何だか肉や魚は悪いもの、野菜なんかが良いものというイメージがすっかり定着しています。また、加工食品なんかは特に「不自然だ」という目の敵にされています。
ところが、良いとされる野菜は本当に「自然」な食品なのでしょうか? 言われてみてハッとしましたが、考えてみると野菜は人の手で育てられたものです。無農薬栽培と言ったって、人が関わっている以上、人工的です。本当の「自然」ではないのです。
そこで登場するのが、旧石器時代の食事=パレオダイエットです。
旧石器時代の食生活を送れば健康になれるのか:日経ビジネスオンライン(アン・ギボンズ 2014年8月28日)によると、"旧石器時代の食事「パレオダイエット」が健康に良いと、米国で話題になっている"みたいですね。"農耕の発祥以前から長く人類が食べてきた、狩猟採集で得られる食事こそ、人類に合った食事である"というわけです。
人類が農耕を始めたのは、
たった1万年前、それ以前は"人類は、もっぱら狩猟と採集によって食料を得てい"ました。"農作物を中心とした食生活に人体が適応するには、1万年では短すぎるのではないか"というのが、パレオダイエットを推薦する理由です。
実際、"南米ボリビアのチマネ族や北極圏のイヌイット、タンザニアのハッザ族といった狩猟採集民を調査してわかったのは、彼らが昔から高血圧や動脈硬化といった循環器系の病気になりにくかった"そうです。
ここでおもしろいのは、現代では目の敵にされることの多い肉がむしろものすごく肯定されていることです。米コロラド州立大学のローレン・コーデインさんは、"狩猟採集民の食習慣を調べ、彼らの73%が摂取カロリーの半分以上を肉からとっていると結論づけて、旧石器時代の食習慣にならった独自の食事法を提唱し"ました。
"
脂肪分の少ない肉と魚をたっぷり食べ、人類が調理と農耕を始めた後に食べるようになった乳製品や豆類、穀物は避けるというものだ"そうです。
狩猟採集時代のような食生活を送れば、心臓病や高血圧、糖尿病、がん、そして、にきびに至るまで、現代人を悩ます“文明病”を予防できると、コーデインさんらは主張しているようです。
検索してみると、それらしき本が日本でも出ていました。
肉・魚が食べ放題の 原始人食ダイエット (マキノ出版ムック)
のページを見ると、著者の崎谷博征(さきたに・ひろゆき)博士は、一般社団法人パレオ協会代表理事だそうです。やはりパレオダイエットっぽいな…と見ると、"「原始人食(ナチュラル・パレオダイエット)」を研究し、生活習慣の改善による自然治療、及び土壌からの健康改善の活動に力を注ぐ"ともろに書いていました。
ただ、"その一方で、無肥料・無農薬の自然栽培・草食放牧家畜運動を展開し、「食と健康」の啓蒙運動を全国各地で行っている"そうです。何か浮気性な感じですね。パレオダイエットの考え方を素直に聞いていると、無肥料・無農薬は「自然栽培」ではなく、「不自然栽培」ですよ。
本の紹介を読むと、以下のようにあったので、過激なパレオダイエットではないのかもしれません。
だからといって、
1万年前そのままの食事を摂るべきだという暴論を、
本書で吐くつもりはない。
タイトルを見て、「原始人の食事を摂るの?」と
失笑をもらした人も、安心して大丈夫だ。
現代的にアップデートされた「原始人食」は、
とてもおいしく、調理も簡単なのだ。
そんな原始人食を、本書では多数紹介している。
まあ、とりあえず、日本でも、人類が農耕を始める前の狩猟採集中心の食生活が人類に合っているのだから、原始人の食事を参考にしたダイエットをしよう…という動きがあるようです。
ただし、これらの主張は大切な前提が間違っていました! 「狩猟採集民が肉を好むのは確かですが、
実際に常食としていたのは、植物なんです」とドイツにあるマックス・プランク進化人類学研究所の古人類学者アマンダ・ヘンリーさんは話します。
ヘンリーさんは調査で、"人間の歯の化石と石器から植物由来のでんぷんを検出"しました。"そこから、人類は少なくとも10万年前からイモ類だけでなく穀物も食べていた可能性があると考えている"ようです。農耕の歴史よりずっと前から穀物も食べられていたって可能性があるんですね。肉中心の食事というのもまた、"多様な食物をとっていた祖先の食習慣とは異なる"わけです。
また、「パレオダイエット」は食べ物だけしか見ておらず、現代人と人類の祖先との生活習慣の違いを考慮していません。"太古の人々は日常の運動量が多かった"と考えられますので、心臓病や糖尿病になりづらかっただろうと想像されています。これらの理由で、"多くの古人類学者は、「パレオダイエット」には懐疑的"なようです。
結局、記事で推薦されていたのはごく真っ当な食事と生活習慣です。"野菜や果物をもっと食べ、少量の肉と魚、全粒の穀物をとり、1日1時間は運動する"という穏当な方法でした。(元の文章では、「地元産の野菜や果物」とありましたが、この「地元産」というのは根拠不明でナンセンスだと思います)
ただし、加工食品を避けましょうというところは、パレオダイエットといっしょです。"人間の食生活に最大の革命をもたらした"のは、"調理を始めたこと"だからです。
"食べ物を細かく砕き、火を使って調理すれば、消化しやすくなり、生で食べるよりも胃腸の負担が減って、余ったエネルギーを脳の活動に回"すことができました。"調理することで、高カロリーの軟らかい食品を食べられるように"なったことで、子どもの生存率が高まりました。
ところが、現代ではそれが行き過ぎて高カロリーになった上に、生活習慣が変わり消費カロリーも減りました。記事によると、食品を加工するというのは、人類が生き残っていくためには必要な革命だったみたいなのですが、今ではすっかり厄介者扱いです。
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