
<たとえば親が子どもに対して説教をしているとき。話していることは非の打ちどころのない正論かもしれません。丁寧な言葉を使っているかもしれません。しかし、親からすれば「いいことを言った」と思っていても、子どもからすると「何もわかってない」と思うことはよくあるわけです。
少年鑑別所での面会の様子などを見ていると、それが如実(にょじつ)にわかります。「親はいいことを言っているが、子どもはまったく信用していないな」と思います。
そういう親は「頑張れって応援してきたのに、うちの子は全然こたえようとしなかった」と言います。子どもは応援だと受け止められなかったのです。同じ言葉でも、受け止め方は同じではありません。180度違うことだってあるのです。そこに気づかなければなりません>
●簡単にやる気を引き出せるのに…親も上司も逆にやる気を削ぐだけ
上記はビジネスの上司先輩でもあるあるだな~と思いました。すると、その次にさらに「ビジネスと同じ」という話が出てきてびっくり。<意欲=やる気は自分の内側から出てくるもので、他者が植えつけることはできません。ただ、意欲を促すことはできます。心理学ではこれを「動機づけ」といいます>という指摘でした。
<小学校の担任の先生は、ナオトの努力を褒めて勉強への意欲を促進することができていました。ところが、母親は褒めるどころか逆のことをしました。内心はほっとしているのに、「これくらいで満足するな」「もっと頑張れ」とたきつけるのです。これではせっかく芽生えたやる気もそがれてしまうというもの>
もともとやる気がないわけではなく、行動しても結果が出ないことを何度も経験するうちに、やる気を失い行動しない状態を「学習性無力感」と言うとのこと。心理学者マーティン・セリグマンが1967年に提唱した概念で、これは実験的な裏付けがあるものです。こういう研究の話があるのは良い書籍ですね。以下のような実験の話が載っていました。
<犬を2つのグループに分け、どちらも電気ショックが流れる部屋に入れました。Aグループは、スイッチを押せば電気ショックを止めることができます。Bグループは何をしても止めることができません。
これを経験したあとに、両グループを低い壁で囲まれた部屋に入れました。この部屋にはやはり電気ショックが流れるのですが、壁を飛び越えればそれを避けることができます。Aグループの犬は壁を飛び越えて電気ショックから逃れることができました。しかし、Bグループの犬は、壁を飛び越えれば逃げられるにもかかわらず、そのまま電気ショックの部屋にい続けました。
つまり、自分が何をしても電気ショックを止められないと学習した犬は、逃げられる環境になっても行動しなかったわけです。「何をしてもムダだ」とあきらめてしまったのです>
学習性無力感は自由な環境でこそ起こるといいます。結果が出ないことを繰り返したせいであきらめてしまうのです。学習性無力感に陥らないためには、いわゆるプロセスを褒めること。結果がどうであれ「やってみよう」と思ったこと、そして少しでも行動に移したことを褒めるのです。これはよく言われています。
<本人は頑張っているつもりだけれど、やる気がないように見えることもあります。(中略)そういう子に対して「やる気出せ」「頑張れ」と言っても逆効果です。「うるせぇ!」と、反抗し努力をやめてしまうでしょう。(中略)
「別に何もやる気ない。努力なんかしたってムダだし」と冷めた態度の非行少年に対しても、ちょっとした行動を見つけてプロセスを褒めるうちにバーッと喋(しゃべ)るようになるということがよくあります。
(中略)少年鑑別所にいる、ひねくれ度MAXのような非行少年でさえ素直に戻るのですから。やる気がなさそうだったり反抗的だったりするからといって、親やまわりの大人がすぐにあきらめるようではいけません>
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