ピケティや富裕層の話をまとめ。<誰もピケティを読んでいなかった「ピケティ格差解説」TV番組>、<ピケティ論の嘘 所得格差ではなく総資産が問題、高橋洋一などの間違い>などをまとめています。
2023/01/23まとめ:
●富は固定化されない?富裕層は2代目で70%失うと報じられるが…
●9割失ってもまだまだお金持ち?別に貧乏人になるわけじゃない
●富裕層は2代目で70%、3代目で90%の財産を失うは誤訳か?
●初代の資産をさらに増やせた3代目は10%のみ…が正しい翻訳か?
●誰もピケティを読んでいなかった「ピケティ格差解説」TV番組
2015/2/23:
はてなブックマークで話題になっていたのが、
「ピケティ格差解説」TV番組に出たら、出演者がみんな「所得トップ1%に入る年収」だった | 高橋洋一「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社](2015年02月23日)という記事です。
<土曜日のBS朝日では、おそらく出演者どころか、番組関係者の誰もピケティ本をきちんと読んでいなかったようだ。それにもかかわらず、上の図で、まあいいたいことをみんな言っていた。
時間が許せば、ピケティ本でのトップ所得のシェアというのは、トップ所得者の所得が国民所得に占める比率であること、例えば、トップ1%は20歳以上の人口の中で所得が上位1%に相当する個人だ、といいたかった。しかし、そうした時間はテレビでないので、日本でトップ1%とは年収いくらなのかについて、年収1300万円とだけ言った。
そうしたら、筆者の隣の女子アナがびっくりした。何か、スタジオ全体が「えー。ウソ」という感じで凍り付いたようだった。一緒に出演していた森永卓郎氏を含めて出演者すべて、さらにはスタジオの多くの人が自分はトップ1%だと認識したようだ>
はてなブックマークではこれに乗っかって、テレビに出ている人を叩いている人が多かったです。ただ、後述するように、高橋洋一さんにうまく騙された可能性があるんですよ。とりあえず、高橋洋一さんはここから以下のように、所得税率の話に持って行っていっていました。
<税率が日本だけ高くなりすぎると、金持ちが海外に逃げるので、それでは元も子もないということをも指摘した。
こうした海外事情にもかかわらず、所得税や相続税の最高税率をさらに引き上げるのは、あまり賢い選択ではない>
●『21世紀の資本』なのに!資本という言葉を使わず、巧みにミスリード
元はと言うと、BS朝日の番組自体が悪いのでしょうが、そもそも高橋洋一さんの所得論はミスリードではないか?と、はてなブックマークではちょこちょこと指摘されていました。ピケティさんが最も問題視しているのは、所得じゃなくて資産や資本でしょ?という話です。ピケティさんの本はそもそも『21世紀の資本』なのに、資本の話が全然ありませんでした。
"年収じゃなくて、総資産が格差じゃないの?" kibarashi9 2015/02/23
"給与所得と資本所得の壁はものすごく厚いから、給与所得者の中での格差なんてそれに比べたら誤差みたいなもん。転職したら違う階層に移れる可能性がある程度のもんを本質的な格差とは言わない" Ayrtonism 2015/02/23
"前々からこの人の論点ずらしの巧さには感心していたが、ピケティの話で資本という言葉を一切使わず勤労者の年収の話題に持っていく匠の技を見た" Windfola 2015/02/23
"面白い話だけど。ピケティは所得格差は資産格差に比べれば大した問題では無いって言っていたけどな〜。" Miyakey 2015/02/23
●ピケティ論の嘘 所得格差ではなく総資産が問題、高橋洋一などの間違い
ピケティさん来日後にピケティ記事は多く、日本では企業トップの給与がむしろ低すぎて人材流出しているのが問題だという批判も最近読みました。ところが、これも結局、資産ではなく所得を問題視してしまっています。では、実際のところピケティさんは所得と資産や資本どちらをより問題視しているのでしょうか?
