Appendix

広告

Entries

「べつかい」か「べっかい」か? 別海の読み


 携帯でMOO RUSK モーラスク フーズアンドブレッド 感想を下書きしていたときに、北海道の別海町を「べっかい」で変換することができず、あれ?と思いました。

 結局、「べつかい」だと変換できたのですが、私はテレビでも「べっかい」と言っていた記憶だったので不思議に思いました。


 で、Wikipedia見ると、どうもこの問題が町内で議論になるほどもめていたようです。


 北海道の町名はアイヌ名由来で水に関するもの、特に川、沢に関する地名が多いです。別海町もアイヌ語の「ベッ・カイェ」(川の折れ曲がっているところ)という意味で、この表記を見る限り「べっかい」が近い気もします。(後述報告書では、「Pet kaye ペッ・カイェ」。ただし、アイヌ語に「ペ」と「ベ」の区別はなく、時によっては「ベ」に近い音になるそうです)

 しかし、町名の読みについては、実際には古くから「べつかい」「べっかい」が混在していたようです。

 公的に統一されたのは、1971年(昭和46年)。町政施行を機に「べつかい」で統一され、公的な文書や放送等ではこちらの読みが使われており、国道の案内標識も「Betsukai」となった……のですが、これで解決したわけではありません。その後も「べっかい」と呼ぶ町民も多く、どちらが正しいのか長く議論になっていたようです。

 そこで、2009年3月10日の町議会で、水沼猛町長が双方の読み方を認めると宣言したそうです。


 別海町のサイトにも、「別海」は「べつかい」か「べっかい」か?というページがありました。

 このページの報告書(PDF)によると、「少なくとも公的な場面ではそれが定着してきていた」ものの、町内の掲示板等にも「Betsukai」「Bekkai」両方の表示が混在している実態があったようです(ここのみ先程のページより)。

 しかも、「町制施行を機に統一したという町側の説明には根拠が無いこと」もわかり、検討会の設置にまで至ったようです。


 また、「べつ」の根拠となりそうな説明としては、次のようなものがありました。

アイヌ語の「ペッ Pet」とは川のことであり、アイヌ語を由来とする現在の北海道地名にも数多く登場するが、子音で終わる名詞であり、和語にはない発音である。またアイヌ語に「ペ」と「ベ」の区別はなく、時によっては「ベ」に近い音になる。そのため、「ペッ Pet」で終わるアイヌ語地名の場合、基本的には母音で終わる和語に合わせる形で「ベツ」と書き表され、明治期以降多くの場合「別」の漢字が当てられた。現在の別海町でいえば、西別、本別、春別などがその例である。


 他の町で登別、芦別、紋別、士別、江別などたくさんありますが、たいていは後ろに「別」がつきます。前述の通り、子音で終わる名詞は和語にないためか、こちらはもめているという話は聞きません。


 さらに、こういう主張も。

『加賀家文書』を含む江戸時代の文書や地図には、別海は「ヘツカイ」、「ベツカイ」、「ヘツカヱ」といった様々な表記で登場しているが、中でも古いものとして、1790(寛政2)年の『夷酋列像附録』を挙げることができる。ここには、「蹩子葛乙(ベツカイ)」と漢字で記されカナでルビが振られているが、カナ書きを敢えて避けて当て字を用いている。なお、厚岸は「遏結失(アツケシ)」と3 文字にまとめられているのに対し、別海は「ベツカイ」の4 文字それぞれに漢字が当てられていることは注意すべき点である。「遏」に「アツ」の2 文字を当てることで、促音であることを表しているとも解釈できる。


 わざわざ一字一字で書いているんだから、促音じゃないに違いない、と。どうなんでしょう?わりと暴論な気が……。もう少し他の例を見ないと何とも言えません。

 あと、厚岸(あっけし)の方は、もめていないんですかね?


