●経済成長を犠牲にしても富の再分配が必要…は間違いだった!
2015/2/9:
ピケティを支持するクルーグマン、保守派・右派をボロクソに批判では、アベノミクス肯定に利用されたクルーグマン教授がむしろ右派について辛辣に批判していることに驚きました。さらに、これを調べていたときに、別のところも気になってきます。それは、クルーグマン教授はトリクルダウン理論については何と言っているのか?というところでした。
私は実は経済格差を憎むべきではないという考え方。問題は高所得者層との差ではなく、底辺層や中間層の生活レベルのためです。格差が広がったとしても、経済成長によって底辺層や中間層のレベルを上げることができればそれで良いでしょう。経済成長によって底辺層や中間層の生活レベルが上がらない場合には、高所得者層から得た税金を回すことによって引き上げれば良いよね…という考えでした。
過去に書いたトリクルダウン関連の投稿の他、
ピケティを支持するクルーグマン、保守派・右派をボロクソに批判においても出てきたように、トリクルダウンは起きないので富の再分配が必要になるケースは多いでしょう。その場合には経済成長を犠牲にしてでも行うべきだと思っていました。
ところが、この「経済成長を犠牲に」という理解が、そもそも誤解しているとクルーグマン教授がおっしゃっていたのです。これには驚きました。貧困者へ援助すること、所得再分配をすることは、必ずしも経済成長の低下を及ぼさないというのです。
●クルーグマン教授、右派が主張するトリクルダウンを否定
この話は、
ポール・クルーグマン―社会の足を引っ張る格差 『現代ビジネスブレイブ グローバルマガジン』---「ニューヨークタイムズ・セレクション」より | The New York Times | 現代ビジネス [講談社](2014年09月02日(火) ポール・クルーグマン)に載っていました。クルーグマンさん自身が書いた記事ですね。
ここでは、<30年以上にわたり、米国の政治に関心をもつほとんどの人が、富裕層の税率の引き上げと貧困層への援助拡大は経済成長を阻害する、という考え方を支持してきた>とあります。やはり私が思っていたのと同じ考え方のようです。そして、以下のような他一縷がありました。
<リベラル派は一般的に、貧困者への援助の代償を若干のGDPの低下という形で払うことが、ある意味ではトレードオフ(交換条件)だという見方をしてきた。一方、保守派は、富裕層の税率を引き下げ、貧困層への援助を削減し、上げ潮にすることで、すべての舟を浮上させることが最善の政策であると主張し、トリクルダウン経済理論を提唱してきた>
さっき説明しませんでしたが、トリクルダウンについて、今回の記事の注釈では以下のような解説です。クルーグマン教授は、「さようなら、トリクルダウン。ようこそ、トリクルアップ」と最後に書いており、はっきりとトリクルダウンを否定しています。
<トリクルダウン経済理論:「トリクルダウン(trickle down)=したたり落ちる」の意。大企業や富裕層の支援政策を行うことが経済活動を活性化させることになり、富が低所得層に向かって徐々に流れ落ち、ひいては国民全体の利益となる」とする仮説。主に新自由主義政策などのなかで主張される>
●そもそも阻害しない!格差是正が経済成長を阻害するという誤解
さて、私が驚いたという話はこの後。最近の研究によると、「こうした議論の前提はすべて誤りだという事実」と「実際には平等と格差の間でのトレードオフはないという事実」が明らかになってきたということ。難しい言い方ですけど、要するに貧困者への援助は必ずしもGDPの低下を及ぼさないという意味です。
<それはなぜなのか?――市場経済が機能するうえで、ある程度の格差が必要なのは事実だ。しかし米国の格差は極端になりすぎたため、多大な経済的ダメージを与えるようになっている。その結果、富の再分配、つまり富裕層への税の負担と貧困層への救済は、経済成長率を低下させず、逆に上昇させる可能性があることを意味している>
