2015/1/16 武貞秀士「金正恩体制で北朝鮮の生活レベル向上」…実際は?
2013/12/15 金正恩北朝鮮の改革開放政策 張成沢粛清・処刑で逆に進展説
●2015/1/16 武貞秀士「金正恩体制で北朝鮮の生活レベル向上」…実際は?
金正恩「腹が出た指揮官は戦争できない」…軍団長級、50代に入れ替え | 中央日報(2015年01月08日09時27分)という記事のタイトルを見て、最初は勘違いしました。
てっきり軍人が「腹が出た指揮官は戦争できない」と言ったことに怒った金正恩第1書記が、その人を降格させたという話なのだと思ったのです。
本当はタイトルだけでも「腹が出た指揮官は戦争できない」を言ったのは金正恩第1書記だとわかったはずです。でも、彼自身の腹が出ているのですから、まさかそんなセリフを言うとは思わなかったので勘違いしました。
昨年、陸・海・空軍の指揮官全員を対象に実施した射撃大会(3月)、水泳大会(7月)、飛行大会(10月)でも、基準に達しない指揮官は降格または交代させられた。北朝鮮軍の動向に詳しい当局者は「金正恩は『腹が出た者は戦争ができない』として指揮官の率先垂範を強調し、軍団長級の80%以上を相対的に若い50代に交代させた」と話した。
金正恩第1書記の腹が出ているのは、それが北朝鮮では悪いイメージではないからだと聞いたことがありました。食べ物が十分でない人が多い国で太っている人というのは豊かさの印です。なるほど、そういう見方もあるだろうなと思いました。
でも、そうだとすると、今回の話はいったい何なのでしょう? 肥満を指しているのではなく、体が鍛えられていないという比喩かもしれませんね。
北朝鮮の生活の豊かさに関連して、武貞秀士拓殖大学特任教授の古い記事でこういう話がありました。
北朝鮮の李英鎬・総参謀長が電撃解任:日経ビジネスオンライン 武貞 秀士 2012年7月19日
北朝鮮の軍の最高位にいる李英鎬(リ・ヨンホ)氏が、労働党における役職から突如解任された。これは内部抗争の嵐の結果ではない。金正恩氏の実権が党・軍に浸透した結果である。
(中略)今後、金正恩氏は、予想以上のスピードで「金正恩カラー」を前面に出してゆくだろう。(中略)金正恩氏の好みの分野を強化する政策を大胆に推進する可能性がある。そして、外国文化の紹介や消費生活の向上といった、民生レベルを向上させる施策が試みられる機会が増えるだろう。
これは2年半ほど前の記事ですけど、何かあまりこういう話は聞かない気がします。
また、昨年8月の
北朝鮮「新5000ウォン札」 新興富裕層つぶしに照準(電子報道部次長 山口真典 2014/8/7 7:00 日本経済新聞 電子版)では、「新5000ウォン札」発行の狙いについて、「意のままにならない市場取引の膨張にいらだちを強めている」ことや「新興富裕層つぶし」といったものを挙げていました。
自由市場そのものを嫌っている可能性もあります。記事の後半では、2009年11月のデノミ強行が思い浮かぶとしていました。
金正日氏は1959年以来50年ぶりのデノミを突如実施。旧通貨100ウォンと新通貨1ウォンの交換を迫り、交換可能な上限額を10万ウォンに制限した。一方で庶民の不満を抑えるため、給与の額面を据え置いて実質的な価値を100倍に引き上げる措置も講じた。
当時は慢性的なインフレで北朝鮮ウォンの信認はどんどん低下し、市場では中国の人民元や米ドルなど外貨による取引が一般的になっていた。指導部はデノミと併せて、外貨取引の禁止や総合市場の閉鎖も命令。独自の物流網を構築し自由な商取引を主導する「新興富裕層」がため込んだ外貨をはきださせ、大量の中国製品が流入している総合市場を一気に管理下に置こうともくろんだのだ。
しかし、その思惑はあっけなく外れた。商売人は価格上昇を見込んで商品を売り渋り、紙くずとなる旧紙幣での取引を拒んだため、またたくまに物価は暴騰。実質100倍に増やした給与の水準を上回るハイパー・インフレが進行した。
ただ、当時でも"人口の8割超を占める庶民の市場依存が予想以上に進んでいた"ため、市場の閉鎖などは大失敗となりました。
首都の平壌などを除いて配給制度は崩壊していたため、庶民は総合市場からしか食糧や生活必需品を調達できず、市場の閉鎖は生存さえ脅かす事態だった。さらに交換額の制限は、庶民が爪に火をともして蓄えた、なけなしのタンス預金を直撃した。
庶民の抗議は各地に広がって、当局はわずか3カ月で市場閉鎖や外貨禁止の撤回に追い込まれた。金正日氏は朴南基(パク・ナムギ)党書記ら高官の責任を問い処刑し、当時の金英逸(キム・ヨンイル)首相も異例の公開謝罪を迫られた。デノミの失敗は、通貨ウォンの信認を一段と低下させるツケだけを残した。
2012年以降も北朝鮮では粛清が行われていますので、権力掌握は進んでいるのかもしれません。ただ、そういったニュースと比べると、市民生活のレベル向上という話は伝わってきません。むしろ依然として食糧危機が伝えられているくらいですので、あまり状況は明るくないと思われます。
武貞秀士特任教授の見方は、楽観的すぎたように思えます。
●2013/12/15 金正恩北朝鮮の改革開放政策 張成沢粛清・処刑で逆に進展説
似たような楽観的な話ということで、2013年に書いていた"金正恩北朝鮮の改革開放政策 張成沢粛清・処刑で逆に進展説"もこちらとセットにしました。
もう元記事が消えちゃってGoogleの検索結果から引っ張ってきていますが、張成沢国防委員会副委員長が失脚した時点(処刑前)にはこんなことを言っている方がいました。
(朝鮮日報日本語版) 北序列2位失脚:対韓国強硬路線・挑発行為の可能性も 2013/12/04?
