以前以下のニュースがあったときに、報道を見る限り既に明らかになっている情報以上のものはなさそうです…として、昔書いた
STAP細胞遺伝子データにES細胞で見られる染色体異常 混入説強化か?のリンクだけトップに張っていました。
STAP細胞、ES細胞と酷似 理研研究員が学会誌に論文- J-CASTニュース(2014年9月24日13時15分)
理化学研究所の小保方晴研究ユニットリーダーらが作成したと主張しているSTAP細胞は、別の万能細胞である胚性幹細胞(ES細胞)に酷似しているとする分析結果を理研の統合生命医科学研究センター(横浜市)の遠藤高帆上級研究員が論文にまとめ、2014年9月21日、日本分子生物学会誌「Genes to Cells」(電子版)に掲載された。
ただ、遠藤高帆上級研究員がこの後記者会見して、報道陣向けに説明していたようでもう一度ニュースになりました。
たとえば、
理研の研究者「STAP細胞、別細胞の可能性高い」 :日本経済新聞(2014/10/1 21:43)では、"「STAP細胞と説明していた細胞は別の細胞の可能性が高い」と改めて強調した"ことを伝えています。そして、下記の2点の分析結果を掲載していました。
・STAP細胞は「ES細胞でよくみられる8番染色体の異常が認められ、ES細胞だと推測した」。
・STAP細胞を培養した細胞については、胎児に成長するES細胞と胎盤を作るTS細胞が約9対1の割合で混ざっていたと推定した。
前回は取り上げなかったのに、今回一つ書いておこうと思ったのは
「STAP論文の説明は成立しない」理研・遠藤氏がデータ解析で指摘(要点資料全文)|弁護士ドットコムニュース(2014年10月01日 11時47分)に、記者会見場で配布された、分析の要点をまとめた資料の全文が載っていたためです。これはコンパクトになっていて、すごくいいですわ。
論文の主旨
・細胞の遺伝子発現を解析する手法であるRNA-seqのデータを解析することによって細胞の性質を分析する手法を開発した。
・2014年1月にNature誌上に発表された論文のうち、Letter論文で用いられた遺伝子発現データを再解析した。
・その結果FI幹細胞と称して論文に使用された細胞が二種類の細胞から構成されていることを見出し、STAP細胞として論文に使用されたデータから染色体異常(8番染色体トリソミー)を見出した。
このうちFI幹細胞と呼ばれるものについて。これは「Letter論文中でSTAP細胞から作製されたとされた細胞」です。先ほどの日経新聞の説明では2つ目のものに当たります。なお、STAP幹細胞とFI幹細胞は別のものみたいです。
「ES細胞は胎盤にならないが、FI幹細胞は胎盤を作ると主張された」と資料にはありました。「胎盤になる」というのはSTAP細胞の大きな売りの一つで、ES細胞ではないという理由にもされていました。ところが、以下のように分析されてしまいました。
FI幹細胞について
・論文のRNA‐seqデータでは129マウス(♀)とB6マウス(♂)を交配して生まれた幼齢マウスの脾臓からとったリンパ球等を初期化して得られたとしている。
・解析の結果、ES細胞に近いB6マウスの細胞とTS細胞に近い別系統のマウスの細胞であることを示す結果が得られた。(TS細胞は胎盤を作る細胞として知られる)
・細胞で発現している遺伝子を調べたところES細胞に特徴的な遺伝子とTS細胞に特徴的な遺伝子の両方を多く発現しており、中間の性質を示していたが、これは上記の2種類の細胞の混合であったためだと考えられる。
・論文中では割愛したが、細胞を緑に光らせるGFPを高発現しており、その配列から細胞初期化の指標となるOct4発現時に細胞が緑に光るOct4-GFPが入った細胞を用いていたことが推定される。また、TS細胞は一連の実験で比較対照用に使用されていたTS細胞と同じ系統のマウス(CD1)から得たものと推定される。
・遺伝子の配列および発現パターンからES細胞に近い細胞とTS細胞に近い細胞の比率は9:1程度であったと推定される。
資料では最後に「ただし」というものがついていました。「この混合が意図的なものであったかどうかは解析からは断定できない。またキメラ作製に使われ、論文で胎盤をつくるとされたFI幹細胞は遺伝子発現解析に使われたものと同じとは言えない」とのこと。これは仕様がないですね。
しかし、証拠として提出されたものが違っていたとすれば、一番正しくなければいけないデータで間違っていたということになります。また、いずれにせよSTAP細胞の証拠は何一つない…とも言えそうです。
もう一つ、FI幹細胞の元になったという、肝心のSTAP細胞について。
STAP細胞について
・幼齢マウスの脾臓からとったリンパ球等を弱酸で処理して初期化したとされる細胞の塊。
・発現している遺伝子を解析した結果、8番染色体でだけ母親(129マウス)由来の遺伝子が父親(B6マウス)由来の遺伝子のおおよそ倍発現していることがわかった。
・遺伝子発現の総量が8番染色体だけ多くなっていることからも、塊を作っている細胞のほとんどで、8番染色体のほぼ全体がトリソミーになっていることが推定される。
・8番染色体トリソミーをもつマウスは胎生致死(異常が起きて胎仔が生まれることができない)であるため、この細胞が幼齢マウスから得られた細胞であるとは考えられない。
・Article論文に示されたデータより、弱酸処理は遺伝子異常を起こさず、またSTAP細胞は増殖しない。染色体異常は細胞分裂時に起きるため、論文に記述された方法ではRNA-seqのデータを取得したSTAP細胞は作成できない。
・幼齢マウスの脾臓から得た細胞ではなく、8番染色体のトリソミーを頻発するES細胞か、それに近い培養細胞だったと推測される。
こちらも最後に注意書きがあり、"STAP細胞もFI幹細胞のケースと同様、遺伝子発現解析に用いられた細胞とキメラ作製に使われた細胞が同一ではないと考えられる"とのこと。
竹内健教授が「
理研 遠藤さんのSTAP細胞疑惑の遺伝子解析の論文が公開。自分が同じ立場だったら、こんなネガティブなことに力を注げたかと思うと、頭が下がります」とツイートされていました。
STAP論文:「自浄作用示した」理研上級研究員(毎日新聞 2014年10月01日 20時24分(最終更新 10月01日 20時44分))などによると、「理研の中で自浄作用を示し、どんな問題があったか表明するのが誠実な対応だと思った」と遠藤高帆上級研究員はおっしゃっています。
野依良治ら理研がデータ解析公表に圧力、竹市雅俊は資料検閲で書いたように、そもそもこの遠藤上級研究員の分析も公表しないようにと、上から圧力がかかっていました。組織として不正隠蔽のような動きをしていた理研の中にあって、そうではないという動きを見せたかったのでしょう。尊敬されるべき行為だと思います。
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