士農工商に関する話をまとめ。<士農工商という身分制度はなかった…農民より下に商人という嘘>、<なぜか江戸時代の被差別部落や身分差をなかったことにするな!と批判>、<江戸時代以前からあった被差別部落を江戸幕府が作るのは不可能>、<「えた・ひにん」は貧しい人たちという理解が偏見?むしろ豊かな村も>などをまとめています。
2023/04/28まとめ:
●士農工商という身分制度がない→江戸時代は差別がない楽園説という飛躍 【NEW】
●士農工商という身分制度はなかった…農民より下に商人という嘘
2009/5/5:高校まで習っていた士農工商ですが、大学の教養の授業で「士農工商という身分制度はなかった」と先生が言っていて、衝撃を受けました。そこで、最近は「どうなのだろう?」と
士農工商-Wikipediaを見てみました。
それによると「士農工商とは、儒教において社会を構成する主要な身分(官吏・百姓・職人・商人)の上下関係を指す概念」であり、日本においては「『士』は『侍』に置き換えられ、工と商に区別はなく一括して町人と認識されており、百姓(農)と『町人』との間に序列はなかった」とあります。やはり一般的に多少認識が修正されているようです。
よりはっきりと違ってきているのがわかるのは、東京書籍の小学校の教科書に対する質問への回答
Q6:「士農工商」や「四民平等」の用語が使われていないことについてです。
ここでは「士農工商」は元来「国を支える職業」、転じて「すべての職業」「民衆一般」という意味とあります。つまり身分の上下を示すものではなかった、と。私もそう大学では教わったのですが、前述のようにWikipediaではやや違う見解。どちらもを出典としては同じ『管子』ですが、研究者によって解釈が異なることは現実にはよくあります。
●「士農工商」というありもしない不正確なものを教えるべきではない
今回の場合、より重要なのは江戸時代どのような認識であったかです。
日本でも古来は先のような使われ方であった「士農工商」も、「江戸時代になると,「士」「農」「工」「商」の順番にランク付けするような使われ方」も出てきたとのこと。ただし、それでも東京書籍としては、次の理由により「士農工商」という用語を用いていないそうです。
まず、近世諸身分を単純に『士農工商』とする表し方・とらえ方はないし,してきてはいなかったといこと。また、「本的には『武士-百姓・町人等,えた・ひにん等』が存在し,ほかにも,天皇・公家・神主・僧侶などが存在した」いうこと。冒頭にも書いたように、工商は明確な区別すらされていないということで、全く当時の状況を表していません。これらの理由から身分制度を表すにはふさわしくないと考えているということでした。
さらに「武士は支配層として上位」になるものの、「他の身分については,上下,支配・被支配の関係はない」と指摘されていること。これについて、「『農』が国の本であるとして,『工商』より上位にあった」わけではないこと、「近世被差別部落やそこに暮らす人々」が百姓・町人等より「下位・被支配の関係」にあったわけでなくあくまで「武士の支配下」であったということを東京書籍は挙げていました。
さあ、そうなると「四民平等ってのは何だったの?」というのも出てくるんですが、それはまた明日
四民平等とはに続きます。
●なぜか江戸時代の被差別部落や身分差をなかったことにするな!と批判
2009/9/28追記:なぜか被差別部落がなかったというのか!という批判コメントをいただきましたが誤解です。このページで書いているのは、別に被差別部落が存在しなかったということではありません。むしろ被差別部落が存在していることを認めなかったら、上記のような文章にはなり得ないことを、冷静に読めばわかるはずです。
また、現に今そうであるように、支配者層が定義付けしなくても差別は発生するものであり、差別がなかったという意味でもありません。この理屈で言うと、「現代は身分制度がないから差別は存在しない」という話になってしまいます。これはおかしいとわかりますね。士農工商という身分制度の存在の有無と差別の有無とは別の話でしょう。
2012/9/18追記:この投稿はやたらと批判されており、別の批判もいただきました。この批判も誤解。ここで書いているのは「江戸時代に身分差はなかった」という意味でもないですよ。武士自体が身分であり、「武士はいなかった」とでも言わない限り、そのような結論には至りません。
第一、引用している部分では
「武士は支配層として上位」とありますので、明らかにそのような解釈は不可能です。「武士は支配層として上位」と書いているのに、「あなたは江戸時代は身分差のない楽園だと思っている」みたいに言われてしまうと、戸惑うしかありません。
この批判実際あったんですよ。私としてはどう考えてもそんな風には読めないと思うのですが、元官僚で現在は大学教授で歴史作家だという肩書きの八幡和郎さんが「身分差がなかったというように誤解しているふしがこの記事を書いた人に感じられる」とおっしゃっていたので気になりました。
(2019/10/26追記:読み直して気づきました。「身分差がなかったというように誤解しているふしがこの記事を書いた人に感じられる」と書いていた八幡和郎さんって、その後よく目にするようになった安倍首相を評価する右派の評論家の方ですね。ある意味有名な方がうちのサイトに言及してくださったようです)
