2010/9/19:
●昔は足があった!日本の幽霊の足がなくなったのは江戸時代から
●足のない幽霊、あの「四谷怪談」の歌舞伎が元祖という説も
●円山応挙の足のない幽霊、実際のモデルも足がなかった?
●日本の幽霊に足がない理由 一神教と日本人の考え方の違い?
2020/08/10:
●日本の幽霊に足がない理由を語るウンチク記事、誤字っていて胡散臭い
●ジャパニーズホラーの影響力で欧米でも足のないゴーストが増加?
●昔は足があった!日本の幽霊の足がなくなったのは江戸時代から
2010/9/19:海外の幽霊に足があるという話を以前書きましたが、そもそも足のない幽霊は日本だけみたいですね。その日本でも昔の幽霊には足があり、足のない幽霊が幅をきかし出したのは、江戸時代からのようです。
幽霊の姿の変遷をたどっていくと、昔の歌謡で謳われている幽霊は、普通に生前の姿で現れていたといいます(※1)。そう言えば、
光源氏の女性遍歴で書いた二人目の相手の六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)は、死霊となって登場しています。これもきっと足があったんでしょう。
転機を迎えるのは、最初に書いたように江戸時代。まず、納棺時の死人の姿で出現したことにされ、額には三角の白紙の額烏帽子(ぬかえぼし)をつけ白衣を着ているとされることが多くなったそうです(※1)。ぐっと、それらしくなってきました。
それでも、元禄年間(1688-1704)刊行の『お伽はなし』では、幽霊さんもまだみな二本足。しかし、数十年経った『太平百物語』(1732年)では、幽霊の腰から下が細く描かれるようになり、今のイメージに近づきます。さらに、1785-87に書かれた横井也有の『鶉衣(うずらごろも)』では、全部ではないもののの、腰から下のないものが出てきたようです。(※1)
●足のない幽霊、あの「四谷怪談」の歌舞伎が元祖という説も
この足のない幽霊の元祖は、円山応挙(1733-1795)の書いたものだという説があるそうです。また、河出書房から出版された『渡る世間は「間違い」だらけ』では、歌舞伎の舞台「四谷怪談」(元禄年間)の演出で幽霊の足を隠して登場したものがルーツだともしています。(※1)
しかし、1673年に描かれた「花山院きさきあらそひ」という浄瑠璃本の挿絵に、足のない幽霊の絵が描かれていました。これは円山応挙(1733-1795)が生まれる前ですし、「四谷怪談」は元禄時代(1688-1704)に起きたとされる事件を基に創作された日本の怪談で、しかも初演は文政8年 (1825、ここのみ※2) 。したがって、これらよりも確実に前のものです。元祖としては、「花山院きさきあらそひ」なのでしょう。(※1)
ただ、先程書いたように元禄時代の主流は足のある幽霊でした。ですから、円山応挙の幽霊画も、歌舞伎の「四谷怪談」も、足のない幽霊の普及を推進させたものという解釈なら依然可能ですし、それが妥当な考え方だと思われます。
●円山応挙の足のない幽霊、実際のモデルも足がなかった?
なお、これらのうち円山応挙については、おもしろい逸話があります。既にリンク切れしてしまっていますが、
「恐怖=涼しい」は日本特有?や
幽霊とお化けの違いで取り上げた 「幽霊」と「お化け」って、どこが違うの? 2010年08月14日 R25.jp(http://news.livedoor.com/article/detail/4945887/)では、こう書かれていました。
"「円山派」の祖として知られる応挙は、写生を重視したリアルな画風で有名だったのだが、その応挙が残した幽霊の絵には、なぜか足が描かれていなかった。そこで当時の人々は「リアルを追求する応挙だから、きっと本物の幽霊を写生したに違いない」と思い、以降「幽霊=足がない」というイメージが定着した…のだとか"
この円山応挙の足のない幽霊については、他にもいくつかエピソードがありました。
その一つが、円山応挙作の足のない幽霊画は、応挙自身が自分で足のない幽霊の姿を描いたのはなく、応挙の妻が絵に水をこぼして足の部分が消えてしまったからだという話があります(※3)。嘘臭さ満点ですが、珍妙でおもしろい解釈です。
また、白装束で足がない『幽霊図(お雪の幻)』の、お雪さんというのは、若い時亡くなった、応挙の先妻だそうです。これは、病気がちだった奥さんが夜中に厠に立った姿で、乱れ髪で障子の向こう側にぼんやりと立つその姿じゃないかって言われているそうです。(※4)
それで、単に下半身までは見えなかったので、足は描かなかったんじゃないかなんてことも言われています。奥さんを幽霊にするってどうなのかな?って思いますが、怖いわけでなく美しく書いているし、リアルになり過ぎちゃうのでそのままではなく、ある程度美人のパターンを組み合わせており、目の感じなどは人間離れしているとも指摘されています。(※4)
●日本の幽霊に足がない理由 一神教と日本人の考え方の違い?
