アインシュタインと原爆(原子爆弾)に関する話は、
Wikipediaだけでも多数あります。
有名なのは「アインシュタイン=シラードの手紙」と言われる手紙で、
別個にページが存在しているほどです。これは1939年、アインシュタインが当時の大統領フランクリン・ルーズベルトに送られたという手紙でした。
"手紙では、ウランによる連鎖反応が近々実現され、それが強力な爆弾となりうることを指摘した上で、政府の注意の喚起と研究の支援、そして政府と物理学者とを仲介する仕組み作りを訴え、最後にナチス・ドイツの核エネルギー開発を示唆する事実を指摘して"いました。そのため、"アメリカの原子爆弾開発のきっかけのひとつとなったことで知られ"ています。(ここだけ2つ目のWikipediaより)
具体的には、"ウラン諮問委員会が作られ、アインシュタインの提言が検討されることになり、黒鉛・天然ウラン原子炉の研究についての資金援助が決定"ということが起きました。しかし、"「原子爆弾については、はっきりしないことが多すぎた」ため、原爆開発は見送られ"ています。
本格的にアメリカで原子爆弾の開発・製造が開始したのは、2年後の1941年秋のことです。マンハッタン計画と呼ばれます。"このとき、アインシュタイン自身はマンハッタン計画への協力を求められることはなかった"そうです。しかし、アインシュタインがこのマンハッタン計画に加わっていたという誤解が多いようです。
Wikipediaでは、"一部には「アインシュタインが原子爆弾の理論を発見した」あるいは「アインシュタインが原子爆弾の開発者」という"認識が広く存在するとも書いています。しかし、これらも誤解であるとしています。
また、アインシュタインの代表的な業績の一つである"質量とエネルギーの関係式:E=mc²は、あらゆるエネルギーについて成り立つ式であり、特に原子力に関係した公式では"ありません。これをもって原爆の開発者とするのは、言いがかりも良いところです。"アインシュタインは原子爆弾製造に関しては一切関与して"いないというのが本当のようです。
これは特に日本で多い誤解なのかもしれません。以下のような逸話もあります。
第二次世界大戦後、日本の哲学者で雑誌「改造」の編集者だった篠原正瑛から原爆開発に関して、
「その第一の目的が、人類の福祉と幸福に奉仕すべき科学が、なぜにあのように恐ろしい結果を、もたらすようになったのか。偉大な科学者として、原爆製造に重要な役割を演じられたあなたは、日本国民の精神的苦痛を救う資格がある」
という手紙を受け取った。それに対してアインシュタインは、あえて篠原の手紙の裏面に返事を記し、
「原爆が、人類にとって恐るべき結果をもたらすことを、私は知っていました。しかし、ドイツでも、原爆開発に成功するかも知れないという可能性が、私にサインさせたのです。私に敵があって、その無条件の目的が、私と私の家族を殺すことである場合です」
と述べた上で、追伸として、
「他人の行為については、十分な情報を手に入れてから意見を述べるよう努力すべきだ」と記した。
アインシュタイン自身は「アインシュタイン=シラードの手紙」のことを後悔していました。また、"アメリカに滞在中の湯川秀樹のもとを訪ね、「原爆で何の罪もない日本人を傷つけてしまった。こんな私を許してください」と激しく泣き出し、深々とお辞儀を繰り返したという逸話がある"そうです。
ただ、上記の手紙のような理解は事実から遠いということなのでしょう。さすがに犯してもいない罪まで背負い込むことまでは求められません。
以上のように言われているのですが、産経新聞の
【国際ビジネスマンの日本千思万考】「日本人に深くお詫びしたい」原爆開発者オッペンハイマーは自死した…日本の「原発」生んだのは米物理学者たちの「原爆贖罪意識」だった(2014.8.17 07:00 上田和男(こうだ・かずお))では、以下のように書いています。
広島、長崎の悲劇を生んだ原爆を発明したのは、オッペンハイマーやアインシュタインほかユダヤ系化学・物理科学者たち(ナチスから逃れ米国へ移民した学者たち)によるマンハッタン計画でした(略)
アインシュタインが原子爆弾開発への関与については、解釈の仕方でまだどうにかなるかもしれません。しかし、マンハッタン計画に参加していた…は間違いなく嘘でしょう。
実はこの記事は
