なかなか難しい話で正直半分も理解できなかったんですが、
ねつ造されるから強靱な「民族の伝統」:日経ビジネスオンライン(吉田 徹 2014年11月7)という記事を。これはスコットランド独立の住民投票について主に書いたものです。
そして、この記事でもう一つ重要なテーマとなっているのが、民族の伝統の捏造性というもの。この考え方のベースとなったのは、英国人の歴史家ホブズボームの編纂した『
創られた伝統)
』(文化人類学叢書、原題は『伝統の発明』)という本です。
この本の中でも重要なのは、ケンブリッジ大学のトレヴァー=ローパーの『伝統の捏造―スコットランド高地の伝統』です。そう、民族の伝統の捏造において、スコットランドは最高のモデルケースなのです。
たとえば、スコットランド固有のものとされるタータン柄のキルト。これはもともと外来のものでした。元は外来であっても自分たちの手で地域化して…というのならまだマシなのですが、その由来がまた非スコットランドのものです。
何と"イギリス人企業家が自社の労働者たちが動きやすいように仕立て直したこと"によって、"スコットランドでキルトが定着すようになった"という衝撃的な話です。
さらに"イングランドの繊維企業のマーケティング戦略"により、「タータンの柄には氏族ごとの伝統的な模様がある(ことになっている)」となり、"「タータンのキルト」という、想像上の伝統"までが創造されるに至りました。
「イギリスという近代がスコットランドという歴史を鋳造した」という不思議なことになっています。
"こうした「伝統の発明」はスコットランドに限った話ではなく、多くの国でみられる現象である"と記事では書きます。
そうなると、皆さん日本はどうなのか?と気になるでしょう。記事では、上記の引用部の後にこう続きます。
フランスでのフランス革命の神話、ユダヤ人にとってのイスラエル、明治期日本における神道の普及等々、国家にとって伝統を再発見し、国民を創造するのは必要不可欠なことだった。
また、先の『
創られた伝統)
』のアマゾンレビューにおいても、触れている方がいらっしゃいました。
本書は「創られた伝統」が、1870~1914年の時期のヨーロッパで大量生産されたという史実を紹介している。そしてその原因として、当時の急激な産業社会化が、為政者に国民同士の連帯感やアイデンティティーの確保について不安を感じさせたことをあげて、社会を安定させようとして試みた様々な工夫が結果的に「伝統」の大量生産になったのだと論じている。考えてみると、この時期は国民国家としての日本が確立した時期にもあたっている。欧米の影響下で急激に日本社会の近代化が進展したが、やはりこの時期に、主として近代天皇制にまつわる様々な伝統が創り出されたことがわかる。
ただ、このレビューは上記の後がちょっと妙です。
それにしても、明治維新以降の近代化に伴なう社会の激変にもかかわらず、社会の安定が大きく損なわれなかったことは、伝統を創る際に参照可能な、豊かで長い日本の歴史があったからこそだと思った。
レビュアーさんがヨーロッパで伝統の創造があったけど日本ではなかったという立場なら、日本の特筆性に言及するのはわかります。
しかし、日本でも伝統の創造が行われたという理解のようですから、「豊かで長い日本の歴史」うんぬんは無関係だと思うんですけどね。
この理論は、社会の安定が損なわれなかったから伝統が豊富だったというものではなく、社会を安定化させるために伝統を作る必要があったというものです。
(2016/01/02追記:日本の捏造の例をやっと書きました:
多くの神社を廃止、明治政府の伝統文化破壊と国家神道の捏造 あの南方熊楠も「神社合祀」に猛反対)
最初の記事では、"ホブズボームの表現を借りれば、宗教や地域共同体といった社会的紐帯が緩んでいったのをナショナリズムが代替しなければならず、その中で新参の共同体である「国民国家(ネーション・ステート)」が、正当性を得るために伝統を「発明」していった"としていました。先のレビューの部分と重なる部分です。
ただ、"ナショナリズムは、単に「発明されたもの」と指摘すれば瓦解するようなものではない"としていました。
実際、"日本を含め、いわゆる識者や知識人と呼ばれる人々はこうしたナショナリズムがいかに「フェイク」であるか、その非合理性や非歴史性を指摘することに躍起になってきた"ものの、それは無駄でした。
なぜなら「ナショナリズムはその時々に応じて、アドホックに『発明』されるものだから」としていました。そして、「ナショナリズムはフェイクだから弱いのではない。むしろフェイクだからこそ強く、しぶといのである」としています。
この文章中の「アドホック」の意味がわかりづらいんですが、「目的に応じて」と言うと意味が通じそうではあります。ただ、よりネガティブな使い方で「その場しのぎの」「取ってつけたように」という解説もあります。
また、「アドホックな仮説」と言うときは、もともと主張していた理論が反論されてしまったので、元の理論を正しいと言い続けるために付加される補助仮説といった意味のようです。やはり非常に批判的な用法です。
しかし、ナショナリズムというのは、こういった結論ありきで、真実性などどうでもいいという姿勢こそが強くしているのだ…というのが、たぶん記事の主張なんだろうと思います。
また、もともとの主題であったスコットランドの独立機運の高まりについて。これは"イギリスのナショナリズムがその有意さを失いつつあるがゆえに生まれたものだ"としています。
カタロニアやバスク地方などの他地域の分離独立運動も同様に、"グローバル化の中で国家主権の自律性や領域性が浸食され、もはや社会的紐帯としての国家ナショナリズムが逆説的に必要とされなくなってしまったことが、原因の一つといえるだろう"とのことでした。
あと、全然関係ない話ですが、「アドホック」うんぬんの「捏造だからこそ強い」という話。私がこれで思い出したのは、擬似科学・ニセ科学といったものです。
「放射能」問題などで擬似科学を信じる人たちは最初に言っていた理論が論破されても、その都度都合のいい話を作り出して、自説を曲げようとはしません。彼らの言っていることは矛盾だらけで、筋が通っていないということもよくあります。これは普通の人にとっては、擬似科学から離れる理由になるはずです。
ところが、これを伝統の捏造同様に考えると、擬似科学も捏造だからこそ強いのでは?と思いました。普通の人にとっては矛盾だらけに見える反論であっても、彼らにとっては擬似科学をより強く信じる助けとなっているのかもしれません。
作者は"その本質を理解しなければナショナリズムは理解できないし、ナショナリズムが理解できなければその処方箋も出しようがないだろう"としていました。
しかし、このナショナリズムの処方箋については、それが結局何なのかを記事から読み取ることができませんでしたので、同様に擬似科学を信じる人たちにつける薬も全然思いつきませんでした。
追加
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