長くなってきましたが、もう一つ。日本の幽霊に足がない理由を探してみると、日本では人間は死ぬと「神様になる」という考え方と関係があるというものがありました。簡単にまとめると、以下のような感じ。
世界(とありましたが、一神教を信じる人々と書く方がより近い?)では、人間は神様によって創られたものという考えがあるため、人間は死んでも神様にはなれないと考えられていおり、幽霊は人間に近い形で表現される。しかし、日本では、人間は死んだら神様になるという考え方が人々の間にあり、古代の幽霊も普段の人間の姿とは異なる様々な姿であった(雲に乗っている「雲上幽霊」、逆立ちしている「逆立ち幽霊」、足のない「足なし幽霊」など)。そして、江戸時代中期以降、異なる姿の一つである足のない幽霊が広まった。(※5)
さらに簡単に書くと、たぶんこんな感じです。
世界:人は神になれない → 神の姿=人と異なる姿 をとれない
日本:人は神になる → 神の姿=人と異なる姿 をとる
しかし、これについてはちょっと納得いきません。まず、先にあったように日本でも、幽霊が普段の人間の姿をしていた時期があります。また、そもそも海外で影響の強い聖書では、神は自分の姿に似せて人を作ったと書かれており、人間の姿と神の姿は似ているはずです。そして、日本の神様が人間の姿に似ていないということもないと思います。
2010/12/28追記:さらに、
神 (神道) Wikipediaでは、神道の神々は人と同じような姿や人格を有する「人格神」であり…とはっきり書かれています。やはり日本の神様が人間の姿に似ていないということもないんですね。
まあ、でも、こういう風にいろいろ考えるのはおもしろいなぁと思いつつ、今日はここで終わりにします。
参考記事
※1
幽霊 Wikipedia※2
四谷怪談 Wikipedia※3
円山応挙の足のない幽霊の絵について OKWave※4
江戸が知りたい。東京ってなんだ?! ほぼ日刊イトイ新聞※5
日本の幽霊に足がない理由は? 理由ある太郎メモ●日本の幽霊に足がない理由を語るウンチク記事、誤字っていて胡散臭い
2020/08/10:日本の幽霊の足がなくて海外にはある理由は、なんかいい加減な説が多く出回っているんですかね。また、へんてこな説がありました。
【思わず語りたくなる幽霊ウンチク】日本の幽霊に足がない理由知ってる? INLIFE~あなたと保険を繋げるメディア~ / 2015年8月31日 9時0分に載っていた話です。
ここでは、外国の方が日本の幽霊に対して疑問に思うのが「どうして足がないのか」という点らしいが、日本人にとってはそれこそ疑問で、『どうして足があるのに幽霊だって分かるのさ!』 とツッコんでいます。ただし、最初のときに書いたように、日本の幽霊も当初は足があり、状況は同じでした。
記事でも日本で足のない幽霊がかつていたことは触れています。日本の幽霊に足がない最も有力な説として、【足のない幽霊の絵が売れたから】というものを挙げていました。例の円山応挙の「幽霊絵画」の足のない幽霊が徐々に定番化、そして今に至るといった説明です。ただし、円山応挙を「丸山応挙」と誤字っており、記事の信頼性の低さをさらに増していました。
●ジャパニーズホラーの影響力で欧米でも足のないゴーストが増加?
円山応挙の「幽霊絵画」を皮切りに【足のない幽霊の絵が売れたから】説以外に、後付け要素が強い日本の幽霊に足がない説も紹介されています。【仏壇に炊いたお香の煙で足が見えない】【地獄絵図で足を切られた絵があり、そこから派生した】といった説です。
一方、海外で幽霊に足がある理由としては、また胡散臭い説明がありますね。「悪魔の名前は口にしてはいけない」「ネガティブなことを言うとネガティブなことが起きる」といった考え方もあり、欧米文化ではあまり幽霊がイラスト化されないため、区別を付ける必要がなく、人っぽいままなのだとされていました。
なお、欧米でも足がない幽霊のキャラクターたちが増えており、ハロウィンでは、足のない白いゴーストたちが定番になりつつあるとのこと。これについて、「日本のホラーの影響力の大きさを感じてしまいますね」としていましたが、本当に日本の影響だというには、何らかの証拠が必要でしょうね。
【本文中でリンクした投稿】
■
「恐怖=涼しい」は日本特有? ■
幽霊とお化けの違い ■
光源氏の女性遍歴【関連投稿】
■
幽霊には美人が多い? ■
「人魂の正体はリン」は嘘 ■
人魂の種類 ■
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