2015/3/23:
●日本最大の家具メーカーだった大塚家具のビジネスモデルは古すぎ
●そもそも大塚家具の顧客はニトリやイケアの顧客と重なるのか?
●意外なことに、ニトリだけでなく大塚家具の財務内容も素晴らしい
●大塚家具はとにかく売れない…ニトリで大きく違うのは商品の回転率
●大塚家具とニトリ・イケアの違いは価格や品質ではない 何が違う?
●自分たちで作る!ニトリ・イケアは製造小売業(SPA)も大きな特徴
●安いものはダメなもの・高いものが良いものというのは誤解だけど…
●日本最大の家具メーカーだった大塚家具のビジネスモデルは古すぎ
2015/3/23:小宮一慶さんによると、"大塚家具は、かつて日本最大の家具メーカーでした"。"1990年代、バブルの余波に乗って勝久氏の高級路線が当たり、業界1位にまで上り詰めたのです"。
(
大塚家具とニトリはどこで明暗が分かれたか | 小宮一慶の会計でわかる日本経済の論点 | 東洋経済オンライン 小宮一慶 :経営コンサルタント 2015年03月18日より)
しかし、"リーマンショックが起こった2008年を境に、急速に落ち込みはじめます"。"ニトリの業績は、リーマンショック後も伸び続けていました"。"景気の悪化によって、消費者が低価格商品を求める傾向が強まり、そのニーズにうまく応えた"というのが、小宮さんの分析です。
そして、"高級路線で伸びてきた大塚家具"は、ビジネスモデルを変えることができませんでした。その転換を娘の大塚久美子社長がやろうとし、父の大塚勝久会長は今までの路線で行くと対立している…といった報道もされています。
●そもそも大塚家具の顧客はニトリやイケアの顧客と重なるのか?
ただ、上記にはどうなのかな?という説明も含まれていました。大塚家具のビジネスモデルが曲がり角というのは理解できます。しかし、"ニトリやイケアなどの安価な家具チェーンにシェアを奪われてしまった"というのは本当なんでしょうか。大塚家具が高級路線なら、そもそも顧客層が異なっていると考えられるためです。
また、大塚家具が高級路線だったという理解も正しいのかどうか微妙なところ。 報道の中には、比較的高級路線といった程度…という捉え方も見られます。この路線に関しては、久美子社長も中価格帯を目指すとしていました。勝久会長はニトリ化は無理と攻撃していますが、必ずしもニトリ路線ではないようです。人によっては社長も会長も狙っている層は変わらないとも言っています。
ついでに言うと中価格帯というのは、中途半端だとも考えられるでしょう。大塚家具は家具の価格を見ているだけで、価値を見ていないという辛辣な指摘もありましたが、問題は価格ではなく消費者が価値を感じるかどうか。高価格帯でうまく行っている家具屋も実際にあるわけで、大塚家具がうまく行っていないのは、単純な価格の問題ではないと考えられます。
他の企業がうまくいっているのはブランド価値を確立しているからでしょうが、その観点で見ると大塚家具の親子喧嘩は価値を下げているだけの気がします。今回の騒動で名前が売れて良かった…みたいな声はあったものの、本当に良い宣伝になっているのかどうか疑問を感じました。
●意外なことに、ニトリだけでなく大塚家具の財務内容も素晴らしい
意外なことに、小宮一慶さんによると、"大塚家具は、財務内容が抜群にいい"そうです。"中長期的な安全性を示す「自己資本比率(純資産÷資産)」は、74.2%。小売業では15%あれば安全だと判断されていますから、同社はかなり高い"とのこと。有利子負債も全くありません。「昔、かなり儲けた」ために、"「利益剰余金」が280億円も積まれて"いるというのが理由だそうです。
一方、ニトリの平成27年2月期 第3四半期決算(2014年2〜11月)。実はこちらも"自己資本比率を計算しますと、76.7%。流動比率は173%"で、「かなり高い水準」とのこと。負債も"短期借入金と長期借入金あわせて約100億円の有利子負債を抱えていますが、安全性には全く問題のない借入れ規模"という判定でした。ここでは差が見られません。
また、売上総利益率(粗利率)も大差ないです。"ニトリの売上原価率(売上原価÷売上高)は、47.8%。大塚家具は、44.9%(注:商品売上原価と商品売上高の金額を採用)"でほぼ同程度です。ただ、この記事では指摘がなかったものの、ニトリは家具以外の比率が高いことに注意が必要でしょう。
●大塚家具はとにかく売れない…ニトリで大きく違うのは商品の回転率
もちろん大塚家具は業績が悪く、ニトリは好調です。そういった違いがどこらへんに現れているか?と言うと、「商品の回転率」だそうです。下記の通り、ここは大きく違っていました。ニトリが成功して大塚家具が成功していないのは、売れているかどうかというところなのかもしれません。
大塚家具 7.5カ月分の在庫 棚卸資産にあたる「商品」 150億円 商品売上原価 約20億円
ニトリ 2.4カ月分の在庫 棚卸資産(商品及び製品+仕掛品+原材料及び貯蔵品)393億円 売上原価 165億円
なお、小宮一慶さんは、大塚家具の「今回の騒動は、株主総会にかけるほどのものではない」ともおっしゃっていました。「新しい戦略を打ち出したいのであれば、一部店舗で試験的に行ってみればいいだけの話」とのこと。経営コンサルタントとしても「実験」をおすすめするそうです。
ですので、今回のトラブルは「元々、違うところで親子の確執があった」ものが「経営という場で表面化」したという見方でした。
●大塚家具とニトリ・イケアの違いは価格や品質ではない 何が違う?