●江戸時代以前からあった被差別部落を江戸幕府が作るのは不可能
2019/10/26追記:士農工商の関係で、よく整理されている
「部落史の見直し」と部落問題学習/奈良県公式ホームページというページがありました。飽くまで奈良県を中心にみたものですが、参考になるでしょう。ここの記載をもとに、うちでは「過去の迷信」と「間違っている理由」で対応させる形でまとめてみます。
<過去の迷信>
江戸時代の初め、徳川幕府や諸大名は、自己の権力を維持し、安定・強化させるために「士農工商」という身分制度を創り出した。
<間違っている理由>
直接的に被差別身分や集落の創出につながる政策を用意した記録がそもそも存在しない。
<過去の迷信>
重い年貢や運上・冥加金等の納入に苦しむ「農工商」たちの不満をそらすため、「えた・ひにん」という最下層の被差別身分(賎民)を置いて分断支配を行なった。
<間違っている理由>
被差別部落の多くは、これまで明らかになった歴史資料に基づくかぎり、江戸時代以前から存在していたことは確実であり、江戸時代の初め、徳川幕府や諸大名が創り出したというのは、時系列的に合わない。
●「えた・ひにん」は貧しい人たちという理解が偏見?むしろ豊かな村も
<過去の迷信>
「えた・ひにん」については、田畑を持つことを認めず、河原や低湿地、崖の下など悪条件の土地に強制的に住まわせるとともに、入会権や水利権など生活に必要な権利を持つことを認めなかった。
また、当時の人々に忌避されていた「死牛馬の処理」の業務を強要したため、「えた・ひにん」は、苛酷な差別を受け、低位・悲惨な生活を余儀なくさせられた。
<間違っている理由>
「えた・ひにん」が常に貧困であったという事実はない。例えば、奈良県内のほとんどの被差別部落村で江戸時代における貧困な実態を確認することはできない。むしろ、一般農村に比べて、より安定した経済力を持っていたとさえいえる。
入会権や水利権など日常生活や農業経営に必要な諸権利が、差別によって剥奪されたという事例は、奈良県内にかぎった場合、まったく確認されていない。むしろ、中世以来続く河川の水利慣行を持ち、一般農民が被差別部落民の所有する池の水を盗水すれば、処罰されたほど。
入会権や水利権を持たなかった部落もあるが、部落の形成が遅れたたためであり、差別によって生じたわけではなく、一般部落でも同様に入会権や水利権を持たない部落が見られた。
こうやって見ていくと、そもそもなぜここまで事実に基づかない説が浸透したのか?と、そちらの方が不思議ですね。妄想ででっち上げたひどい捏造説みたいになっています。明治以降から現代まで存在する差別の理由を、安易にその直前の時代である江戸時代に求めてしまったのかもしれませんが、本当不思議です。
●士農工商という身分制度がない→江戸時代は差別がない楽園説という飛躍
2023/04/28追記:この投稿を誤読した誤解による批判があまりにも多いので、もう一つ別に<士農工商という身分制度がない→江戸時代は差別がない楽園説という飛躍>という投稿も書いていました。重なる話が多いのですけど、少しずつこちらのページにまとめていきたいと思います。
2011/10/13:以前書いた<士農工商という身分制度はなかった 幕府は被差別部落を作ってない>(同じページの前半部分の話)なのですが、どうもコメントを見ていると誤解があるようですので、少し補足します。
とりあえず、私はこの投稿において、差別が存在しなかったとは一言も書いておりませんし、江戸時代は平等な楽園だったとも主張しておりませんので、そう理解した上で批判するコメントには首を傾げています。なぜかよりによって大学の教授やっている方からそんなことを言われたんですよね。
こうした批判が出てくるのは、士農工商という身分制度をお上が強制したことにより身分差別が発生したという前提に立っているせいで、その士農工商という言葉の使われ方を否定することは、身分の格差が無かったと言っていることだと思い込んでいるからじゃないかと考えています。
しかし、別に士農工商の武士 → 農民 → 職人 → 商人という順列に基づいた身分制度が存在しなかったとしてても、差別は存在できますし、また身分の格差も発生し得ます。江戸幕府が強制した身分制度がないと差別が絶対に起きない…というものではありません。
【本文中でリンクした投稿】
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四民平等とは ~四民は万民~【関連投稿】
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士農工商 ~明治の職業別人口と僧などの分類~ ■
士農工商の身分別の割合、人口比 ■
四民平等の四民とは士農工商を指しているのか? ■
士農工商 ~江戸時代の戸籍(宗門人別改帳)での人口~ ■
雑学・歴史についての投稿まとめ
Appendix
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