「中国・韓国と日本の関係はますます重要になる」というのは、政治的な主張ではなく、純粋に経済的な研究の話です。テクノロジーの発展によって遠い国の経済関係が強まりそうなものなのですが、研究によると、実は全く逆にますます近くの国との関係が深まっているとのこと。私にも予想外で、信じられないような話でした。
●輸送コスト低下と情報技術進展で遠い国との貿易が増えるはず!
2014/12/1:冒頭で書いたように、政治的な主張ではなく、純粋に経済的な研究の話。テクノロジーの発展によって、地理的に近い国との関係がますます強まるという研究です。研究そのものは世界全般を見たものでしたが、これを日本に単純に当てはめた場合、「中国・韓国と日本の関係はますます重要になる」となるだろうというだけの話です。
ただ、そうであっても「中国・韓国と日本の関係はますます重要になる」と聞くと、お怒りになる人も多いのではないかと思われます。また、信じられない!絶対嘘だ!と思う人もいるでしょう。私もこちらはよくわかります。テクノロジーの発達でますます近い国との経済関係が強まるというのは、信じられませんでした。
この研究の話があったのは、
「世界がグローバル化した」「フラット化した」という言説のウソ:日経ビジネスオンライン(入山 章栄 2014年11月18日)という記事。まず、一般論として、国際貿易においては、国と国の距離が障害になり、2国間の距離が遠いほど、国同士の貿易量にはマイナスの影響を及ぼすという話がありました。
これ自体は当然であり、異論はないでしょう。国同士の距離が遠ければそれだけ物流コストがかかりますし、取引時の情報のやりとりも難しくなるという簡単な話です。これは"1970年代から経済学で盛んに実証されてきました"とあるように、以前から知られてきたことでした。ここまでは問題ありません。
しかし、"現在は40年前と比べれば、国際間の輸送コストは低下しており、情報技術の進展で国同士の情報のやりとりも飛躍的にスムーズになっています"。そして、"「国と国の距離の壁を超えてビジネスを行いやすくなっている」と感じるからこそ、「世界が狭くなってきた」"などと言われています。
そうであれば、今はこの障害がかなり低くなり、貿易量は二国間の距離の影響を受けにくくなっているはずです。"過去に見られた「国同士の距離の貿易量へのマイナス効果」は低下していると予想されます"。日本であれば中国や韓国との交易の重要性は低下して良いはずで、それらの国が好きではない方には朗報のように思われます。
●輸送コストが低下して、遠い国がさらに遠い国になるという不思議
ところが、"実際に検証してみると、その傾向はむしろ逆"でした。驚くべきことに、"国同士の距離のマイナス効果が年々強くなっていることが示された"とのこと。これは"加ブリティッシュ・コロンビア大学のキース・ヘッドが仏INRAのアンセリア・ディスディエールと2008年に「レビュー・オブ・エコノミクス・アンド・スタティスティクス」に発表した論文"の情報です。
<彼らの分析によると、例えば1970年代のデータを使った研究では「距離の違いによる貿易量の変化の弾性値」は平均で0.9となりました。これは国と国の距離が1%ポイント長くなることで、貿易量が0.9%ポイント減ることを意味します。そしてこの弾性値は、1990年代以降では0.95に上昇しているのです>
貿易量自体は増えていますので遠くの国との貿易は進展しているのですが、その国との貿易量が占める割合で見るとますます国と国の距離が顕著に効いてくる傾向にあるようです。
●情報技術の進展で、中国・韓国と日本の関係はますます重要になる
しかし、まだこの論文にも反論の余地があります。"論文は2001年までのデータを使って"おり、"インターネット取引が充実している現在でもやはり距離の影響"があるのでは?という反論です。ただ、これも望み薄かもしれません。"インターネット取引も距離の影響を受けやすい、という研究成果も得られてい"るためです。
<カナダ・トロント大学のベルナルド・ブラムとアヴィ・ゴールドファーブが2006年に「ジャーナル・オブ・インターナショナル・エコノミクス」に発表した論文では、1999年末から2000年3月までに米国と他の国の間で行われたインターネット上のデジタル製品・サービスの取引量と各国の距離の関係を統計分析しており、その弾性値は1.1となりました>
しかも、このの弾性値1.1というのは、"先のヘッドの研究の弾性値(0.9~0.95)よりもむしろ大きな値"です。もう少し調査が必要でしょうが、インターネットは世界を狭くせず、むしろ国との国との距離を広げているのかもしれません。これが日本で言うと、中国・韓国との関係が占める割合がむしろ上がっていくだろうという話です。
●ITの発展でも地域活性化は起こらず、むしろ地方の過疎化を進展
これ以外に記事では、"米国を中心としたベンチャー・キャピタル(VC)の国際投資"も、距離の影響が大きいことを示しています。この理由については、"ベンチャー・キャピタリストは投資先を選定するために投資候補の起業家に何度も会う必要がありますし、投資後も頻繁に投資先企業の経営をチェックし、経営指導することもある"と説明しています。
"人間同士の密な交流を必要とするビジネスなのです"とも書いていました。人間同士が実際に会えるからというのは、初期に書いた
地域活性化を促進するとされるITの発展、実は地方の過疎化の原因だったと同じ理由。ITの発展で、ますます直接会えることの重要性が高まっているとされていました。
ただし、ベンチャーへの投資に関して言えば、一見グローバル化的に見える傾向も見られるようです。ある国の特定の地域と別の国の特定の地域という限られたものですが、異国の特定の地域同士の関係性が深くなっている部分もあるとされていました。
具体例について、記事では、"米国の中でもカリフォルニア州のシリコンバレーという極めて狭い地域と、台湾の新竹というこれまた狭い地域の間で起きているに過ぎません"という書き方をしていました。これも人的交流の密さと関連しているかもしれませんね。
著者は"ビジネスが情報集約型になって人と人の密な交流が重要なほど、「国と国」という広すぎる単位でグローバリゼーションを捉えることにそもそも意味がなく、「ある都市と別の国(のある都市)の間の関係」という視点が重要になることを示唆しています"としていました。いずれにせよ、単純に考えるグローバル化とはかなり違った形に、世界は進んでいるようです。
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