21世紀の資本
について簡単にまとめた記事
話題の経済本、ピケティ『21世紀の資本』には何が書いてあるの? | THE PAGE(ザ・ページ)(2015.01.15 07:00 The Capital Tribune Japan)によると、ピケティは、いつの時代においても、資産の収益率(r)が所得の伸び(g)を上回っており、これによって富を持つ人とそうでない人の格差が広がっていると主張していると説明されていました。
この時点で、所得より資産の方が重要であるとわかる話ですね。記事ではさらに、<資産を持っている人は、その資産を運用することでさらに富を増やすことができます>とした上で、以下のように説明。そもそも『21世紀の資本』の肝は、資産の収益率(r) > 所得の伸び(g)ですから、明らかに資産の方を重視した内容になっていました。
<例えば2億円の資産がある人が、利回り5%の債券や株式にお金を投資すると、年間で1000万円の収入を得ることができます。これは働いたお金ではありませんから、いわゆる不労所得ということになり、しかも元本の2億円はなくなっていません。つまりお金持ちの人は、お金を減らすことなく、毎年、資産が生み出すお金で自身の資産を増やすことができるのです。
これに対して、一般的な労働者は、自分が働いた対価としてお金をもらいます。もし毎年、給料が増えていき、年収が1000万円を超えれば、2億円の資産から不労所得を得ている先ほどの資産家よりも年間に稼げる金額は多いことになります(資産家が運用している2億円の元手はここでは考えないことにします)。つまり、経済が成長し、給料が増えるスピードが資産運用の利回りを超えていれば、資産のある人とない人との格差は縮小するわけです。
しかしピケティの分析によると、過去数百年間にわたって、資産からの収益が所得の伸びを上回っており、資産を持つ人と持たない人の格差は拡大してきたそうです。しかも、これから先は、所得の伸びが鈍化すると予想されており、格差はさらに拡大する可能性が高いということです>
●ピケティは所得格差も問題視しているが、最も重要なのは資産や資本
こういうときは複数の記事などを見て確認することが大事。THE PAGE(ザ・ページ)の説明だけでなく、
21世紀の資本 - Wikipediaの説明を見てみましょう。すると、やはり「r > g」が根幹であるとしていました。繰り返すように、そもそもこれが重要な部分であり、資本に触れずに『21世紀の資本』を説明するのは不可能で詐欺的です。
<長期的にみると、資本収益率(r)は経済成長率(g)よりも大きい。その結果、富の集中が起こるため、資本から得られる収益率が経済成長率を上回れば上回るほど、それだけ富は資本家へ蓄積される。そして、富が公平に分配されないことによって、社会や経済が不安定となるということを主題としている。この格差を是正するために、累進課税の富裕税(引用者注:
資産に関する税金)を、それも世界的に導入することを提案している。(中略)
議論の出発点となるのは、資本収益率(r)と経済成長率(g)の関係式である。rとは、利潤、配当金、利息、貸出料などのように、資本から入ってくる収入のことである。そして、gは、給与所得などによって求められる。過去200年以上のデータを分析すると、資本収益率(r)は平均で年に5%程度であるが、経済成長率(g)は1%から2%の範囲で収まっていることが明らかになった。このことから、
経済的不平等が増してゆく基本的な力は、r>gという不等式にまとめることができる。すなわち、
資産によって得られる富の方が、労働によって得られる富よりも速く蓄積されやすいため、
資産金額で見たときに上位10%、1%といった位置にいる人のほうがより裕福になりやすく、結果として格差は拡大しやすい>
ややこしいことに、ピケティさんは所得格差の問題についても言及しているようですので、それ自体は嘘ではありません。ただ、『21世紀の資本』で根幹になっているのは何か?と言うと、資産や資本の方。<出演者どころか、番組関係者の誰もピケティ本をきちんと読んでいなかったようだ>と高橋洋一さんは書いていましたが、高橋さんも読んでないんじゃないでしょうか…。
●富は固定化されない?富裕層は2代目で70%失うと報じられるが…
2015/9/14:今までの研究と矛盾しそうな話だったので、興味を惹かれてブックマークしていたのが、
アメリカの富裕層、2代目で70%、3代目で90%の財産を失っていることが判明:らばQ(2015年08月19日 11:44 zeronpa)という記事です。
<日本でも同族経営は3代でつぶれやすいとか、3代相続すると財産はなくなると言われることはありますが、海外でも似たようなことが当てはまるようです。
アメリカの資産管理コンサルタント会社によると、裕福な家庭において、70%が2代目で、90%が3代目までになくなっていることが判明しました。
この調査結果により、世代交代するごとに資産が大幅に減ることが浮き彫りになりました>
「富裕層は2代目で70%、3代目で90%の財産を失う」というのは、逆に言うと、お金を使ってくれているということ。なるべく国民にお金を使わせるよう!というのは、現在の経済政策では一般的に行われています。お金持ちが財産を浪費してくれるというのは、社会のためには悪くないことかもしません。
