日本が誇るものづくりというのは、実を言うと、製造業の中でも最も収益性が低い部分であったようです。これは、日本の労働生産性の低さとも関係しているかもしれません。ただ、同時にこれを改善する処方箋を政府は提示していますので、悲観する必要はないでしょう。前向きになれる話です。
ところが、この政府が提示している対策というのが、「国内でやっている製造業の仕事を海外にアウトソーシングせよ」というものですので、話がややこしくなりそう。正しいとわかっていても、感情的に受け入れられない人が多そうなもので、反発が大きいかもしれません。
2022/07/08追記:
●日本のホワイト企業スター精密も中国での製造を強化していた!
●日本のホワイト企業スター精密も中国での製造を強化していた!
2022/07/08追記:別のところで使ったスター精密の話で、このページの話のことを思い出してたのでこちらでも紹介。最近は何かとチャイナリスクが言われて、脱中国が叫ばれるものの、むしろ中国重視という企業は多く、ホワイト企業として有名なスター精密もそうかもしれない…という記事がありました。
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スター精密、中国・大連工場を増設 生産量25%増: 日本経済新聞(2021年11月11日)
<スター精密は11日、中国子会社の大連工場を増設すると発表した。増設する工場は2022年2月に稼働する予定だ。総投資額は6億5000万円。
中国向けの工作機械の生産量を約25%増やし、年間3600台の生産体制へ増強する。同国では新型コロナウイルスの感染拡大が沈静化し、工作機械の需要が拡大している>
ホワイト企業であるスター精密が海外で生産を増やしているというのはおもしろいところ。研究によると、海外進出する企業の方がむしろ日本国内の雇用を増やしているらしいんですよ。海外で工場を作ることできちんと稼げるからこそ、日本人の雇用を増やし給料を支払うことができるのかもしれません。
●実は日本の製造業がやっているのは収益性の低い仕事ばかりだった…
2018/02/27:
AI発展でもなくならない仕事 必要な能力はスティーブ・ジョブズ的な感性で使った記事では、製造業に関する話もありました。
製造業では収益構造を表す「スマイルカーブ」という曲線。日本企業が強い組み立て・製造部分というのは、このスマイルカーブでは最も下の底のところ。つまり、日本が得意な「ものづくり」というのは、最も収益性の低い仕事のようです。
一方、スマイルカーブを見てわかる最も収益性の高いところは、研究開発部門とマーケティング部門。駒澤大学准教授の井上智洋さんは、こちらは日本企業が弱い、つまり、苦手なところと指摘。なかでも自社製品を他社製品と差別化していくブランディングが不得手だとしていました。
これがなぜAIの話と関係するのかというと、ブランディングはAIでは難しいことのため。逆に言うと、日本企業の得意な分野はみなAIに取られちゃうってことですね。
(
スティーブ・ジョブズがAIに勝てる理由 プレジデントオンライン / 2018年1月12日 9時15分より)
●「収益性」と「労働生産性」は関係がある!内閣府の資料での説明
日本は「労働生産性」の低い先進国として有名です。うちではAIとも絡ませて書いた、
日本は最もロボット・AIに仕事を奪われる国?労働生産性が低いためかという話をやっており、労働生産性の低さと関係するのでは?といったことを書きました。
スマイルカーブは飽くまで「収益性」の話なのですけど、実を言うと、生産性とも関係します。内閣府の資料で以下のような説明があり、政府もそのような見解のようでした。
<企業の生産性、収益性とマクロ経済パフォーマンスには以下のような関係があると考えられる。個々の企業の目的は収益を上げることであり、そのために生産性を高めようと努力する。その結果、個々の企業の収益性が向上し、企業部門全体のROAも上昇する。同時に、経済全体の生産性(ここではTFP(全要素生産性))が高まり経済成長につながる>
(平成25年度 年次経済財政報告(経済財政政策担当大臣報告)―経済の好循環の確立に向けて―
第2章 第1節 製造業企業の収益性と生産性 - 内閣府 平成25年7月 内閣府より)
●国も海外委託を推奨、工場国内回帰信仰は間違いだった
以上のように日本の製造業は、生産性・収益性ともに低いという話。正直ここまでは、別に驚くような話ではありませんでした。ところが、その後、この政府の資料で、「国内でやっている製造業の仕事を海外にアウトソーシングせよ」という対策の話が出てきて驚きます。
というのも、これが安倍政権による報告のため。海外に委託すべきというのが正しいことは以前の研究からわかっていました。工場国内回帰が良いというのは宗教思想みたいなもので、データ的な根拠はありません。有権者にウケが良いから言っているだけで、むしろ国を衰退させかねない思想です。
で、この海外がダメで国内が良いという思想なんですが、実を言うと、アメリカを含めて保守派・右派で特に強い信仰なんですよ。その幻想を全否定する内容が安倍政権で出ていたのでので驚いたわけです。思わず日付を見直しちゃいましたわ…。平成25年=2013年ですので、間違いなく安倍政権時代の報告書です。
この経済財政政策担当大臣の年次経済財政報告では、様々なタイプの企業を分析。例えば、スマホ生産を台湾企業に委託するなど、海外子会社ではなく海外の現地メーカーにアウトソーシングを実施して収益性を高めている欧米企業を分析しています。保右派にとっては、売国奴のような企業さんです。
ただ、様々な分析をした結果、アウトソーシングの実施は企業の生産性を高める要因だと判明。逆に、このアウトソーシングを停止することで企業の生産性が低下してしまう可能性も示唆。「アウトソーシングを通じた自社外の生産要素、資源を効果的に活用することが生産性向上のカギを握ることが明らかである」とまとめています。
さらに、海外・社外企業へのアウトソーシングは、他の形態のアウトソーシングよりも、生産性を高める効果が見られることも確認。そして、「我が国製造業においても、海外の社外企業への製造委託の活用可能性を、一段と考慮すべきであろう」とまとめていたのです。
うーん、まさか今の政府からこんなまともな報告が出ているとは思いませんでした。ただ、実際の政策決定には、使用されていない報告書なのかもしれません。
●日本の労働生産性、先進国で最低ではない!日米欧19カ国で何位だった?
2020/05/20:労使と学者でつくる調査研究機関、日本生産性本部が、日本の労働生産性を日米欧19カ国で比較しています。中国や台湾、韓国などは日米欧と正確に比べられるデータがなく比較対象にしなかった…ということで、事実上の先進国同士の比較といった感じになっていました。
このように先進国同士で比較した場合、日本はやはり良くはないものの、一応最底辺ではない模様。日本の労働生産性は日米欧19カ国で製造業は11位、サービス業は15位でした。これは、原則2017年の各国のデータをもとに、就業1時間あたりの付加価値額(もうけの多さ)を比べたものです。
(
日本の労働生産性、製造業11位 19カ国で:朝日新聞デジタル 2020年5月19日 5時00分より)
なお、製造業よりサービス業の順位が悪いために、サービス業が日本の労働生産性を押し下げている…と思うかもしれませんが、これはもう少し詳しく見ないとわかりません。というのも、国によって製造業とサービス業の割合が異なるため。この割合の違いが、労働生産性の違いに大きく響いている可能性もあるでしょう。
あと、余談となるのですけど、ここで日本の労働生産性を日米欧19カ国と比較して調べていた日本生産性本部って、
無意味すぎる新入社員のタイプの一覧 日本の生産性の低さを象徴でやった「新入社員のタイプ」を発表していたところなんですよ。お前らが一番労働生産性低いわ!と思ってしまう話です。
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