●イノベーションとは逆張り 非合理なサウスウエスト航空LCCの成功
2015/2/16:
イノベーションのジレンマ 任天堂の破壊的イノベーションの成功と失敗の話は、最初サウスウエスト航空の事例と組み合わせるつもりでした。
戦略のイノベーション(その2)認知された非合理(2012年10月25日 楠木 建)という記事で、サウスウエスト航空というのはLCCのビジネスモデルを作り出した航空会社です。
結論から言うと、作者の楠木建さんは、「認知された非合理」を乗り越えたところにイノベーションはあるとしていました。これは非合理的なやり方にこそイノベーションが潜んでいると言い換えられるかもしれません。前回の任天堂のWiiも否定されたビジネスモデル。ですので、私はこの二つから「イノベーションとは逆張り」というキーワードを思いつき、検索してこれか!と思ったのが実は前回の「イノベーションのジレンマ」でした。
具体的な話は後にしますが、"サウスウェストのやったことが、それまでの競合他社(LCCが一般化した現在でいう「レガシーキャリア」)にとってあきらかに「非合理」なものとして考えられて"いました。そして、楠木さんはそれこそが成功した理由だとしています。
< 「A(構成要素)がX(望ましい結果)をもたらす」という因果論理がその業界や周囲にいる第三者に広く定着しているとしよう。同時に「BがXを阻害する」という信念が共有されていたとする。このときにAは「合理的」で、Bはそれまでの「合理的戦略」をとる企業にとって、「認知された非合理」となる。多くの会社がAを選択し、Bには手を出さない。Bはそもそも意思決定の選択肢にも入らないだろう。むしろ、意識的な忌避するべきこととして遠ざけられる。こうした状況で、ある会社がBという構成要素を中核に据えた戦略ストーリーをつくる。これが戦略のイノベーションとして結実する>
●デメリットしかなさそうな非常識なやり方に実はメリットがあった!
上記の説明は正直ちょっとわかりづらいと思います。ここから後が具体的な話になり、なおかつわかりやすくなります。サウスウエスト航空のLCC戦略の場合、「Aが望ましい結果をもたらす」の「A」がハブ&スポーク方式(拠点大都市経由方式)、「Bが望ましい結果を阻害する」の「B」が小規模空港間の直行便でした。
従来の航空会社は「ハブ&スポーク方式」で飛行機を飛ばしていて、これが正解だと考えられていました。ところが、サウスウエストはこれをやめて、出発地と目的地の2点間を単純につなぐ「ポイント・トゥー・ポイント路線」に特化。大都市のハブ空港は使わないという業界では考えられないことをします。
一方で、サウスウエスト航空が乗り入れた空港は、小都市のあまり混雑しない空港や、大都市の場合でも相対的に小さな「二次空港」。メリットがなさそうに見えますし、だからこそ他社はやらなかったのですが、実はメリットがありました。
空港のゲート使用料や着陸経費がハブ空港の半分から3分の1で済むというメリットです。たぶん需要がないからこそ低コストで済むのでしょう。さらにそれ以上のメリットとされたのが、「ハブ&スポーク方式を使わない」という要素が「15分ターン」という別の要素とつながっていることだといいます。
<サウスウエストの目標ターン時間はわずか15分。これは競合他社の平均の半分から3分の1という短さだった。「ターン時間」とは、空港に着いた航空機が、ゲートに到着し、乗客が降り、機内の清掃と燃料補給、荷物の積み下ろしと積み込み、機体の検査が行われ、乗客が全員乗りこみ、再度飛び立つまでの待ち時間を意味している。いうまでもなく、ターン時間(の短さ)は、航空業界でのコスト低減に重要な意味を持つ。ターン時間が短いほど、設備や人や機体の稼働率が上がり、単位当たりのコストは下がる。
ハブ空港を使わなければ、ゲートへのタキシング所要時間、ゲート空きを待つ回数や時間、乗客が乗った後の離陸順番の待ち時間が減る。だからターン時間を短縮できる。しかも、ハブ&スポーク方式が前提としている他の便との乗り継ぎを必要としない。ハブ&スポーク方式であれば、前の便が遅れた場合には乗継ぎ客を待っていなければならない。ところが、サウスウエストにはそもそも「乗り継ぎ」がない。こうした因果論理でもターン時間が短くなり、コストが下がる>
●倒産した日本のスカイマークがサウスウエストと違って考えていない
先日民事再生法の適用を申請した日本のスカイマークは低価格な航空会社とみなされており、LCCだとも言う人もいますが、サウスウエスト航空のようなLCCとは異なる中価格帯の航空会社だと言う人もいて、私もそちらの見方に同意します。このスカイマークには、私一度乗ったことがあるんですよ。そのときに気になったのが、この乗り継ぎ時間です。
コストを抑えるには遅れをなくした方が良いのですけど、機内の通路は1箇所のみでしかも狭く、上部の荷物に入れる客がいると前に進めません。そのせいで出発までにかなりの時間がかかりました。戦略上大きい飛行機を使えないのは当然ではあるものの、これは遅延の可能性を高めるので良くないやり方だと当時思いました。
同じ時期のデータではありませんでしたけど、後で見るとスカイマークの遅延率がダントツ1位でした。ですので、この通路の狭さのせいもあるんじゃないか?と感じました。これはコスト削減の上でマイナスに働きそうです。コスト削減というと安いものを使うみたいな目先のところばかり気にしてしまいますが、こういう本質的なところに気がつくサウスウエスト航空はすごいなぁと感心します。
●実を言うと、破壊的イノベーションは技術的にすごいわけではない
ところで、サウスウエスト航空戦略イノベーションは、"とりたてて難しい構成要素(たとえば、技術的に非常に高度な新しい機体とか複雑なITシステム)に依存しているわけ"ではありませんでした。しかし、これまでにサウスウエスト航空のようなやり方をした航空会社は、ただの1社もなかったといいます。それが前述の理由、非合理の中にイノベーションがあったことであり、前回の
イノベーションのジレンマ 任天堂の破壊的イノベーションの成功と失敗で出てきたイノベーションのジレンマといったところでしょう。
作者の楠木さんは「イノベーション」と「進歩」は異なる概念であり、"進歩が「できるかできないか」であるのに対して、イノベーションは多くの場合「思いつくかつかないか」の問題だ"としていました。前回は「従来製品の改良を進める持続的イノベーション」という話もあり、これが「進歩」と近そうです。しかし、前回で言う破壊的イノベーションは、改良・改善では生まれてこないのです。
また、楠木さんはLCCも今や普通の戦略であり、既に合理的なものとなったことを指摘しています。「次に来るものは何か」はわからないものの、これまでの話からすると、次のイノベーションもまた非合理性の中に潜んでいる、すなわち逆張りがイノベーションをもたらす…ということになりそうです。
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