また、の調査を見て、富の格差の固定化などは起きないのだ、と捉える人もいそう。ピケティ教授が話題になったときに、日本ではピケティ否定論も盛り上がりました。日本には富の格差是正を裏切る勢力がいるのです。というか、むしろ与党サイドにそういう人がいますので、非主流派とも言えないでしょうね。そういう人には都合の良さそうな話です。
ただし、富裕層が財産の多くの失うことが事実であっても、貧困層が富を得ることとは直接関係ないため、所得の再分配を否定することはできません。「富裕層は2代目で70%、3代目で90%の財産を失う」が事実であったとしても、社会保障を削れる…といった話に持っていくのは無理があるでしょう。
●9割失ってもまだまだお金持ち?別に貧乏人になるわけじゃない
また、9割失っても結構お金あるんじゃないの?という見方もできそう。"USトラストが300万ドル(約3億7千万円)以上の資産を持つ個人にアンケートを実施し、次の世代に資産をどう準備しているかを調べた"ともありましたので、ここでの富裕層の定義は3億7千万円以上の資産を持つ人でしょうか…。
この「3億7千万円以上の資産を持つ人」という条件にギリギリのお金持ちの場合、2代目で残った30%というのは、1億1100万円です。十分すぎるほどのお金持ちでしょうね。さらに富を失ったとされる3代目の10%ですら、3700万円ですから別に貧乏ではありません。どちらかと言えば、豊かな方だと思われます。
確認のために、ちょっと検索してみと、貯金以外も含めた平均金融資産保有額は、ファミリー世帯でも1700万円くらい。3700万円だと、倍以上あります。単身世帯ならもちろんもっと差が出てくるわけですね。しかも、今回計算した3700万円というのは、調査対象基準の最低値のケースですからね。他の多くのお金持ちの方は、たとえ9割失ったとしても、もっとたくさんあるということです。
●富裕層は2代目で70%、3代目で90%の財産を失うは誤訳か?
ただ、私は記事に違和感があったので、他社も紹介していないか?と検索してみました。そもそも間違っている可能性を考えたんですよ。結果、他社のニュースは見つからなかったものの、そもそもこの記事は誤訳ではないか?という指摘を見つけることができました。
<これ誤訳だよね?/70%は一家が失った平均の財産の量じゃなくて裕福な家庭のうち70パーの家族では財産を(得るか失うかの2択では)失ったって意味だよね>70% of wealthy families lose their wealth by the second generation””(gingerrr 2015/08/19)
(
はてなブックマーク - アメリカの富裕層、2代目で70%、3代目で90%の財産を失っていることが判明:らばQ)
言われて見てみると、「70% of wealthy families」は、確かに「裕福な家庭の70%」という意味です。翻訳前の記事は、<70% of Rich Families Lose Their Wealth by the Second Generation>というタイトルで、ここの「70% of Rich Families」も同じく「お金持ちの家庭の70%」の意。「裕福な家庭の財産が70%減っている」というらばQの解釈は、おっしゃる通り変ですね。誤訳の可能性が高そうです。
はてなブックマーク以外には、ツイッターでも「90%の財産を(失う)」ではなく、「90%が財産を(失う)」だろうと、指摘している方がいました。ただ、この方は「破産」しいていると、解釈しています。ですので、2代目で70%の富裕層が破産、3代目で90%が破産という、らばQの誤訳と思われるものよりも、ある意味もっと過激な解釈。そんな壊滅的な事態って本当にあるんでしょうか?
●初代の資産をさらに増やせた3代目は10%のみ…が正しい翻訳か?
最初に書いたように、私がこれに興味を持ったのは、過去の調査と異なるように感じたため。ですので、他の調査との整合性を考えると、はてなブックマークの解釈が一番有り得そうに思います。すなわち、「富裕層の2代目のうち70%が、初代の財産を増やすことができず、減らしている」というものです。
そして、この解釈の場合、約3億7千万円を約3億6千万円に減らしただけだとしても、「財産を失っている」という定義に引っかかります。70%を失うという記事への反応は、「やっぱり!」といった感じのものがほとんどだったのですが、はてなブックマーク解釈だと皆さんが想像した世界とはまるで異なったものになるでしょう。
ただ、はてなブックマーク解釈が正解かどうもまたわからないんですけどね。他社が正しい訳の記事を出してくれるなどで確認するまでは、慎重に見ておきたいです。ただ、他の調査からすると、こっちの方がしっくり来るという話。研究論文などは、複数の似た方向の調査結果がある方が信頼できる確率が高まります。
なお、今回調査したところは資産管理コンサルタント会社ですので、「富裕層の2代目の多くは、30%の人のようにうまく資産を増やせませんよ。是非うちに任せてください」という宣伝を兼ねている印象を受けてしまいました。
「次の世代(相続者)には経済的な責任感が足りない」が78%という調査もしていますから、「ボンクラな子供たちに財産管理を任せないで、資産管理コンサルタントを使ってよ!」と、苦労して資産を築いた1代目の人に対して、特にアピールしているのかもしれません。
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