トランス脂肪酸関連の投稿をまとめ。前半は以前<食品中のトランス脂肪酸で皮膚障害? マーガリン以外にサラダ油も要注意という説>というタイトルで書いていたもので、後半が<ヒステリックなトランス脂肪酸批判が招く新たな健康被害の危険性>です。
●食品中のトランス脂肪酸で皮膚障害? 医師がリスクを指摘
2014/12/7:トランス脂肪酸に関しては、既に
マーガリンは危険?トランス脂肪酸の健康被害の嘘と本当・日本と欧米の違いを書いています。ただ、
危険なトランス脂肪酸に新たな健康リスク、野放しに批判強まる 菓子パン、マーガリン…- Business Journal(2014年11月5日06時00分 郡司和夫)は、それ以外に新たに危険性が見つかった!という記事みたいですね。
新たなリスクを見つけたというのは、JA高知病院の野田里香医師(形成外科・皮膚科)。"トランス脂肪酸の摂取が皮膚障害の原因になる"リスクがあるということです。「食の安全ウオッチ」(No.42)に載っている野田医師の講演内容は以下のようなものだったといいます。
「患者の中で皮膚の痒みを訴える人には、肉料理と魚料理はどちらが多いか、食用油は何を使っているか、菓子パン・調理パン・アイスクリーム・スナック菓子・洋菓子・スーパーの揚げ物などをどのくらいの頻度で食べているかという問診票を使って尋ねています。ひどいニキビや皮膚の湿疹などに悩んでいる患者にはEPA製剤を投与するほか、菓子パンやドーナツやアイスクリームなど、トランス脂肪酸を多く含む食品をやめ、肉食より魚食に代えてもらうと、劇的に改善します。汗は本来暑いときに体を冷やしてくれる優れものですが、汗の中に身体から出る有害物質が混じっていて、それが皮膚に痒みなどをもたらすのではないか」
野田医師は、「アトピー性皮膚炎や、あせも、汗あれなどの痒みに悩んでいる人は、菓子パンやドーナツなどに気をつけて、マーガリンやショートニングと書いてあったら(食べるのを)やめてみたらどうでしょうか」と柔らかくアドバイスしています。
●でも本当にそんな主張をしていたの?非科学的な断定に要注意
それ以外にも、記事では以下のような主張をしていたとしています。ただ、上記の発言部分よりやや強い書き方もあり、野田医師の当初の意図通りかは不明です。
・アイスクリームやコーヒーフレッシュもトランス脂肪酸が多く含まれるので、食べるのは控えたほうがいい。
・揚げ物より油炒めのほうが油の摂取量が少ないので、トランス脂肪酸の摂取量は少なくなる。
・サラダ油も要注意。サラダ油はパーム油、大豆油、菜種油など複数の油を混ぜたものですが、ほとんどのサラダ油には100g中1~2gのトランス脂肪酸が含まれる。0.1gしか含まれない単独のオリーブ油お勧め。
「野田医師の当初の意図通りかは不明」と書いたのは、一つは会話部分との違いです。野田医師は「皮膚に痒みなどをもたらすのではないか」という控え目な言い方です。
また、上記の講演内容ではあまり精度の高い研究ではないように見えるためです。STAP細胞問題で一般の人にもだいぶ伝わったと思いますが、査読を通して世界最高峰の研究誌に載った論文ですらデタラメということは過去に何度も起きています。ましてや、医師個人の体験談のような話を、即座に確かめられた事実としてしまうのは危険です。
これはただちに嘘だと決めつけているわけではないですよ。それもまたおかしいです。ただ、仮説というのは多くの研究者によって確かめられて、徐々に強固にしていくものだという話。いきなり「真実」といった感じで主張してしまうのは、科学的とは言えません。非科学的です。
●不安を煽ってアクセス数を稼ぐマスコミの常套手段の可能性
この記事は、
マーガリンは危険?トランス脂肪酸の健康被害の嘘と本当・日本と欧米の違いで書いた健康被害の問題についても、日本の対応に批判的でした。 たとえば、欧米では規制しているのに、"日本では「日本人のトランス脂肪酸の摂取量はWHOの目標を十分に下回っている」(食品安全委員会)などとして、基準値の設定や表示は義務付けられておらず、野放し状態"だと書いています。
