一般に「便所コオロギ」と呼ばれることの多い「カマドウマ」。
第1回 カマドウマの心を操る寄生虫ハリガネムシの謎に迫る | ナショナル ジオグラフィック(川端裕人 2014/10/30)は、この虫について研究している佐藤拓哉神戸大学准教授に話を窺っています。
カマドウマは、気持ち悪い生物と感じる人が多い生物でもあります。研究している佐藤准教授ですら、「いや、実は僕、カマドウマ、苦手なんですよね」とのことでした。
そして、作者の川端裕人さんが「苦手ではない。かなり格好良いとすら思っている」と言うと、「本当ですか!」と珍しがられたそうです。
"佐藤さんが研究でカマドウマとつきあい始めて以降、周囲の反応を見る限り、こういうのは希"で、「すごい気持ち悪いと言われる人が多い」という印象とのこと。「今大学の研究室でも飼っていますが、他の教員でも学生でも、来客はすべからく嫌そうな顔してます(笑)」としていました。
しかし、この気持ち悪い便所コオロギが、実はとっても生態系の中で役に立っているのです。
そんなことを言うともう食べられなくなりそうですが、「僕が研究してきた森では、渓流のサケ科の魚が年間に得る総エネルギー量の6割くらいをカマドウマを食べて得ていた」と 佐藤准教授はおっしゃっています。たぶん渓流のサケ科の魚というのは、ヤマメやイワナのことですね。
「本州でカマドウマが、行動を操作されて川に飛び込む時期は、秋の3カ月くらいなんですが、その間に1年の6割のエネルギーを得てしまうという」というのですから、すごい重要性です。
でも、なぜ陸の動物(虫)であるカマドウマを魚が食べているの?と言うと、寄生虫のせいです。寄生虫のハリガネムシが、"カマドウマを操って川に飛び込ませる"という恐ろしいことをやっています。寄生虫がたくさんのカマドウマをに操って、たくさん川に飛び込ませることで、たくさん食べられているようです。信じられない世界がそこにありました。
6割となぜ言えるのか?と言う話ですが、"定量的な測定が難しいものを、綿密な観察を行ってきちんと推定した"ためです。"国際的にもインパクトがある研究で、最近注目されている新興分野、生態系寄生虫学の教科書でも、寄生虫による行動操作が生態系に与える決定的な役割の例として挙げられている"そうです。偉大な研究ですね。
研究方法について書かれていたのが、同じ連載の
第4回 世界初! 寄生虫が異なる生態系をつなぐことを証明 | ナショナル ジオグラフィック(川端裕人 2014/11/4)でした。
佐藤准教授によると、「川のまわりをビニールで覆ってカマドウマなんかが飛び込めないようにした区画と、自然なままの区画を2カ月間比較」というのを京大の和歌山研究林で行いました。
ただ、これは口で言うと簡単なものの、実際にやるにはたいへんな労力がいります。"例えば、ビニールで覆った部分でも、そこから魚が逃げてしまったら実験にならないので、上流と下流にネットをはる。しかし、ほうっておくと流れてくるものですぐに詰まってしまう。それを取り除く作業を2カ月間、ずっと続ける"といった苦労などがあったそうです。
しかし、その甲斐あって前述の定量的なデータを出せたんですね。
「──陸の虫が川に入ってくると、川の魚は陸の虫を食べる。なので、川の魚は川の中の虫をあまり食べなくなって、川の虫はたくさんいられる。すると、川の虫が食べていた川の藻類がたくさん食べられて減るとか、川の虫が分解する葉っぱの分解スピードが速くなるっていうふうに。陸の虫が入ってきて、それが川の魚を通して川の生態系全体を変える。基本的には、そういうことが起きると確認できました」
「──さらに、僕らはカマドウマが入る量と、カマドウマ以外の虫が入る量を分けて操作をして実験していまして。ちょうどカマドウマが入る時期に限ってはカマドウマ以外の虫が飛び込んでもあまり影響がなくて、カマドウマが量的にドカーンと入ることが大事で、それで初めて川の中の生態系が変わるとわかってきたんです。それも、これまで陸の虫が単純に落ちてくると考えられていたんですが、ハリガネムシみたいな変わったやつが陸の虫を連れてくることで、初めて量的にも大事なものとして森と川がつながって川の生態系が変わると、世界ではじめて示すことができました」
「カマドウマが水に飛び込むのは1年のうちで3カ月くらいだけなんですが、その時期に渓流魚が得る総エネルギー量の9割以上くらいがカマドウマです。実はそれが1年のうちで一番たくさんエネルギーを得られる時期で、たとえば、冬に比べると100倍にもなります。ですので年間ベースに引き延ばしたとしても大きく効いてきて、6割ぐらいがカマドウマで説明できるんです」
読むだけで気持ち悪いんですが、"ムッチリとした質感の通り、カマドウマは高栄養食らしい"とのこと。カマドウマは大切ですし、それを川へと導くハリガネムシ(これまた気持ち悪い針金状の虫)も大事なんです。
いやーすんごい話でした。でも、こういう話ってノーベル賞はもちろん~賞みたいな派手な賞もらえない感じしますね。何となくそう思うだけで根拠はないんですけど、何しろ地味ですもの。ド派手に予算がどーんなみたいな世界とも違う気がします。
また、「すごい」という話で言うと、研究の舞台になった京大の和歌山研究林というのも重要だと思います。京大は他にも研究林を持っていた気がしますが、一般の人の立ち入りを制限するいわゆる「自然な森林」を持っているというのは大きいです。営利目的では難しいでしょうから、こういうところには税金を突っ込む価値があると思います。
あと、「寄生」に関する話としては、過去に
アリに寄生して操る動物というのをやっています。また、
猫は寄生虫で人を操っている!?トキソプラズマの症状といった猫関連の寄生まであります。これも衝撃です。
寄生虫の世界はすごいですわ。
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