3日前に書いた
理研による小保方晴子氏の刑事告訴、研究不正批判者でも賛否分かれるで、研究不正問題が裁判に持ち込まれることは本来良いことではないという話を書きました。
その中では悪い例の一つとして、
怪しい井上明久東北大前学長論文不正問題 損害賠償裁判では勝利の件を挙げていました。
すると、ちょうどこの井上明久・東北大前学長の論文についての二審が出ました。タイトルでわかるように、再び悪い結果になっています。
二審も「不正」告発側に賠償命令 東北大前学長の論文訴訟 :日本経済新聞 2015/2/17 22:29
論文不正の疑いをインターネット上で告発されて名誉を傷つけられたとして、東北大の井上明久前学長が、日野秀逸名誉教授ら4人に計1100万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、仙台高裁は17日、名誉教授らに計110万円の支払いを命じた一審仙台地裁判決を支持、双方の控訴を棄却した。(中略)
判決によると、名誉教授らは2009年、前学長らの論文に捏造の疑いがあると東北大に告発、名誉教授らのホームページに告発文を載せた。訴訟では、前学長とともに提訴した共同研究者が、一審判決前に提訴を取り下げ、控訴審で論文の内容に疑問を呈していた。〔共同〕
今までそんなこと言ってなかったような?というのは、裁判長が、井上前学長の論文について"記された数値などが厳密さに欠けると指摘し「前学長の説明で疑問が解消されたとは言えず、論文にある実験の再現性も確認されていない」"としていたことです。
これは共同研究者が井上前学長側から不正告発側に回ったせいでしょう。論文に問題があるのは事実だと、やっと裁判所も気づいたようです。
しかし、判決理由で中西茂裁判長は、「作製自体は理論的に可能で、捏造(ねつぞう)、改ざんがあったとは言えない」「疑問は科学者同士で議論すべき問題で、これを超えて捏造、改ざんがあると公表するのは名誉毀損で違法だ」としたようです。
ここらへんについては後ほど。先に地元紙ということもあり、この問題について追っかけ続けている河北新報からも。
<論文損賠訴訟>元教授らの控訴棄却 | 河北新報オンラインニュース 2015年02月18日水曜日
中西茂裁判長は「論文への疑問は解消されていない」としながらも、「捏造があったと証明する責任は教授グループにあり、井上氏が合理的な説明しないことを理由に捏造とは判断できない」と指摘。さらに「科学者コミュニティーで議論すべき問題だ」と述べた。
判決によると、教授グループは2009年、井上氏が直径30ミリの金属ガラスを作製したとする2本の論文に関し、捏造などの疑いがあると東北大に告発、「井上氏が説明しない限り、捏造か改ざんがあると断定せざるを得ない」などとHPで指摘した。
井上氏の代理人は「教授グループの不法行為を強く非難した判決だ」と述べた。教授グループは「研究者の説明責任を全く考慮していない。上告する」と話した。
地裁は13年8月の判決で、論文に「不正確な面」を認めたが「直ちに捏造があるとはいえない」としてHPへの掲載を名誉毀損(きそん)行為だと認定した。教授グループが控訴した。
また、不正研究問題に関してはいつも関心の薄い読売新聞が珍しく詳しいです。
東北大論文 控訴を棄却 : 地域 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE) 2015年02月18日
中西裁判長は判決で、告発の内容などは、それに対する調査結果公表まで秘密にされるべきとする同大と文部科学省の指針を挙げ、告発文の掲載について「指針の要請を全く無視している」と指摘。井上氏の社会的評価を低下させたとした。
(中略)一方で判決は、HPへの謝罪文掲載などを求めた井上氏の付帯控訴も棄却した。
"告発の内容などは、それに対する調査結果公表まで秘密にされるべきとする同大と文部科学省の指針"があったのは、知りませんでした。ただ、これは時代にそぐわない指針でしょう。
STAP細胞問題ではネットでオープンに議論がありました。日本だけはなく海外でもありましたし、科学の世界ではごく常識的なものでしょう。
不正の指摘は結構言葉遣いが難しく、不正かどうか確定していない時点での捏造認定は確かに避けなくてはいけません。しかし、河北新報の文面を見ると、「井上氏が説明しない限り、捏造か改ざんがあると断定せざるを得ない」というものです。断定ではないですし、これもまた科学では常識的なものです。
裁判の世界では確かに不正を指摘する側に立証責任があります。しかし、教授グループが不正があるとして裁判に訴えたわけではなく、飽くまで科学の世界での議論でした。
科学では、仮説などを提示する側に立証責任があります。そして、疑問があればそれに答えて、仮説などを強固なものにしていきます。不正の指摘や疑問が出ることはごく普通のことであり、反論すれば良いだけで、名誉毀損になどなりません。
以前も書いたように、「科学者コミュニティーで議論すべき問題だ」というのは、井上前学長に言うべき言葉でしょう。科学の世界を離れて法廷に持ち込んだのは井上前学長の方です。
さらに文部科学省の指針を持ち出していますが、文部科学省の指針によれば証拠を提示できない場合は不正とみなされるとなっています。<文科省ガイドラインだとSTAP細胞論文は文句なしで不正 証拠不足のせい>(
日本の研究不正・論文捏造に甘い アメリカでは懲役57カ月の実刑判決もにまとめ)で以前取り扱っている話です。
ですので、教授グループの「井上氏が説明しない限り、捏造か改ざんがあると断定せざるを得ない」は妥当な指摘です。同時に教授グループの「(裁判官は)研究者の説明責任を全く考慮していない」もやはりもっともな言い分だと言えます。
読売新聞では、愛知淑徳大の山崎茂明教授が「司法の場では限界があり、学術論争で決着させるべきだ」と話していました。司法の科学への無理解が研究不正告発に逆風となり、日本の科学の停滞を招きそうです。
(あと少しなんですが、井上前学長の件はもうひとつ問題点があるので、別に書きます →
井上明久前学長の不正研究疑惑、東北大が捏造・改ざん告発を無視)
追加
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井上明久前学長の不正研究疑惑、東北大が捏造・改ざん告発を無視 ■
研究不正疑惑の井上明久・東北大前総長、寄付金移転でも監査請求 関連
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怪しい井上明久東北大前学長論文不正問題 損害賠償裁判では勝利 ■
理研による小保方晴子氏の刑事告訴、研究不正批判者でも賛否分かれる ■<文科省ガイドラインだとSTAP細胞論文は文句なしで不正 証拠不足のせい>(
日本の研究不正・論文捏造に甘い アメリカでは懲役57カ月の実刑判決もにまとめ)
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裁判で井上明久東北大前総長の主張否定の新証拠 横山嘉彦准教授の論文 ■
研究不正疑惑についての投稿まとめ
Appendix
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