親日国と言われることが多い台湾の方に対する宮本輝さんの選評が「差別的」とされて、話題になっていました。この宮本輝さんは、美しい日本語を書く小説家として評価の高い方であり、この2つの関係性に私は興味を感じました。(2017/08/17)
●美しい日本語で日本らしさを描く宮本輝氏
2017/08/17:宮本輝さんというと、「美しい日本語を書く作家」という評価が真っ先に思い浮かびます。確かこの評価を見たのは、
蛍川・泥の河 (新潮文庫)
でなかったかと思います。
検索してみると、
読み継ぎたい美しい日本語で書かれた中編小説 | 美しい言葉でちょうどこの書籍に掲載された「泥の河」を、「読み継ぎたい美しい日本語で書かれた中編小説」として挙げていました。
"「蛍川」とこの「泥の河」は、まさに「美しい日本語で書かれた小説」と言える"としている他、"彼の全作品を通じて、最も文体に緊張感があり、文章に日本人ならではの情緒があふれて"いるとも書かれていました。
また、
夢見通りの人々 (新潮文庫)
のレビューでも、「どこにでもありそうな商店街を舞台にした小説。(中略)宮本輝氏は、そんな日常を美しい日本語をもって綴っている」といったものがありました。定評があることを感じさせます。
●宮本輝氏「在日外国人の問題は日本人には他人事」
この「美しい日本語で日本らしさを描く宮本輝」という評価を念頭に置いておくと興味深いのが、第157回芥川賞で宮本輝さんが温又柔「真ん中の子どもたち」に対する選評です。
先に、「真ん中の子どもたち」の内容を少し紹介。
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では、以下のような紹介になっていました。
“四歳の私は、世界には二つのことばがあると思っていた。
ひとつは、おうちの中だけで喋ることば。
もうひとつが、おうちの外でも通じることば。"
台湾人の母と日本人の父の間に生まれ、幼いころから日本で育った琴子は、高校を卒業して、中国語(普通語)を勉強するため留学を決意する。そして上海の語学学校で、同じく台湾×日本のハーフである嘉玲、両親ともに中国人で日本で生まれ育った舜哉と出会う。
「母語」とはなにか、「国境」とはなにか、三人はそれぞれ悩みながら友情を深めていくが――。
日本、台湾、中国、複数の国の間で、自らのことばを模索する若者たちの姿を鮮やかに描き出す青春小説。
作者自身が台湾の出身です。
温又柔 おん・ゆうじゅう
1980年、台湾・台北市生まれ。3歳の時に家族と東京に引っ越し、台湾語混じりの中国語を話す両親のもとで育つ。
2009年、「好去好来歌」ですばる文学賞佳作を受賞。11年、『来福の家』(集英社、のち白水Uブックス)を刊行。13年、音楽家・小島ケイタニーラブと共に朗読と演奏によるコラボレーション活動〈言葉と音の往復書簡〉を開始。同年、ドキュメンタリー映画『異境の中の故郷――リービ英雄52年ぶりの台中再訪』(大川景子監督)に出演。15年、『台湾生まれ 日本語育ち』(白水社)を刊行。同書で第64回日本エッセイスト・クラブ賞受賞。
この「真ん中の子どもたち」には実際他の選考委員も出来が良くないところを見出していて苦言を呈していましたが、宮本輝さんの選評は異質でした。"これは小説の否定ではなく人種の否定である"と、武田砂鉄さんは指摘しています。
(
「在日外国人の問題は対岸の火事」平然と差別発言を垂れ流した芥川賞選考委員の文学性 - wezzy|ウェジー 2017.08.16 武田砂鉄より)
「これは当事者たちには深刻なアイデンティティと向き合うテーマかもしれないが、日本人の読み手にとっては対岸の火事であって、同調しにくい。なるほど、そういう問題も起こるのであろうという程度で、他人事を延々と読まされて退屈だった」
(宮本輝・芥川賞選評『文藝春秋』2017年9月号)
●外国を差別することで日本への愛を示す人がいる
上記の宮本輝さんの「差別的」な選評と、「美しい日本語で日本らしさを描く宮本輝」との関係に興味を感じたのは、「日本語は美しいけど心は美しくないんだね」といった意味だけではありません。過去に
ナショナリズムといじめの親和性 内集団バイアスが生む「戦争」というのをやっていたためです。
私自身日本のことを好きですが、それと他国の人をバカにしたり、差別したりするのとは別の話であり、両立できると思っていました。むしろ他を蔑むことでしか愛を示せないのは、本当の愛ではないとすら思います。
(関連:
他を悪く言うことでしか好きなものを褒められないのは愛が足りないから)
ただ、過去の実験を見ると、自らの所属するグループへの愛情を高めることで、他のグループを敵視する感情が芽生えてしまうことが多そうだったのです。宮本輝さんもそれに似た状態になっているのかもしれません。
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