また、今回「明らかにされ」たと記事が主張しているリスクにより、"トランス脂肪酸の使用を放置している厚生労働省や食品安全委員会に対する批判が強まっています"とも書いていました。さらに最後に"皮膚障害という新たな健康リスクの疑いも出てきているのですから、食品安全委員会は「日本人のトランス脂肪酸摂取量は、欧米人に比べて少ない」などと根拠のない説明をせず、早急にトランス脂肪酸の規制策を打ち出すべきといえます"としていました。
「日本人のトランス脂肪酸摂取量は、欧米人に比べて少ない」が根拠にならないというのは、意味不明です(日本人の摂取量の変化は注視すべきですが、そういう主張ではありません)。この記事は「放射能」の危険性を大げさに言ってアクセス数を稼いできたマスコミの新たなターゲットでは?という見方もあります。もともとマスコミは「放射能」問題に限らず、大げさに書いて儲けてきましたので「放射能」の代替ということはないだろうと思うのですが、確かに似ている部分は感じました。
人類誕生時から人は放射線を浴びながら暮らしてきており、問題はどれだけ多くの放射線を浴びるか?という量の問題です。同様にトランス脂肪酸も摂取量が問題であり、「欧米人に比べて少ない」が根拠にならないなどと言えるのは、科学的な知識に欠けているためだと思われます。(作者の郡司和夫さんは食品ジャーナリストを名乗っていますが)
それよりも本文中で野田里香医師が"トランス脂肪酸と皮膚障害の関連性を突き止めた"と断言しているその根拠は何なのか?という方が、知りたいです。本文の内容を読む限り、研究はまだまだこれからに見えます。
●日本でトランス脂肪酸規制を行ってなかったのは理由がある
2014/12/11:以前、トランス脂肪酸について書いた
マーガリンは危険?トランス脂肪酸の健康被害の嘘と本当・日本と欧米の違いと重なる部分が多いのですが、
科学無視のトランス脂肪酸批判 思わぬ弊害が表面化 日本人への影響は? WEDGE Infinity(ウェッジ)(2012年06月01日 松永和紀 (科学ジャーナリスト))という記事について今回は紹介します。
"トランス脂肪酸は、多く食べると狭心症や心筋梗塞など冠動脈疾患のリスクが高まるとされ、海外では食品中に含まれる量の上限値を決めている国があります"。しかし、日本では規制が行われていませんでした。そのため、"市民団体や一部の週刊誌などが強く批判して"きたそうです。
ただ、規制していないことにはちゃんとした理由があります。日本では「摂取量が海外ほど多くないとみられる」といった理由です。トランス脂肪酸は"冠動脈疾患のリスクを上げると指摘されています"。しかし、特に欧米でトランス脂肪酸が注目を集めたのは、この冠動脈疾患の患者が欧米で多いため。しかし、日本では冠動脈疾患が多いわけではないようです。
作者の松永和紀さんは、"食品の安全の問題は数多くありますから、優先順位をつけて対策を講じる必要があります"としていました。その優先順位の結果として、"トランス脂肪酸は優先順位が低いとみなされ、含有量を食品へ表示することは、日本では義務化され"なかったというわけです。
●そもそも日本人はトランス脂肪酸をほとんど摂取していない
記事の書かれた2012年3月には、「食品安全委員会」が"リスク評価書をまとめました"が、やはり"大多数の日本人にとってトランス脂肪酸のリスクは大きく"ないという内容になりました。"食品安全委員会が03~07年度国民栄養・健康調査のデータなどを基に推定した結果"は、以下の通りだったのです。
<日本人のトランス脂肪酸摂取量の平均値>
男性 総エネルギー摂取量の0.30%
女性 総エネルギー摂取量の0.33%
(WHOの目標値である1%を大きく下回る)
<95パーセンタイル値>
男性 0.70%
女性 0.75%
(トランス脂肪酸の摂取量を多い人から少ない人まで順に並べた時に多い方から上位5%の位置にある人の数値)
95%の人が0.75%以下。日本人の中でもトランス脂肪酸摂取が特に多い上位5%あたりの人でも、まだWHOの目標値1%を心配するような数値ではありません。慌てて規制する必要性はないのです。
●トランス脂肪酸の低減が進んだ一方で飽和脂肪酸が上限突破!