本当は切らずに次の話に行きたいのですが、「米国の格差は極端になりすぎたため」と書いているので、アメリカの場合だけだと思われる方もいらっしゃるでしょう。ただ、ピケティ博士は日本の格差についても懸念しているので、補足しておきます。
日刊ゲンダイ|「21世紀の資本」著者ピケティ氏がアベノミクスに“ダメ出し” 2015年1月30日
後半はパネルディスカッションだったのだが、パネリストのひとり、西村康稔内閣府副大臣が、政府の「雇用者100万人増」や「トリクルダウンの試み」について説明。「アベノミクスが格差を拡大しているというのは誤解である」と力説した。
しかし、ピケティ氏はこれにやんわり反論。
「確かに日本の格差は米国ほどではない。しかし、上位10%の富裕層の所得は、国民所得全体の30~40%まで広がっています。日本がゼロに近い低成長なのに、上位の所得が増えているということは、裏を返せば、実質的に購買力を減らしている人がいるということです。日本の最高所得税率は1960~70年代より下がっています。上位10%の所得が増えているのに、税率が低い状態では格差が広がるばかり。所得税の累進性を高めるべきです」
●富の再分配はむしろ成長促進!IMFや格付け機関が分析結果を報告
途中で切ってしまったのですけど、実を言うと、さっきのクルーグマン教授の話の続きを見ても、アメリカ限定の議論ではなく普遍的な話であることがわかります。このことを証明している研究では、アメリカだけでなく、多数の国について調べたものであるためです。
<国際通貨基金(IMF)が、大きな格差は成長の足を引っ張り、富の再分配は経済にとって望ましいことになり得るという動かぬ証拠を示している。
今週はじめに、格付け機関であるスタンダード&プアーズ(S&P)が、大きな格差は成長を阻害するという見解を支持するレポートを出し、格差と成長に関するこの新しい見方にさらに拍車がかかった。(中略)
特に、IMFの研究者が行ったように、格差、富の再分配および成長に関する国際的な証拠を体系的に見てみると、低い水準の格差は、遅い成長ではなく速い成長との相関関係がある。さらに、先進諸国に典型的に見られる水準での所得再分配(米国がやっているのは平均よりはるかに低い)は、「確実に、より高い持続性のある成長と関連性がある」
つまり、富裕層をさらに太らせることが国全体を豊かにするという証拠はなく、逆に、貧困層の貧しさを緩和することにはメリットがあるという確固たる証拠があるのだ>
なお、クルーグマンさんはこれを紹介する前に、<この考え方は、富裕層の減税によって実際に歳入が増えるという右派の幻想と同様に、リベラル派の希望的観測に過ぎないと一蹴したい気持ちになるかもしれない>と書いています。とことん右派に批判的なようです。
●なぜ貧困層にお金を配った方が経済成長しやすいのか?
自分でもすっかり忘れていたのですが、ここまでやって思い出しました。私は同じお金を配るなら貧乏な人に配った方がいいという考えもしていたんですよね。なぜかと言うと、低所得者層の方が消費に回す可能性が高まるためです。貧乏な人だからこそ大事にとっておくと思う人もいるかもしれません。しかし、彼らは普段から買いたいのに買えないものが多いため、貯蓄せず消費に回す可能性は高いと考えられます。
そもそも低所得者層と高所得者層でどちらの貯蓄が多いか?と考えると、当然ながら高所得者層の方が多いとわかりますよね。差し迫って使う予定のない余裕資金が多いのは間違いなく高所得者層であり、どちらかと言えば、低所得者層にお金を回す方が経済を活発化させる効果が高くなるのは当然でしょう。
あと、日本は税金を使った後、なぜか余計経済格差が広がっていることがあるんですよね。所得再分配で所得格差を是正するどころか、余計所得格差を増やすという不思議なことがときどき起きます。こういったことが起きているというのは、今回の話からすると経済にとってあまり良いことではないでしょう。政府に問題がありそうです。
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