 それから、

松前奉行支配調役の荒井保恵やすとしが1809(文化6)年に著した『東行漫筆』には、番屋及び「子モロ夷人住居地名」のひとつとして「ヘツカイ」、「漁業場所」として「ベツカイ」が挙げられている。このように、「ヘツカイ」と「ベツカイ」が特に区別無く用いられている点は、加賀家文書も同様である。その他、「ベツカヱ」は『天保国絵図 松前国』(1838 年、国立公文書館所蔵、特083-0001)に見られる。


 とあり、ここまで読んだところでカタカナ表記についてツッコもうかと思ったら、直後にちゃんと出ていました。


これらの文字から当時実際にどのように発音されていたかを断定するのは困難である。
濁点や半濁点は時に省略され、また「つまる音」、すなわち促音も現在のように小さな「ッ」
ではなく、大きな「ツ」で表記されていたからである。


 と言うように、小さい「ツ」というのはごく最近の話です。(これは以前キャノン、ビッグカメラ、キューピーは、間違った社名です1でも書きました)


 また、1875(明治8)年5 月25 日、開拓使根室支庁は管内正副戸長に対して「別紙ノ通国郡村名等総テ本字ニ相換」えたことを通達(本字通達)していますが、この「本字通達」に記載されたカナ書きが、その地名の読み方であると本庁は認識していたと考えられるそうです。そして、これの別海は「ベツカイ」とルビが振られていたようです。ただし、これも促音普及前で、他の町の促音も「シヤリ」(斜里)、「シヤナ」(紗那)となっています。


 で、今度は、ローマ字表記ついて、調べています。すごいですね、これ。


開拓使が公刊した地図として、1876(明治9)年の『日本蝦夷地質要略之図』を挙げることができる。これは1872(明治5)年に開拓使に招聘されたアメリカ人地質鉱山技師ライマンが北海道中を調査旅行して作成された日本最初の広域地質図である。資料Ⅱ-3にその部分図を掲載したが、別海は「BEKKAI」と表記されている。釧路が「KUSURI」、根室が「NEMORO」と記されているなど、この時点における開拓使の地名把握とは一致しないと考えられるローマ字表記もあるものの、開拓使が発行した地図に「BEKKAI」と記されている。これ以降、明治期に発行され、別海がローマ字で記されている地図を挙げると、『北海道沿海図』(1883 年、資料Ⅱ-4)、『北海道地質略図』(1890 年、資料Ⅱ-5)、『北海道地質図』(1891 年、資料Ⅱ-6)、『北海道地質及鉱産図』(同年)29、『北海道地勢及鉱産図』(同年)であるが、そのいずれもが別海を「BEKKAI」と表記している。『北海道沿海図』を除けばすべて北海道庁及び道庁技師による地質図・鉱山図であるため、地名は再検討されずにそのまま使われた可能性はあるが、一貫して「BEKKAI」である。これらの地図の表記から判断する限り、「別海村」と地名が漢字で定められて以降、開拓使及び道庁はその呼び方を「べつかい」ではなく「べっかい」であると認識していたといえる。


 「べつかい」派のピンチですが、次で反撃。

ところが、明治初期に別海を訪れた外国人の残した文章及び地図を見ると、この開拓使と道庁の認識が、当時の住民の地名認識とは必ずしも一致していないことがわかる。「ブラキストン線」でその名を知られるイギリスの動物学者ブラキストンは、1869(明治2)年に北海道内各地を旅行し、10 月7 日に別海に立ち寄っている。この時の旅行記録を1872(明治5)年、イギリスの学術雑誌に発表しているが、その論文と地図において、ブラキストンは別海を「Bitszkai」と記している(資料Ⅱ-7)。ブラキストンが誰から聞き取ったのかは不明であるが、「べっかい」ではなく「べつかい」を聞き取ったものである。


 え?なんでそう断言しちゃったんでしょう?「べっかい」を聞いて「Bitszkai」(「Bitskai」表記もあるようです)でも行けそうなきもします。「ビッツカイ」って感じじゃないです?(関係ないですが、なんか車のヴィッツ思い出しました)