ということで、トランス脂肪酸を最優先で規制する必要があるという根拠はなし。それどころか、このリスク評価書では、"科学を無視したトランス脂肪酸批判が思わぬ弊害、別の健康リスクの増大すら招きかねない"ということがわかったといいます。
"食品安全委員会はマーガリンやショートニングなど個別の市販食品に含まれるトランス脂肪酸と飽和脂肪酸の量を2006年度と10年度、調査"しました。この調査によると、一部の人が大騒ぎする"トランス脂肪酸の含有量は、一般用も業務用も大きく低減され"ました。この結果は素晴らしいことでしょうか?
…実はトランス脂肪酸の低減は大きく進んだものの、"その代わりに飽和脂肪酸の含有量が急増していることが"わかったのです。トランス脂肪酸を下げることだけに気を取られて、飽和脂肪酸の方は野放し…いくら増えても気にしなかったみたいですね。ある物質だけを単純に悪者扱いすると、こういうことが起きがちです。
"食品安全委員会が、同じ調査などを基に推定した飽和脂肪酸の摂取量は、女性の中央値が20~29 歳で総エネルギー摂取量の7.4%、30~39 歳で7.3%"だったとのこと。そして、これは実はマズい数字みたいなのです。"飽和脂肪酸は、「日本人の食事摂取基準(2010 年版)」で目標量が設定されており、 18 歳以上でエネルギー比 4.5~7.0%となっています"。つまり、既に"女性の20~39歳の半数以上が目標量の上限値を上回って"しまいました。
日本人にとって危険性の少ない成分を目の敵にした結果、日本人にとって危険性の高い成分が増えてしまったという困った事態に…。それでもなお、彼らはトランス脂肪酸をもっと厳しく規制しろ!と言っているんですけどね。彼らは日本人の健康なんてどうでも良いようです。
非常に不思議なんですが、健康問題やら環境問題やらに熱心な人って、こういう本来の目標がなぜか疎かになってしまうんですよね。彼らにとっては、きっと政治的な活動そのものが主体であって、健康や環境には本当は興味がないんだと思われます。
●ヒステリックなトランス脂肪酸批判が招く新たな健康被害の危険性
松永さんによると、実は"トランス脂肪酸を減らそうとメーカーが原料を変えたり製法を変更したりすると、飽和脂肪酸の含有量が増えるという「トレードオフ」が起きるのではないか、という懸念は以前から、指摘され"ていたようです。よって、懸念通りになってしまったということです。
松永さんは"特定のものだけを火祭りに上げる市民団体や政治家の手法では、食の安全、健康は守れない"とも書かれています。俗に言う「ヒステリック」という言葉が似合うようなやり方を、マスコミ含めて影響力のある方たちは好みます。
そして、"食生活が乱れ、油ものたっぷり、お菓子パクパク、という生活を送っていたら、トランス脂肪酸も飽和脂肪酸も、摂取量が跳ね上がります"という当たり前のことも指摘していました。ところが、皆さんこの「当たり前のこと」がわからず、あの食品が悪い、また、逆にあの成分が良いと言いながら、好き好んで偏った食事をして、健康を害しています。
毎度同じ話を書いて申し訳ないんですが、やはり「バランスよく食べましょう」といういつもの結論にたどり着かざるを得ません。松永さんも「トランス脂肪酸を注意する前に、適切な量を食べ、栄養バランスに気を配るのが先決」としていました。わかりやすい極論に走らないでください。
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