本当は怖いチンパンジーとボノボ 殺害や共食いは生まれつきの性質で紹介した記事と同じ方のものです。「先月もデマ垂れ流した末にこっそり修正していた連載らしいです」と書いたものが、今回のものでした。
この記事は上記のアインシュタインの記述は未だに直っていませんが、タイトルについては訂正されているそうです。長いタイトルだったのを、中間部ごっそり抜いた形です。
変更前:「日本人に深くお詫びしたい」
原爆開発者オッペンハイマーは自死した…日本の「原発」生んだのは米物理学者たちの「原爆贖罪意識」だった
変更後:「日本人に深くお詫びしたい」、日本の「原発」生んだのは米物理学者たちの「原爆贖罪意識」だった
なぜ抜かれたのか?と言うと、これがデマだったためです。
Wikipediaによると、"1965年、咽頭がんの診断を受け、手術を受けた後、放射線療法と化学療法を続けたが効果はなかった。1967年、昏睡に陥ったオッペンハイマーは、ニュージャージー州プリンストンの自宅で2月18日、62歳で死去した"とのこと。
これが現在の産経新聞記事では以下の部分のようになっています。
研究室を離れたり、ノイローゼにさいなまれたり、核の平和利用を訴える活動に転じたり…。オッペンハイマーにいたっては「日本人に深くお詫びし、死をもって償いたい」と自死を遂げたと聞きました。
しかし、もともとは「自死を遂げました」と断言していたようですね。
訂正したというのは、産経新聞も内容が問題だと感じたということです。ただ、本来訂正するのであれば、訂正した箇所を断る必要があります。
新聞などの誤報で最も望ましいのは、「謝罪して訂正」です。そのため、当初謝罪がなかった朝日新聞の慰安婦吉田証言誤報では、私は朝日新聞を批判しました。
「謝罪して訂正」の次に望ましいのは、「訂正内容を明記して訂正」です。実際問題マスメディアがいちいち謝罪しているか?というとそうではないですし、重大な誤報以外は訂正のみでも良いと思います。しかし、その場合には何を間違えたのかが明確にならなくてはいけません。ここまでが許容範囲です。
これ以外のものとなると、基本的にはやってはいけないものです。「訂正しない」「明記なしのこっそり訂正」「こっそり削除」などです。ただ、「訂正しない」というのも望ましくないのは間違いないですが、問題化していなくて気づかないということはあり得ます。広く問題になる誤報というのは一部に過ぎません。
一方、報道機関として絶対にやってはいけないものが、残された「明記なしのこっそり訂正」と「こっそり削除」です。報道機関失格と言えます。産経新聞はこれをやっているわけです。
また、そもそも間違った情報を「自死を遂げたと聞きました」と書き換えるだけでは不十分です。今回の話は
はてなブックマークで知ったものですが、以下のようなコメントがありました。
hate_flag
記事タイトルを『日本の「原発」生んだのは米物理学者たちの「原爆贖罪意識」だった』と書き換え『自死を遂げました』を『自死を遂げたと聞きました』とこっそり訂正。産経ってどんだけ卑怯なの? 2014/08/17
bogus-simotukare
オッペンハイマーにいたっては「日本人に深くお詫びし、死をもって償いたい」と自死を遂げたと聞きました。/ブクマで指摘があるけど伝聞調にしても嘘は嘘だから。本当、よくこれで朝日批判とか出来るよな。 2014/08/17
katabiragawa
「オッペンハイマーにいたっては「日本人に深くお詫びし、死をもって償いたい」と自死を遂げたと聞きました。」に変わっているが、伝聞ならどんなデマはいても責任とらんでええというスタンスなん? 2014/08/18
なお、はてなブックマークのタイトルは、最初のブックマークができた時点でのtitleタグ(ページソースで見えますが、通常ブラウザ上部に表示されるものと同じです)の内容を取り込んでいると思われます。
そのため、"
【国際ビジネスマンの日本千思万考】「日本人に深くお詫びしたい」原爆開発者オッペンハイマーは自死した…日本の「原発」生んだのは米物理学者たちの「原爆贖罪意識」だった(1/4ペー"という元の産経新聞の記事名が確認できます。(長すぎるので途中で切れていますが)
また、はてなブックマークによれば、同じ記事でもう一つやらかしていたらしいです。本当ひどいなぁ…。
zhy