 と思いましたが、次読んだら大体わかりました。

1888(明治21)年にアイヌ民族の調査を行ったイギリス人ヒッチコックは、当時の別海(本別海)も訪れて家屋の写真なども残しているが、本文の中で二度にわたって別海の2種類の読み方を併記している。その文を抜粋すれば、"A similar house at Bekkai or Bitskai,near Nemuro"と、"At this village, Bekkai, or as the name was also pronounced,Bitskai"である。特に「べつかい村とも発音されていたべっかい村」と記した後者は重要であり、住民から聞き取とったことがはっきりしているのである。

(中略)

その2年後の1890(明治23)年に北海道を一周旅行して別海も通過したイギリス人ランドーは、「Bitskai」と記しており、また同書に附されている北海道地図も同様に「Bitskai」である(資料Ⅱ-8)。厚岸を「Akkeshi」と記しているのとは対照的である。



 しかし、これらは漁場・番屋などの読み方らしく、内陸では結局「べっかい」だったようです。「別海」と漢字で書いてあれば、「べっかい」と読むのが促音の規則から言えば妥当(後で出てきましたが、別腹など例外あり)であり、道行政側の認識も「べっかい」だったと思われるとも書かれています。


 と、まあいろいろありましたが、結局両方あったのかよ!と言う。なんか報告書は「べつかい」にしたくて堪らなそうだったんですが……。しかも、昔がどうであっても、今なんて呼んでいるかというのも大切です(言葉は常に変化していくものです)。

 それで、結局両方OKになったんですかね?


 こんなに長文(13Pですが)読むことになるとは思わなかったですが、おもしろかったです。今日はここで終わりにします。


 関連
  ■MOO RUSK モーラスク フーズアンドブレッド 感想
  ■キャノン、ビッグカメラ、キューピーは、間違った社名です1
  ■その他の言葉・漢字について書いた記事
  ■ひなたぼっこの「ぼっこ」とは?
  ■訛りは信頼性を落とす
  ■死体と遺体の違い

Appendix

広告

ブログ内 ウェブ全体
【過去の人気投稿】厳選300投稿からランダム表示









Appendix

最新投稿

広告

定番記事

世界一スポーツ選手の平均年収が高いのはサッカーでも野球でもない
チャッカマンは商標・商品名 じゃあ正式名称・一般名称は何?
ジャムおじさんの本名は?若い頃の名前は?バタコさんとの関係は?
ワタミの宅食はブラックじゃなくて超ホワイト?週5月収10万円
朝日あげの播磨屋、右翼疑惑を否定 むしろ右翼に睨まれている?
レーシック難民は嘘くさいしデマ?アメリカの調査では驚きの結果に
赤ピーマンと赤黄色オレンジのパプリカの緑黄色野菜・淡色野菜の分類
アマゾンロッカーってそんなにすごい?日本のコンビニ受け取りは?
就職率100%国際教養大(AIU)の悪い評判 企業は「使いにくい」
ミント・ハッカでゴキブリ対策のはずがシバンムシ大発生 名前の由来はかっこいい「死番虫」
移動スーパーの何がすごいのかわからない 「とくし丸」は全国で約100台
ビジネスの棲み分け・差別化の具体例 異業種対策には棲み分けがおすすめ
主な緑黄色野菜一覧 と 実は緑黄色野菜じゃない淡色野菜の種類
タコイカはタコ?イカ?イカの足の数10本・タコの足8本は本当か?
トンネルのシールドマシンは使い捨て…自らの墓穴を掘っている?
ユリゲラーのポケモンユンゲラー裁判、任天堂が勝てた意外な理由
好待遇・高待遇・厚待遇…正しいのはどれ?間違っているのはどれ?
コメダ珈琲は外資系(韓国系)ファンドが買収したって本当? MBKパートナーズとは?
大塚家具がやばい 転職社員を通報、「匠大塚はすぐ倒産」とネガキャン
不人気予想を覆したアメリカのドラえもん、人気の意外な理由は?

ランダムリンク
厳選200記事からランダムで









アーカイブ

説明

書いた人:千柿キロ(管理人)
サイト説明
ハンドルネームの由来

FC2カウンター

2010年3月から
それ以前が不明の理由