目には目を歯には歯を…実は復讐勧めず イスラム教徒のコーランなど

　私には「目には目を歯には歯を」が『ハンムラビ法典』のイメージしかなかったので、恥ずかしながらイスラム教徒のコーラン(クルアーン)に載っているとは知りませんでした。

「目には目を」両目失明させた男、左目失明の刑- 読売新聞（2015年3月6日07時24分）

　【テヘラン＝酒井圭吾】イラン司法当局は３日、被害者の両目を失明させ、傷害罪で収監された男に対し、左目を手術で失明させる刑を執行した。

　イスラム教の聖典コーランの「目には目を　歯に歯を」を実践したものだ。地元報道によると、失明させる刑は１９７９年のイスラム革命後初めてという。男が被害者に賠償金を支払わなければ、右目も失明させるという。

　地元紙シャルグなどによると、男は２００９年、バイクを運転しながら強酸をまき散らし、タクシー運転手の両目を失明させた。イランでは、恨みを晴らす目的などで強酸をかける事件が頻発しており、司法当局関係者は「今回の刑は、強酸攻撃への警告ではないか」と指摘している。

　ただ、この記事はイスラム教への誤解を招くおそれがある良くない記事です。なぜなら気になって検索してみると、コーランは必ずしも復讐を勧めていたわけではないとわかったためです。

報復 - Wikipedia　最終更新 2014年2月8日 (土) 08:46

　イスラム教

イスラム教では「目には目を、歯には歯を」に続きがあり、報復を行わないことを善行として推奨している。これはディーヤという形でイスラム法の制度になっている。

　・クルアーン第5章45節
　・命には命を，目には目を，鼻には鼻を，耳には耳を，歯には歯を，全ての傷害に同じ報復を。
　・しかし報復せず許すならば，それは自分の罪の償いとなる。

　また、前述の『ハンムラビ法典』にしても、大いに復讐せよというニュアンスではありません。

「目には目を、歯には歯を」で有名な、古代メソポタミアの、『ハンムラビ法典』は報復を奨励したものではなく、無制限報復が一般的だった原始社会で報復行為を制限する目的があった。

　ちょうど同じイスラム教絡みの話である日本におけるイスラム教　～一夫多妻制～では、当時イスラム教で推奨された一夫多妻制はその時代としては画期的なものだったと書いています。

　以前であれば進歩的であったものであっても、時代が変われば当然遅れたものに見えてきます。こういった慣習ではなく、製品なんかで言えば当たり前すぎて言われるまでもないと思うでしょう。

　したがって、現代の倫理観で当時の制度を叩くというのは間違っています。また、逆に言うと、大昔の制度を現在に無理やり適用しようとすると問題が生じることになります。

　後者はイランの刑執行に関しての批判となり得るものです。ただ、日本などのいわゆる先進国とイランのようないわゆる途上国では、価値観が大きく異なるという点にも注意が必要です。これも時代の差のような違いがあると言って良いでしょう。

　あと、イスラム教では本来勧められていない刑の執行をしたということで、そういうイスラム教徒観点からの批判もあり得るかもしれません。


　そういえば、復讐・報復という話で言うと、日本でも仇討ちがありましたね。結構支持している人が今でもいますから、日本人にも「目には目を、歯には歯を」の表面的な意味に共感する人は多いかもしれません。
(関連：仇討ちと報復殺人と死刑制度1　～子供を殺されての仇討ちは駄目～)

　また、Wikipediaでは驚くべき現代日本人の復讐観がありました。チェチェンにおける復讐について、2013年に西部邁さんが語ったものです。途中までは単なる説明ですので、違和感はありません。

「以前、新聞で読んだのですが、チェチェンでは、自分の肉親を殺されると7代にわたって復讐の義務が発生するというんです。7代といえば、仮に25年で世代交代するとして175年ですよ。175年後に生まれた男の子は、175年前の復讐をしなければいけない」

　驚くべきはこの後に続く言葉です。さすが保守派の論客、全く理解できんと思いました。

「僕はそれを聞いて、いい話だなあと思った」

　アメリカ見てもインド見てもイスラム教圏見ても思うんですが、保守的な宗教の主張と政治的な保守派の思想って相性すごく良いんですよね。日本でも報復主義を理解できる人は私が思っているより多いかもしれません。


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