<ニトリは家具以外の比率が高い>とさっき書きました。実はこれはとても重要なことなんですよ。ニトリ・イケアと大塚家具の好不調の違いは、単なる価格の問題ではありません。上記の記事は、ここらへんを突っ込んでいないのがたいへん不満でした。
そこらへんの私が不満だった点まで書いてくれていたのが、
イケアとニトリが「日本の家具事情」を変えた | 東洋経済オンライン(石山 真紀 :フリーライター・編集者 2015年03月16日)という記事。実を言うと、ニトリ・イケアは単なる家具屋ではなく、大塚家具とは別ジャンルのお店だと考えられるのです。
ニトリのお店の看板には社名と共に「ホームファッション」という文字が刻まれています。ここに、ただの家具店ではない強さの秘密が隠されています。
そもそもホームファッションとは、1980年代後半頃に欧米で生まれた比較的新しい業態で、家庭用品を中心に、カーテンやシーツ類、カーペットに、インテリアなどを付加した専門店を指します。この「ホームファッション」に加えて、ソファやテーブル、食器棚やベッドなどの大型家具や照明・家電など、毎日の暮らしをより楽しく便利にするための商品を一箇所でそろえられる大型店舗が、イケアやニトリのような「ホームファニシングストア」と呼ばれます。
このホームファッションおよび「ホームファニシングストア」の中で、重要となるポイントが「トータルコーディネート」の考え方です。イケアやニトリの店舗に行ったことがある方ならご存じのように、どちらの店舗でも、住宅展示場のモデルルームさながら、リビングやキッチン、寝室など、さまざまな部屋のシチュエーションにあわせたコーディネートが紹介されています。
多様な色や柄、素材の中から、自身のスタイルに合ったものを選べるだけでなく、いずれの商品もデザインや色合いが美しく統一され、簡単にコーディネートできるように工夫されている点が、この2社の商品の大きな特徴です。
作者の石山真紀さんは、"この10年、機能的かつデザイン性に優れ、価格も手頃な2社の「ホームファニシングストア」は、日本の家具・インテリア業界に大きな影響を与え"たとしています。
●自分たちで作る!ニトリ・イケアは製造小売業(SPA)も大きな特徴
あと、こちらはどちらの記事でも触れていなかったものの、ニトリ・イケアは製造小売業(SPA)であるという点も非常に大きな特徴。これは販売だけでなく、製造から販売まで一貫して行う業態のことを言います。
中抜きという言葉があるように、中間業者を通した場合価格は高くなりますよね。製造小売業の場合はさらに製造から自分たちで管理できます。ニトリの価格が安い理由のひとつとして、こうした管理があり、大塚家具問題でときどきいた「ニトリは安かろう悪かろうだ」というのはデマです。
<なか‐ぬき【中抜き/中▽貫き】
2 商品の流通経路で、卸売など中間業者を抜かして生産者と小売業または消費者が直接に取引すること。「産直という名の―に問屋は打撃」>(
中抜き(ナカヌキ)とは - コトバンク デジタル大辞泉の解説より)
例えば、同じ品質の商品であった場合、自分たちで作って最初から最後まで管理している製造小売業の方が安くすることが可能です。価格ではなく価値があるかどうかが重要と書いた話は、ここらへんにも関係してきます。
●安いものはダメなもの・高いものが良いものというのは誤解だけど…
価格と品質の関係についての理解は勘違いがあるようです。しかし、誤解があるということは、逆にそれを利用して売ることも可能とも言えるでしょう。単に高いだけで価値があると思ってしまう人には高く売りつけられるわけですから、それはそれで良い商売になるでしょう。
そういったイメージの関係なのか、家具はケチってはダメでニトリやイケアはすぐ壊れると書き込んでいる方もいました。ただ、これ、本当に他の家具よりも早く壊れたという証拠があって言っているんですかね? 根拠のない誹謗中傷のおそれがあります。
イケアはよく知らないのですが、
ニトリのケタ違い品質、ものづくりで自動車メーカーホンダを超えるでやったように、ニトリはホンダで生産事業部長だった杉山清さんを迎えて品質向上に取り組んでいました。
なお、そもそもこのように家具の品質向上をはかれるというのも、製造からやっている製造小売業の強みだと言えるでしょう。普通の小売店では不可能です。ニトリ・イケアと大塚家具の最も大きな違いは、価格よりもこの製造小売業(SPA)と先ほどのホームファッション・トータルコーディネートだと思われます。
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