一方、慶南大学のイム・ウルチュル教授は「張成沢氏は不正・腐敗など旧時代的な人物で、改革の妨げになった可能性がある。金正恩第1書記主導の改革・開放政策が進む可能性もある」と見ている。
リンク切れ
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20131204-00001196-chosun-kr
日本でもヘンテコなことを言っている方がいました(下記)けど、何をおめでたいこと言っているの?というのが正直な感想でした。
日本の閣僚ののんきな感想は置いておいて、北朝鮮の話。
張成沢前副委員長が素直に改革開放路線に積極的で好ましい人物だったという考えは単純すぎますが、今回の出来事は短期的には経済に悪影響というのが事実でしょう。
最初と同じ朝鮮日報の記事で、以下は処刑後のもの。経済政策への憎悪があふれているのがわかります。
張成沢氏処刑:経済失政の責任を押し付けた正恩氏
朝鮮日報日本語版 12月14日(土)11時25分配信
北朝鮮は13日、張成沢(チャン・ソンテク)元朝鮮労働党行政部長に対する判決文の中で、経済政策の失敗を認め、2009年1月以降の政策失敗の責任を張成沢氏に押し付けた。09年1月は金正恩(キム・ジョンウン)第1書記が金正日(キム・ジョンイル)総書記の後継者となることがほぼ決まった時期に当たる。
張成沢氏の判決文には「経済」が8回、「経済と人民生活の破局」という表現が2回出てくる。表向きは張成沢氏の罪状の説明だが、一方では北朝鮮経済がまともに機能せず、人民生活の悪化を認める形にもなっている。(中略)
判決文にはさらに「外部世界に改革者と認識された醜悪な姿」とも記載されているが、この表現には張成沢氏が中心となって進められてきた改革・開放政策に対する激しい批判も込められている。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20131214-00000698-chosun-kr さらに"張成沢氏は親中派としても知られていたため"、北朝鮮経済にとって大切な"中朝関係も冷え込みそうだ"という見方もあります。
北朝鮮は2010年に金総書記が中国を訪問した際、羅津港4-6号埠頭(ふとう)の使用権を中国に提供。昨年8月の張成沢氏訪朝後、羅津特区は経済協力のシンボルとなった。
しかし、"中国の研究者らは「張成沢氏の処刑はあくまで北朝鮮内部の問題であるため、中朝関係に大きな影響はないだろう」"という予想もしていました。
実際に中朝関係での張成沢氏の役割は主に経済分野に限られていたため、政治や安全保障などの分野では、中朝関係にさほど影響はないとみられている。
また、北朝鮮は判決と同じ日に"韓国に開城工業団地関連の協議を提案し、国際通貨基金(IMF)など国際機関の代表や、主要20カ国(G20)の一部の国の次官級による開城工団訪問の提案を受け入れることも表明"しています。
じゃあ、経済に影響ないか?と言うと、やはりそうではありません。
信用できない…張氏粛清後、商談取り消し続々
【瀋陽=蒔田一彦】北朝鮮の張成沢前国防委員会副委員長の処刑で、中朝の経済交流は一時的に停滞する可能性が高まっている。
中国吉林省とロシアの企業が50年間の港湾使用権を得て開発を進めてきた、北朝鮮北東部・羅先経済貿易地帯。張氏の死刑判決では、土地使用権を外国に売却したことが「売国行為」と糾弾された。(中略)
遼寧省瀋陽では13日、金正日総書記死去2年の追悼行事が開かれ、北朝鮮の金光勲総領事が「金正恩元帥の指導の下、朝中関係をより強固にする」と述べた。中国外務省もこの日、「中朝間の経済貿易関係の発展は双方の共通利益にかなう」とのコメントを発表したが、多くの関係者は悲観的だ。張氏粛清後に商談取り消しが相次ぎ、100万元(約1600万円)以上を損失したという同省丹東の貿易商は、「誰が張氏の後継になろうと信用できない」と話した。
(2013年12月13日21時20分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20131213-OYT1T00997.htm 一時的な動きで長引かない可能性はあるものの、短期的には悪い影響があったことは否定できません。
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