私たちの住む世界では、オッペンハイマーの死因は喉頭がんで、アインシュタインはM計画に関与しておらず、湯川博士は中間子論でノーベル賞を受けているのだけど、産経新聞はどこの並行世界におられるのでしょう。 2014/08/17
ystt
アインシュタインがマンハッタン計画に参加し、オッペンハイマーが自死し、湯川秀樹が「中性子論」なるものを研究していたというのが産経の「歴史認識」か。 2014/08/17
本文で湯川秀樹が出てくるのは以下のところですね。
米国の原子物理学者のうちノーベル賞受賞候補者たちの多くが受賞を辞退し、代わりに、日本の湯川秀樹博士(の中間子論)に与えてほしいと陳情を繰り返したのだそうです。
これもこっそり修正済みたいです。じゃあ、なぜマンハッタン計画は、訂正すらしていないんですかね? 産経新聞の考え方がよくわかりませんわ。
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ずさんな防災で多数の犠牲者...被災地の無責任市長が今度はネトウヨばり歴史捏造発言!- リテラ(2015年3月8日12時00分)(平喜治)
"名取市の広報紙「広報なとり」に、「粋庵」という佐々木市長の連載コラムが載っているのだが、その14年12月号で佐々木市長は、GHQのダグラス・マッカーサー最高司令官が「先の大戦はアメリカが悪かった」「私は反省しています。自虐史観を持つべきは日本ではなく、アメリカです」と日本国民に謝罪している、と書いていた。
ところが、これが事実誤認、捏造情報だったことから、市民の猛批判を浴び、今年3月2日の市議会で謝罪に追い込まれたのだ。
このトンデモコラムは当初、名取市役所の公式サイトにも掲載されていたが、現在は削除。市広報のPDFファイルからも、この部分だけ記載が削られて空欄となっているが、名取市議のブログによると、佐々木市長は「アメリカ上院軍事合同委員会の公聴会でのマッカーサーの膨大な証言の抜粋」だとしてこのマッカーサーのこんな発言を紹介していたという。
〈アメリカは日本を戦争に誘い込むためイジメぬき、最後通牒としてハルノートを突きつけました。中国大陸から出ていけとか、石油を輸入させないなど、アメリカになんの権利があったというのでしょう。当時、アジアのほとんどの国は植民地でした。白人は良くても、日本人には許さなかったのです〉
〈国を弱体化する一番の方法は、その国から自信と誇りを奪い、歴史を捏造することです。戦後アメリカはそれを忠実に実行していきました。まず、日本の指導者は間違った軍国主義でアジアを侵略していったと嘘の宣伝工作をしました。日本がアジアを白人の植民地から解放したという本当の理由を隠すため「大東亜戦争」という名称を禁止し「太平洋戦争」という名称を使わせました〉
〈東京裁判はお芝居だったのです。アメリカが作った憲法を日本に押し付け、戦争ができない国にしました。公職追放でまともな日本人を追い払い、代わりに反日的な左翼分子を大学などの要職にばら撒きました。その教え子たちが今、マスコミ・政界などで反日活動をしているのです〉
〈徹底的に検閲を行い、戦争に負けて良かったのだと日本国民を騙しました。これらの政策が功を奏し、今に至るまで独立国として自立できない状態が続いているのです。私は反省しています。自虐史観を持つべきは日本ではなく、アメリカです〉
いかにもネトウヨが小躍りしそうな主張が並ぶが、実はこの〈マッカーサーの言葉〉、正式な資料をもとにしたものでなく、「青山繁晴氏のファンサイト・淡交 ブログ」からの孫引きだった。しかも、この「淡交 ブログ」の記述は、既に14年3月の時点で原文に当たったネットユーザーによって「事実を一部だけ織り交ぜた創作文」、つまり捏造であることが判明していた。たしかに、「反日」とか「自虐史観」とか、マッカーサーがこんなネトウヨ用語を使って、戦後日本を批判するなんてことがありうるはずがないのは、ちょっと考えれば、わかりそうなものだ。
ところが、佐々木市長はこのネットの捏造文書をそのまま鵜呑みにして市の広報紙で紹介。「ネットでは当たり前に閲覧できますが、日本のマスコミには載りません」とのセリフで得意げに締めくくっていたのだ。これでは、正史と偽史の区別もつかず、自説に都合のいい陰謀論だけを信じ込む"ネトウヨ"と大差ないといわれてもしかたがないだろう")
Appendix
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